小金持ちが“争族”で絶縁状態に陥る理由
プレジデントオンライン / 2019年1月3日 11時15分
■親に離婚歴はないか、親の不動産は多いか
相続時のもめごと、いわゆる“争族”は、家族間の感情のもつれが主な原因だ。「長男が多くもらうのは許せない」とか「次男は住宅購入資金を援助してもらったはずだ」など、他の相続人と比較して「自分がないがしろにされた」と感じるときに争いが起きる。
相続に関する著書も多い弁護士の長谷川裕雅氏は、「争いの原因で最も多いのは、その財産が相続財産かどうかという問題」と言う。
たとえば、長男が資金を出して購入した不動産を父親の名義にするケースは意外に多い。実質は、長男固有の財産だが、他の相続人が異論を唱えれば民事訴訟に発展するケースもある。
相続財産が自宅不動産以外にない場合もモメやすい。不動産のままでは分割しにくいし、売却するには時間がかかる。さらに、売却してしまうと残された母親が住む場所がなくなってしまうという問題が生じることも。これを避けるため、生前に父親から母親に自宅を贈与するケースもある。そのような対策をせずに父親の相続が発生すると、自宅も相続財産として分割対象になる。このため、婚姻期間が20年以上の夫婦間で贈与された居住用の建物について、法務省は特別受益における持戻しの免除の意思表示があったと推定する(※)ことを民法改正案として検討している。
※配偶者に贈与した居住用の建物は遺産分割の対象から除かれるということ
親に離婚歴がある場合も注意が必要だ。前の配偶者との間に子どもがいれば、その子どもには相続権がある。一方、連れ子は相続人にならない。どんなに親の面倒を見ても、相続権はなく、これもまた争いの原因になる。
争いを回避するには遺言が有効だとされるが、「そう簡単な問題ではない」(長谷川氏、以下同)。
なぜなら、危機感を抱いているのは、これから相続人になる子世代であって、被相続人になる親世代ではないからだ。
「遺言を書く人はごく一部にすぎませんし、書いたとしても、親が子に頼まれたケースが多く、特定の子に有利な遺言が作成されることになり、余計にモメごとのもとになる」
遺言でも侵すことのできない「遺留分」という権利が相続人にはある。相続人が子ども2人の場合であれば1人あたり相続財産の4分の1が遺留分。配偶者と子ども2人の場合であれば配偶者は相続財産の4分の1、子ども1人あたりは相続財産の8分の1になる。遺留分を侵害する内容の遺言も有効ではあるが、遺留分を侵害された相続人の感情を逆なですることになる。
「遺言より生前贈与を活用したほうが有効だ」
一般的に相続税よりも贈与税のほうが税率は高いので、税額を比べて実行する必要はあるが、親が自分の意思で特定の子どもに贈与すれば、他の子どもも不満を言いにくい面がある。
相続発生後に相続人全員で財産の分け方を話し合う「遺産分割協議」で話し合いがまとまらないと、いつまで経っても遺産分割が完了しない。遺産分割に期限はないが、時間が経てば経つほど、さらにこじれるのは確かだ。
■夫の親を介護しても、相続権が一切ない妻
親の介護でモメることも多い。典型的なのは、長男の妻が義理の父母の面倒を看ていたケース。連れ子と同様、妻は相続人ではないため、どんなに親身になって介護しても、相続権はない。
「長男にとって、妻は家族であるが、他の兄弟姉妹にとってみれば他人も同然。この意識の違いがモメごとを複雑にする」
妻の貢献に報いるには、養子縁組という方法がある。妻を父親の養子にすることで相続人に加えることが可能だ。相続人が増えれば、基礎控除額も増えるので節税にもつながる。
他の兄弟姉妹にとってみれば、自分の相続分が減ることになるので異論が出ることもあるが、「ならば親の介護を代わるのか」と問うとよいだろう。
遺産分割でモメると、家族が絶縁状態になるリスクのほか、余計な税金を支払う羽目にもなりかねない。
相続税がかかる場合には、相続が発生してから10カ月以内に申告・納税をする必要がある。この期限を過ぎると、状況に応じて無申告加算税、延滞税などが課されることになる。
また、軽減措置が利用できなくなる可能性もある。たとえば、小規模宅地等の特例。これは、自宅の土地の評価額を最大8割減して相続税額を下げられる制度だ。しかし、申告期限までに遺産分割協議が調わず、誰が自宅を相続するのかが決まっていないと利用できない。この制度の適用は、一定の手続きを踏めば、申告期限後であっても3年間は認められるが、手続きをしなければ10カ月で期限切れになる。
「代々の資産家であれば、顧問弁護士や顧問税理士と連絡を取り相談している場合が多いため、最悪の事態は回避しやすい。注意したいのが、日常的に弁護士や税理士と連絡を取っていないケース。相談先を持たないため、最悪の事態に陥ることが少なくない」
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弁護士
税理士。東京永田町法律事務所代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞記者を経て現職。『磯野家の相続』『モメない相続』など著書多数。
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■▼【図表】一目でわかる! 遺産相続リスク
■▼【図表】相続税のペナルティ
(向山 勇 写真=iStock.com)
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