モスがマック、ケンタより愛される理由
プレジデントオンライン / 2019年1月16日 9時15分
■NPS先進国の米国、上位企業35%が活用
いまNPS(ネット・プロモーター・スコア)という企業の商品やサービスの指標が注目されている。コンサル会社「ベイン・アンド・カンパニー」のフレッド・ライクヘルド氏により考案された指標で、NPSの数値が高いほど顧客のロイヤルティーも高いことを意味しており、他の人にもその商品やサービスをおすすめしたい度合いでもある。
また、従来の顧客満足度より収益との相関性が高いとされる。例えば、米・通信キャリアのベライゾンはNPSの数値を改善し続け、収益が増えて業界シェア1位になった。
NPS先進国の米国では売り上げ上位企業500社(Fortune500)の35%がこの指標を経営に取り入れているともいわれている。一方日本では、各産業の主要企業が利用している程度で、認知度は低い。
プレジデント編集部は、NPSの分析などからサービスや商品の改善を企業に提言する「エモーションテック」と協力し、流通企業のNPSを大調査した。結果は同社の今西良光社長に解説をお願いした。
また、NPSと同時にカスタマージャーニーマップ(CJM)の作成もしてもらい、各社がNPSを向上させる方法を探った。波線グラフはそれぞれの項目の影響度を意味しており、数値が高いほど、その項目は企業やブランドの強みといえる。なお本記事では、各社個別のNPSと業界トップ3社の平均値との差を「愛着度」と表記している。
▼カフェ…3社平均NPS●-23
スターバックスに軍配。ドトールは座席に弱み
■赤いソファは創業者のこだわり
カフェでは、店舗数では3社の中で最下位のコメダが2位だった。今西氏はフードメニューの質の高さを挙げる。「データを見るとコメダはサイドメニューの評価で他2社を圧倒しています。例えばコメダにはスイーツ『シロノワール』や『みそカツパン』など人気商品が多いです」。
また、飲食をするときに顧客から高評価を得ているのも、コメダの独特な居心地の良さが影響しているという。コメダの店舗では席の間には間仕切りを設置しており、赤いソファは創業者らが座り心地にこだわったもの。そういった取り組みが顧客の満足度を高めているようだ。
一方、ドトールは、居心地の悪さがNPSの低迷に影響してしまった。ただ、メニューを決めるときは他社よりも評価が高くなっており、今西氏は「ドトールは値段の安さが顧客に喜ばれている」と分析する。
そんな中、店舗数で日本1位を誇るスターバックスがNPSでも最も優れていた。これに関して今西氏は「ブランドイメージに関する評価が他社を圧倒している」と指摘する。「ブランドイメージとは、味や店内の雰囲気などさまざまな要素が関わりあって上がるものです。今回はスタバの総合力の勝利でしょう」。
愛着度+7%/NPS●-16%/店舗数●1363店/18年6月末
No.2 コメダ珈琲店
愛着度±0%/NPS●-23%/店舗数●790店/18年2月末
No.3 ドトールコーヒーショップ
愛着度-8%/NPS●-31%/店舗数●1111店/18年11月末
▼コンビニ…3社平均NPS●-20
セブンがダントツ。だが顧客体験は大差なし
■イートインスペースその効果は薄い
コンビニではセブン-イレブンがダントツだが、グラフの波形は3社ともほぼ同じだった。
「カフェでは、会社ごとに顧客が求めているものが少し違いました。例えば、コメダやスタバの顧客は入店時の雰囲気の良さなどにこだわっていますが、ドトールの顧客は入店時よりも、メニューの決定時、つまり値段やメニューなどに強い期待を持っています。そんな中、コンビニの波形はほぼ一緒です。これは単純にどのコンビニの顧客もだいたい同じことを各コンビニに求めており、概ね各社ともその顧客の要望に応えています」
それではなぜ、セブンだけがNPSでずば抜けているのか。グラフでは、各社とも「お店を決める時」「商品を探す時」の数値が高い。そこからさらに、詳細な調査を実施したところ、セブンは「アクセスのよさ」「商品の探しやすさ」「品揃え」「商品の整理整頓さ」「独自ブランド」で他社よりも高い評価を得ていることがわかった。セブンは押さえるべきところを押さえていた。
一方ファミリーマートなどはイートインスペースの設置などに力を入れている。波形をみる限り、ファミマの顧客の商品を購入した後の評価のNPSへの影響度は低い。ファミマの経営戦略は奏功していないといえよう。
愛着度+16%/NPS●-4%/店舗数●20437店/18年7月末
No.2 ローソン
愛着度-6%/NPS●-26%/店舗数●14244店/18年6月末
No.3 ファミリーマート
愛着度-10%/NPS●-30%/店舗数●16868店/18年6月末
▼ファストフード…3社平均NPS●-29
苦戦のモスがNPSトップ。マックはまさかの最下位
■マックは値段で顧客つなぎとめる
ファストフードでは、店舗の削減など、いま苦戦を強いられているモスバーガーがNPSでトップに立った。しかし、NPSは収益との相関性が高い指標のはず。なぜ、モスが1位なのか。
「NPSはすぐに収益に影響が出るとは限りません。この結果からいえることは、モスが復活してくる可能性が高いということ。高価格帯のヘルシー路線はおそらく間違っていません。いま苦境に立たされているからといって、必ずしも方向性を大きく変えるべきではないでしょう」
ちなみに欧米では、実績はいまいちでも、NPSが良い企業は、今後株価が伸びる可能性が高いとし、良い投資対象としてみる投資家が増えているという。一方、V字回復したマクドナルドがNPSでモスに大きく離されているのはなぜなのか。
「マックが顧客を握っている最も大きな要因は商品の値段です。これはある意味、危ない状況です。マックと同等の商品をより安く提供する店が現れれば、すぐに顧客をとられます。また、もし以前起きた異物混入事件のような、イメージを悪くする事態が起きれば、再び低迷することになるかもしれません」
愛着度+15%/NPS●-14%/店舗数●1333店/モスカフェ含む、18年7月末
No.2 ケンタッキーフライドチキン
愛着度-6%/NPS●-35%/店舗数●1153店/KFCチェーン、18年3月末
No.3 マクドナルド
愛着度-10%/NPS●-39%/店舗数●2900店/18年7月末
▼家具・インテリア…3社平均NPS●-24
商品種類の多いニトリが1位。ブランド力は無印
■イケア流の売り場テコ入れが必要か
家具・インテリアではニトリが強さを見せた。ニトリの顧客が「商品を決める時」に高い期待をかけているのに対して、ニトリもそれに応え、店舗に大量の種類の商品を並べる。
そんな中、海外の店舗ではNPSを積極的に活用しているイケアは、日本ではニトリに水をあけられた。詳細調査からは、イケアの顧客は商品のデザイン性を高く評価している一方、価格に関してはニトリの顧客よりも評価が低い。今西氏は「家具が安くても配送料が高いことへの不満の表れ」と分析する。
今西氏はイケアの「商品の探しにくさ」の評価の低さも指摘する。イケアでは、顧客はリビング→ダイニング→オフィスなど、店が指定した道順で売り場を回っていく。入店したらすぐに自分の欲しい商品の売り場まで向かう、日本の一般的な小売り量販店とは異なる設計だ。
「NPSは国民性や文化にも左右されます。欧米では受け入れられてきた独特な売り場も、日本ではいまいち不評なのかと思います」。今後新たにユーザーを獲得したり、NPSをさらに上げたりするためには、売り場の改善が必要となってきそうだ。
また、詳細調査からは配送手続きや購入後についてイケアの顧客の不満が強いことも明らかになった。
愛着度+4%/NPS●-20%/売上高●5720億円/ニトリHD、18年2月期
No.2 イケア
愛着度±0%/NPS●-24%/売上高●740億円/イケア・ジャパン、17年8月期
No.3 無印良品
愛着度-4%/NPS●-28%/売上高●3795億円/良品計画、18年2月期
▼家電量販店…3社平均NPS●-38
ヨドバシが突き放す。商品の探しやすさに強み
■「業界で大変動」今西氏が予想
家電は売上高で3社中3位のヨドバシカメラが2社を突き放した。その主な要因は商品の探しやすさだ。
「業界トップのヤマダ電機とヨドバシの違いは売り場にあります。ヨドバシは機械の細かい部品など、たくさんの品物を所狭しと置いています。一方でヤマダは広い通路で、ゆったりとした雰囲気を醸し出しています」
実際、詳細調査からはヨドバシは「商品の探しやすさ」「フロアガイドのわかりやすさ」「品揃えのよさ」の顧客評価で他2社を上回っている。売上高トップのヤマダは「店内の清潔感」で他社を上回った。商品数は少なくても店舗数で他社を圧倒するヤマダは大きめの「町の電器屋さん」という立ち位置になっているのか。
しかしヤマダのNPSの数値から、顧客のロイヤルティーが低いことがわかる。電化製品に関する目が肥えた日本人にとって、ヤマダの品揃えでは物足りないと思っている可能性が出てきている。ヨドバシがNPSでトップだったことに関して今西氏は「長期的には今後のこの業界で売上高の大変動が起きてくると思います」と話す。
愛着度+12%/NPS●-26%/売上高●6805億円/18年3月期
No.2 ビックカメラ
愛着度-4%/NPS●-42%/売上高●7906億円/17年8月期
No.3 ヤマダ電機
愛着度-9%/NPS●-47%/売上高●1兆5738億円/18年3月期
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1982年、東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。日立製作所、ファーストリテイリングを経て、2013年に現在のエモーションテックを創業。
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(プレジデント編集部 撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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