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売上150億"靴を家で試着"秘密の成功法則

プレジデントオンライン / 2019年4月8日 9時15分

ジャーナリストの田原総一朗氏とロコンドCEO 田中裕輔氏

アメリカで成功した靴通販のザッポスのビジネスモデルを日本に持ち込み、業績を伸ばすロコンド。しかし、社長の田中裕輔が参画したときには経営破たんの危機だったという。マッキンゼー出身社長は、どのようにその難局を乗り切ったのか――。

■マッキンゼー出身者は、なぜ社外で活躍できるのか

【田原】田中さんは一橋大学のご出身ですね。

【田中】中高は桐朋で、歩いて3分のところに一橋大学がありました。それが理由としては大きかったですね。あとは父の影響があったかもしれません。父は銀行マンでしたが、「官僚や政治家になるなら東大がいい。しかし、ビジネスでは東大ブランドは意味がない」と大学に偏見があった。私はもともとビジネスパーソンを目指すつもりだったので、それなら一橋かなと。

【田原】一橋では何を?

【田中】経済学部に入って最初は経済の理論を勉強しました。しかし、正直面白くない。もっと手触り感があるものを学びたくて、3年生以降は商学部の授業を受けるようになりました。

【田原】卒業後はマッキンゼーに入る。どうしてマッキンゼーに?

【田中】商学部の勉強にシフトをしたときに、かつてマッキンゼーで役員をしていた若松茂美先生の授業を受けました。先生はマッキンゼー出身の方を何人か授業に連れてきたのですが、先生も含めて、みなさん話が面白くて興味を持ちました。笑いを取るという感じではないんです。でも、起承転結があって、論理的でわかりやすく、借りてきた言葉ではなく自分の言葉で話していました。私は人の話をじっとして30分も聞いていられないタイプでしたが、このときはむしろ引き込まれるように聞いた。こういう方たちと働けたらいいなと思って入社しました。

【田原】大前研一や上山信一、南場智子、政治家では茂木敏充。どうしてマッキンゼー出身者は活躍する人が多いんだろうね。

【田中】私は会社人としてはマッキンゼーしか知らないのでほかと比較はできませんが、主体性があって、積極的にリスクを取りにいく姿勢が違う印象があります。クライアントのためになることだったら遠慮なく言う。それがクライアントや上司に評価されたらラッキーだけど、そうでなくても言うべきことは言うぞという感じで。

【田原】日本の大企業と逆だね。典型は東芝。7年間も決算を粉飾していて、上のほうの社員が気づかなかったわけがない。でも異を唱えたら左遷されるから、何も言わない。マッキンゼーなら言いますか?

【田中】言うと思います。性格的にも黙っていられないし、みんな優秀でスキルが高く、ほかの会社に行っても困らないことも大きい。私も入社したときに、いつでも辞められる実力を身に付けることを意識しました。入社4年目にUCバークレーにMBA留学したのも、上司の評価を気にせずにリスクを取れる人になろうと思ったからでした。

【田原】田中さんは著書で、マッキンゼーの人は年俸1億円でも辞めると書いていた。辞めてもそれくらいは稼げるっていうこと?

ロコンドCEO 田中裕輔氏

【田中】というか、お金じゃないんですよね。入社してよく言われたのは、「おまえは何を成し遂げたいのか」「それは世の中にインパクトを与えられるのか」ということ。私は外に出て靴業界を変えたいと思ったし、中にはNPOを運営したり、政治家になって社会を変えようとする人もいます。また、マッキンゼーにいたほうが大きな仕事ができると考えて勤め続ける人もいる。いずれにしても判断軸は、世の中にインパクトを与えられるかどうか。それに比べると年収のプライオリティは低いと考える人がほとんどでした。

【田原】実際、田中さんもお辞めになる。経緯を教えてください。

【田中】UCバークレーに留学中だった2008年に、ザッポスのCEO、トニー・シェイの話を聞きました。そこで聞いたビジネスモデルにインパクトがあって、日本で自分でやってみたいと思ったのがきっかけです。

【田原】どんなビジネスモデルですか。

【田中】ザッポスは靴のECサイトを運営する会社です。靴は試着が必要なので、当時は靴をネットで売るという考え方が世の中にありませんでした。それを世界で最初に始めたのがザッポスです。

【田原】僕も靴は靴屋で実際に履いて確かめてから買いますよ。ネットで買う人は試着しないのかな。

【田中】します。トニー・シェイが考えたのは、ネットで試着をする方法。ザッポスは、送料も返品送料も無料。だから気軽に注文して、家でお試しができるようにしました。そこが画期的でした。

【田原】家にいながらにして試着できるようになったわけね。

【田中】靴は、むしろリアル店舗のほうが向いていないと思っています。色やサイズのバリエーションが多いのに、かさばって場所を取るから店舗に在庫をあまり置けない。その結果、せっかく店舗に行ったのに欲しい色やサイズがなかったという事態がけっこう起きます。一方、ネットは店舗に比べると在庫の制限が少ない。試着さえできれば、店舗よりいい体験ができるんです。

【田原】ザッポスは靴だけ?

【田中】靴がメインですが、洋服やカバンなども扱っています。

【田原】そのビジネスを日本でやろうと起業したんですか?

【田中】紆余曲折があります。じつは最初に起業したのはアメリカ留学中で、ゲームの会社でした。ゲーム自体はうまくいって会員も集まったのですが、資金が足りず、泣く泣く売却することに。同じ轍は踏みたくなかったので焦らずにタイミングをうかがっていたら、帰国後、ロケットインターネットというドイツの投資会社が靴の通販を日本でやり始めました。この会社がロコンドで、私はマッキンゼーに勤めながらインターンとして手伝い始めた。11年の1月のことでした。

■コンサルよりもつらかった、100人のリストラ

【田原】最初はバイトみたいなものだったんですね。そこから経営にかかわるようになったのはどうしてですか?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田中】ロケットインターネットはアグレッシブな会社で、最初に10億円を投じて商品や物流網を用意してテレビCMまで打ったのですが、その直後に東日本大震災が起きました。地震発生から2週間後には10億円を使い切って債務超過に。ドイツ人は原発にネガティブなところがあることも重なって、4月には撤退すると言い出しました。

【田原】いきなり10億円を使い切ったんですか?

【田中】ドイツの会社は、3年で売上高1000億円という目標を掲げていました。そのミッションを達成するために積極的に投資するという判断は間違っていなかったと思います。

【田原】そうですか。でも、親会社が撤退すれば、会社は存続できない。

【田中】撤退の話が出たときに、「タナカが社長をやるなら追加でもう5億円だけ投資をする」と言われました。このオファーを引き受けて正式に社長になりました。

【田原】オファーというけど、債務超過の会社でしょ。いわば貧乏クジだ。どうして引き受ける気になったの?

【田中】スタートダッシュに失敗しただけで、トニー・シェイが打ち出したビジネスモデルは素晴らしい。テコ入れして会社を存続させることができれば、うまくいく可能性はある。それに倒産したところで、そこで人生が終わるわけじゃない。そういう開き直りもあったと思います。

【田原】テコ入れって、具体的に何をやったの?

【田中】毎月赤字が1億円出る状態だったので、まず売れない商品を値引きして売ってお金をつくり、当時200人に膨らんでいた社員も70人にスリム化しました。

【田原】100人以上リストラですか。

【田中】私が手を引いたら、会社そのものがなくなって、救える社員はゼロになります。つらい決断ですが、70人を救える道を選びました。

【田原】リストラは、告げるほうもしんどい。田中さんが話をしたの?

【田中】話しました。自分が採用した社員じゃないのに、どうして自分が首を切らなくてはいけないのかという思いがなかったと言えばウソになります。でも、会社を存続させるなら避けて通れない。そのことを淡々と説明しました。

【田原】リストラで立ち直った?

【田中】いえ、私が社長になったときに投資してもらった5億円も6カ月後には底をつき、ドイツの親会社から「これ以上、資金援助はしない」と通告されました。しかし、やはりこのビジネスには可能性があると思い、前にいた取締役で残っていた1人と一緒にベンチャーキャピタルを回って、なんとか1社から5億円を投資してもらうことができました。もっとも、その5億円のうち3億円は返済ですぐになくなってしまいましたが……。

【田原】綱渡りですね。

【田中】本当にそうです。その後も100社以上回っていくつかの会社から投資してもらうことができましたが、なんとか繋いで繋いで、というところでした。

【田原】100社も! ほとんどは断られたわけですよね。それでよくノイローゼにならなかった。

【田中】100人以上リストラするつらさに比べたら、なんてことはないです。断られてもせいぜい電車賃と時間が少しムダになるくらいで、損をするわけではありませんし。

【田原】マッキンゼーで働いていた経験も役に立ったのかな。マッキンゼーの仕事もキツいでしょう。

【田中】マッキンゼー時代は、単純に睡眠時間がなかったことがつらかったですね。いまは違うそうですが、昔は2~3時間しか眠れない日も多かった。もちろんそれなりにプレッシャーもありました。でも、やはり自分で経営したときのプレッシャーに比べたらかわいいものです。

【田原】リストラ以外にもつらい場面はあった?

【田中】仕入れた靴の代金を支払えなかったときもつらかったです。靴屋さんが乗り込んできて、倉庫をトラックで囲まれて、「払えないなら靴返せ」と。靴を一部お返しして、あとはひたすら土下座です。そんな状態がしばらくは続きました。

【田原】黒字になったのは、いつごろですか?

【田中】売り上げは初年度から伸びてはいました。ただ、薄利多売なので、売り上げがある程度大きくならないと黒字になりません。黒字化したのは取扱高が80億円に達した16年でした。翌年には上場も果たせました。

【田原】ロコンドは消費者に靴を売るだけでなく、BtoBのプラットフォームサービスをやっていると聞きました。どういうサービスですか?

【田中】私たちは靴をメインに扱っていますが、それだけだとZOZOさんに潰されるという危機感があったし、ザッポスもやっていないことに挑戦したいという思いもあった。そこで考えたのが、私たちが持っているシステムや物流の仕組みをサービスとして提供するビジネスです。たとえば靴メーカーに向けて、システムの支援をしたり、店舗への出荷を手伝ったりします。システムや物流のインフラはもともと自分たちが持っているものなので安く提供できます。私たちにとっても、靴屋さんとの関係を強化できるメリットがあります。

■百貨店からブランドECまでを、裏側で支援

【田原】そのサービスはいつから?

【田中】12年です。若い女性向けのバッグのブランドであるサマンサタバサさんに依頼されてECサイトを開発したのが最初です。

【田原】メーカーは自社でやるサイトをつくったり、物流をやるノウハウがないんですか?

【田中】靴業界でいうと、単品管理ができていなくて、何が何個あるかわかっていないという会社もあります。そこで私たちが倉庫業務を代わりに担います。たとえば店舗で欠品したら倉庫からお客さんに直接送るといったサービスも行っています。

【田原】リアルの店舗も含めてバックヤードをぜんぶやるということ?

【田中】はい。あとPOSレジやQRコード決済の仕組みを提供したり。ブランドさんにはブランディングと商品開発に注力してもらって、ほかは私たちが一気通貫で提供します。

【田原】田中さんは「在庫シェアリング」とおっしゃっている。これはどういうことですか?

【田中】百貨店は買い取りではなく、売れなければ靴屋さんに返品されるということをご存じですか? だいたい2割、ヘタをすると3~4割が返品になるので、靴屋さんは大変です。一方、先ほど言ったように店頭ではサイズや色によって欠品も多数発生する。その結果、どこかの店で返品されようとしている靴が、別の店では欠品になっているというケースがよく起きています。この問題を解決するのが、在庫シェアリングという考え方です。具体的には、A百貨店新宿店、B百貨店銀座店といった各店舗や、ロコンド倉庫の在庫をバーチャルで一元化。A百貨店で欠品した商品がB百貨店にあれば送ったり、お客さんのお家に送れます。

【田原】なるほど。みんなで1つの在庫にするとムダがなくなるわけだ。ところで、ロコンドのBtoBサービスに競合はいないんですか?

【田中】ZOZOさんやマガシークさんもやっています。ただ、競合はほぼ自社ECの開発・運営だけ。私たちはシステムや物流まで支援するので、守備範囲が大きく違います。

【田原】最近、アパレルの“ZOZO離れ”が話題になっていますね。モールから撤退するアパレルが増えると、自社ECを支援する田中さんたちにとっては追い風ですか?

【田中】自社ECは増えていくと思いますが、モールはモールで残ると思っています。消費者が服や靴を買うときのパターンは、ブランドから選ぶか、「黒いニットが欲しい」というようにカテゴリーから入るかの2つ。前者は自社ECでいいですが、後者はモールのほうがいろいろなブランドを比べられて便利です。モールのニーズは必ずある。私たちもBtoCのモールと、BtoBのプラットフォームサービスで、両方をカバーしていきます。

【田原】将来は、どっちがメインになりますか?

【田中】当面は、あくまでBtoCがメインです。ただ、BtoBの割合は少しずつ増えているので、将来は半々くらいになる可能性はあります。

【田原】BtoCの戦略も聞かせてください。いまECはラストワンマイルが問題になっていますね。ロコンドはどうですか?

【田中】約2年前に「急ぎません便」を始めました。最近は当日や翌日到着があたりまえになっていますが、それが配達員のプレッシャーになっていたり、稼働が平準化せずに非効率になる原因になっている面があります。しかし、靴なら2、3日ゆっくりでもいいというお客様もいらっしゃる。その場合は意思表示をしていただき、そのぶん送料を下げます。私たちはメインでヤマト運輸を利用していますが、ほかにも共同の取り組みで何かできるんじゃないかと考えています。

【田原】さきほどZOZOが脅威だとおっしゃっていたけど、アマゾンはどうですか?

【田中】競合かと言われると、違うと思います。アマゾンさんは大きいですが、得手不得手があって、ファッションの売上高はすごく小さいので。

【田原】いま売り上げや社員数はどれくらいですか。

【田中】18年度の着地が150億円。従業員は正社員が100人。アルバイトを含めると約400人です。

【田原】海外戦略も考えている?

【田中】ECの世界展開は考えていません。たとえばロコンドチャイナをやろうと思うと、中国に倉庫をつくらなくてはいけないし、仕入れ先もゼロから開拓しなくてはいけません。それには多くのお金や時間を要します。過去にはZOZOさんも中国進出に失敗したし、ECの世界展開の唯一の成功例と言えるアマゾンさんでさえ、進出しているのは15カ国以下です。そうした現実を踏まえると、かなり難しいと判断せざるをえません。将来ありうるとしたらBtoBのほうです。システムやQRコード決済といった仕組みは海外展開しやすいので、可能性としては考えています。

【田原】わかりました。頑張ってください。

■田原さんから田中さんへのメッセージ

今回印象に残ったのは、マッキンゼー出身者は積極的にリスクを取る人が多いということ。田中さんも「うまくいく可能性はゼロじゃない」と言って、債務超過の会社の経営に手を挙げた。ゼロどころかマイナス状態の会社に懸けたのだから、肝っ玉が据わっています。

日本の大企業は挑戦して失敗した人はエリートコースを外れ、何もしなかった人が出世する。これではみんな守りに入ってしまう。本田宗一郎や盛田昭夫は、会社を大きくした後も攻め続けた。田中さんには、これからも積極的にリスクを取りにいってほしいですね。

田原総一朗の遺言:これからもリスクを取りにいけ!

(ジャーナリスト 田原 総一朗、ロコンドCEO 田中 裕輔 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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