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"死を意識する者"だけがGWを制するワケ

プレジデントオンライン / 2019年4月25日 15時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kazuma seki)

未曽有の10連休となった5月のゴールデンウィーク(GW)がいよいよ始まる。どのように過ごすのが幸せなのか。哲学者の小川仁志氏は「ハイデガーが示したように、予め死を覚悟すること。そうすればGW10連休が充実したものになるだろう」という――。

■日本人は休むのが下手くそ

新天皇の即位のおかげで、未曽有のゴールデンウィーク10連休です。天皇なんて気にもしない小中学生たちも、さすがに今回は感謝しているのではないでしょうか。

ただ、大人の反応は微妙なようです。独身者や、子どもがまだ未就学児の大人は別として、普段子どもが学校に行っている場合、逆に家事などの負担が増えますから。

もちろん長期間旅行に出かけることができるなら話は別です。降ってわいたようなこの10連休に対する受け止め方も人それぞれ。今回はこの連休について哲学してみたいと思います。

まずそもそも休暇とは何か? それは何もしなくてもいい時間のことです。日ごろ仕事をせざるを得ない私たちは、何もしなくていい時間を求めます。キリスト教やユダヤ教には何もしてはいけない安息日という概念がありますが、それがそのまま今の週末になっています。イスラム教にも、必ずしも土日ではないですが安息日があります。

日本の場合は、仏教や神道の影響を強く受けていますが、これらの宗教には安息日のような考え方が基本的にはありません。だからでしょうか、日本人は休暇を取るのがとても下手なのです。

■そもそもなぜ休暇はあるのか?

たとえば西洋の人たちは、一生懸命働きますが、その後うまく休暇を取ります。バカンスもそうですし、日曜は本当に働きません。ところが日本人は一生懸命働くにもかかわらず、長期休暇を取らないのです。夏休みはお盆の数日間だけとか、週末も休日出勤とかいうのはざらです。それではさすがに鬱になる人や、過労死者が出るのも不思議ではありません。人間は機械ではなく、生き物なのですから。

そこでようやく働き方改革が叫ばれるようになったわけですが、それでもまだメンタリティは変わっていないような気がします。現に私の周りにも、最近の風潮のせいで「残業ができなくて困る」とか、「有給の取得を義務付けられて困る」といった声が聞こえてきますから。まるで働き方改革が余計なお世話のようになってしまっているのです。

でも、私たちが考えなければならないのは、なぜ休暇があるかです。それは安息日を見てもわかるように、人間には限界があるからです。心も身体も。とするならば、定期的に休まないと、心身を病んでしまうことになりかねません。いくらやる気があってもです。

■未曽有のGW10連休が私たちに問うこと

楽しいことは永遠に続けられますが、それとこれとは別です。いくらサッカーや野球が好きな子どもがいたとしても、休みなくそれを続けたら、心身を病んでしまうでしょう。そういう時は強制的にでもストップをかける必要があります。

それにしても、この時期10日間も連続で休む必要があるのかどうか。これは私たち日本人にとっては二つの点で新しいテーマです。

まずゴールデンウィークであるという点です。ゴールデンウィークは4月の末から5月の上旬という、いわば年度の割と早い段階に訪れます。つまり、がむしゃらにスタートした新年度、ちょうど1カ月ほどしたいいタイミングで小休止できるということです。その意味では、5月病の予防にもいいでしょう。

次に10日間という点について。10日間といえば、普通は1カ月の3分の1です。土日が休みだとすれば、通常は1カ月に20日間しか働かないわけですから、いわゆる営業日の2分の1を休むことになります。

それはたしかに日本人にとってはとても長い休みです。先ほども書いたように、夏休みでさえせいぜいお盆をはさんだ1週間程度でしょうから。年末年始にしても土日を含めて10連休になることはそうそうありません。したがって、10日間というのは、もしそれが実現すれば、日本人が休む最長レベルの期間になるはずです。

■2つの過ごし方がある

10日間という長さがどういう意味を持つかは、人によって変わってくると思います。ただ、大きく分けると二つでしょう。それは10日間をどう過ごすかということにも関係してきます。

私は哲学者なので、あえて哲学を使ってコース分けするなら、「ハイデガーコース」と「ソクラテスコース」とでもいえましょうか。ハイデガーコースというのは、旅行などやりたいことを存分に楽しむ過ごし方です。他方ソクラテスコースというのは、じっくりと自分を吟味する過ごし方です。

ハイデガーコースから見ていきましょう。20世紀ドイツの哲学者ハイデガーは、時間の概念を再定義し、通常私たちが使っている時計の時間ではなく、いわば心の時間ともいうべき根源的時間なるものを提起しました。時計の時間は、過去から現在、そして未来へと線分上に時間が過ぎて行くと考えるものです。

それに対して根源的時間とは、今ここを起点に、既に過ぎ去った過去も、これから到来する未来も自分の中にあると考えるものです。つまりこの場合、過去も未来も今の自分と関連付けて、今ここにあると考えるわけです。

■死を意識すれば“今この瞬間”を生きられる

たしかに、過去のことは今の自分の頭の中にあるだけですし、未来もこれから自分に降りかかるものとしてやはり頭の中にあるだけだともいえます。そうすると、時間というものは、線分上に存在するのではなく、今この瞬間を生きる自分の中だけに存在するものになってしまうのです。これが根源的時間という考え方です。

そんな根源的時間に従うと、私たちの生き方も変わってくるのではないでしょうか? おそらく今この瞬間を一生懸命生きようというふうになってくるはずです。現にハイデガーもそう考えました。ちなみにハイデガーは、根源的時間を意識して懸命に生きられるようになるには、予め死を覚悟する必要があるといいます。人間は死を意識してはじめて、残された時間が貴重に思え、頑張るはずだというわけです。

だからゴールデンウィークの10日間を存分に楽しむというのは、ハイデガー的な時間の過ごし方なので、ハイデガーコースと名付けたわけです。あたかも残された時間が10日間しかないかのように、その10日間を充実させようと懸命になるということです。

■あえて家の中に引きこもる方が幸せなことも

では、ソクラテスコースのほうはどうでしょうか。ソクラテスは「哲学の父」と称される古代ギリシアの哲学者です。彼は「無知の知」の概念で知られるように、自分は何も知らないと自覚し、知を探究し続けました。

なぜなら、魂への配慮こそが人生の目的だと考えていたからです。言い換えると、自分自身や自分の人生を吟味するということです。吟味しない人生は生きるに値しないとまでいいます。それこそが哲学の目的であり、善く生きるということなのだと。

だからソクラテスコースは、じっくりと自分を吟味する過ごし方になるわけです。せっかくの10連休なのに、あえて家の中に引きこもり、静かに自分と人生を見つめ直す。考えてみると、日頃忙しくて人生を顧みる暇もない私たちですが、さすがに10日も休みを与えられれば、少しは自分のことを振り返る時間がとれるはずです。つまり、全日本人が人生を吟味する時間を持てる貴重な機会だともいえるのです。

たしかに経済を重視するなら、レジャーや旅行に出かけてもらったほうが、日本のためにはいいのかもしれません。でも、人々の心の健康や正しい生き方を重視するなら、じっくりと自分を見つめ直してもらったほうが、ひいてはこの国のプラスになるようにも思えます。

もちろんどっちの過ごし方が正しいということはありません。自分はどっちを選ぶかです。大事なことは、10日間を過ごした後、どれだけ心の充足を得られているかだと思います。

(哲学者 小川 仁志 写真=iStock.com)

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