「1億円」の生命保険に加入すべき理由
プレジデントオンライン / 2019年5月6日 11時15分
■みんな悩む「生命保険にどれくらい入ればいいのか?」
消費税の引き上げが目前に迫っている。2019年10月、現状の8%から10%への引き上げは原則として確定路線になっている。膨大な増税対策のひとつに住宅も含まれており、消費税のかかる建物部分は住宅ローン減税で手当てされる(従来の10年間減税後の11年目以降、3年間で増税分2%、もしくはローン残高の1%、いずれか低いほう)。
現状で慌てて買うような状況にはなっていないが、その際にセットで考えるべきものが生命保険の加入だ。
結婚して子どもが生まれて家を買う……。多くの家庭はこのプロセスをたどる。そして住宅購入時には保険や家計の見直しをするにも良いタイミングだ。筆者の元にも小さなお子さんを抱えた夫婦が住宅購入の相談に多数訪れる。そこで聞かれるのは、次の問いだ。
「生命保険にどれくらい入ればいいのか?」
つまり保障と保険料のバランスをどう取ればいいか。これは誰も正解を教えてくれない。保険代理店の窓口を訪ねれば、商品の説明はしてくれる。いろいろな保険も勧めてられる。しかしそれが最適な「アドバイス」なのか、それとも「セールストーク」なのか、見極められない。その判断ができるのであれば、わざわざ窓口を訪ねる必要はない。
結局は自身で判断するしかない。しかし保険は非常にややこしい。どのように判断すればいいか?
あえて乱暴に言えば「大雑把」でいい。なぜなら予定通りに貯金を貯めて、予定通りのタイミングで亡くなる人はいないからだ。投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットは株や投信など金乳商品を購入する人へのアドバイスとして「厳密に間違えるより、大雑把に正しいほうがいい」といった趣旨の発言をしている。これは同じく金融商品である保険にも当てはまる。
■「1億円の生命保険に入ってもいい」と言える理由
この考え方をベースに、筆者は、比較的収入が高い夫婦に「1億円の生命保険に入ってもいい」とアドバイスをしている。
このFPはいったいどれだけの生命保険を売りつけるつもりだ、と思われるかもしれない。だが、筆者は保険を一切売らず、有料のアドバイスを提供するFPだ。保険代理店などの紹介もしておらず、保険会社のセミナーなども全て断ってアドバイスに特化している。
相談時に手厚い保険への加入をアドバイスすると、「独立したFPは保険なんて要らないとアドバイスするものだと思っていた」と相談者から驚かれることもある。
なぜ保険を売らないFPが1億円の生命保険の加入を勧めるのか? そのココロを説明してみたい
■生命保険に加入前に確認したいのは年金など公的保障
保険は「必要最低限」でよいという言い方もあるが、では何を持って最低限なのか? これも人によって全く異なる。したがって必要最低限というのは何も言っていないに等しい。ただ、保険の中では万が一に備える生命保険が最優先であることはハッキリしている。
では、生命保険はどのように入るのが正しいのか。
生命保険に加入する前に、まず確認したいのは、年金など公的保障の存在だ。年金というと「老後の年金」といったイメージを抱くだろうが、これには生命保険の機能も含まれている。それが遺族年金だ。
夫が亡くなった場合を想定すると、遺族年金は子ども一人ならば年間で100万円程度、二人なら120万円程度の年金を受け取れる。金額として案外大きい。それ以上、増えた場合は子ども一人につき約7万円増える。これは子どもが18歳になるまで受け取れる。子ども二人なら1カ月あたりざっくり10万円と考えると分かりやすい。以上は、遺族年金の中の「遺族基礎年金」と呼ばれるものだ。
年金が「2階建て」と言われるのと同じように、遺族年金も「2階建て」となっている。1階部分が前述の遺族基礎年金で、2階部分が遺族厚生年金だ。老後の厚生年金が現役時代の収入額と勤続年数で変わるように、遺族厚生年金も収入額と勤続年数によって変わる。
本稿は、遺族年金の解説が目的ではないので、ここでは最低限の説明だけ記しておくが、もらえる額は老後の厚生年金の4分の3が目安になる。遺族基礎年金と合わせると、子どもが2人いれば18歳になるまで毎月十数万円となる。
■死亡した場合は住宅ローンがチャラになる団体生命信用保険
住宅ローンを組んでいる、あるいはこれから組もうとしている人であれば、通常、死亡した場合などは住宅ローンがチャラになる団体生命信用保険(団信)に加入する。団信もれっきとした生命保険だ。
保障される額は、組む住宅ローンの額によって、また借入期間によって大幅に変わる。都内でマンションを購入する場合、借入額は5000万円程度にはなるだろう。
5000万円のローンを想定すると、毎月の返済額は約14.7万円となり、ローンを借りた人が亡くなるとこれが丸ごとゼロになる(借入期間35年、金利1.27%、執筆時点のフラット35の金利を参照)。実質的に毎月15万円近くの保険金を受け取れる状況とほぼ同じだ。なお夫婦で住宅ローンを借りている場合、特殊な団信を除いて一方が亡くなってももう一方のローンは残る。
このケースならば、団信によって払わずに済む住宅ローンと、先ほどの遺族年金を合わせると実質的に30万円近い収入となる。それだけあれば生命保険はいらないじゃないか、と思われそうだが、そうとは限らない。
700万円とか800万円稼いでいた人、もっと収入が高く一人で1000万円以上稼いでいた人(あるいは将来的にそれくらい稼げる人が亡くなった場合の影響)の穴埋めとしては不要になる本人の生活費(食費やおこづかいなど)を考慮しても360万円は少ない。
では、いったいどれだけあればいいのか。
■最大1億円の保障が保険料月7000円で済む仕組み
ポピュラーな生命保険は「10年以内に死亡したら3000万円貰える」といったように、一定期間内に死亡した場合にもらえる額が常に一定のものがある。
それに対して、「収入保障保険」はもらえる額が変動していく。例えば、現在30歳の男性が60歳までに死亡したら、死亡した時点から60歳になる予定の年まで毎月10万円の保険金がもらえる、という仕組みだ。もらえる保険金と年齢は加入者が選べる。
60歳まで毎月10万円の保険金をもらう設定にした場合。例えば、30歳の人が加入した途端に亡くなれば10万円×12カ月=年間120万円となる。それが60歳まで(30年間)だから、120万円×30年=3600万円だ。
加入して10年後の40歳で亡くなれば120万円×20年=2400万円、50歳で亡くなれば1200万円といった具合に、加入当初の3600万円を最大の額として、もらえる額がだんだん減っていく。仕組みとしてはさほど難しくはない
この場合の保険料はいくらになるか。上記のシミュレーション通り、30歳の男性が60歳まで毎月10万円の収入保障保険に加入した場合、保険料は毎月2670円となる(※)。
※損保ジャパン日本興亜ひまわり生命・収入保障保険「リンククロス じぶんと家族のお守り」 特約は無し。執筆時点のシミュレーションを参照。
これを2倍の毎月20万円、最大で年間240万円×30年=7200万円の場合、保険料は5140円とほぼ2倍になる。
さらに3倍の毎月30万円、最大で年間360万円×30年=1億800万円の場合、保険料は7710円とこの場合もほぼ3倍になる。
■健康な人やタバコを吸わない人なら大幅に割り引き
そして、これは「標準体」の保険料だ。保険に加入したことがある人ならば、一定の基準(体重や血圧など)を満たした健康な状態の人やタバコを吸わない人ならば大幅に割り引かれる保険があることもご存じだろう。両方の条件を満たした、非喫煙者健康体割引を受けた場合の保険料は、それぞれ以下の通りだ(条件はいずれも30歳の男性、契約期間は60歳までのケースで月払いの保険料)。
毎月20万円、最大7200万円→保険料3460円
毎月30万円、最大1億800万円→保険料5190円
このように、おおむね3割引きとかなりリーズナブルだ。健康でタバコを吸わない人はそれだけ死ににくい、ということで安くなる。最大で1億円を超える額に加入しても、5000円程度で済んでしまう。
随分安いけどこれは若い人だからでは? と思った人に年齢だけ条件を変えて、35歳から65歳までの加入期間30年で計算した場合の保険料も掲載しておこう(保険料は標準体、非喫煙者健康体割引の順番)。
毎月20万円、最大7200万円→保険料7340円 4980円
毎月30万円、最大1億800万円→保険料1万1010円 7470円
一般的に住宅を購入するタイミングは、30代半ばが多い。その際に最大で1億円を超える生命保険に加入しても支払う保険料は月1万円程度、割引が効けば7000円台で済む。7000円台でも多すぎる、という人は月の保障額を20万円や10万円へ減額すればいい。その場合は、支払う保険料も大幅に下がる。
■「必要最低限の保険」は人それぞれ、自分の頭で考える
保険金が1億円もいるのか? いくら月の保険料が安いからと言って無駄に入る必要はないじゃないか? という疑問もあるだろう。
もちろんその通りだが、結局は冒頭で説明した「必要最低限」のラインをどこにおくのか? ということが非常に重要なポイントになる。
必要最低限というと、贅沢はできなくていいから生きていければいい、といった考え方を持っている人も多いかもしれない。しかし、筆者のもとへ相談に訪れる夫婦はさまざまなライフプランを考えている。
家を買ったあと、子どもに習い事をさせて、中学校からは私立中学に通わせて、大学にも通わせて、場合によっては留学もさせたい……といった具合だ。
子どもにできるだけのことはしてあげたい。これはほとんどの親が考えることだろう。もちろん、本人も老後は悠々自適な生活を送りたいだろう。
しかし先ほどの必要最低限が、生きていければいいというギリギリの額だったらどうか。上記のような希望は全くかなえられないかもしれない。夫婦のどちらかが死亡したなら我慢して生活すればいいとか、家を売り払って実家に戻って親元で生活すればいい、といった考えもあるだろう。ただ、それは夫婦間で決めればいいことで赤の他人が我慢しろとか贅沢をするなとか口出しするようなことではない。
加えて、俺は保険なんていらないという人は自身で決めるのでなくパートナーの意見を聞いてから決めるべきだ。生命保険を受け取るのは亡くなった人ではなく、あくまで残されたパートナーや子どもだ。
■生涯年収3億~4億円の人にとっては「1億円」は高くない
夫婦二人合わせて世帯年収が1000万円超の場合で夫が700万円、妻が300万円とした時、仮に、夫の収入700万円が消えてなくなれば、前述の遺族年金や団信があっても従来通りの生活、そして理想のライフプランは残念ながら送ることは難しいだろう。それでもいいという場合は生命保険はいらないか、あるいは少額でもよい。
それでは困るという人は生命保険にしっかり入ればいい。収入の高い人が亡くなった場合の代替案として考えるのであれば、結論として、先ほど紹介した1億円の生命保険に入っても全く問題ない。
生涯年収は高い人ならば3億円とか4億円を超える。よって、1億円は決して多すぎる額ではない。加えて、毎月支払う保険料もさほど高いわけではないことはすでに説明した通りだ。世帯年収1000万円で月額1万円以下の保険料ならば重荷になることはないだろう。
■生きていても負担にならず死亡した場合に手厚い、が理想
とはいえ、保険は基本的にほとんどの人が損をする「不利な賭け」であることは間違いない。
確率でいえばほぼ確実に損をする。統計的に考えれば保険は入らない事が正しい。これは「競馬や宝くじはほぼ確実に損をするからやらないほうがいい」という理屈と同じだ。統計を理解している人は(娯楽ではなく金儲けを目的とした)ギャンブルはやらない。あまりにばからしいからだ。しかし、運悪く万が一にぶつかってしまうとその影響は非常に大きい。だから最低限の保険に入るべき、ということになる。そしてその最低限は慎重に判断すべきだ。
したがって亡くなった場合はもちろんのこと、生きている場合の影響、つまり保険料の負担も考える必要がある。万が一に備えて日常生活が高い保険料で圧迫されるようでは本末転倒だ。
生きていても負担にならず死亡した場合に手厚い……この理想形が手厚い収入保障保険の一点買いで可能になる。
先ほど事例に挙げた生命保険はあくまで事例なのでこの保険にこだわる必要はない。普段の相談でも、近所の保険代理店で審査に通ったものに加入すればいいと伝えている。安いものを選べば保険料の違いは月額で数十円から数百円程度でほぼ同じ価格帯になる。
■保険営業マンに「丸腰」で相談したら、どんどん売り込まれる
なお、保険会社によって審査項目や審査基準は異なる。保障内容やつけられる特約(オプション)も異なる。このあたりは日々保険を販売している保険会社の営業マンや保険代理店が得意とするところだ(よっぽどひどい営業マンでなければ商品知識すらない、という人は少数派だろう)。こういった商品選択の面で営業マンを大いに活用すればいい。
営業マンの仕事はあくまで保険を売ることだ。保険に入るべきか? いくら入ればいいか? どれに入ればいいか? といったところまで丸ごと相談すれば、当然のことながら相手の売りたいものを売り込まれる。
たまに営業マン=客をだまして余計な保険を大量に売りつける人、と思い込んでいる人もいるが、それは極端だ。客をだまそうとする営業マンはむしろ少数だろう。営業マンをうまく使えるかどうかは、あくまでも客次第だと考えてほしい。
(ファイナンシャルプランナー 中嶋 よしふみ 写真=iStock.com)
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