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だれでもトイレに健常者が入ってもいいか

プレジデントオンライン / 2019年5月17日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/y-studio)

街中で「だれでもトイレ」と書かれた多機能トイレを見かけることが増えた。車いすや人工肛門・人工膀胱の人に必要な設備が整っている。だが、そうした人の約9割に待った経験があるという。なぜ数が足りないのか。サービス介助士インストラクターの冨樫正義氏が解説する――。

■「多機能トイレ」には何があるのか

私は、サービス介助士インストラクターという仕事をしています。サービス介助士とは、主にサービス現場で、障害のある人や高齢者がお手伝いを必要としているときに、すぐに手伝えるように、基本的な介助技術を学んだ人のことです。本稿では、サービス介助士インストラクターの立場から、多機能トイレについてご説明します。

最近、商業施設や公共交通機関などで、多機能トイレを見る機会が増えてきたと思いませんか。多機能トイレとは、車いす使用者でもオストメイト(人工肛門・人工膀胱の保有者)でも小さな子供連れでも、誰もが使いやすい設備と広さを備えたトイレです。ユニバーサルデザインの一つと言えるでしょう。

ユニバーサルデザインとは障害の有無・年齢・性別・国籍・人種などにかかわらず、誰もが使いやすいように、あらかじめ都市や建物、生活環境を計画することです。実際「どなたでもご利用いただけます」と表示している多機能トイレもあります。

多機能トイレにはどんな設備があるのでしょうか。基本設備は車いすで利用しやすい十分な空間、容易に開閉できる戸のある入り口、手すり、オストメイト対応の水洗器具、施錠操作のしやすいカギです。さらに大型ベッド、乳幼児用いす、乳幼児用おむつ交換台、温水洗浄便座、呼び出しボタンなどがある場合もあります。

■人工肛門・人工膀胱保有者も使う

この多機能トイレはどのような人が必要としているのでしょうか。まず車いす使用者です。もともと多機能トイレは車いす使用者のためのトイレでした。車いす使用者には、十分な間口があり、引き戸になっている入り口、車いすでスムーズに回転できる広さのトイレが必要です。車いすから便座への移動や座位の保持に使う手すり、低い位置からでも見える鏡も車いす使用者のために設置されています。

オストメイトも多機能トイレを必要としています。オストメイトとは大腸がんなどの病気や障害などが原因で、人工肛門・人工膀胱を保有している人のことです。オストメイトは、排泄を自分でコントロールできないので、排せつ物を受ける袋をお腹の外側につけています。その袋にたまった排せつ物の処理をしなければならないため、外出時に身体や衣服の洗浄等ができるトイレが必要です。その洗浄のためのシャワーとシンクのセットがあるのが、オストメイト表示のあるトイレなのです。

その他、視覚に障害のある人が使用することもあります。温水洗浄便座の操作盤に点字があり、ペーパーホルダーや流すボタンの位置について基準がある多機能トイレの方が使用しやすいからです。一方で、トイレ全体のレイアウトが一定ではなく、どこに便座があり、どこに洗面台があるのか分かりにくいため、一般の個室の方が利用しやすいという声も聞きます。

■着替えなどで多機能トイレを使う人がいる

介助が必要な肢体不自由者にとっては、介助者と一緒に入れる広さが必要です。おむつ交換などの際には、簡易ベッドを使うこともあります。また、温水洗浄便座があれば、事後の処理が簡略化でき、介助者の心理的・物理的負担が減るとともに、障害のある人の心理的負担も減り、自立につながります。

そのほか、乳幼児連れの人や高齢者が使うこともあります。おむつの交換台やベビーチェアがある多機能トイレなら、ベビーカーごと入れますし、手すりがあると高齢者は立ち座りがスムーズにできるからです。

近年ではトランスジェンダーの人がストレスなくトイレを使用できるよう、多機能トイレに「オールジェンダー」と表示する企業や施設も出てきています。一方でかえって周囲から注目されてしまうという矛盾もあります。

■トイレットペーパーを補充すべき理由

さまざまな人に使いやすく作られた多機能トイレですが、使い方には注意が必要です。便座をあげたり、可動式の手すりを動かしたり、簡易ベッドを使ったりした場合は、必ず元の位置に戻すようにしましょう。腕をあげることが難しい人にとっては便座をさげるのが大変なこともありますし、簡易ベッドが広がっていると、車いす使用者が移動しにくくなります。

もしトイレットペーパーを使い切ってしまったら、次に使用する人のために補充すると親切です。ストックしてある場所に手が届かないという人がいるからです。また、トイレ内の閉ボタンを押してから外に出てしまうと、施錠されてしまうことがあるので、要注意です。

多機能トイレを設置している運営側にも、知ってほしいことがあります。足踏み式のゴミ箱が設置されていることがありますが、車いす使用者にとっては利用しづらいのです。また、両足がしっかりと床についていないと、座位を保つことが難しい人もいます。そうした人のために、便座の近くに足を置く台があると、なお良いでしょう。

また、清掃時に使用ができないと、他に選択肢のない人は本当に困ります。時間をかけて清掃するのは、開店前にするなど、調整をしてほしいところです。多機能トイレの周囲に段差があったり、重い扉を開けないとアクセスできなかったりする施設も見られます。多機能トイレを設置することが目的ではなく、必要としている人に使用してもらうことが目的であることの理解が必要と考えます。

■本当のバリアフリー社会は「選べる」社会

さまざまな機能が装備されて使用する人が増えたことに伴い、待つ時間も長くなっています。国土交通省の調査によれば、多機能トイレの使用を必要としている人の約9割が待った経験があるとしています。背景には、まだまだ数が不足しているという現実があります。

小規模な施設では、多機能トイレの設置が難しい場合もあります。その際には、近隣の多機能トイレを勧めることも必要でしょう。ただ、ホテルなどでは多機能トイレの使用を求められても、宿泊客以外の使用を断る施設もあります。これはぜひ柔軟に対応してほしいところです。社会全体で資源の活用と理解が必要なのです。

これまで説明してきたように、多機能トイレといっても、求める機能は使用する人によって異なります。北海道の摩周湖近くにあるプチホテル「風曜日」では、部屋のトイレの他、館内に3カ所の多機能トイレを設置し、レイアウトや手すりの位置・形状、便器の高さ等を変えています。このことにより、利用者は必要に応じて自分に合ったものを選ぶことができるのです。このホテルのように、使用する人の選択肢が増えていくことが、本当のバリアフリー社会につながると言えるでしょう。

■「多機能トイレ」以外は使えない人への配慮を

現在問題になっていることは、本当は多機能トイレを必要としていない人で、多機能トイレを長時間使用する人がいることです。歩行が困難な車いす使用者やトイレ介助が必要な人は、多機能トイレでなくては、トイレを使用できません。他に選択肢がない人がいることを理解し、一般のトイレを使える人はそちらを使用しましょう。

一般のトイレが混雑しているけれど、多機能トイレは空いているという場合もあるかもしれません。その場合は、あまり長時間にならないよう、常識の範囲内で使うようにしましょう。

2020年の東京オリンピックとパラリンピック、ますます進行する超高齢社会の日本において、ハード面の整備とともに、それを使用する人、運用する人の心のバリアフリーが求められています。

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冨樫 正義(とがし・まさよし)
サービス介助士インストラクター
1973年、埼玉県生まれ。桜美林大学院卒(老年学研究科修士号)。日本サッカー協会 施設委員。東洋大学国際観光学部非常勤講師。企業法務、専門学校講師を経て、現在、サービス介助士、防災介助士、認知症介助士などを認定・運営する団体「公益財団法人日本ケアフィット共育機構」のインストラクターとして、年間50社以上の企業対象研修を担当するほか、企業のバリアフリー・ユニバーサルデザインのコンサルティングも行う。

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(サービス介助士インストラクター 冨樫 正義 写真=iStock.com)

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