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アパ社長が挨拶に全エネルギー注ぐワケ

プレジデントオンライン / 2019年7月13日 11時15分

アパホテル社長 元谷芙美子氏

自分の株を上げる「挨拶」のしかたはどんなものか。「プレゼンテーション」とも「雑談」とも異なる、「挨拶」特有のルールやノウハウを2人のコミュニケーションの達人に聞いた。
仕事の現場▼仕事は挨拶が9割である

■挨拶で相手の心と心臓をつかみ取る気迫を持て!

挨拶は人と人とのコミュニケーションの基本。とりわけ取引先などと相対する営業の現場では、ビジネスの本題に入る前の挨拶が極めて重要になる。仕事がうまくいくかどうかは挨拶にかかっている、といった強い意識を持つ経営者も少なくない。

例えば、日本最大級のホテルチェーン、アパホテル社長の元谷芙美子氏はプレジデント誌で以前、次のように語っている。

「商談では、私がお客さまを最前線で待ち、真っ先にご挨拶します。不動産契約などの大きな仕事は、最初の出会いがすべて。挨拶は『居合抜き』みたいなものです。『おはようございます』『お待ちしておりました』『いらっしゃいませ』。相手さまの心と心臓を一瞬にしてつかみ取らなければ、言葉にする意味もありません。私より先に挨拶できる社員や、お客さま、今までそんなに会ったことがないですね」(2019年2月18日号)

居合抜きの精神で相手の心と心臓をつかみ取る気迫……。それくらい面会の「冒頭」の挨拶にエネルギーを注ぎ込んでいるということだろう。

しかし、元大手ハウスメーカーのトップセールスで、その豊富な経験をもとにした営業術の書籍を55冊出している営業コンサルタントの菊原智明氏は、「挨拶をなんとなく済ませてしまっているビジネスマンが多い」と指摘する。

「せっかく時間をとって顔を合わせるのですから、しっかり挨拶の準備をし、戦略を立てるべきです。初対面であれば、なおさらのこと。相手に与える第一印象で挨拶が占める割合は思いのほか大きいのです」(菊原氏)

■取引先・初対面の相手のSNSで事前に情報ゲット

ビジネスの始まりは名刺交換だ。菊原氏は、「面会予定の人が勤める企業のウェブページや個人のブログなどを事前に調べることが、いざ顔を合わせたときのネタになり、商談などの勝負の分かれ目になる」と話す。

「営業のテクニックで『アイスブレイク』というものがあります。その言葉(氷を溶かす)通り、初対面の顧客との緊張感をほぐし、抵抗感をなくすような会話をすること。その際、相手企業の最新動向などを仕入れれば挨拶や雑談もスムーズにできます」(菊原氏)

上場企業であればIR情報の中に決算説明資料などがパワーポイントや映像でまとめられていることもある。そこから、名刺交換時の挨拶や言葉のやりとりに生かせるキーワードを抽出しておくのだ。

一方、事前に情報収集がしづらい相手の場合は“名刺トーク”も一種の挨拶として有効だという。

相手の名刺をただなんとなく受け取るのではなく、名前を確認し、「○○さんとお読みすればよろしいでしょうか」などと問いかけたり、名前の由来や出身地を聞いたりすると話は自然にはずむ。自分と同じ出身地である、同窓である、といった共通点があると親近感がわき距離感がぐんと縮まるのだ。

■新入社員や転職した人は、適度な自己開示を

新入社員や転職した社員の場合、社内の人ともその都度、挨拶するシーンがあるだろう。

「その際、大事なのは適度な自己開示の挨拶です。ポイントは長々とした自己紹介をしないこと。空気の読めない人間というレッテルを貼られてしまいます。簡潔に、出身地や趣味・特技に加えて、ほどよい失敗談や自虐ネタなどを交えたものであれば円滑なコミュニケーションになり、相手の警戒心を解くことにもつながります」(菊原氏)

菊原氏によれば、手短な自己開示は急にやろうとしてもできない。よって、前もって開示する内容を決め、挨拶する準備・練習をするといいと話す。

■挨拶ベタなら黙って書面を渡し「紙に挨拶」させる

口ベタで挨拶が苦手という人はどうしたらいいだろうか。そういう場合は「とってつけたような挨拶ではなく、黙って書面を手渡す方法もある」とコミュニケーション術の書籍を多く著している弁護士の谷原誠氏は言う。

「伝えるべきことをあらかじめ書面にまとめておき、『本日話し合いたい内容をこの書面に記載いたしましたので、ご確認ください。よろしくお願いします』と言うのです。何かの交渉であれば箇条書きで、『1、納期について。2、保証について……』と順番に書いていけば、話し合いは自然とその流れですることになり、主導権を握ることができます」

つまり面会の冒頭で、口で挨拶するのではなく、紙に挨拶させるというわけだ。口頭で伝えただけだと話し合いの内容にしばしば誤解が生じることもあるが、書面ならそれも軽減できる。さらに、あとで「言った、言わない」の議論を防ぐこともできる。これも理論武装した挨拶の効果である。

管理職▼話の間に「沈黙」をはさむ勇気

■挨拶の内容の全体像を伝えて詳細を語る流れ

一般的に管理職は、挨拶慣れしていると思われる。朝礼や懇親会などで部下を前に「ひと言」を求められるケースも多いはずだ。よって挨拶上手かといえば、案外そうではない。むしろ、下手な部類の人もいる。菊原氏は言う。

「挨拶するときの話の内容そのものがつまらないケースもありますが、話をする順番や構成があまり練られていないケースも多いです」

準備不足なのか思いつきの話をしたり、起承転結のない話を延々としたり。聞く側にとっては、何が目的で何がゴールかわかりにくい。したがって、途中で聞くのをやめてしまうこともある。

こうなると、話すほうも聞くほうもまったく不毛な時間になってしまう。

どのような対策が必要だろうか。

「挨拶やプレゼンテーションが上手な人が必ず守っているルールがあります。それは、まず話の内容の全体像を伝えてから詳細へ進むという流れ。『今日は〇〇についてお話しします。主に3つのポイントがあります』と全体像を伝え、『ひとつ目のポイントは……』といったように展開すれば、聞くほうも頭を整理しながら理解することができます。それだけで挨拶全体の好感度をぐんと高められるはずです」(菊原氏)

■重要な話の前に「……」と沈黙を置く

一方、谷原氏は管理職が挨拶やプレゼンなどスピーチをする際、話の前後に沈黙を置くといい、と語る。

元アップル社長 故スティーブ・ジョブズ氏(AFLO=写真)

「よどみなく話をしていたのに突然、シーンと静かになったら、部下は『何事か』と思い、それまで以上に注意を向け、より集中して話を聞くようになるでしょう。だから、ここだけはしっかり気持ちの中にとどめてほしいという内容の話があったら、一度、沈黙を置くと効果的です」(谷原氏)

実はこのテクニックは、多くの著名人が実践している。例えば、元アップル社長の故スティーブ・ジョブズは「iPhone」発表のプレゼンの場において、多くの関係者や内外のメディアの前で、冒頭に「2年半この日が来るのを待っていた」と切り出したあと、驚くべきことに7秒間も沈黙した。

これは頭が真っ白になって言葉がでてこなかったわけではない。戦略的な沈黙だ。7秒の空白の時間をつくったことで聴衆の中にいい意味での緊張感と期待感が一気に高まったこともあり、そのプレゼンは大成功となったのだ。

世界的なベストセラー『人を動かす』の著者であるデール・カーネギーも『話し方入門』という本の中で、「沈黙の効能」を語っている。アメリカ合衆国の大統領だったリンカーンは演説の中でしばしば重要な話をする前にしばらく沈黙を置いて、重要な話をして人々を引き付けたと説明しているのだ。

とはいえ、ジョブズでもリンカーンでもない一般人にとって、話の途中で沈黙するのは勇気がいる。しかし、挨拶やプレゼンの途中に「えーと」「えー」と無意味な言葉をつなぐのはかえって聞き苦しい、と谷原氏は語る。

菊原氏も話の中に「間」を入れることで挨拶やプレゼンに緩急やリズムが生まれ、同じ話が何倍も面白く感じられる効果があるという。

立て板に水の営業トークに顧客があまり耳を傾けないのと同じように、一本調子の挨拶というのはどこか退屈に感じられてしまうものなのだ。

「例えば、挨拶する中で、『(業績が)○○となったのは、ある理由がありました。その理由とは……』と少し間を置く。すると聞いている人は『なんだ?』という顔で前のめりになる。あるいは、大事な話をする直前に、『これから〇〇の話をしてもいいですか?』とひと言前置きして、聞き手に心の準備をしてもらうのも効果的な挨拶の方法ではないでしょうか」(菊原氏)

■謎かけをして聴衆の想像力や思考力を誘発

「謎かけ」も挨拶の中に入れ込むと聴衆を引き付けることができる。谷原氏も講演やセミナーで使っているという。

例えば、「今回は○○という結果になりましたが、実はある方法を使えばその結果を回避できるのです。なぜでしょうか。その方法をお話ししましょう」といった形で誘導するのだ。

「心理学にツァイガルニック効果という言葉があります。人は達成できなかった事柄や中断している事柄のほうを、達成できた事柄よりもよく覚えているという現象のことです。謎かけや問いかけをしたあとの『結果』を人々は知りたい。想像力や思考力を誘発することで、話をより充実したものとすることができるのです」(谷原氏)

挨拶にはこうした戦術も必要だ。

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菊原智明(きくはら・ともあき)
営業サポート・コンサルティング代表取締役
関東学園大学経済学部講師。豊富な営業経験をもとにした『営業1年目の教科書』(大和書房)など、著書多数。
 

谷原 誠(たにはら・まこと)
弁護士法人みらい総合法律事務所・代表者社員弁護士
税理士。企業法務、交通事故訴訟などを扱う。『「沈黙」の会話力』(フォレスト出版)など、著書多数。
 

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(フリーランス編集者/ライター 大塚 常好 撮影=原貴彦 写真=AFLO、PIXTA、iStock.com)

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