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"かわいい子には旅をさせよ"の本当の理由

プレジデントオンライン / 2019年6月7日 9時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/amriphoto)

これからの社会では問題定義と課題発見能力を高めていく必要がある。明治大学の小笠原泰教授は「そのためには子供のころから、海外旅行などいろいろな社会と触れる経験をさせて、常識を考え直させることが重要だ」と指摘する――。

※本稿は、小笠原泰『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ 時代に先駆け多様なキャリアから学んだ「体験的サバイバル戦略」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「点取りゲーム」に勝てば人生が確約された

昨今、予備校や塾には、「勉強の内容」ではなく、「勉強のやり方」を教えることが一層求められています。点取り競争という非常に単純な競争(ゲームというべきかもしれません)において、その最終目的は、東京大学を筆頭とする偏差値のより高い大学に合格することです。

これまでは有名大学に入学できさえすれば、その後の卒業と、一流大企業への終身雇用での就職(正確には、就社)が確約されていました。つまり、偏差値の高い大学に入学すれば、その時点で、人生一丁上がりの時代であったので、試験の点取り合戦で、いかに効率的に点数を上げるかのテクニックに、学生、親や受験産業の目が行ったのは道理でしょう。

しかし、「加速化する技術革新と融合したグローバル化」が進む中で、「こうしておけば安心」の前提である終身雇用と年功序列を維持することは難しくなり、社会における「正解」は何かが分からなくなりつつあるのです。グローバル化する今後の社会を生き抜いていく上で、学生や若い社会人は、社会に染みついたテクニック、ハウツー志向から決別をしなければなりません。理由は、大きく2つあります。

■考えずに答えを暗記してしまう日本の教育

1つ目は、「一つの正解がある」時代は終わったということです。仮に正解が存在し、それが1つであれば、それに行きつく解法のパターンを、より多く頭に入れた方が正解率を上げられます。しかし、それは考えた上で手に入れたものではなく、解法パターンの暗記です。

実社会には正解はないと言いましたが、もし正解があるとしても、重要なことは正解を「知る」ことではなく、正解の背後に何があるのかを「考える」ことにあります。しかし、日本の教育は正解を知るためのテクニックやハウツーに走り、そもそも何を問題として捉え、何に対する正解を探求すべきなのか、正解の背後に何があるのかをないがしろにします。ここに、日本の教育の大きな問題があるのです。

日本社会にとってもう1つ厄介なことは、日本社会のお家芸とも言えるプロセス遂行偏重の傾向です。この傾向は、モノづくりに始まり、日本社会の隅々で見受けられます。この観点で考えると、一つの正解に至る最も効率的な方法、ツボとコツであるテクニックも、自明な目標を達成する上での速くて容易と思われるやり方であるハウツーも、ともにプロセスであり、日本人は、このプロセスを粛々と磨いています。正解はさて置いて、テクニックやハウツーというプロセスを磨くこと自体に注力してしまうのです。

実社会のように、正解が一つではなく、目的が自明でない状況では、何のためのプロセス遂行かわからないという本末転倒な事態となります。そして、プロセス遂行が目的化しているので、環境の変化が激しくなると、現実からどんどん乖離していくことになります。

■日本人のTOEICスコアは当てにならない

2つ目の問題は、TOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)などに象徴されるのですが、点数と実力が一致しないという問題です。つまり、(TOEIC L&R)の点数が高くても、英語でのコミュニケーションは大してできないことです。

これは、今に始まったことではありません。筆者は、30年近く前のアメリカの大学院への留学中に、経営大学院の入学審査に係わっていましたが、当時すでに、日本人のTOEFL(当時は紙ベースのPBT)の点数は当てにならないというのが審査に加わるアメリカ人の間での共通認識でした。

勤務先の企業からTOEICの点数を取れと言われるため、規定の点数さえ取れれば良いということで、出題パターンを研究し、例えば選択肢の中から、初めから除外するべきものをすぐに見分けるテクニックなど、英語力を獲得するという本質とは異なる方向に意識が向いていきます。

そもそも、テクニックやハウツーを獲得することは受動的です。環境が絶えず変化し、常識が常に塗り替わっていくグローバル化する社会に求められるのは、能動的に動く姿勢なのです。能動的に動くとは、不確実な環境の中で工夫をし、試行錯誤を繰り返して、失敗を通して新たな発見をすることです。間違いを通して、自ら解答を発見することからしか、人間は本当の意味で成長することはできないと思います。

実際、失敗することは重要なのですが、テクニックやハウツーは、工夫、試行錯誤、失敗は回り道であり非効率的として排除します。自分の目で見て、自分の頭で考え、そして失敗し、間違いに気づいて再度試みる自由を確保する重要性を理解し、その自由を確保するために考え、行動する必要があるのです。

■詰め込み教育では「課題の発見」ができない

グローバル化する社会では、問題解決能力が求められますが、それ以上に課題を発見する力が求められるようになります。問題解決能力とは、問題の現象に着目して定義し、課題を発見(抽出して、定義)し、その課題を解決して、問題現象を解消する一連の流れのことですが、実際は課題の発見と定義が鍵で、実はこれが難しいのです。もちろん、問題の定義も重要です。

なぜなら、それ次第で、得られる解決策の境界も自動的に設定されるからです。境界の外の解決策を見いだすことはできませんから、問題の定義が間違っていれば、解決につながる課題も見当違いとなりますし、他人と同じような定義では、差別化にはなりません。

「今現在進行するデジタル・テクノロジー革新に主導されるグローバル化」という常に常識が塗り変わり変化し続ける現在進行形の環境の下では、これまでのように知識をいくら詰め込んでも、問題定義や課題発見の能力は上がりません。

これまでの日本の詰め込み教育における知識とは、そのほとんどが、現在の教育システムが正解として与える、常識となる固定的な物事の情報の編集された束や体系と整理された枠組みや理論体系であり、評価される学習能力とは、それを批判的かつ連関的に理解しようとすることなく、ただ点数を取るために、平板に個別的に暗記される静的で受動的なモノです。

■知り、学び、考えることの面白さを気づかせる

常識に染まり、批判的な視点からの知識の再構築の姿勢が身についていなければ、ユニークな問題定義や課題発見・定義はなかなかできません。これでは、これからの予見性の低い社会で、激しい環境変化に適応するのは、かなり難しくなるでしょう。

問題定義と課題発見能力を高めるために必要なのは、教養と言えるでしょう。教養とは、自ら獲得した知識の意味を考え、それらを次々に拡張し、つなげて、自分なりに再構築していく、身体に埋め込まれた「学ぶ」、「自分の頭で考える」姿勢、知的好奇心ともいえる動的で能動的なモノです。

「これが最良の方法なのだろうか」と問い続ける健全な懐疑を持つことが教養の基礎であると思いますし、これが、事実から意味を汲み取れることにつながるのです。

「知りたい」から「学びたい」、「学んだ」から「考えたい」という流れを面白いと思うことが重要です。これは、筆者が、ゼミで最も重視している点です。「もっと知りたい」ので、広く興味を持つことが第一歩であり、「考え続ける」という姿勢を身につけることが、課題発見の能力を高めることにつながるのです。

読者のお子さんが、問題定義と課題発見能力を高めるためには、以下のポイントに着目して、多くの経験をさせ、失敗を重ねさせてほしいと思います。筆者も、自分の子どもには、自分が常識と思っていることは、必ずしも常識ではないことを、身をもって感じさせるために、小さい時から、海外も含めていろいろな社会と触れる経験をさせてきました。このような経験を繰り返しさせることが重要です。

■わが子の発見能力が高まる8箇条

以下に課題発見の能力を高めるために必要な8つの力を挙げてみました。

1.批判的なゼロベース思考と常識からの離脱

常識に囚われないで考える癖をつける。常識を疑う際に重要なのは、必ずしも大勢の意見に反対することではなく、自分の頭を使ってゼロベースで考えることである。

2.ファクトベースの思考

数字等のデータをまず確認する癖をつける。その際に、そのデータの出所や切り取り方は適正なものか、より有益な現象や関係性を浮かび上がらせる別のデータの切り取り方はないかなどを常に考える癖をつける。

3.「思い込み」を捨てて「思いつき」を拾う

自分の成功体験や他人の助言を最善として鵜呑みにするのではなく、より良い方法はないか、代替案はないかと、柔軟に思考をめぐらす。

4.ピラミッド型の分析的論理構築力

階層的に論理を組み立てる力をつける。そのためには、物事を論理的に分析し、優先順位をしっかりとつけて物事の再構築を行える必要がある。

5.理解して覚えて終わりではなく行動につなげる

企てではなく試みが重要である。ぐるぐる考え続ける行為(プロセス)だけで満足していては意味がないので、必ず実践という課題解決行為を試みる。

6.起承転結ではなく、論理的に書き表す文章力

文章を書き、意見を構造化して相手に伝える文章力をつける。

■読解力の低さの背景には「現代国語」がある

小笠原泰『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ 時代に先駆け多様なキャリアから学んだ「体験的サバイバル戦略」』(プレジデント社)

試験の点数を取るために、筆者は何を考えているのかを当てる「読解力」と称する国語教育では、それを知るためには、キーワードを追えば良く、文章の論理構造を読み取る必要はないので、日本人が論理的思考(階層的構造化)に弱いのはうなずけると思います。

ベストセラーとなった『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を著した国立情報学研究所教授・新井紀子氏が指摘する子どもたちの読解力の低さは、皮肉にも、「現代国語」でいう読解力の教育の結果であると言えます。

論理構造を読み取る力をつけたければ、小論文など文章を書くことを心掛ける必要があります。欧米に比べると、日本の教育では、文章力のトレーニングが著しく欠けています。筆者は、学生には、パワーポイントで資料を作る前に、必ずワードで論理構成を考えるように指導しています。これらに加えて、以下の能力をつけることにも注力してほしいと思います。

■文系であっても、数学の基礎は不可欠

7.数理的な推論とモデリングが理解できること

今後の社会のリテラシーとして、コンピュータ・プログラミング、アルゴリズム、コンピュータ・サイエンス、統計学、微分積分の基礎は必須である。これは、文系でも必要。遅まきながら、経団連が、文系の大学生にも数学の基礎は必須と言い出している。

8.共有語としての英語の能力を上げること

日本語とは異なる思考を獲得し、その結果、日本的な思考を相対化する。

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小笠原泰(おがさわら・やすし)
明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授
1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、同イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年4月より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『日本型イノベーションのすすめ』『なんとなく日本人』『2050 老人大国の現実』など。

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(明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授 小笠原 泰 写真=iStock.com)

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