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ニュースと一緒にウソ広告が出てくる理由

プレジデントオンライン / 2019年6月24日 9時15分

一般社団法人・日本新聞協会の公式ホームページ

有名人の画像を勝手に使用して、あたかもその有名人が商品を薦めているかのように見せる広告がある。そうした「フェイク広告」は、怪しげなサイトだけでなく、新聞社のサイトにも掲載されていた。なぜそんなことが起きるのか――。

※本稿は、NHK取材班『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

■地方新聞の記事に紛れ込んでいたフェイク広告

取材を進めると、フェイク広告がインスタグラムなどのSNSだけではなく、信頼できる情報を配信しているはずのウェブサイトにまで広がっていたことがわかった。日本新聞協会の会員となっている新聞社、通信社、それにテレビ局のニュースサイトを調べたところ、フェイク広告が複数の地方新聞のニュースサイトに掲載されていたのだ。

掲載されていたのは、合わせて12の地方新聞のニュースサイト。少なくとも、2018年12月から2019年1月上旬の間に表示されていることを確認した。

新聞社のニュースサイトには、個別の記事ページの下あたりに、「あわせて読みたい」とか「あなたにオススメ」といった関連記事の紹介欄がある。たとえば、「猛暑で県内の最高気温が記録更新」というニュース記事なら、「あわせて読みたい」の欄には「特産のコメの生育に影響」「熱中症で高齢者の救急搬送が相次ぐ」といった、関連する記事の見出しが並ぶ。それらの見出しと同じフォーマットで広告が配信されているが、そこにフェイク広告が紛れていた。

■ダイエットサプリの広告で女優の写真が無断使用

フェイク広告は2種類見つかった。一つは、ダイエットサプリの広告。ある有名な女優がダイエット商品を手に持っているかのような写真と「あの有名な○○(女優の名前)ちゃんもやっていることで有名になりましたよね」といった表現で、その女優がこの商品を使ってダイエットに成功したという説明が書かれていた。

新聞社のサイトには、「アメリカの肥満女子が次々と激痩せに成功!? その方法はなんと……」といった宣伝文句とともに水着姿の女性のバナー写真が掲載されていた。このバナー写真をクリックするとダイエットサプリの広告サイトに飛び、そこに、先の女優の写真が使われていた。目のあたりには、申し訳程度に薄くモザイクがかけられていた。

この写真はもちろんフェイクで、元の写真はこの女優が投稿したインスタグラムの中に見つかった。2年ほど前のもので、その元の写真では手に持っていたのはただのコップ。もちろん、何かの商品を宣伝するような文脈でもなく、日常の一コマを投稿しただけのものだった。念のため、この女優の所属する芸能事務所に連絡すると、画像が無断で使われていたことが確認できた。

■アイドルが宣伝しているかのように見える広告

もう一つのフェイク広告は、有名アイドルグループのメンバーが雑誌のインタビューで、とある加圧レギンス(ストッキングに似た肌着)を薦めている、という内容だった。こちらも、地方新聞のニュースサイトの「あなたにオススメの記事」欄に、「2週間で脚痩せが実感できる!」という宣伝文句と、すらりとした脚の女性のバナー写真が掲載されており、クリックするとフェイク広告のサイトが開くようになっていた。

雑誌で薦めていたというのはまったくの虚偽で、元ネタとなった雑誌は3年前に発売された有名女性ファッション誌だった。元の記事では、アイドルグループのメンバーの自己紹介が書かれていた部分が、フェイク広告では商品に差し替えられていた。雑誌の担当者に確認したところ、記事の内容を改変することも、広告宣伝に使うことも、許可していなかった。

■続くいたちごっこと見逃す広告主

なぜ、ルールを逸脱してまでフェイク広告を作るのか。

「芸能人や有名人、テレビ番組などを使って権威付ければ確実に売れる」

ネット広告にくわしい業界関係者はみな、同じように説明する。複数の証言を総合すると、次のような事情が見えてきた。

「痩せる」「肌がきれいになる」「薄毛が改善する」などとうたった商品は「コンプレックス系」と呼ばれている。このコンプレックス系の商品は、「店頭やレジなど、人に見られる状況で買うのは恥ずかしい」という心理が働き、誰にも会わずに買えるネット販売が強い。そして、広告の表現一つで売れ行きは大きく変わる。こうした商品は、実際に芸能人とタイアップ契約し、広告に芸能人の名前や写真を使うケースも存在する。そうした商品は実際に売れるという。

しかし、タイアップにはコストがかかる。そこで「どうせバレないだろう」と考える一部の心ないアフィリエイターが、フェイク広告に手を染めている。フェイクであることが発覚して広告の契約が解除されても、会社名などを変更してフェイク広告を作り続けており、いたちごっこが続いている。一部の広告主や広告仲介業者はこうした状況をわかっていながら見逃している。

アフィリエイターに支払われる報酬は、コンプレックス系商品の新規購入1件当たり数千円。SNSにフェイク広告を流す費用は安く、商品や広告が“当たる”まで試行錯誤する。当たれば、儲けは大きいという。この作業を、フェイク広告に関わっていたある業者は、こう表現した。

「当たる広告と当たる商品を、宝探しのように探し回っていく」

■「レコメンド」のシステムに紛れ込んでいる

地方新聞のニュースサイトにフェイク広告が配信された原因は、そこで使われていた「レコメンド・ウィジェット」と呼ばれるシステムにあった。

これは、いま読んでいる記事に関連する内容の記事を選ぶとともに、その記事を読んでいる人の性別や年代層をターゲットにして自動的に広告を選び、配信するサービスである。新聞社は、別の会社が作ったそのシステムを、自社のサイトのオススメ欄の作成に導入していた。地方の新聞社が採用しているレコメンド・ウィジェットは複数あるが、フェイク広告が紛れ込んでいたのは、都内に本社がある「S(仮名)」という会社が開発したサービスだった。

私たちの取材に、S社は「一部の代理店・広告主から不適切な広告が出ている可能性があり、弊社としても提供サービスの改善に努めるため、今後の対応を検討中」と回答したが、「一部の代理店」とはどこなのか、どの広告主と契約してこういう事態を招いたのかなどのくわしい説明はなかった。

■すべての広告をチェックするのは「正直無理」

このサービスを導入している新聞社は地方紙を中心に約20社あった。フェイク広告の掲載が確認できたのは、このうちの12社だ。12社すべてに取材を申し入れたが、回答があった中で「フェイク広告が自社のニュースサイトに掲載されている」ことを明確に認識できている社は一つもなかった。

ある新聞社の幹部は、「広告の内容は広告配信事業者に任せており、私たちの責任ではない」と主張し、くわしい説明やコメントを避けた。またある新聞社の担当者は、「すべての広告をチェックしようにも配信される数が膨大で、正直無理です。問題のある広告は見つけ次第配信されないように広告の管理画面でブロックしているが、100パーセントは防げない」と回答した。

フェイク広告を掲載していた複数の地方新聞のニュースサイトの部署、広告部門、そして技術部門の担当者や幹部から話を聞くと、共通して見えてくる事情があった。ある地方新聞のニュースサイト責任者は、匿名を条件に次のように明かした。

■レコメンドサービスの広告に頼らないとサイトを運営できない

「私たちのニュースサイトは、県内で起きた出来事を全国のより多くの人に発信するため、無料で公開しています。しかし、そのためには収益性を考えないといけないので、サイト内での広告配信が求められます。関連記事を自動的に選ぶレコメンド・ウィジェットは同時に広告まで配信してくれる。こうしたシステムを自社で開発するにはお金も時間も人員も必要ですが、一地方新聞社にはそんなことは到底不可能です。外部の会社が提供してくれるこのサービスはとてもありがたいし、事実上、これに頼らないとやっていけません」

――こうしたレコメンド・ウィジェットを提供する会社は複数ありますが、なぜこの会社のサービスを採用したのでしょうか。

「このサービスはほかの新聞社も使っているので安心できると思い込んでいました。指摘を受けるまでは問題が起きるとは思っていませんでした。広告の内容についても信頼して任せていたのに、このようなことになったのは本当に残念です。こうしたことが起きないよう、先方と協議します」

■どの広告の掲載を認めるかは各新聞社に委ねられている

NHK取材班『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)

一般社団法人・日本新聞協会は、「新聞広告倫理綱領」の中で「新聞広告は、真実を伝えるものでなければならない」と掲げている。そしてこの趣旨に基づいた「新聞広告掲載基準」では、「虚偽または誤認されるおそれがあるもの」や「氏名、写真、談話および商標、著作物などを無断で使用したもの」を挙げ、これに該当する広告を掲載しない、としている。一方で、どの広告の掲載を認め、どの広告を「アウト」とするのか、個別の判断は各新聞社に委ねられているという。

私たちが新聞社に連絡してから数日後、ニュースサイトに掲載されていた当該のフェイク広告は消えたことが確認できた。取材に応じた地方新聞社の多くは、今回の事態を受けて審査基準をより厳格にするよう広告配信システム会社に申し入れるとともに、ユーザーに安心して利用してもらえるニュースサイト作りに取り組む姿勢を明らかにしている。

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NHK取材班
ネット広告市場の急成長の陰で行われる、広告不正の実態を取材するため、プロジェクトチームを結成。クローズアップ現代+「追跡! 脅威の“海賊版”漫画サイト」「追跡! ネット広告の“闇”」「追跡! “フェイク”ネット広告の闇」を放送し、大きな反響を集めた。

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(NHK取材班)

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