目の手術は"大学病院なら安心"は大間違い

プレジデントオンライン / 2019年8月5日 6時15分

深作眼科院長 眼科外科医 深作秀春氏

「日本の眼科医療は欧米など世界から20年、遅れている」。こう語るのは、欧米などで研鑽を積み、数多くの治療法を開発、2017年には世界最高の眼科外科医に贈られるクリチンガー・アワードを受賞した深作秀春氏。日本の眼科医療の問題点を語ってもらった。

■欧米など世界の認識では「眼科は外科医」

アメリカの眼科には、2種類の眼科専門家がいます。まずは医学部出身で眼科の治療と手術を行う「オフサルモロジスト(眼科外科医、M.D.)」が1万7000人ほどです。他方は専門大学やカレッジに通い資格を取った「オプトメトリスト(検眼医、O.D.)」が5万人ほどいて、通常の眼科診療や点眼やオルソ治療など、手術はできませんが、かなり日本の一般眼科医に近いレベルの治療を行っています。しかし、元来はメガネやコンタクトレンズの作成が主な仕事でした。

一方で日本は眼科医という一種類しかなく、この中に眼科外科医と検眼医のような診療医がいます。みなさんが“目医者さん”と呼んでいる医師がオプトメトリストのような診療医です。現実には、日本では眼科外科医はごくわずかしか存在しないのです。もしあなたが「日本の眼科医は世界的に優れている」と思い込んでいるとしたら、間違っています。本来の眼科外科医が極端に少ない国だからです。

アメリカをはじめとする多くの先進国では、「眼科医は外科医である」という認識が定着しています。だって、ほとんどの目の疾患は手術で治すのだから、外科に決まっているではありませんか。ところが、日本で緑内障(注1)の患者に「手術で治しましょう」と言うと、「え!? 緑内障って手術ができるんですか?」と驚かれるほどです。日本では多くの診療眼科医から「いい点眼剤があり、これで眼圧を下げれば心配いりません」などと言われます。適切な手術時期を逃し失明寸前になって当院に来る患者が後を絶ちません。

注1●緑内障:目から入ってきた情報を脳へ伝達する視神経が障害され、見える範囲が狭くなり徐々に失明する疾患。緑内障は、日本人の失明原因の第1位であり、早期発見・早期治療が望まれる。初期は点眼剤で眼圧を下げるが、中期では手遅れにならないうちに緑内障手術を適切な時期に施行することが大切。

緑内障の場合、点眼剤だけで進行が止まることは、ごく少数。多くは進行が緩やかになるだけで止まりません。ですから手遅れになる前に、経験の多い上級の眼科外科医から緑内障の手術を受けることが大切です。しかし、日本では緑内障の手術をいつまでも薬に頼っていることが多い。日本には緑内障の手術を完璧にできる眼科外科医が少ないからです。日本の失明原因の第1位は緑内障です。先進国では失明の原因の上位に緑内障は挙がりません。それは緑内障をきちんと手術できる優秀な眼科外科医が数多くいるからです。

■適切な手術施行をすれば視力回復も多い

いかに日本の眼科治療が遅れているか。眼科の教科書を見てもわかります。日本の失明原因の3位に入っている病気に「網膜色素変性症」(注2)があります。日本の薄い眼科の教科書を見たところ、網膜色素変性症は「治療法はない」としか書いておらず、眼科医が患者を絶望させています。しかし英語の教科書には、細かい字で40ページにわたって、最新の人工網膜や遺伝子治療などについて書かれています。この病気は白内障(注3)、緑内障、網膜炎なども引き起こしますが、そうなった場合の特殊な手術についても丁寧に記載されています。私の病院には網膜色素変性症の患者が5000人ほどいます。私は患者さんには「治療の決定打はなくとも、進行を遅らせることはできる」と言っています。適切なメガネで予防し、漢方治療で治った人もいます。手遅れにならないうちに、適切な手術施行をすれば視力回復も多いのです。

注2●網膜色素変性症:網膜という部分に異常をきたす遺伝性、進行性の疾患。日本では難病指定されている。初期症状は夜盲など。病気の進行とともに視力が低下していく。治療法があり、早期発見・早期治療開始が最も重要。

注3●白内障:目の中のレンズに相当する水晶体の老化現象で、水晶体が白濁する疾患。効果的な薬はないため、手術を行い、水晶体の代わりに眼内レンズを入れる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/licsiren)

患者の希望を打ち砕くようなものは医療ではありません。今は不可能に見えても、将来は可能になるという希望を医師は患者とともに語るべきです。現に、網膜色素変性症や加齢黄斑変性(注4)で失明した患者の視力を取り戻す人工網膜移植術の方法として、2016年にFDA(アメリカ食品医薬品局)で臨床応用が認可されました。もちろんまだ不完全ですが、古い情報が載った教科書のまま「治りません」と伝えるのではなく、「網膜色素変性症には、治療法があります」ということを、その希望を、患者に伝えることこそが医師の使命です。

注4●加齢黄斑変性:網膜の中心部の黄斑に出血や水が溜まることが原因で、視力が低下したり物が歪んで見える。欧米先進国では成人(特に50歳以上)の失明原因の第1位になっている。日本でも、高齢者人口の増加や生活習慣の欧米化などに伴い患者数が増加、失明原因の第4位になっている。

ではなぜ、これほどまで日本の眼科は遅れているのでしょう。日本には「目医者・歯医者も医者のうち」という酷い言葉があるように、眼科は他の科より低く見られているのが現状です。アメリカではそんなことはありません。医師の中でも眼科外科医は外科のクイーンと言われ、医学部トップでないとなれないほどに高い技術と知識が求められ、なるのが最も難しい繊細な手術専門家です。心臓外科医や脳外科医よりもステータスや収入も高いのです。眼科の手術代に関しても、アメリカなら1000万円ほどする複雑な手術が、日本は安くて50万円ほどです。日本の眼科手術代金はとても安く、これでは最新の機械を入れられないし、優秀な人材が眼科を志望しないのも当たり前です。また、眼科医の中には、「血を見たくないから」「定時に帰れそう」といった理由から眼科を選んだという見当はずれな人も少なくありません。

■アメリカやドイツで研鑽を積みました

私は日本の医大出身ですが、日本にいては患者のためになる技術は学べないと感じ、アメリカやドイツで研鑽を積みました。最近ではオランダで、世界で最先端の角膜内皮の移植手術を学び、執刀もしました。

「レーシック手術」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。これはレーザー波で角膜を削り、近視、遠視、乱視などを矯正するものです。

1994年の日本で初めてのレーシック手術は、私が横浜で行いました。患者への説明の際にはいいことばかりではなく、可能性のある合併症の話など、悪いこともたくさん話しましたので、患者さんからすれば驚いたことでしょう。しかし、すべてを隠さず正直に説明したためか、とても信頼してくださいました。その結果、私の患者のレーシック手術は全部成功しました。

最初の手術から25年経過した今、これらの方々は白内障手術を受ける世代となり、再来院しています。その方たちに今度は「多焦点眼内レンズ」(注5)を移植し、白内障を治すだけでなく老眼も治して、裸眼でほとんどすべてのものが見える目を取り戻しています。

注5●多焦点眼内レンズ:白内障の手術に使用する眼内レンズには、保険適用できる単焦点レンズと保険適用外の多焦点レンズがある。単焦点レンズは、ピントが1点しか合わないため、メガネを併用する。多焦点レンズは遠くと近くで焦点が合う遠近両用の眼内レンズ。最新の多焦点眼内レンズには、連続的によく見える「拡張型焦点レンズ」や「乱視矯正拡張型焦点レンズ」もある。

レーシックは今でも、軽い近視には効果的です。レーシックは角膜を削るので、強い近視では角膜の歪みによる高次収差などが多く、向いていないんです。ただし、レーシックをする際は、白内障や網膜剥離の手術などを完璧に行える、きちんとした眼科外科医に依頼しなくてはいけません。眼科ではない美容外科系の施設でレーシック手術を受け、網膜剥離など合併症を起こし、私の病院に助けを求めてくる患者さんがいます。安いからなどという理由で安易に施術先を決めてはいけません。

視力屈折矯正手術には、ICL(注6)という目の中に小さなレンズを入れるものもあります。角膜を削るレーシックと違い、角膜を3ミリ切開するだけですむ角膜障害が少ない手術法です。

注6●ICL:ICL(後房型有水晶体眼内レンズ)手術は、虹彩と水晶体の間にレンズを移植して近視・遠視・乱視を治す方法。移植したICLは必要に応じて取り出せるため、視力が変わったらレンズの交換もできる。また、白内障手術時に取り出すことも可能。

最近ではICL自体の改良も進み、合併症もほぼ起きなくなりました。このため近視や乱視矯正としてICLを入れた術後に、私の病院では、ほとんどの症例でよい裸眼視力を得ています。

また、ICLは取り出すのが簡単なため、将来に白内障が起きた場合でも、ICLを取り出した同じ切開場所から白内障手術をし、そのあとに多焦点眼内レンズを移植することもできます。この、多焦点眼内レンズは近年発達が目覚ましく、最新型の「乱視矯正拡張型焦点眼内レンズ」を移植すれば、メガネもコンタクトレンズも使わず裸眼で、ほとんどすべての距離でよく見えるようになります。

先ほど、強度の近視にレーシックは向いていないと言いましたが、50歳以上の老眼患者や白内障がある患者にもレーシックは向いていません。50歳以上の方は老眼が強くなるので、白内障手術時に「乱視矯正拡張型焦点眼内レンズ」を移植することで、近視も乱視も老眼も治すことができ、満足度も高いのです。いい手術でいいレンズを移植すれば、100歳まで持ちます。裸眼で遠くも近くもよく見える目が得られるのです。

また、これとは別に、単焦点レンズ移植による「モノビジョン法」という方法もあります。一方の目を「遠くが見える」ように合わせて手術をし、他方の目は近くに焦点を合わせるのです。両目がバラバラの視力であっても、脳は両方の目からの画像のうち、ピントの合っているほうを選ぶので、近くも遠くも見えるようになります。

今や多くの日本人が90歳近くまで長生きする時代になりました。ところが、目の寿命は65~70年とずっと短いのです。そのため、命がつきるより先に、白内障、緑内障、網膜剥離、加齢黄斑変性など失明につながる病に必ずかかってしまいます。目が見えないとどうなるか。情報が入らないので脳を使わなくなり、脳の機能が落ちていく。認知症になる可能性も上がるのです。

■眼科外科医には手術数と成功率を尋ねよ

眼科医になるためには研修中に一定数以上の白内障手術や網膜手術の経験が求められます。では、その経験をどこでしているのでしょう? 答えは、大学病院や大学関連の総合病院です。大学病院や大学関連の総合病院では、患者は手術経験が乏しく知識も浅い研修医の練習台になることが多いのです。

もちろん手術研修は必要です。しかし手術の練習はできる限り人間の目ですべきではない。私が研修医のときは、解体施設からもらってきた豚の目約600個を使い、手術の練習をしました。豚の目はヒトの目とよく似ているのです。この練習のおかげで、私は白内障手術では、最初から裸眼で1.0といういい視力を出す結果を残しました。

もっとも、眼科先進国のアメリカでも大学病院は研修病院となっています。しかしアメリカの研修医には「必ずや外科医になる」という意気込みがありますから、優秀です。しかも、臨床経験豊富な指導医が教えますので失敗もまずは起こりません。また、研修医が執刀する手術においては患者と契約を交わします。つまり「手術を担当するのは研修医のA医師で、B医師が指導医としてつきます」と患者に明示するわけです。当然ながら指導医は、「指導者として失敗は絶対にしない」ことを心に誓って、後進の指導に臨みます。

ちなみにその際の手術代金は非常に安いものとなります。患者にすれば手術の研修材料になるけれども、費用がタダ同然になるので、医療費の高いアメリカでは、研修材料になることを納得して受けています。

■どのような指導者がつくかも知らないまま手術を受けます

対して日本の大学病院では、単に「専門医になる経験を記録するための、練習としての手術」になっている。何より、研修医の練習台になることを患者に納得してもらい、契約したうえで手術を行っていません。患者は練習材料になることも、どのような指導者がつくかも知らないまま手術を受けます。これは患者に内緒で練習台として手術を行っておりフェアではありません。

皆さんは「大学病院なら安心」と思い込んでいるかもしれません。たしかに外科や内科であれば、大学病院にも優秀な医師が多いので、悪くないかもしれません。でも眼科外科に関していえば、大学病院での手術は、未熟な医師による練習台になる可能性が高い、と覚悟したほうがいいでしょう。

それでは、どのように優秀な手術医師を見つければいいのでしょうか。これは正面からぶつかるしかありません。その眼科外科医が何千例、何万例の手術件数があるのか、そして手術後の視力はどの程度出せているのかを尋ねるのです。「先生は、この手術のご経験は何件くらいありますか」「手術成功率はどのくらいですか」と診察時に、医師に礼儀正しくかつ丁寧に質問をします。もしも、きちんと答えてくれないなら施設を変えたほうがいいですね。でも医師も人間ですので、質問時の礼節は忘れないでくださいね。

メディアに流れる情報は玉石混交なので、患者も勉強する努力が必要です。しかし、腕のいい眼科外科医にかかれば、ほとんどの人は手術後にほぼ一生「裸眼」で過ごせ、よく見えます。ぜひ、腕のいい眼科外科医を見つけて、死ぬまで「裸眼」で、遠くも近くも見える目を手に入れてください。

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深作秀春
深作眼科院長 眼科外科医
航空大学校を経て、滋賀医科大学卒業。米国海軍病院、横浜市立大学附属病院などで研鑽。1988年、深作眼科を開院。これまでに15万件以上の手術を経験。アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)にて常任理事、ASCRS最高賞を20回受賞。『視力を失わない生き方 日本の眼科医療は間違いだらけ』(光文社新書)、『世界最高医が教える 目がよくなる32の方法』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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深作 秀春(ふかさく・ひではる)
深作眼科院長 眼科外科医
航空大学校を経て、滋賀医科大学卒業。米国海軍病院、横浜市立大学附属病院などで研鑽。1988年、深作眼科を開院。これまでに15万件以上の手術を経験。アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)にて常任理事、ASCRS最高賞を20回受賞。『視力を失わない生き方 日本の眼科医療は間違いだらけ』(光文社新書)、『世界最高医が教える 目がよくなる32の方法』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(深作眼科院長 眼科外科医 深作 秀春 構成=小澤啓司 撮影=澁谷高晴 写真=iStock.com)

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