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92歳現役保育士「5歳に2歳向け絵本を読むワケ」

プレジデントオンライン / 2019年10月8日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

子どもの絵本はどう選べばいいのか。92歳で現役保育士の大川繁子さんは「むずかしすぎる絵本はあるけれど、やさしすぎる絵本はない。2歳児に5歳向けの絵本を読んだら退屈するが、5歳児に2歳向けの絵本を読んでもみんな夢中になる。子どもが絵本に興味がないのは、少し背伸びした絵本を選んでいるからかもしれない」という――。

※本稿は、大川繁子『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。

■「教育にいい絵本」なんて存在しない

【相談】絵本の選び方を教えてください①
【回答】正解はありません。ただし、絵本にしつけをさせないでね

「栃木県の保育士で絵本と言えば、小俣幼児生活団の大川繁子先生」

そう言われるようになろうと、これまで一生懸命取り組んできました。

講習会や研修にもうんと通って勉強しましたし、たくさん練習もしました。

そのおかげ……というわけではなく、子どもはもともと絵本が好きなものですが、ともかくうちの子どもたちは1日に何度も、ときには四六時中「大川先生、えほんよんで!」とせがんできます。

そんな「絵本大好き!」な子たちを見ているからか、親御さんからも絵本に関してはことさらたくさん相談をいただいてきました。私も、お話ししたいことがたくさんあるテーマです。

ということで、ここからは絵本に関する相談や質問をまとめていきましょう。

まず、いちばん多いのは「絵本の選び方を教えてください」。

先にハッキリ言ってしまうと、「教育にいい絵本」なんて都合のいいものはありません。いつも言っているのが、「絵本にしつけをさせよう、あわよくば勉強の足しにしよう、なんて思わないでね」。

……ちょっとギクリとしませんか?

絵本とはあくまで、親子で「楽しむもの」です。

「教育にいいかしら」「読書家に育てたい」と下心を持って読むと、子どもにバレてしまいます。

教育熱心でまじめなお母さんほど、絵本を読みながら

「ほら、お花がいっぱい咲いてるわね。赤いお花がいくつ?」

と「テスト」をしたり、読み終わった後に、

「やっぱり兄弟は仲良くしないといけないってことだね。わかった?」

と「道徳の時間」をやりがちです。

■ストーリーのない絵本はリズムをつけて読む

でも、自分がそんなことをされたらと思うと……なんだかおもしろくないでしょう。

だから絵本を閉じたら、「おしまい。ああー、おもしろかった」。読みっぱなしでいいのです。

読み方だってそう。正解はありません。

お母さんが楽しんで、好きなように読んでください。

ただ、なかなかむずかしいのが、0~1歳児向けのストーリーのない絵本(『ころころころ』元永定正/福音館書店、など)かもしれません。どう読めばいいのかわからなくて苦手、というお母さんがときどきいらっしゃいます。

でも、こうした絵本、大人はサッパリ意味がわからないけれど、子どもは「そんなに!?」とおどろくくらいキャッキャとおもしろがるんです。子どもの反応を見ながら緩急つけて、高低つけて、リズムをつけて。試行錯誤するのが私は大好きです。

「えーッ、先生、それが苦手なんです」って方もいらっしゃいますが……そういう方は、上手に読もうと気張らなくていいの。

子どもにリクエストされたら、それに応えてあげるだけでいい。

「ママの声を聞かせるだけで意味があるわ」って開き直ればいいと思いますよ。

■『しろくまちゃんのほっとけーき』の思い出

【相談】絵本の選び方を教えてください②
【回答】10年以上読み継がれていて、お母さんが好きなものを

絵本に関しては、心に残っているエピソードがたくさんあります。

たとえば、『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん/こぐま社)には二つの思い出があります(1歳児が大好きなこの絵本、1972年発売でおよそ300万部のベストセラーですから、みなさんも読んだことがあるのではないでしょうか)。

一つめが、読み終わった後に子どもに言われた次のひと言。

「大川先生、しろくまちゃんはエプロンを3枚持っているね」

「えっ、ほんとう?」と思って読み返してみると、たしかにそうなのです。

ホットケーキをつくっているときは、オレンジのエプロン。ホットケーキを食べているときは、緑のエプロン。食べ終わって洗い物をしているときは、青いエプロンをしているの。私、20年くらい読みつづけていたのに、まったく気づきませんでした。大人はつい字に目がいってしまうけれど、子どもはやっぱり絵をよく見ているのね、とあらためて感心したエピソードです。

■「今日のほっとけーき、まずいから、いらない」

もう一つは、ちょっと反省したできごと。完成したホットケーキは全部で4枚あるので、いつもホットケーキを「ぽたあん」「ぷつぷつ」「ぺたん」「ふくふく」というふうに焼いていくページを4回繰り返し読みます。

あるとき、もうそろそろお昼ごはんの時間にシンちゃんが、「大川先生、これ読んで」と『しろくまちゃんのほっとけーき』を持ってきました。時計を気にしつつ、「ええい、待たせるのもかわいそうだし、急いで読んじゃおう」と絵本を開いたのですが……。

いつもは4回繰り返すホットケーキを焼くシーンで、2回目を読もうとすると「もういい」と言うのです。

「あら? いつもは4回読むじゃない、どうしたの?」

そう聞くと、シンちゃんはつまらなさそうに、

「今日のほっとけーき、まずいから、いらない」

ですって!

きっと、私の気持ちが絵本に向いていないことに途中で気づいたのね。この話をよそですると、ホットケーキが「まずい」なんて巧みな表現ですね、とおどろかれます。

■絵本は「自分の琴線に触れるもの」を選ぶのがいい

でもね、子どもってこれくらい敏感で、ものすごい感受性を持っているんですよ。

このエピソードを教訓にするとしたら……お子さんに絵本に興味を持ってほしければ、まずは読み手――お母さん自身が楽しみましょうってことね。

お母さんが「おもしろい」「かわいい」「いい話ね」とポジティブな気持ちで読んでいたら、子どもも目をキラキラさせ、身を乗り出して聞いてくれるはずです。

ということで私、どれだけすばらしいとされる絵本でも、気が進まないものや好きでないものは読みません。

『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダック/冨山房)のような世界的名作でも、なんとなく絵が好きではないという理由で手をつけないの。嫌々読んでも、それはきっと子どもたちに伝わってしまいますから。

絵本は、自分の琴線に触れるものを選ぶに限ります。

このことを大前提として、一つわかりやすい「本の選び方」アドバイスをするとしたら……。

保育士になって60年、たくさんの絵本を読んできましたが、やっぱり10年以上読み継がれている絵本は間違いなくおもしろいと思います(好みは抜きにしてね)。ロングセラーの絵本には、力がありますね。

■5歳に「2歳向け」の絵本を読んでも大丈夫

【相談】絵本の選び方を教えてください③
【回答】絵本は「むずかしすぎ」はあっても「やさしすぎ」はありません

よく絵本の裏表紙に書いてある対象年齢も、絵本選びの指針になります。どの年齢の子にどんな絵本を読めばちょうどいいか、みなさんも参考にしているのではないでしょうか。

私は「むずかしすぎる絵本はあるけれど、やさしすぎる絵本はない」と考えています。

たとえば、「5~6歳向け」と書かれた絵本を2歳児に読んだら、どうなると思いますか? そう、すぐに退屈してしまいます。プイッて顔をそむけて、どこかへいっちゃう。2歳向けと5歳向けでは、文字と絵のバランスやお話の複雑さが違います。2歳では、5歳用の絵本が持つおもしろさを理解できないことが多いのです。

でも、おもしろいことに、反対――つまり5歳に2歳向けの絵本を読んでも、大丈夫なんですね。『しろくまちゃんのほっとけーき』はもちろん、『いないいないばあ』(松谷みよ子/童心社)のようなページ数の少ないシンプルな絵本だって、5歳児に読んでも前のめり、おおよろこびですから。

「ウチの子は絵本に興味がなくて……」
「最近、絵本を読もうとしても、すぐにどっかいっちゃって」

そんなお母さんは、もしかしたら少し背伸びした絵本を選んでいるのかもしれません。

「いったん、もっと小さいころに読んでいた本を引っ張り出して読んでみたら」

そうアドバイスすると、次に会ったとき「大川先生、『ママ絵本読んで』と言われるようになりました」ってよろこばれました。

■「お気に入りの絵本」は相棒になる

絵本の相談と言えば、あるとき、サクちゃんのお母さんが心配そうな顔で来られました。

大川繁子『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)

「先生、うちの子、3ヶ月も『ぞうくんのさんぽ』(なかのひろたか/福音館書店)ばかり借りてくるんです。大丈夫でしょうか。ほかの絵本に興味を持たないので心配です」

たしかに親としては、いろいろな絵本を読んでほしいでしょう。たくさんの言葉に触れてほしい。世界を広げてほしい。日本の絵本から海外の絵本まで、さまざまな色彩に触れてほしい。そういう、ちょっとした「欲」が出てくるのはよくわかります。

でもね、お気に入りがあるって、心が育っているということで、とてもステキなことです。絵本に限った話ではありませんが、「これがいい」と意思を持って選択している証拠ですし、自分の「好き」がハッキリしているということですから。

私の知り合いは、嫁入り道具が『ぐりとぐら』(なかがわりえこ/福音館書店)の絵本だったそう。

子どものころのお気に入りって、相棒みたいな特別な存在になります。

子どものその気持ち、大切にしてあげてくださいね。

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大川 繁子(おおかわ・しげこ)
小俣幼児生活団 主任保育士
足利市小俣町にある私立保育園「小俣幼児生活団」の主任保育士。1927年生まれ。1945年、東京女子大学数学科入学。1946年、結婚のため中退。1962年小俣幼児生活団に就職し、1972年に主任保育士となり、現在に至る。足利市教育委員、宇都宮裁判所家事調停委員、足利市女性問題懇話会座長などを歴任。モンテッソーリ教育やアドラー心理学を取り入れた創立70年の同園で、およそ60年にわたり子どもの保育に携わっている。

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(小俣幼児生活団 主任保育士 大川 繁子)

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