実は「暴走老人による死亡事故」は激減していた

プレジデントオンライン / 2019年10月14日 6時15分

最近、高齢ドライバーの引き起こす交通事故がたびたび報じられた。高齢者からは免許を取り上げたほうがいいのだろうか。統計データ分析家の本川裕氏は「死亡交通事故率を調べると、75歳以上の減少幅はほかの世代よりも大きい、高齢ドライバーの事故はむしろ激減している」という——。

■高齢者の事故が増える以上に、高齢者が増えている

歩行者を巻き込んで高齢ドライバーが引き起こした痛ましい死亡事故が大きく報道され、運転能力の衰えた高齢者が引き起こす交通事故が増える一方であるという印象を国民は抱いていると思う。自らの運転能力を過信して免許を返上せず深刻な事故を引き起こす高齢者の身勝手さを非難する声も大きくなっている。

まず、この点に関して統計データは何を語っているかを見ていこう。本当に高齢者は身勝手なのであろうか。

警察庁はドライバーの年齢別の死亡交通事故の件数を公表している。この10年間の変化を図表1で追った。最初のグラフは死亡事故の件数の実数変化だ。65歳以上の高齢ドライバーの死亡交通事故の件数自体はあまり変わっていないが、それより若い非高齢者(65歳未満)の事故件数が急減していることが分かる。

このために、年齢別に事故件数のシェア割合の変化を示した下の図を見ると、65歳以上の高齢者の死亡交通事故の割合がいずれの5歳きざみにおいても上昇していることが分かる。これが高齢ドライバーの引き起こす交通事故が増えている印象をもたらす大きな理由であることは間違いなかろう。

■高齢ドライバーの割合は2000年37.0%→2018年56.6%

ただ、65歳以上の高齢者ドライバーによる死亡交通事故の割合の上昇は、そもそも高齢者の人数自体が日本では非常な勢いで増加しているためだと思われる。また、以前よりもクルマを運転する高齢者が増えているのがもう1つの大きな要因である。

高齢者の人数や比率の上昇、すなわち高齢化の進展については、語られ尽くしている感があるので、ここではあえてデータを掲げず、むしろ、あまりメディアで紹介されないクルマを運転する高齢者の増加についてのデータを以下に掲げた(図表2)。

高齢ドライバーの増加

データは、ふだんの外出の際に自分が運転する乗用車を利用する60歳以上の高齢者の割合の変化である。2000年に日本の高齢者の割合は37.0%であったが、2018年には56.6%に達している。たった20年弱で5割以上の増加である。

ここではグラフにしてはいないが、こうした傾向は60歳以上のどの5歳きざみにおいても同様である。最高齢区分の80歳以上でマイカー外出する割合は、2005年の12.4%から2018年の26.4%へと倍増している。

■米国では80歳以上の7割以上がクルマを運転している

これは、モータリゼーションの普及(特に地方圏での)によって、バスなどの公共交通機関が衰退し、マイカーを利用しないと買い物、通院などの日常生活を送りにくくなったためである。パワステなどでクルマの運転が容易になる一方で、高齢者の肉体年齢が若返っていて、かなり高齢になっても運転が可能となっているのも一因であろう(これが若返っていると過信して事故を引き起こす高齢者の身勝手さの印象を一方で生じさせているのであるが)。

こうした状況は、日本だけの現象ではないことが図表2を見れば明らかである。自動車大国米国の高齢者のマイカー外出比率は日本を大きく上回る81.5%に達している。ドイツでも日本よりも高い値となっている。米国においては、最高齢80歳以上のマイカー外出比率も、2005年から2015年にかけて49.0%から71.7%へと上昇している。米国では80歳以上でも7割以上が自分でクルマを運転して外出しているのであり、日本の26.4%などまだかわいいものだといえよう。

■実は大きく低下している高齢者の死亡事故率

ところで、高齢ドライバーの死亡事故が本当に上昇しているかどうかを統計データとして確かめるためには、年齢別に免許人口当たりの死亡事故率を計算してみなければならない。図表3に警察庁が公表しているこの計算の結果を示した。

高齢ドライバーの事故率は大きく低下している

そもそも死亡事故率が高いのは、むちゃをしがちな20代までの若い層と、心身が衰えてくる70歳代以上の高齢者層とであるが、すべての年齢層で死亡交通事故率が低下している中で、若い層と高齢者層のどちらも他の年齢層以上に事故率は大きく低下しているというのが実態である。

特に75歳以上の減少幅が大きい点が目立っている。つまり高齢ドライバーの事故の割合は確かに母数である高齢ドライバーの急増で増えているが、事故率はむしろ大きく低下しているのであり、高齢者の身勝手さを非難してしかるべき状況にはないことが分かるのである。

そうだとするとなぜ、われわれは高齢者が身勝手であると感じてしまうのであろうか。この点を次に見ていこう。

■「高齢者は人のために生きるべき」というロールモデルの崩壊

結論から言うと、高齢者が実態以上に身勝手だと見えてしまう背景には、知らず知らずに進んでいる「年齢別ロールモデルの崩壊」という現代社会の変化が影響しているというのが私の見方である。

若いうちは好きなことをやって、その後、結婚し家族ができ、社会的にも責任のある立場となると、自分のことというより、周りの人のことを考えて行動するようになる。というのが一般的な人の生涯経路(ライフコース)だと考えられてきた。

■高齢者の生き方・考え方が昔とは全然異なる

ところが、後述のように、遊び、勉学、仕事、家事、余暇(老後)という順番で年齢別にはっきり分かれていた生活パターンが、幼年から中高年にかけいずれの年齢でも濃淡はあるもののすべてを行う生涯モデルに変化しつつある中で、こうした年齢ごと、世代ごとのロールモデルは衰退してきている。

同一設問で長期的な意識調査を5年ごとに継続的に行っている統計数理研究所の日本人の国民性調査では、「自分の好きなことをしたい」か、それとも「人のためになることをしたい」かというシンプルな問いをもうけている。図表4では、この設問の年齢別結果の推移を追ったが、これを見るとその傾向がはっきり理解できる。

1978年には、若者は「自分の好きなこと」をし、中高年は「人のために生きる」という意識の違いがはっきりしていた。

ところが1993年にかけて、いずれの年齢でも注目すべき意識の変化が起こる。「自分の好きなことをしたい」という意識が強まるとともに、そう意識する率の年齢別の差が縮まったのだ。

一方、また、「人のために」という意識も全体的に弱まるとともに年齢差も小さくなった。1993年までは、なお、バブル時代の精神的影響が大きかった時期であるが、そのためでもあろう。ちなみに「おいしい生活」というキャッチコピーがコピーライターの糸井重里によって考案されたのは1982年である(翌年まで西武百貨店のコピーとして使用された)。

それ以降、2013年にかけて、さらに、この傾向、なかでも年齢差の縮小がさらに進んだ。30代までの若年層は「人のため」をより重視するようになり、40代以降の中高年はますます「わがままに生きよう」と考える者が増えている。そして、何と、20代の若者については、「好きなこと」より「人のため」を重視する者が多くなるという逆転現象まで生じている。

世の中、変われば変わるものだという印象がぬぐい得ない。

好きなくらし方か人のためか(年齢別ロールモデルの消滅)

なお、付け加えておくと、図表4の最新年次の2013年には、いわゆる団塊の世代がなお60歳代であった。70歳以上が、なお、他の世代と比べて、「自分のため」というより「人のため」の意識を保持しているのはそのためであろう。その後、6年が経過して昨年行われたであろう2018年の70歳以上の結果は、より「人のため」が減り、「自分のため」が増え、もっと他の世代の意識に近づいていると思われる。

■なぜ現代の高齢者は「身勝手」に見えるのか

従来型の人生行路は、子ども期に遊び、学童期に勉強し、青年期に仕事も習うとともに恋愛して家庭をもち、その後、定年まで仕事に邁進し、定年後は、余暇を楽しみながら、後進を指導するなど社会に貢献するというパターンが一般的であった。

現代では、図表5に見られるように技術や社会環境の変化スピードが著しく速くなったことが、このようなかたちで、段階を踏んで人間が成長していくというモデルが時代遅れとなっているのではないかと考える。

米国における新技術の普及スピード

まず、何よりも学童期から青年期に学んだ知識や技術がすぐ陳腐化してしまうので、若いころ勉強して、大人になってそれを生かして仕事するというモデルはまったく有効でなくなった。

いい例が情報機器である。

タイプライターを習得してもパソコンに代替されてその技術は役に立たなくなる。まだパソコンのキーボードが重要であるうちはまだよいが、主たる入力がマウス、タッチパネルへと変遷し、今や、音声入力や考えただけで入力されるというような時代になってきている。

若いうちにはどんな事でも習得するという習慣さえ養えばよいのであって、実際に使いこなさなければならない技術は何歳になっても覚えなければならないのである。

10月1日から消費税が8%から10%に引き上げられたが、スマホを使えないと消費低迷を防ぐため政府によって用意されたポイント還元制度を十分に利用できないというのだからひどいものだ。かつて未熟な若者に能書きを垂れていた高齢者は、新技術をいち早く習得した若者から使い方を教わらなくてはならない時代になったのだ。図表5に見られるように、現代の新技術の普及速度は1世代より確実に短くなっているのである。米国で発明された新技術を遅れて取り入れる日本のような国では特にそうである。

■人生の節目に関して「適齢期」がなくなりつつある

「生涯学習」「リカレント教育」が時代の潮流になっているのはそのためである。こうした教育の新潮流は、生活に余裕ができたので、定年後になって大学に入りなおして勉強するといった悠長なものではない。時代変化のスピードアップから余儀なくされている生き方を示す言葉なのである。

それとともに、結婚や出産や定年などの時期は人それぞれでかなりズレが生じるようになってきている。周りが女性を追い回しているから、それに同調して行動し、結局はみんなで結婚になだれ込むという「昭和」までの習慣は絶えてしまっている。

人生の節目に関して「適齢期」というものがなくなってきている。早く親元から独立する者もいれば、いつまでも親に依存して生活する者もある。うかうかしていると婚期を逃す。

また、若年出産も高齢出産も選択の問題になりつつある。同級生の行動を見て自分もそれにならうというような時代ではないのだ。離婚も結婚直後には限らず、いつ襲ってくるか分からないので常に注意すべきなのだ。

なかでも大きいのは高齢化に対応した年金制度の維持対策のために年金受給年齢が高年齢化していっている影響である。いつまで働き続けるかという点についても「適齢期」がなくなりつつあるのである。遊びについても、子どもの時期や定年後に遊べばよいなどと考えていると、結局一生遊べなくなる可能性が強い。勉強、仕事、家事をしながらも時間を見つけて遊ばなければならない。

■現代の高齢者の中に「自分中心」な者が増えている

こうした人生行路における大きな変化を踏まえて、上で見たように、年齢別ロールモデルというべきものが崩壊している。若者はこうであるべきだ、老人はこうであるべきだというような見方はもはや通用しない。

かつては、向こう見ずな若者は時代を切り開く存在として自分勝手が許され、経験を積んだ高齢者は、社会の指導的な立場に立つべき存在と見なされていた。若者は革新的、高齢者は保守的であるのが当然だった。

時代は大きく移り変わり、上の意識調査の結果で見た通り、こうした若者と高齢者の意識差は大きく縮まっている。ところが、かつての時代の年齢別ロールモデルが刷り込まれた年代の人間にとっては、若者みたいな高齢者を見ると違和感を抱き「身勝手さ」を強く感じてしまうのである。

■「おやじ系週刊誌」の記事内容が週刊プレイボーイ化

橋本治という文筆家がいる。東大紛争のさなか、「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」というコピーを打った東京大学駒場祭のポスターで注目され、イラストレーターを経て、小説『桃尻娘』を振り出しに、文筆業に転じた経歴からもうかがえる通り、通り一遍な見方からは遠い評論で知られている。

しかし、彼も、最近の「おやじ系週刊誌」(『週刊現代』や『週刊ポスト』)を見て、森友学園問題や日大アメフト部の不適切タックル問題など政界やスポーツ界のスキャンダルが騒がれている中、そうした「社会に対する関心」が皆無となる傾向がある一方、「自分に関すること」、例えば、こうすれば資産運用や相続で損をしないという記事、あるいは「こうすればまだやれる!」といったセックス記事、そしてお決まりのヌード写真も若いころ憧れたアイドルの記事が読者に人気、という現状を知って愕然としている。

「年取れば視野が狭くなるとは言うけれど、閉じつつある自分のことにしか関心を持てない男達が、ある程度の量確実にいることを知らされて、「それでいいのかよォ!」と言いたくなる」(『思いつきで世界は進む』ちくま新書、2019年、p.14)と書いている。

「おやじ系週刊誌」の記事内容が『週刊プレイボーイ』のような青年週刊誌に近づいただけで、こんなふうに感じるものなのである。

現代の高齢者の中に「自分中心」な者が増え、かつての若者に近づいているというだけで、だからといって、人の迷惑まで無視しているわけでもないのに「身勝手」になっていると感じてしまうのは、致し方がないことなのであろう。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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