ライトオンを苦しめる「若者のジーンズ離れ」
プレジデントオンライン / 2019年11月5日 11時15分
2019年6月27日にライトオンがオープンした「浦添パルコ店」イメージ。ジーンズセレクトショップの象徴として、約2000本のジーンズを使用した“デニムウォール”を設置。 - 写真=ライトオンプレスリリースより
■ライトオンは最終損益61億円の赤字
ジーンズ量販店各社が苦境に立たされている。ジーンズ文化の変化に対応できず、各社の業績が急速に悪化しているのだ。
ライトオンの2019年8月期連結決算は、売上高が739億円(前期は767億円)、営業損益は21億円の赤字(同12億円の黒字)、最終損益は61億円の赤字(同4億円の黒字)だった。最終損益は、店舗閉鎖や収益性が悪い店舗について減損損失を計上するなど特別損失36億円が響いた。
同社は19年8月期から決算の締め日を20日から31日に変更したため単純比較はできないが、前の期から売上高、利益ともに大きく悪化したと言って差し支えないだろう。いずれにせよ、ここ数年は厳しい状況が続いている。
マックハウスの2019年2月期単独決算は、売上高が前期比9.2%減の280億円、営業損益は12億円の赤字(前期は2億円の黒字)、最終損益は28億円の赤字(同2億円の赤字)だった。減収は3期連続、営業赤字は8期ぶり、最終赤字は2期連続となっており、こちらも厳しい業績が続く。
■いずれも不採算店の大量閉鎖が続く
ジーンズメイトの19年3月期単独決算は、売上高が85億円(前期は97億円)、営業損益は9100万円の黒字(同6億900万円の赤字)、最終損益は1900万円の黒字(同7億8900万円の赤字)だった。なお、18年3月期に決算の締め日を2月20日から3月31日に変更している。18年3月期まで営業赤字が3期連続、最終赤字は10期連続と苦しい状況が続いていたので黒字転換したことは喜ばしいことだが、とはいえ、黒字幅はわずかで手放しでは喜べないだろう。
大手ジーンズ量販店各社の売上減少の背景にあるのは、不採算店の大量閉鎖だ。
ライトオンは店舗数の減少が続いている。15年8月期末には516店を展開していたが、その後は減少し、19年8月期末には473店まで減った。
マックハウスは09年2月期末時点で567店を展開。以降、減少が続き、19年2月期末は398店に減った。
ジーンズメイトは12年2月期末に117店を展開していたが、19年3月期末には76店と、二桁に落ち込んでいる。
■ジーンズがファッションの中核アイテムだった頃
大量閉鎖の理由は3社とも共通している。ジーンズが売れなくなったからだ。その理由としては、「ジーンズの低価格化」と「若者のジーンズ離れ」という2点が挙げられる。
かつてジーンズはファッションの中核アイテムとして君臨し、量販店の主力商品として売り上げを大きく牽引する存在だった。
ジーンズ文化の最盛期は1980年代だろう。ケミカルウォッシュなどさまざまなタイプの商品が発売され、若者を中心に人気を博した。日本ジーンズ協議会が主催するジーンズが似合う著名人を表彰する「べストジーニスト」が始まったのが84年で、この頃から業界を挙げたジーンズ普及の取り組みが始まった。
90年代もヴィンテージジーンズがブームになるなど、盛り上がりを見せた。同時に、「リーバイス」や「エドウィン」など高価格のジーンズを販売するライトオンなど大手ジーンズ量販店が一大勢力を築いていったのもこの頃だ。
■1000円を切るジーンズの発売が相次いだ2009年
そして00年代に入ると、ファッション産業全体の潮目が変わり始める。98年から2000年にユニクロがフリースブームを巻き起こし、ファッションセンターしまむらが06年に1000店舗を達成するなど、低価格帯の衣料品チェーンが台頭した。その結果、ジーンズにも低価格化の波が訪れた。
なかでも09年は、大きなターニングポイントになった。同年3月にユニクロの姉妹ブランド「GU(ジーユー)」が990円ジーンズを発売し大ヒット。これに続くかたちで同年にイトーヨーカ堂が980円ジーンズ、イオンが880円ジーンズ、ドン・キホーテが690円ジーンズを発売し、価格破壊が巻き起こった。しまむらで全身コーディネートする「しまラー」がブームとなったのもこの年だ。
■男性用ボトムスの多様化が進む
こうしたジーンズの低価格化が、ライトオンなどジーンズ量販店を直撃した。量販店が販売するジーンズは割高感が出るようになり、売り上げは低迷していった。
特に09年の価格破壊は各社の業績に大きなダメージを与え、ライトオンは10年8月期の売上高が前期比13.5%減の869億円、マックハウスは10年2月期が13.6%減の489億円、ジーンズメイトは11年2月期が15.0%減の142億円とそれぞれ大きく落ち込んだ。そしてここから大きく盛り返すことはできず、今日に至っている。
若者のジーンズ離れも大きいだろう。ボトムスの多様化でジーンズが選ばれにくくなった。かつては男性用のボトムスといえばジーンズとチノパンくらいしかなかったが、カーゴパンツやショートパンツ、イージーパンツといった非ジーンズが充実するようになり、ジーンズの存在感は低下していった。特にここ十数年は非ジーンズが目覚ましい勢いで進化している。
■ライトオンは「ジーンズ強化」を選んだ
こうした流れにジーンズ量販店は対処しなければならないわけだが、企業によって対処の仕方が大きく異なっていることが興味深い。大きくは「ジーンズ強化」と「脱ジーンズ」の2つだが、ライトオンは「ジーンズ強化」、マックハウスとジーンズメイトは「脱ジーンズ」に舵を切っている。
ライトオンは18年から売り場のコンセプトを、陳列量を重視する「ジーンズショップ」から提案型の「ジーンズセレクトショップ」へと転換を図った。これはあくまで販売手法の変更であって、ジーンズを核としていることには変わりはない。むしろジーンズに力点を置く考えで、プライべートブランド(PB)を強化するなどして「ジーンズ/ボトムスの品揃え・販売力という強みを継続して活かしていく」という戦略を打ち出している。
■ジーンズメイトは「脱ジーンズ」の道へ
一方、マックハウスとジーンズメイトは「脱ジーンズ」を選んだ。
マックハウスは「ジーンズカジュアルショップ」から「ジーンズを中心としたファミリーカジュアルショップ」への脱皮を図っている。具体策としては、従来の男性向け中心から、女性や子ども向けも多くそろえた新業態「マックハウススーパーストア」や「マックハウススーパーストアフューチャー」の出店を強化するなどしている。ジーンズを核としながらもジーンズにこだわり過ぎることなく、幅広い品ぞろえで対応する考えだ。
ジーンズメイトも脱ジーンズに大きく舵を切った。ジーンズを減らして女性向け衣料や小物を増やす戦略を打ち出している。新業態の「JEM」ではあえてジーンズの割合を極端に低くしており、脱ジーンズを鮮明にしている。
「ジーンズ強化」と「脱ジーンズ」のどちらが正しいのかはまだ分からない。いずれにせよ、待ったなしの状況であることは確かだ。採った戦略に磨きをかけて顧客に強く訴求していくほかないが、遠くない将来に答えは出るだろう。どちらの戦略が正しいのか、いずれの企業が生き残ることができるのか、注目が集まる。
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店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)
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