ろくに本を読まない理系人間に迫る失業の危機

プレジデントオンライン / 2019年11月13日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

「理系は食いっぱぐれない」という考えはもう古い。アメリカでは「理系」に類するSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の仕事が減り始めている。ベンチャーキャピタリストのスコット・ハートリー氏は「これからは理系の仕事をしている人ほど、哲学や社会科学といった文系の知識を学ぶ必要がある」という――。

※本稿は、スコット・ハートリー『FUZZY-TECHIE(ファジー・テッキー) イノベーションを生み出す最強タッグ』(東洋館出版社)から再編集したものです。

■エンジニアの仕事を奪うのは「AI」ではなかった

「STEM(科学、技術、工学、数学)分野は3パーセント低下した」

米ハーバード大のエコノミストのデイビッド・デミングによる、2015年、全米経済研究所のワーキングペーパーでの発表だ。とりわけ、エンジニア、プログラマーとテクニカル・サポート、工学と科学技術者は縮小スピードが速いという。

AIに仕事を奪われることを心配しがちだが、その前に安価な発展途上国の労働者に単純なSTEMの仕事は奪われる。

過去数十年間、グローバル化によって、製造業の仕事が大量にアウトソースされ、知識労働者の仕事がそれに続いた。現在、アメリカの労働者が担ってきた多くの技術的仕事が外国に「出荷」される流れが来ている。

■「ハーバード大より難しい」という理系人間の養成所

ニューヨークに拠点を置くアンデラ社の事業を取り上げよう。同社はナイジェリアのラゴス、ケニアのナイロビで高度なプログラミング・スキルを教える「テクニカル・リーダーシップ・プログラム」を運営し、とてつもない速度と精度で理系人間を養成している。

このプログラムへの注目は相当高く、入学希望者に対する合格率は1%を下回り、ニュースサイトのCNNによると、「ハーバード大より難しい」。2016年には定員わずか280人に対して4万人の志願者があり、ナイジェリアとケニアではすでに200人のプログラマーが働いている。

このプログラムはスキルを教えるとともに、技術チームのサービスを有料で提供しており、マイクロソフトやIBMといった一流のIT企業が同社のサービスを採用してきた。アンデラ社は、海外にいる科学技術者という、将来莫大な数に増える労働力のほんの一部を提供しているにすぎないが、すでにマーク・ザッカーバーグとグーグル・ベンチャーズが関心を寄せており、2016年には両者からおよそ2400万ドルが出資された。

■「世界で最も才能ある人々」を輩出するプログラム

いま、テクノロジーの最前線にいる人材を輩出した大学を見渡すと、スタンフォード大学のある学部が目につく。

「シンボリック・システムズ」という専攻課程で、コンピューターのクラスと哲学、論理学、言語学、心理学のクラスを統合し、従来の文系理系が隔離された図式とは異なる形で研究を進める体制だ。マーク・ザッカーバーグは、このプログラムが「世界で最も才能ある人々」を輩出してきたことを認めている。

ここから、リンクトインの創業者リード・ホフマン、インスタグラムの共同創業者マイク・クリーガー、iPhoneとiPadのソフトウェアを開発したスコット・フォーストール、そしてグーグル初期の経営陣の一人で、ヤフーの元CEOだったマリッサ・メイヤーなど、そうそうたる顔ぶれの卒業生を輩出した。

■大学で学ばなくても「遅すぎる」わけではない

「機械オタク」集団の職業はますます切り詰められていくだろうが、大学で学ばないと遅いわけではない。学び直す機会はいつでもある。

わずか1年で1800万ドルの資金調達した注目のベンチャー企業は、あるエンジニアがPCの画面から離れてアフリカで暮らしたことがきっかけで誕生した。アイデアは、人類学のフィールドワークの手法を用いることで見えてきた。

そのエンジニアが、低所得者層向けにスマートフォン購入などの金利サービスを提供するベンチャー企業「ペイジョイ」の共同創業者でCEOのダグ・リケットだ。以前はグーグルのソフトウェア・エンジニアで、マーク・ヘイネンとチームを組んで同社を起業した。ヘイネンはアマースト大学で歴史と移民研究を専攻した文系人間だ。二人はグーグルマップのチームで出会い、アフリカの地図製作で協力した仲間だった。

■1年で約20億円を調達した奇抜なアイデア

リケットは、グーグルを退職後、テクノロジーの専門知識を広げようとコンピューター画面の前を離れてガンビアという小さな西アフリカの国の貧困地域向けに太陽エネルギー機器の提供を試みる企業で働いた。

スコット・ハートリー『FUZZY-TECHIE(ファジー・テッキー) イノベーションを生み出す最強タッグ』(東洋館出版社)

同社のエンジニアリング部門のディレクターとして香港を中心に活動していた時に、人類学の研究者になり切って、アフリカの村落で何カ月も過ごした。そこに住む人々は資金を借り入れる手段も方法も一切持っていない、将来の顧客候補だと思ったからだ。資金を借入できないと、ソーラーパネルの初期費用は高すぎてとても手が出ない。

一方で、同じアフリカの人々が地元の売店でプリペイド式の携帯電話プランを購入していることも分かった。そこでリケットは「ソーラーパネルも同じように買える仕組みにすればよい」と考え、その企業の顧客が一回当たりの支払いを少額にして、時間をかけてソーラーパネルの新製品を購入できるためのソフトウェアを開発した。

リケットはアメリカに帰国後、そのモデルを使って、借金をできないおよそ4500万人のアメリカ人も、今日で最も偉大なツール「スマートフォン」を買える仕組みを作ろうと決意した。ヘイネンとチームを組んで彼に営業責任者になってもらい、2015年にペイジョイのサービスを開始し、人々はほかの手段よりもずっと安い金利の長期ローンでスマートフォンを買えるような仕組みを作り上げた。営業開始後わずか1年で、投資家らから1800万ドル(約20億円)を超える資金を調達した。同社の最終的な目的は、アメリカ市場だけでなく、地球上のあらゆる人々がスマートフォンを購入できるようにすることだ。

■心理学を学んだエンジニアが初めて知ったこと

アイデアは日常にもたくさんある。自分たちの理系的な才能と心理療法の知識を組み合わせ、メンタルヘルスの世界に大きな影響を及ぼしているイノベーターを紹介しよう。

「トークスペース」というテクノロジー・ベースの治療プラットフォームを設立したロニー・フランクだ。開始から3年が経たないうちに、1000人のセラピストが30万人以上の利用者に個別サービスを提供するまでに成長した。

社会に出たての頃、ロニーはソフトウェアのエンジニアだった。広告会社の専門技術者だった夫とともに夫婦カウンセリングに通い、問題が解決したときに大変な感激を受けた。自分自身がセラピストになりたいと決心し、ニューヨーク大学の心理分析大学院の修士課程に入学して心理学を勉強した。

そこで、精神的な苦痛に悩まされている人々は、治療よりも黙って苦痛に耐えることを選ぶ人が多いことを知った。

■メンタル関連の疾患と診断されるのは5000万人

アメリカには毎年、メンタル関連の疾患と診断される人が5000万人もいて、これだけ多くの人々が苦しんでいるにもかかわらず、治療を受けているのはわずかその3分の1だというデータに触れたことで、ロニーはこの問題に特化したスタートアップ企業を設立しようと思い立つ。

なぜ、治療に行かない人が多いかというと、医療費がとてつもなく高いこともあるのだが、メンタルの治療を受けることが恥ずかしいという気持ちが障害になっているからだ。

■テクノロジーで患者とセラピストをつなぐ

目を付けたのは我々のポケットに入っているスマートフォンだ。テキストメッセージや録音された音声やビデオを通じて、免許を持ったセラピストに好きなだけ相談できる仕組みを作れば、治療を求めているのに行動できない「潜在的な」患者のライフラインになりえるのだ。

そして夫とともにプラットフォームを構築。従来の治療であれば、1時間当たり150ドルを超えても不思議ではないが、トークスペースのカウンセリング費用は1カ月で130ドルもかからない。

テクノロジーを使えばこのように経済的にも精神的にも気軽な治療機会が実現できることを、ロニーはエンジニアとして培ってきた経験から知っていた。そして、メンタルの治療はもっと気軽に落ち着いて受けられるものであるべきだと心理学で学んだロニーだから成しえたビジネスだ。

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スコット・ハートリー ベンチャーキャピタリスト
スタンフォード大、コロンビア大を卒業後、グーグルやフェイスブック勤務を経て、70ヶ国以上で講演などを行っている。オバマ元大統領の元イノベーションフェロー。

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(ベンチャーキャピタリスト スコット・ハートリー)

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