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なぜイスラエルが「日本の農業」の救世主なのか

プレジデントオンライン / 2020年1月3日 11時15分

竹下正哲『日本を救う未来の農業』(ちくま新書)

■国土面積が日本の四国くらいしかないイスラエル

文革時代、黒竜江省の農村に強制移住させられた経験から、心のどこかにずっと農業分野への関心の根が張っている。

中国において、農業はさらなる経済発展のアキレス腱となっており、農産品の安全・安心問題も多くの消費者の心配事となっている。そのせいか、近年は作家、記者、技術者、金融業従事者、企業経営者といったエリートたちが転職して農業に従事するようになった。私が「新農人」と呼んでいる彼らに日本の農業を紹介しようと、生産現場などに積極的に案内している。

しかし、その現場を見れば見るほど、日本の農業の生産性の低さ、規模の小ささ等々に対する不満が膨らんでくる。本書を目にしたとき、躊躇せずに書評の対象に決めた。

なぜ、国土面積が日本の四国くらいしかないイスラエルが、日本の農業を救う星なのか。水資源の少ないイスラエルから学べるのは、主に配水管、チューブや弁などの設備を使い、農作物に与える水や肥料の消費量を最小限にする点滴灌漑技術ぐらいだろう、などとぼんやり考えていた。

■少ない投資で確実に儲けるイスラエルの農業

しかし、本書を読んでびっくり。単位面積における生産高、輸出実績、成長率などを見ると、イスラエルは農業先進国といっても過言ではないという事実を知って、大いに勉強になった。

たとえば、農業大国といわれるオランダは野菜などの輸出高が世界2位だが、その輸出先はドイツ、イギリス、ベルギー、イタリア、スウェーデン、ポーランド、フランスといった近隣国にほぼ決まっている。距離的には、東京―青森間または東京―札幌間といったところだ。

しかし、イスラエルは本当に遠方にある国々にピーマン、パプリカ、アボカド、ニンジンなど数多くの野菜を輸出している。その輸出先はイギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、ロシア、カナダ、ブラジル、インドなど、まさに地球全体だ。「そういった意味では、イスラエルこそが世界最大の輸出国とみなしてよい」と著者は言い切っている。

そして、もっと重要なのは、イスラエルの農業はオランダのそれほどお金がかからないことだ。少ない投資で、確実に利益を上げることができている。「災害の多い日本に応用がしやすい」という著者の評価もうなずける。

三ちゃん農業、後継者問題、土地規模の小ささなど、日本の農業と似た悩みを抱える中国に対しても、イスラエルの農業はいろいろなヒントを与えてくれる。それは本書を読んだ私の第一の感想でもある。

お金がかかるオランダの農業は日本に不向きと著者が指摘しているが、同様にお金がかかる、政府から補助金が大量に支給される日本の農業も中国に不向きだと、私は強く再認識した。機会があれば、イスラエル農業の現場を見てみたい。

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莫 邦富(もー・ばんふ)
作家・ジャーナリスト
1953年、中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業。85年に来日。知日派ジャーナリストとして「新華僑」「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。『中国全省を読む地図』『この日本、愛すればこそ』など著書多数。

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(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)

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