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「風邪っぽい」を甘くみていると危篤になる症状

プレジデントオンライン / 2019年11月22日 11時15分

滝口幸広さんのインスタグラムより

気温が下がり、風邪の症状を訴える人が増えている。どんな症状であれば病院に行くべきなのか。麻酔科医の筒井冨美氏は「例えば俳優の山本陽一さんが危篤に陥った急性心筋炎の場合、初期症状は風邪と似ている。ただ、5つの症状に注意すれば、急いで受診すべきかを判断できる」という——。

■34歳の俳優の死因は「突発性虚血心不全」

2019年11月15日朝、衝撃的なニュースが入ってきた。

テレビドラマの「ウォーターボーイズ」や「仮面ライダー」シリーズ、NHKの情報番組「あさイチ」などに出演していた俳優の滝口幸広さんが、11月13日に死亡したと発表されたのだ。公式ブログによると、死因は「突発性虚血心不全」。享年34歳だった。

公式ブログでは死亡直前まで出演予定が書かれており、SNSで公表された写真にも病気を思わせる影は全くなかった。交流のあった芸能人が次々とコメントを発表したが、「まだ心の整理がついていません」などと早すぎる突然の死に驚きを隠せない様子だった。

■「突発性虚血心不全」とは?

このニュースはたちまち医療業界でも話題になった。なぜなら、発表された「突発性虚血心不全」は医学的に正確な病名ではないからである。これは推測だが、「特発性の虚血性心疾患による心不全の疑い」のように医師が説明したのを家族や事務所マネジャーが救急搬送の混乱の中で、間違えてメモしてしまったのではないか。

そもそも、医学用語としての「特発性」は「原因が分からない」という意味であり、「突然に発生する」という意味ではない。また、「虚血性心不全」とは「心臓の筋肉に血液を送る血管(=冠動脈)」の「血流低下(=虚血)」によって、心臓の働きが悪くなる病気を指し、狭心症や心筋梗塞がこれに含まれる。心臓の役割は全身の隅々まで血流を送るポンプ機能だが、心不全とはポンプ機能が低下することで血流が滞った全身不全状態のことである。

虚血性心不全は40代以降に多い病気である。「高コレステロール」「高度肥満」のような状態でない限り、35歳未満での発作はまれである。芸能事務所に所属し、戦隊ヒーロー番組に出演するような運動量の多い役者で、健康を意識した料理番組のアシスタントも務めていた滝口さんならば、健康管理・運動・栄養管理もしていたと考えられ、違和感が残る。

「病気の経過が早く検査するヒマもなかったので、正直に言うと原因不明……強いて言えば、虚血性心不全かなぁ」という苦し紛れの診断が、最後に診た医師の本心かもしれない。

■「致死性不整脈」で急死したエビ中の松野莉奈さん

タレントの心臓突然死と言えば、2017年にアイドルグループ・私立恵比寿中学(エビ中)のメンバー、松野莉奈さんが急死したのも記憶に新しい。

数日前に「家族旅行に行く」と周囲に伝えるなど、健康上の問題はなかったようだ。イベント会場の大阪に向かう途中の電車内で体調不調を訴え、同日の16時半の公式ツイッターを通じて、同18時半開演のコンサート出演を取りやめることを発表した。その夜は東京都内の自宅で療養していたが容体が急変し、翌朝5時ごろに病院へ救急搬送されたが、病院で死亡が確認されたという。享年18歳だった。

写真=iStock.com/Tharakorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tharakorn

公表された死因は「致死性不整脈の疑い」だった。こちらも担当医のコメントは発表されていないが、おそらく「病院に着いた時は心肺停止状態だった。検査ができなかったので正確な死因は不明。家族の話では不整脈が出ていたらしいので、致死性不整脈の可能性が高い」という判断だったのだろう。

■劇症型心筋炎から生還した山本陽一さん

心臓突然死の寸前まで行ったが、奇跡的に生還した人もいる。テレビドラマ「夏・体験物語2」「季節はずれの海岸物語」「水戸黄門」などで活躍した俳優の山本陽一さんは、スポーツバラエティ番組「筋肉番付」に出演するほどの健康体だった。

2009年(当時40歳)、4歳の娘さんの風邪が伝染し、かかりつけの病院で診てもらっていたが良くならなかったそうだ。「呼吸困難」「悪寒」「38度超の熱」といった症状に加えて、心臓の鼓動リズムの変調が自覚できた。自分で車を運転して、市民病院に飛び込んだところ「劇症型心筋炎かもしれない」と、救急車で大学病院に転院させられたそうだ。大学病院では一時生死の境をさまよったが、集中治療室の高度医療によって一命を取り留めた。

しかしながら、心臓の機能が完全回復することはなく、その後も投薬治療や運動制限が必要となったため、2012年に芸能界を引退した。山本さんはその後、実家の金属加工業を継いでいるが、メディアで心筋炎や闘病経験についても公表している。

■いわゆる「風邪」と「心筋炎の初期」は鑑別が困難

急性心筋炎とは、「心臓を動かしている筋肉(=心筋)にウイルスが感染して炎症を起こし、心臓が動かなくなる病気」であり、これによる死者は10万人あたり年間115人という報告もある。典型的な初期症状は、「せき」「発熱」「筋肉痛」「全身のダルさ」「吐き気」などであり、悩ましいことに「よくある風邪」との区別が困難である。

写真=iStock.com/violet-blue
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/violet-blue

しかしながら急性心筋炎、特に、「劇症型心筋炎」と呼ばれるタイプは病状の進行が早い。全く健康だった若者が、「カゼかな?」と思った数日後には危篤状態まで増悪することもある。心筋症と確定されてはいないが、前出の松野莉奈さんのように、数時間で心停止に至るケースもあり、医師にとっても対応困難な怖い病気のひとつである。

山本陽一さんは、駆け込んだ市民病院で、たまたま出向していた専門医に巡り合えたので、「コレは単なる風邪じゃない!」と救急車搬送されて一命を取り留めたそうだ。しかし、全ての「風邪っぽい」患者を心臓専門医が検査することは現実的に不可能なので、現状、心筋炎=「助かればラッキー」的な難病だと言える。

■風邪と急性心不全の見分け方

一般論として「風邪の大半は鼻や喉へのウイルス感染」であり、「ムダに病院を受診して体力を消耗するよりも、自宅で安静にして自然回復を待つ」が王道である。しかしながら、心筋炎のような怖い病気が潜んでいる可能性もゼロではない。

そこで、山本陽一さんのように救急病院に駆け込むべきサインを紹介したい。

1:進行が速い

一般的な風邪に比べて、劇症型心筋炎は進行が速い。「朝方にせきっぽかったのが、昼には寝込む」というような急激な症状の進行は、病院受診のサインである。

2:階段を上れない、転倒、失禁

一般的な風邪だと、発熱時でも自宅近くのコンビニで買い物くらいはできることが多い。しかし、心不全が絡むと「階段を上れない」「トイレに行こうとして倒れる」「尿失禁」のように行動レベルが著しく低下することが多い。速やかな病院受診が勧められる。

3:むくみ、静脈がくっきり見える

心不全では心臓のポンプ機能が低下するので、静脈に血液がたまりやすくなり、顔や足がむくんだり、手足や頸(くび)の血管がくっきり見えたりすることが多い。この場合も、速やかに病院受診すべきである。

4:ピンク色の水っぽい痰

一般的な風邪だと、痰(たん)は黄緑っぽいことが多い。だが、心不全の痰は「肺に水が溜まる(=肺水腫)」ことによる痰なので、ピンク色の水っぽい痰となる。病院受診すべきサインである。

5:脈がとぶ(不整脈)

心筋炎や心不全が進行すると、山本陽一さんのように不整脈が出現することがある。1~4に加えて不整脈が出現したら、救急車をコールしてでも病院受診すべき緊急事態である。子供の発熱も、「グッタリしているだけじゃなく、脈が乱れている」というのは、救急車案件だろう。

■インフルエンザ予防接種もお忘れなく

心筋炎の原因となるウイルスはいくつかあるが、インフルエンザウイルスもそのひとつである。予防接種を受けてもインフルエンザに感染することはあるが、心筋炎のような重症化の防止には有効なので、早めの接種をお勧めしたい。

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筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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