アメリカ人に「グッジョブ!」と言うと怒られる
プレジデントオンライン / 2019年12月18日 11時15分
※本稿は、齋藤隆次『ビジネスエリートが実践している 異文化理解の全テクニック』(KADOKAWA)の一部を加筆・再編集したものです。
■日常会話ではよく使われるが……
皆さんご存じ、人気テレビ番組『開運! なんでも鑑定団』の中で、古美術鑑定家の中島誠之助さんは「いい仕事してますねぇ!」という決めゼリフを最上級のほめ言葉としています。では、この「いい仕事してますねぇ!」を英語で何と言うでしょうか。
この記事をお読みいただいている多くの方々は、おそらく“Good Job!”と答えるのではないかと思います。
たしかに、英語の直訳としては間違いではありませんし、アメリカでは子どもの教育における必須フレーズとしても頻繁に使われています。でも、この“Good Job!”という言葉、大人が子どもに対して使ったり、日常会話で軽く口にしたりする分にはいいのですが、大人同士が使う場合やビジネス上で使う場合、あるいは目上の人に対して使う場合は、決してほめ言葉にはなりません。
じつは、“Good Job!”を日本語の感覚をもとに表すと、「お疲れさま」「まあまあだね」「よくやったね」といったような、あくまで「軽い言葉」になるからです。
もちろん、ポジティブ・フィードバック(長所をさらに伸ばす考え方)の教育を受けてきたアメリカ人に対して、「ほめない」アプローチは論外でしょう。けれども、仕事におけるほめ言葉として“Good Job!”を使うのはそぐわない場合が多いのです。
たとえば、アメリカ人の部下が大きなプロジェクトを成し遂げたときなどに“Good Job!”という言葉を使うのは適切ではありません。「達成感があって、評価に値する素晴らしい仕事をしたはず」と本人が思っているのに、上司としての言葉が「まあまあだね」ぐらいにもとれる“Good Job!”ではあまりにも軽すぎて、その部下の気持ちに違和感が生じるのです。
さらに、ビジネス上の最終評価で“Good Job!”を使う場合、部下の違和感はさらに強くなります。「『仕事の成果とそれに伴う評価として受け入れられるレベル』はクリアした」という意味、言い換えれば「最低限のレベルは満たしている」という意味に捉えられ、とてもじゃないけれど「ほめられた」とは受け止められないわけです。
■“OK”は「悪くはない」程度のニュアンス
多くの日本人は、“OK(okay)”という言葉を「ポジティブな評価」と受け止めているはずです。でも、これも「誤り」と思ったほうがいいでしょう。英語では、“OK(okay)”は“Not so bad”、すなわち「悪くはない」程度の意味で、明らかに“Good Job!”より低い評価になるのです。
たとえば、“It's okay for me.”は誤解を生む可能性がかなり高い表現で、「受け入れられるレベルの下限は超えているので受け入れます」というような意味合いになります。そう、決してほめ言葉ではないわけです。
私の娘がアメリカへ来てまだ間もない当時、髪型を変えた娘の友だちがさっそうと小学校へ登校してきたときのこと。その友だちは娘に「私の新しいヘアスタイル、どう?」と聞いてきました。娘はすてきな髪型だなと思い、“It's okay.”と言いました。すると、友だちはムッとした顔で娘の背中をたたき、“You're so mean!”(まあ、なんて意地悪なの!)と言ったというのです。
娘は、そのとき初めて“OK(okay)”という言葉が持つニュアンスに気づき、怒った友だちに「そういう意味じゃなかったの」と必死に弁解したそうです。我々日本人からすると何とも意外なのですが、このように“It's okay.”は、日常会話でも誤解を招いてしまう表現なので、ましてビジネスの場で使うべきではありません。
では、本当に部下をほめたい場合は何と言えばいいのか。そのようなときは、“Amazing!”、“Tremendous!”、“Excellent!”などといった、「素晴らしい!」という意味を持つポジティブなワードを使えばいいでしょう。
■具体的に「行動」をほめることが大事
ほめるときにはやはり、具体的理由を伝えることが大切です。ただ漠然とほめるのではなく、努力が反映できる行動自体を具体的に評価することが重要なのです。そのためにはまず、シンプルに感謝の意を伝えることだけでも十分でしょう。
そんな言葉としては、たとえば“I appreciated~(感謝している具体的行動)”や、世界共通のポジティブワードである“Thank you.”、ほかにも“Keep up the good work.” “You've done a nice job.”などといった表現もよく使われます。
場合によっては、結果に直接現れていなくとも、努力を認めてあげることだけでもうれしいものです。そんなときの例としては、“I noticed~(相手が努力していること).”とか、“I knew~(相手が努力していること).”があります。「あなたの努力にはちゃんと気づいていましたよ」と伝えることは、想像以上に心に響くのです。
また、評価につながる可能性があると示唆することも効果的でしょう。例としては、“I noted~(成果につながった行動)”が挙げられます。
さらに、あくまでポジティブなベクトル前提での励まし方の例としては、
“I'm sure you can do it.”(きっとできるよ)
“You can push yourself harder.”(がんばれ)
などがあります。
なお、ほめた最後には「将来に対する期待」を伝えて終わるのがベターでしょう。
“I'm looking forward to~”(期待している、楽しみにしている)
ポジティブ・フィードバックの国であるアメリカには、じつに多彩なほめ言葉や表現があります。私がアメリカ赴任当初、私の息子と娘の家庭教師に、子どもたちがまだ泳ぎが上手くないということで、水泳の特別指導をしてもらったことがあったのですが、最後に泳ぎができるようになった子どもたちに家庭教師が言った言葉は“Great!! I am proud of you!”。これは「最高だよ、あなたのことを誇りに思う!」という意味になります。
■「ほめられた履歴」が勤務評価の根拠に
ただし、部下の仕事の評価として、こういった「最上級のほめ言葉」をむやみに連発するべきではありません。
多くの場合、ほめられた部下は、「いつ」「何について」「どのような言葉で」ほめられたのかをしっかりメモしたりしていて、期末の評価面接(来年度の給与を決定し、契約を更新する日)の際に“ほめられた履歴”を上司に述べ、昇給を求めてきます。このように、ことアメリカ人に対しては、ビジネス上でほめるときにも“Transparency”(透明性)と“Accountability”(説明責任)が重要になります。評価に値する仕事をしたのにほめないというのは当然論外ですが、さりとて「最上級のほめ言葉」を連発してもいけない。ケースバイケースで、その場・その状況に適したほめ言葉を選んで使うべきだと思います。
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異文化人材マネジメント・コンサルタント
1955年、福島県生まれ。国立電気通信大学経営工学科卒。パイオニア株式会社で北米事業全体を担当した後、現地子会社パイオニア・インダストリアルコンポネンツインクCEOに就任。帰国後、フランス系自動車部品メーカー・ヴァレオの日本国内事業部長にヘッドハンティングされ、50歳でアジア統括部長、57歳で日本法人社長に就任。その中で、外国の経営システムや考え方の長所を和のコミュニケーションと融合させながら進めていく、異文化人材マネジメントの手法を確立する。
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(異文化人材マネジメント・コンサルタント 齋藤 隆次)
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