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小さな自動車会社が生き残るのはもう無理か?

プレジデントオンライン / 2019年12月16日 17時15分

今年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したトヨタ自動車のスポーツ用多目的車(SUV)「RAV4」=2019年12月6日、東京都江東区 - 写真=時事通信フォト

■長期の存続には“体力”が必要

今、世界の自動車業界が“100年に一度”と言われるほど、急激かつ大きな変革期を迎えている。

具体的には、ガソリンエンジン車からハイブリットカー、さらには電気自動車へ。また情報通信技術を使ったコネクテッドカー、自動運転車などの変化が猛スピードで進んでいる。自動車を所有せず、必要に応じて“シェア”することを選ぶ人も増えている。

そうした変化への適応を目指し、有力自動車メーカーは規模の利益を求めて経営統合や提携に踏み切っている。経営規模の小さい自動車企業を取り巻く環境は、不安定かつ厳しさを増している。

主要国の政府は、稼ぎ頭である自国の自動車産業の競争力引き上げを重視している。自動車産業のすそ野は広く、経済全体に与える影響は大きい。雇用、設備投資、環境など多くの分野での影響力は莫大だ。

長期の存続を目指すために、各国の自動車企業は体力をつけなければならない。今後も、グローバルで自動車業界の再編は続くだろう。その背景の一つとして、各国政府が運営する政策や新しい規格への対応がある。

主要国にとって、自動車産業は経済の安定と成長を支えるために重要だ。わが国の自動車産業は製造業出荷額の19%程度、設備投資の約22%、研究開発費の約25%を占める。自動車関連の就業人口は全体の8%程度に達する。

■自動車企業の存続に関わる“EV力”

近年、各国の自動車企業は、中国など新興国の経済成長に伴う自動車需要の高まりを取り込んで成長してきた。それとともに、企業の海外展開や、現地企業との合弁が増えた。この結果、各国の自動車行政は、海外の要因からも大きく影響されるようになっている。

とくに、世界最大の自動車市場である中国の政策動向は無視できない。各国政府は、国内外の変化にあわせて政策やルールを改編し、自国企業の競争力を高めたい。それに企業は対応しなければならない。

あしもと、大気汚染の深刻な中国は電気自動車(EV)の普及を重視している。すでに中国政府は自動車業界での外資規制を緩和しつつ、各社に一定のEV生産を義務づけている。また、中国は経済成長の限界を迎えた。共産党政権にとって、自動車産業のイノベーションを通して景気を安定させるためにもEVの普及は重要だ。

この考えにもとづき、2025年、中国は新車販売の25%をEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの“新エネルギー車”にする目標を公表した。中国政府の動きを受け、EVの普及を進め、環境政策を強化する国も増えている。

EV開発・生産能力の有無は、自動車企業の存続にかかわる問題となりつつある。各国の自動車企業は、世界的な規制の変化、あるいはEVなどの新しい規格に対応しつつ、収益を獲得しなければならない。そのために、経営体力の増強は避けて通れない。

■自動車業界を襲う100年に一度の変化

EV開発の進行などを受け、世界の自動車業界は“100年に一度”と呼ばれる変化を迎えている。わが国最大のトヨタ自動車でさえ、この状況に強い危機感を示している。世界の自動車業界を取り巻く環境は、大規模、急速、かつ非連続的に変化している。

この変化をもたらしている大きな要因に“CASE”のコンセプトがある。これは自動車の、ネットワーク空間との接続(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Sharing)、および電動化(Electric)を表す概念だ。世界全体で、自動車企業だけでなく、電気、機械、IT先端企業などを巻き込んでCASEへの取り組みが広範囲かつ急速に進んでいる。

また、従来の自動車の設計、開発、生産、使用などの常識が根本から覆されつつある。それが非連続的の意味だ。わたしたちが経験したことのない発想で、新しい機能を持った自動車が生み出され、使われようとしているといってもよい。

■デジタル家電のような“組み立て型”にシフト

従来、自動車は、レシプロ型(ピストン機関を搭載し化石燃料を燃焼させることで動力を得る)エンジンを搭載し、人間が運転する移動の手段などとして扱われてきた。エンジンを中心に、自動車には約5万点もの部品が搭載されてきた。部品点数が多い分、安全性はもとより、免振、騒音のカットなどに高い技術力が要求される。日独の自動車業界は、すり合わせなどの技術力に比較優位性を発揮し、世界の自動車業界をけん引してきた。

一方、現在は、モーターを搭載し、SNSプラットフォームと相互に自律的に通信・制御する“動くITデバイス”としての自動車開発が目指されている。電動化に伴い、自動車の部品数は従来の半分程度に減少すると考えられる。自動車の生産は高度なすり合わせ技術に依存したものから、デジタル家電のような“組み立て型”にシフトし、水平分業体制が重視される展開も考えられる。

自動運転を支えるテクノロジー面では、従来の自動車企業よりもIT先端企業に比較優位な部分も多い。その考えから、米グーグルや中国バイドゥ(百度)などと連携する自動車企業が増えている。

■世界的に自動車企業の合従連衡が進む

そうした変化に対応し競争に勝ち残るため、世界的に自動車企業の合従連衡が進んでいる。くわえて、IT先端企業や先端テクノロジーの開発に強みを持つスタートアップ企業との連携を重視する完成車や自動車部品企業の経営者もいる。異業種も巻き込み、自動車業界の業界再編が続くだろう。

世界の自動車企業は米中の貿易摩擦や、それに伴う世界的なサプライチェーンの混乱などにも対応しなければならない。サプライチェーンの再構築にはコストがかかる。同時に、EVの研究・開発や生産体制も整備しなければならない。自動運転などに必要な先端テクノロジーの開発に向けた人材確保、設備投資の負担も増す。

企業が変化やリスクに対応しつつ成長を実現するには、安定した経営基盤、資金力をつけることが欠かせない。自動車企業がライバル企業との提携、あるいは経営統合を通して大規模かつスピーディーな研究・開発体制の整備に取り組むことの重要性は高まるだろう。

■自動車会社が生き残るには

この考えにもとづき、イタリアのフィアット・クライスラー・オートモービルズとプジョーを傘下にもつフランスのPSAは経営統合に合意した。今後も国境を越えた自動車業界の再編は増える可能性がある。

そのような状況下で、相対的に経営規模の小さい企業を取り巻く環境の不確実性は高まっていると考えられる。中小の自動車企業が生き残るためには、高級スポーツカーの生産を手掛けるなど、ニッチ市場での競争力を高めることが重要だ。ただ、その発想で世界的なEV化や自動運転技術の開発といった変化に対応できるかは見通しづらい。

こう考えると、世界の自動車業界において、規模の大小を問わず、経営体力の増強を目指すことの重要性は高まっている。わが国でもスズキがトヨタとの資本提携を発表するなど、大手企業との関係を強化し、世界的な競争の激化に対応する考えは強まっている。今後も、生き残りをかけてほかの企業との提携、さらには経営統合を重視する自動車企業は増えるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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