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プロの「たいこもち」に学ぶ営業の話芸・間合い

プレジデントオンライン / 2020年1月26日 11時15分

幇間(たいこもち) 櫻川七好氏

■この芸は今年の秋の文化庁芸術祭……、不参加でございます

たいこもちという仕事は、踊りも唄もしますが、自分が主役になってはいけないんですよ。芸者さん、お三味線のお姐さん、ひいきにしてくださるお客さん、その間を取り持ってね、あの手この手で酒宴を楽しく盛り上げるのが仕事になります。

楽しくと申し上げても、私たちの笑いというのは、テレビのお笑いとはちょっと違うところがあるんですね。花柳界というのは、お座敷を貸し切って、日本髪の芸者さんが踊ってくれて、日常とは違う空間で、お客様に会社のことや日常のことを忘れて、お酒やお料理を楽しんでいただく。目の前で芸者衆の踊りが見られる贅沢な時間です。そんなときにどこそこの会社が、なんて固有名詞を出すのは差し障りがありますし、政治の話や宗教の話も難しい。家庭の匂いもさせてはいけない。主役はお客様ですから。自分がしゃべりすぎてもいけないわけです。

だから、笑いをとるときも、お客様の邪魔にならないように、上品に、洒脱にできたらいいなと思います。例えばお客様が芸者さんを気に入ったようなら、こんなことを言います。「旦那が気に入った芸者さんがいたら私に言ってくださいよ。うまく取り持ちますから」。ただし「でも別料金になります」とオチをつけたりね。お酌をするときも、「さすが旦那! お目が高い、世界で一番売れているビールでございます」と言いながら注ぐんですね。自分の芸を褒めていただいたときは「この芸は今年の秋の文化庁芸術祭……、不参加でございます」とオチをつけます。

■芸を見せるより、性格を知ってもらう

それから「よいしょ」。昔は旦那芸といって、長唄だとか清元だとか芸を習っていた旦那が多かったんです。それをお座敷で披露したときは、「よっ、日本一! 成田屋!」「旦那、さすがですね。今度は歌舞伎座に出てください」と声を掛けます。歌舞伎にも「大向う」といって声を掛ける人がいますよね。そんな感じで声を掛けると、旦那にいい気分になってもらえます。

とはいえ、旦那に気分よくなってもらうには、褒めすぎても白々しいでしょ。それでいて、うるさくない、嫌みのない笑いが一番です。となると、芸というよりも、その人の性格が出てくるんですね。だから私が弟子に言うのは、「芸を見せるよりも自分の性格を知ってもらったほうがいい」ってことです。

それはサラリーマンでも同じじゃないですかね。上司やお客様に気に入られようと思ったら、「あいつは仕事はできるけど、ちょっと性格が」よりは、「あいつは仕事じゃおっちょこちょいなところがあるけど、なんだか一生懸命だ」のほうが面倒をみたくなりますよね。芸は人なり、といいますが、本当にそのとおりだなあと思うんですよ。じゃあ人を磨くにはどうしたらいいかって? 私なんかが思うのは、落語や歌舞伎、意外と日本の古典にヒントがあるかもわかりませんね。古典には人のいい、品のいい笑いがあると思うんですよ。

われわれよく言うんですけど、「この仕事は難しい。間抜けじゃできません。でも利口じゃやりません」。結局バカなのか、というオチなんですが(笑)。こういう笑いも、たいこもちらしいでしょ。

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櫻川 七好(さくらがわ・しちこう)
幇間
1952年生まれ。もともとは新劇俳優。93年悠玄亭玉介一門の櫻川米七に弟子入り。94年東京浅草見番でお披露目を果たす。2016年度文化庁長官表彰受賞。

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(幇間 櫻川 七好 構成=東 雄介 撮影=澁谷高晴)

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