橋下徹「新型肺炎、安倍首相の政治決断を断固支持する」
プレジデントオンライン / 2020年2月5日 11時15分
(略)
■政府の新型肺炎対策、与野党の国会議員はサポートしたか?
日本政府は、法的根拠に色々問題があるとされながらも、武漢市からの邦人避難や新型肺炎の指定感染症指定などの手を着々と打ってきた。
(略)
1月28日 閣議決定によって新型肺炎を指定感染症と検疫感染症に指定。
1月31日 安倍晋三首相は「出入国管理法の強力な運用により、2月1日より、湖北省に滞在していた者、ないしは湖北省発行のパスポートを持つ者について、症状の有無にかかわらず入国を拒否する」と表明。「新型肺炎を指定感染症に指定した政令の効力も、当初の2月7日ではなく、2月1日に前倒しで発効させる」とも表明。
日本政府は、チャーター便で帰国してきた日本人に対して、検査のほか、2週間のホテル滞在、外出自粛を要請した。
これらは明確な法律の根拠がない中で、政治決定で行われている。
(略)
政府という権力機構が動くためには、常に法律の根拠が必要になる。ましてや、国民や外国人に対して一定の強制力を及ぼすのであれば明確な法律の根拠が必要になるのは当然だ。
しかし、日本には、感染地域からの外国人の入国を直ちに止める法律がない。だから安倍さんは苦慮したと思う。
(略)
僕は、今回の安倍首相が行った数々の政治決断について、法律の根拠があいまいな点は残るけれども、それらを断固支持する。そしてそのような安倍首相の決断に対してそれをしっかりとバックアップしなかった、与野党含めての政治家に対して、日本の政治はほんとダメだなと失望した。
(略)
■これが感染症に対する危機管理のやり方だ
現在においては、新型肺炎の実体が徐々にわかってきた。致死率もそれほど高くなさそうだ。ゆえに現在は、重症患者に対してしっかりと対応できる対策に力を入れることはもちろんだ。
しかし、それは今となって言える話であって、感染症、特にそれが未知なものの場合には、よく分からない初期の段階で感染を防ぐ強烈な対応が必要となる。
他国で感染症が広まり、その感染症から日本国を守るためには、シンプルに次の2つが国家としての対応の柱となる。
1つは、その外国からの感染症の流入を止めること(国外対策)。2つは、国内に感染症が流入したのであれば、しっかりと検査・追跡・監視していくこと(国内対策)。
課題解決の手法は、このようにまずは「大きな柱」から考えなければならない。
(略)
日本の法律の体系は複雑怪奇なものとなっている。これは大きな柱から考えるのではなく、中央省庁という巨大組織の各部局が自分の目の前のことだけを見て、これまでのやり方や他の法制度との整合性をとりながら法律を構築するために、どうしても枝葉末節にこだわったものになってしまうからである。
(略)
これまでは政治家が大きな方針を示さずに、役人に法律の構築を丸投げしていたのであろう。だから、使い勝手の悪い法律や制度ができてしまう。
もちろん政治家が細目についてまで口を出すことはダメだ。これまでのやり方や他の法制度との整合性をはかっていくための技術や知見はやはり役人に備わっている。多くの場合、そのような技術的専門的知見を政治家は持ち合わせていない。
政治家は大きな方針、大きな柱を示す。役人は技術的、細目的な作り込みをする。
これが政治と行政の役割分担だ。
そして、現在感染症対応に使えそうな法律である感染症法、検疫法、出入国管理法の問題点は、それらの法律は、患者や症状のある「個人」(一部は症状がなくてもウイルスを持っている個人)に対して、政府が対応することになっていることである。本来、感染症対応の原理原則は、「症状の有無にかかわらず」「感染地域からの流入者全般」に対して大きく網をかける対応をすることであるのに、現在の法律はそうなっていないのである。
ゆえに、「個人個人」を対象に「ウイルスや症状を確認してから」、その「個人」に対応する構造になっている現在の法律を、「ウイルスや症状の有無に関係なく」「感染地域からの流入者全般」に対して大きく網をかける対応をする構造に抜本転換しなければならない。
このような大方針を示すのが政治の役割であり、それを示さなければ、感染症流行の危機事態に対応するための法改正の必要性が生じたときでも、役人はこれまでのやり方との整合性をはかり、個人個人のウイルスや症状を確認することを大前提とする法律の改善しか行わない。そのような不十分な法律改正しか行われなければ、国家が適切な対応をすることができず、結局感染の広がりを招いてしまうという悪循環に陥ってしまう。
この悪循環を断ち切るのは「政治の力」によってしかできない。法律の構造を抜本的に変えていかなければならないのだ。
(略)
■現在の法律を使って国内対応をするためにどう知恵を絞るか
以上は、感染地域からの流入コントロール(国外対策)であるが、感染者であっても日本人の入国を禁止するわけにはいかない。この場合には、入国を認めた上で、検査・追跡・監視する必要がある。さらには国内感染が広まってきたときにも、同じように検査・追跡・監視を強化する必要がある。
ところが今の感染症法や検疫法では、今回の新型肺炎の感染者には政府は十分な国内対応ができない。
今回の新型肺炎は2類感染症に位置付けられているので、症状が出ていない無症状病原体保有者には何の対応もできない。また検疫法2条3号の検疫感染症に位置付けられているので強力な検疫(隔離・停留)ができない。
法律改正ができればそれに越したことがないが、法律改正が間に合わなければ、今回の新型肺炎を1類感染症に位置付ける屁理屈がある。
そうすると、感染症法上、症状が出ていなくてもウイルスを保有していれば(無症状病原体保有者)、「患者」として扱って対応することができるようになる。
また新型インフルエンザ「等」の「等」の中に、今回の新型肺炎を入れ込むという知恵もある。そうすると、この場合は強化された検疫はできないが、無症状病原体保有者を感染症法上「患者」として扱って対応できるようになる。さらに1類感染症や新型インフルエンザ「等」に入れ込むことができなくても、検疫法34条を活用すれば、検疫を強化できるという知恵もある。
このような解釈は、役人は嫌がって反対するだろう。だからこういうときにこそ、与野党を超えて政治家が一致団結し、役人と論戦して、役人を動かしていかなければならないのである。原則は法改正、それが間に合わないなら屁理屈。このようなことを議論するのが国会の場だ。
■もしも日本が感染地域になったら?
これはまだまったく議論されていないことだが、日本が感染地域になった場合に、日本国民を出国禁止にできるか。
(略)
日本には憲法22条があるので、国民の出国を一気に禁止することはできない。そうすると、日本が感染地域になった場合に、日本は感染症を世界にばらまくことになる。
日本も感染地域になったときに、国民の出国を一気に禁止することができるのか。悩ましいところだが、ここも政治家が国会においてしっかり議論すべき領域だ。
(略)
(ここまでリード文を除き約2900字、メールマガジン全文は約1万4600字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.186(2月4日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【フェアの思考(4)】新型肺炎の蔓延阻止へ! 安倍首相の「前例なき政治決断」を断固支持する》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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