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日本の外食チェーンは、なぜこんなに安くて美味いのか

プレジデントオンライン / 2020年1月31日 12時45分

隣接する吉野家と松屋の店舗(東京都港区、2016年8月12日) - 写真=時事通信フォト

■大手外食チェーンが“低価格”を重視するワケ

「日本の外食チェーン店の価格、クオリティは大満足だった」。オランダから東京にやって来た友人が言っていた。諸外国に比べるとわが国のレストランチェーンなどの「コストパフォーマンス」はとても高いと見えるのだろう。

その背景の一つとして、長い間、わが国がデフレ経済に陥ったことは無視できない。デフレは需要低迷の裏返しだ。デフレが深刻化するとインフレとは反対に、価格の低さに注目が集まる。デフレの状況下、消費者が低価格のモノやコトを求めると考える企業が出現した。

そのようなニーズを取り込むために、外食産業では徹底した合理化などに取り組み、低価格戦略を強化しつつ、消費者の満足と利益率の向上を目指す企業が増えた。その結果が、“わが国の外食は安くてうまい”との評価を支えているのだろう。

一方、わが国の外食産業全体の価格が安いかといえば、そうではない。価格がかなり高い店舗もある。海外でもそれは同じだ。見方を変えれば、企業が長期の存続を目指すためには、明確に顧客のセグメンテーションを定め、消費者の満足度を高めていくことが欠かせない。

■デフレ環境下での外食産業

わが国の外食産業は、デフレ経済の深刻化および長期化などに影響されてきた。デフレ環境下、外食産業には、徹底したコスト管理などに取り組み低価格帯での飲食サービスを提供し、消費者の支持を得てきた企業がある。

1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本経済は長期の停滞に陥った。急速な株価や不動産価格の下落を受けて景気は低迷した。それに伴い、わが国では人々が実質ベースでの賃金増加を実感しづらい状況が出現した。先行きの景気に対する不安などから、消費者の支出意欲は盛り上がりづらくなり、低価格のモノやサービスが求められるようになったと考えられる。

こうした状況に追い打ちをかけたのが、1997年の金融システム不安だ。当時、不良債権問題の深刻化などから大手金融機関の経営破たんが相次いだ。それは、わが国経済の先行き懸念を一段と高め、社会心理を冷え込ませた。この結果、わが国の経済はデフレ(広範なモノやサービスの価格が持続的に下落する状況)に陥った。

■欧州に比べてなぜ安いのか

デフレが進むと、需要は低迷し、景気は一段と低迷する。人々は、価格の低さを重視するようになる。それにより「100円均一ショップ」や大手小売り企業の「プライベートブランド」も登場した。このような中で、大手外食チェーンは低価格戦略を重視し、消費者心理に配慮した商品開発を進め、需要を取り込んだ。

一部の人がわが国の外食料金が安いと感じる一因として、デフレ環境下での企業の取り組みが実績を上げていることは重要だ。大手外食チェーンで食事をした印象を海外から来日した知人に尋ねると、「料金が高く、満足できるレストランは多い。一方、日本では低価格、かつ、味もよい外食チェーンが多いことに驚く」との印象を口にしていた。

同時に、デフレ以外の要因があることも忘れてはならない。欧州などへの旅行が好きな人の中にも、国内の外食料金はかなり安いと感じる人がいる。その背景には、ユーロなどの為替レートの影響、観光地であるがゆえの供給価格の高さなど複数の要素が影響している。

■コストの低減と消費者の満足度の両立

具体的に、どのようにして大手外食チェーンなどが低価格での飲食サービスの提供に取り組んだかを確認しよう。

まず、低価格戦略を進めるためには、材料費、店舗などの賃借料、人件費などの抑制が欠かせない。正社員ではなくアルバイトの登用などによって人件費の抑制が目指されていることは言うまでもないだろう。さらに、材料費を抑えるために、大手外食チェーンの中には、自社の農場を運営し、野菜の種子の品種改良にまで取り組み、コストの低減と消費者の満足度の両立を目指す企業もある。

店舗運営にも秘訣(ひけつ)がある。シンプルに考えると、店舗の床面積に占める厨房の割合を抑えることができれば、その分、客席を増やすことができる。そのために重要なのが、効率的に調理を行う仕組みを整え、厨房での作業に従事する人員数を減らすことだ。

中には、厨房を担当する人数は1人で十分と考えている企業もある。調理時間を短縮し、一定時間により多くの品物を提供できれば、資産の回転率を高めることができるだろう。それは、収益性の改善に重要だ。

■外食チェーンの徹底した合理化

大手外食チェーンの店舗では、実際に調理をしないケースが多い。たとえば、サラダの注文を受けると、厨房ではカットされた野菜をサラダとして盛り付け、ドレッシングをかけるだけでよい。カット野菜の鮮度を保つための最適な温度管理を徹底して輸送網を整備する企業もある。

また、ハンバーグなど加熱調理が必要なものは、ひき肉をこねて焼くのではなく、事前に調理されたハンバーグをレンジなどで加熱すればよいようになっている。このようにして、省人化と提供時間の短縮が目指されている。

わが国の外食産業の一角では、徹底した合理化を進めることによって、調理担当者の経験などが違っても、常に一定の品質の商品が提供され、相応の満足度が得られる仕組みが実現されている。各企業がそうしたビジネスモデルを構築できたことが、「大手外食チェーン店のコストパフォーマンスは高い」との消費者の評価を支えている一因といえるだろう。

■背景には明確なセグメンテーション

見方を変えれば、大手外食チェーンが低価格路線を強化した背景の一つには、明確なセグメンテーションがある。セグメンテーションとは、多種多様な価値観を持つ消費者を、年齢、支出への考え方、好みなどの観点からいくつかの塊に分けることをいう。その上で、企業は家族連れ、社会人など、具体的なターゲットを絞る。

デフレ環境の中で低価格などを重視して成長してきた外食企業は、価格が低く、かつ、一定の満足度を求める消費者が増えると考え、その考えに基づいた事業戦略を策定した。その具体的な取り組みが、以上で記した厨房の省人化や省スペース化、自社独自の農場運営や物流システムの構築につながり、家族連れなどの支持を獲得した。今後も各企業は低価格路線を推進するために、IoT(モノのインターネット化)の技術を用いた在庫管理や、調理の方法の改善など、さらなる合理化・効率化に取り組むだろう。

このように低価格を重視する企業の背景には、その企業独自のセグメンテーションがある。セグメンテーションが異なれば、提供価格などは異なる。低価格の外食チェーンが人気を集めていることは事実だが、それがわが国の外食産業のすべてではない。

■長期存続を目指すために

わが国には、低価格ではなく相応の料金を支払い、きめ細かなサービスや高級食材を楽しみたい消費者もいる。実際、東京の銀座や六本木、大阪の繁華街などに行けば、高級料亭、レストランも多い。予約を取るのが難しいお店もある。

新興国の経済成長に伴い、海外からの観光客の中には、わが国のおもてなしなど、高付加価値のサービスや食事などを楽しむために、多少の支出は気にしない人も多いと聞く。また、社会や自然環境に配慮した“エシカル”な食品を買い求める人もいる。

このように、消費者のニーズは多様化している。環境変化をとらえ、人々の支持を得られる商品やコトの創造に取り組むことは、大手外食チェーンをはじめとする企業が長期存続を目指すために欠かせない要素だといえる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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