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コロナ禍で遂に迎える本当の地獄…タワマンを購入した共働き夫婦の末路

プレジデントオンライン / 2020年4月17日 11時15分

晴海埠頭で建設が進み、完成が近い2020年東京五輪・パラリンピックの選手村=2019年11月13日、東京都中央区[時事通信社ヘリより] - 写真=時事通信フォト

■タワマンになるはずだった選手村の行方

東京五輪の1年延期が正式に決まった。感染の蔓延が続きいまだ終息の兆しが見えないコロナ禍の現状を鑑みれば延期はやむなしの選択であることは言うまでもない。それどころか来年7月23日に確実に開催される見通しすら現時点では立っていないというのが正直なところだ。

五輪の延期で騒がれ始めたのが中央区晴海に建設された五輪選手村を五輪終了後にマンションに改装、最終的には賃貸1487戸、分譲住宅4145戸の新しい街が誕生するはずだった「HARUMI FLAG」の行く末である。昨年5月から始まった住宅分譲はすでに900戸あまりの住戸で契約を締結しているという。入居開始予定日は2023年3月であるが、五輪開催の延期は、終了後の建物内の改装、竣工、引き渡しのスケジュールに当然影響を与えることになる。仮に入居開始も1年程度遅れることになれば、すでに契約している顧客からのクレームの殺到は必至であろう。

実需として購入した顧客はこれからの人生で起こる様々な出来事を想定して動いている。子どもの進入学、勤め先の都合、そして何よりも人生を賭して買うことから組む住宅ローンの金利は建物引き渡し時点での金利が適用されるため、入居開始の遅れは多くの不都合を生み出すのである。

■新築というよりもはや中古マンションに

デベロッパーサイドでは、改装工事を分譲した住戸部分に限定したうえで工期を前倒しにするなどの対応を検討中と聞くが、何しろ大規模団地での工事である。現在までのところどのように対応するかは検討中だという。今後は計画の頓挫から契約の解除を申し出る顧客も出ることが予想される。

仮に来年になってもコロナ禍が収まらず、五輪が再延期などになると事態はさらに深刻になる。今から4年、5年も先の引き渡し、入居開始ともなるともはや「新築」というよりも築5年の中古マンションのリノベーション物件の雰囲気すら出てくることになる。ましてや小池百合子都知事が言及したように今後パンデミックが発生した場合に、すでにできあがっている選手村宿舎を軽症者用の退避施設に指定したあかつきには、マーケットではほとんど「事故物件」として扱われてしまう可能性すら出てくるだろう。

いずれにしてもこの巨大戦艦ともいえる「HARUMI FLAG」の先行きは全くの視界不良の状態に陥ったといえそうだ。

タワーマンション

■販売を続けること自体がリスクになる

さて、こうした状況下で今後湾岸エリアのタワーマンションマーケットはどうなっていくのだろうか。状況はあまり芳しいものとはいえなさそうだ。

まずは短期的には「HARUMI FLAG」の販売苦戦が新築のみならず中古の販売にも大きな影響を与えそうだ。「HARUMI FLAG」の販売価格は近隣相場の2割から3割安い水準で販売され話題となったが、第1期販売の平均競争率は2.6倍。即日完売との発表となっているが、約600戸もの大量販売で平均競争率2.6倍という数値は、実際にマンション販売をやっているプロの目からみれば、全戸の引き渡しが無事終えられるかどうかはなはだ怪しい倍率だ。実際に20~30戸売れ残ったとの噂も出ている。

今年3月からスタートするはずだった第2期販売は6月以降に延期されることが発表されているが、販売担当者は大いに悩んでいることだろう。

なぜなら五輪延期のスケジュールこそ発表されたものの、本当にスケジュール通りに開催されるか全く見通しがつかない中、さらに販売を続けていくことのリスクを考えざるをえないからだ。また、開催されたとしてもせっかく日本人みんなが期待に胸膨らませてきた大イベントにコロナという「ケチ」がついてしまったために、果たしてこれからも五輪レガシーという冠がその輝きを保ち続けることができるのか、不透明感が増しているともいえるからだ。

最悪、販売が苦戦して第一期よりもさらに価格を下げざるをえない状態になれば、湾岸エリアのマンションマーケットに大きな影響を及ぼすことになるだろう。

■タワマンはいうまでもなく「三密」状態

次に懸念される要素が五輪を延期に追いやった新型コロナウイルスが人類に突き付けた挑戦状である。パンデミックを防ぐために国はいわゆる「三密」の状態にならないように呼び掛けている。三密とは「密集」「密閉」「密接」を意味する。この三密は実は湾岸に限った話ではないがタワマンにはすべて備わっているのである。

タワマンは一つの建物に数百戸から1000戸を上回る住戸が「密集」した建物である。住民たちが同じ建物の中で生活することを余儀なくされるのがタワマンだ。そしてその密集度たるや、どんな住宅よりも高いものであることは容易に理解できよう。

さらにタワマンは建物内の「密閉」性が極めて高い建物である。ほとんどのタワマンの各フロアにあるエレベーターホールや共用廊下には窓がなく、密閉された空間である。住戸も共用部側に窓がないために風通しの悪いものが多い。ウイルスが好む空間がタワマンには用意されているのである。

タワマンは同じ建物内に数多くの住民が住んでいる。特に朝の通勤時間帯になるとタワマン内のエレベーターはどれも出勤する住民や学校に通う生徒たちで満杯になる。途中階だとエレベーターに乗れない住民まで出るタワマンは多い。そしてタワマンは高層であるため1階に降りるまでの時間が長い。毎朝毎夕、住民たちはこのエレベーター内で住民同士が「密接」な空間を共にすることになるのである。

都内での新型コロナウイルス感染者数は増え続けている。この中にタワマン居住者が含まれていれば、数百戸から1千戸が住戸を共にするタワマン全体を消毒することになるはずだ。こうした状況が露わになると、今後タワマン人気が急速に萎んでいくことが懸念される。

■湾岸タワマンは価格暴落の危機に

次に心配されるのが、湾岸エリアのタワマン所有者に多いとされるパワーカップルの行く末である。パワーカップルは夫婦共働きで夫、妻ともに年収が700万円を超えているカップルを指す。

リーマンショックが金融発の不況であり、全世界の産業に影響を与えるものではなく、不況ではあっても経済活動そのものが機能しなくなったりなくなったりするものではなかったのに対して、今回のコロナ禍は世界中の全産業に甚大な影響を及ぼし始めている。

パワーカップルが勤めている大企業でもおそらく多くは今回のコロナ禍の影響から免れるところは少ないであろう。今後ボーナスの減額はもちろん基本給与の引き下げなどが発生しないとも限らない。ひどい場合にはリストラされて職を失う危険だって生じるかもしれない。夫婦でそれぞれ目いっぱいの住宅ローンを組んで湾岸タワマンを買った夫婦の中には今後ローンの支払いに窮するところも出てくるだろう。返済に苦しみ、とにかく売却を急ぐために売りに出すことも考えられる。

また湾岸タワマンは中国をはじめアジア系の投資家が多く所有していることでも有名だ。彼ら投資家たちは、世界中の不動産のみならず、株式、債券など多くの金融資産を持っている。東京五輪開催による五輪レガシーによる値上がりを見込んで東京湾岸のタワマンを購入している投資家も多い。ところが、五輪レガシーどころか本当に開催されるのかも危うい状況になり、金融商品でも多額の損失を計上するにいたって、資産処分に走る可能性も大いに考えられる。

タワマンの欠点はこうしたマーケット下落局面になると、同じ棟からたくさんの住戸が一斉に売りに出されることだ。一時に多くの「売り住戸」が出てしまうということは、価格の維持が難しくなることを意味する。早く売りたい売主同士が疑心暗鬼に駆られて売り急ぐ。そして一人でもマーケットを無視した超安値で売り抜けを図ると、それが呼び水となってさらに価格が下がる悪循環に陥りやすいのだ。

■テレワーク浸透でタワマンの価値も変わる

そもそも今回のコロナ禍で多くの企業が図らずも体験したのがテレワークだ。機械やソフトの使い方がわからないという初歩的な問題も喧伝されたが、実は多くの企業で意外にもテレワークで仕事ができてしまうことに気づかされたはずだ。またひとつのオフィスに全社員を「密集」「密閉」して「密接」な仕事をさせることのリスクを実感した企業も多かったと聞く。今後、都心オフィスはヘッドクォーターだけにして、テレワーク中心の勤務体系に移行する企業が増えてくれば、これまでの「会社まで直通40分」だの「駅徒歩5分以内」などといっていた「会社ファースト」の住宅選びにも変化が生じてくるかもしれない。

住宅に対する価値観の大変革だ。そんな環境変化が生じた場合、果たして三密空間であることに加えて地震や津波、台風による水害の危機までが懸念される湾岸タワマンの資産価値は維持されるのだろうか。コロナ禍は湾岸タワマンマーケットを大きく揺さぶるとんでもないものである可能性も否定できないのである。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研社長
1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、89年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。09年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。15年オラガ総研株式会社設立、以降現職。著書に『なぜ、街の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(ともに文春新書)など。テレビ、新聞などメディア出演多数。

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(オラガ総研社長 牧野 知弘)

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