子供のアトピー性皮膚炎で悩む親に伝えたい最新医学の知恵
プレジデントオンライン / 2020年5月7日 9時15分
※本稿は、堀向健太(文)青鹿ユウ(マンガ)『子どものアトピー性皮膚炎のケア』(内外出版社)の一部を再編集したものです。
■病院で「家族のアレルギー歴」を聞かれた
■遺伝には効果的な予防法が見つかっている
※「P35参照」とある報告の出典は、厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研究」(主任研究者:山本昇壯)平成12~14年度総合研究報告書2003。
■研究が進んでいなかった時代の話が残っている
お子さんがアトピー性皮膚炎と診断されると、「もしかして自分のせいでは……」とご自身を責めてしまう保護者の方もいるかもしれません。
例えば、妊娠・授乳中の食べ物のせいかもしれないと思っている方もいるでしょう。いまだに、そのような説明をする医療者もいます。しかし、後で説明しますが、妊娠・授乳中の食事は、お子さんのアトピー性皮膚炎の発症には関係しないという研究結果が出ています。昔は現在ほど研究が進んでいなかったため、医師の指導もまちまちな部分があり、まだ一部が残っています。そして、様々な民間療法や迷信も残っているようです。
お子さんがアレルギーを発症したのは誰のせいでもありません。でも、私が断言するだけでは、不安は消えないでしょう。そこでよくある説について、ひとつずつ解説します。
■妊娠中の「小麦や卵」が原因ではない
「お母さんが妊娠・授乳中に、小麦や卵、ピーナッツなどの代表的なアレルゲンを食べると、子どもがアレルギーを発症しやすくなる」という説がありますが、すでに否定されています。
確かに一昔前までは医療機関でも「妊娠・授乳中は、卵やピーナッツを除去しましょう」と指導されることがありました。アトピー性皮膚炎のある子どもの血液検査をすると、食物やダニに対して感作されていることが多いため、これらが発症の原因と思われていたからです。
しかし、現在では、妊娠・授乳中の除去食はアトピー性皮膚炎の予防にはならないことが多くの研究で明らかになり、推奨されなくなりました(※1)。むしろ妊娠・授乳中に、お母さんの栄養が偏ると、子どもが小さく生まれやすくなることもわかってきたのです。
最近まとめられた子どものアレルギー発症に関連する妊娠中の要因対策としては、喫煙を避け、アルコールを控え、魚や発酵製品をできたら定期的に食べる、そんなところです(※2)。
つまり、バランスのよい食事を心がけておけばいいのです。
■「掃除が足りないからアトピー」とは言い切れない
一方、環境整備に関してはどうでしょう。アトピー性皮膚炎の子どもの多くが、ダニなどに感作されていることは確かです。「すでに発症しているアトピー性皮膚炎」に対して、ダニを減らすような環境整備により症状が改善したという報告もあります(※3)。しかし、アトピー性皮膚炎の発症を予防することに関しては、多くの研究結果をまとめると明らかな効果は得られていません(※4)。ですから、発症してから掃除をするのは推奨できますが、掃除が行き届いていないからアトピーになったとは必ずしもいえません。
出産時のお母さんの不安が子どものアトピー性皮膚炎の発症に関係しているのではないかという報告もあり、私はストレスを減らせるように配慮するほうがいいのではないかと思っています(※5)。
■母乳育児もアトピー発症を減らす効果は乏しい
「母乳育児ならアレルギーになりにくい」という説もありますが、本当でしょうか。
最近、ベラルーシの健康な乳児1万7046人に対して、母乳栄養を推進するグループ、今まで通りにケアするグループに分かれてもらい、16歳までみていっても、前者のアトピー性皮膚炎が少なくなることはなかったと報告されています(※6)。
もちろん、完全母乳栄養は乳児期の死亡率を減らすという報告もありますし(※7)、母乳栄養を否定するものではありませんが、少なくともアトピー性皮膚炎の発症を減らす効果は乏しいことがわかってきたのです。
ましてや「2歳まで母乳だけで育てるとアレルギーを予防できる」といった説には根拠がありません。子どもは生後5~6カ月を過ぎると、母乳だけでは栄養が不足しますから、離乳食を開始することをおすすめします。もちろん、きちんと食事を摂ったうえで母乳を続けるのはかまいません。子どもが望むだけ与えても大丈夫です。
そして、「離乳食の開始を遅らせるとアレルギーを予防することができる」という説も、いまだに耳にします。しかし、最近の報告では、卵やピーナッツの開始を遅らせると、かえって食物アレルギーの発症が多くなることがわかってきました(※8)。そのため、2019年に改訂された「授乳・離乳の支援ガイド」では、卵黄は生後5~6カ月から開始するよう明記されています(※9)。
■保湿剤をしっかり塗ることが、予防になる
ここまでを読んで、「母の除去食、環境整備も母乳栄養も効果が薄い。じゃあ、遺伝が強いと、どうしようもないんだ」と思われたかもしれません。でも、そんなことはありません。
2014年、私が参加した次の報告が発表されました。日本で生まれた赤ちゃんに、新生児期から保湿剤をしっかり塗るとアトピー性皮膚炎の発症が少なくなることがわかったのです(※10)。しかも、その効果は「乾燥しやすい体質」があるほうがより高いという結果でした。遺伝的な素因があるほうが、保湿剤によるアトピー性皮膚炎の発症予防効果を強く感じることができるということですね。
一方、2020年に海外の大規模な研究が発表され、保湿剤によるアトピー性皮膚炎の予防効果は明らかにできなかったという結果でした。しかし、保湿剤の塗布が1日1回であったり、保湿成分が含まれていない保湿剤が使用されていたり、入浴剤で代用していたり、本当に保湿剤を塗っていたかどうかのデータが不十分だったりしました(※11、12)。
今後、保湿成分を含む保湿剤を1日2回きちんと塗ることでアトピー性皮膚炎が予防できるかどうかの大規模な研究結果が発表される予定です。私は、今までの経験から保湿剤塗布での予防効果は期待できると考えています。
<参考文献一覧>
※1 Evid Based Child Health 2014; 9:447-83.[PMID: 25404609]
※2 Expert Rev Clin Immunol 2017; 13:15-26.[PMID:27417220]
※3 Lancet 1996; 347:15-8.[PMID:8531541]
※4 Pediatr Allergy Immunol 2015; 26:646-54.[PMID:26235650]
※5 Pediatr Allergy Immunol 2017; 28:144-51.[PMID:27801949]
※6 JAMA Pediatri 2018; 172:e174064.[PMID:29131887]
※7 Acta Paediatr 2015; 104:3-13.[PMID:26249674]
※8 J Pediatr 2017; 184:13-8.[PMID:28410085]
※9 「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」(2020/2/20アクセス)
※10 J Allergy Clin Immunol 2014; 134:824-30.[PMID:25282564]
※11 Lancet 2020. [Epub ahead of print][PMID: 32087126]
※12 Lancet 2020. [Epub ahead of print][PMID: 32087121]
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日本アレルギー学会専門医
日本アレルギー学会専門医/指導医/代議員。小児科専門医/指導医。鳥取大学医学部医学科卒業。2014年、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防の介入研究を発表。2016年Blog:「小児アレルギー科医の備忘録」を開設。
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漫画家
著作に『今日から第二の患者さん——がん患者家族のお役立ちマニュアル』(小学館)など。鹿ログ~第二の患者と育児とマンガと~
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(日本アレルギー学会専門医 堀向 健太、漫画家 青鹿 ユウ)
外部リンク
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