安倍首相の会見には「民主党政権時に登録した記者」しか出られない

プレジデントオンライン / 2020年6月5日 15時15分

安倍首相の記者会見で挙手をする記者。司会進行をする内閣広報官から指名されれば質問できる。 - 写真撮影=小川裕夫

いま首相会見で質問するには、会見を主催している「記者クラブ」への登録が必要だ。大手メディアに所属していない場合、そのハードルは極めて高い。フリー記者として首相会見に出続けている畠山理仁氏は「現在フリーランスの登録者は11人(カメラ1人、ペン記者10人)で、いずれも民主党政権時に登録した記者たちだ。会見の主催者が本当に記者クラブなのであれば、こうした理不尽な仕組みはあらためるべきだ」と訴える――。

■「筋書き」ありきの首相会見

新型コロナウイルスの感染拡大以降、安倍晋三首相の記者会見に注目が集まっている。悪くない。わが国の首相が何を考え、何を話すかを国民が注視することは大切だ。私自身もそう考え、できる限り首相の発言を現場で聞こうと首相官邸に足を運んできた。

しかし、私が現場で見てきた風景と、メディアを通じて会見を見た人が抱く感想との間には大きな隔たりがある。その原因は、多くの人が「首相会見の実態」を知らないからだと私は考えている。

もちろん知っている人もいる。しかし、知らない人もいるはずだ。だから最初に書いておく。首相官邸で行われる記者会見には一定の「筋書き」がある。大部分が「予定調和の儀式」になっていると言ってもいい。

信じられない人もいるかもしれないが本当だ。これは安倍首相自身も国会の場で認めた事実である。3月2日の参議院予算委員会で、立憲民主党の蓮舫参議院議員が「首相会見に関する質疑」を行った。安倍首相はこの時、「あらかじめ記者クラブと広報室側である程度の打合せをしている」ことを認めたのだ(※1)

※1:「国会会議録検索システム」(第201回国会参議院予算委員会第4号令和2年3月2日)

首相会見が一種の「儀式」であることは、これまで公然の秘密だった。しかし、この時の質疑では、安倍首相の口から首相会見を語る上で無視できない重要発言が飛び出した。

「いつもこの総理会見においてはある程度のこのやり取り、やり取りについてあらかじめ質問をいただいているところでございますが、その中で、誰にこのお答えをさせていただくかということについては司会を務める広報官の方で責任を持って対応しているところであります」

■司会進行は官邸側に丸投げ

この安倍首相の発言には重要なポイントが2つある。一つは記者クラブから質問の事前通告を受けていると公式に認めたこと。もう一つは、質問者を決めるのは官僚である内閣広報官だと自白したことだ。

安倍首相の会見で質問する筆者。(写真撮影=小川裕夫)
安倍首相の会見で質問する筆者。(写真撮影=小川裕夫)

ここでみなさんに大切な視点を提示したい。それは、首相官邸で行われる記者会見は「誰が主催しているのか」ということだ。

首相ではない。官邸でもない。新聞・テレビ・通信社など、いわゆる大手メディアの記者たちで構成される「記者クラブ」である。

首相官邸にある記者クラブの正式名称は「永田クラブ(内閣記者会)」という。普通に考えれば、主催者は記者会見を仕切る立場にある。しかし、現状を見る限り、内閣記者会は主催者と呼ぶには程遠い。それは記者会見で一番重要な司会進行を、一官僚である内閣広報官に丸投げしていることからも明らかだ。

これが何を意味するかは、記者であれば容易に想像できるだろう。想像できない記者は人が良すぎる。時には報道側が厳しく監視すべき対象になる官僚を甘く見すぎている。官僚と記者は、そもそも立場が違う。官僚は決して「報道側」の人間ではない。官僚を無条件に信用することは、権力監視の役割を担う記者として、あまりに無防備すぎる。

一般読者のために、もう少しわかりやすく解説する。官僚が質問する記者を指名することには大きな問題がある。それは、「権力側にとって不都合な質問をする記者を恣意的に排除できる可能性」をはらんでいるからだ。

■主催者は本当に記者クラブなのか

首相会見の実態は、同じ記者職にあっても知る者が少ない。国内には多くの記者クラブが存在するが、それぞれの記者クラブは「独立した存在」であるからだ。

当然、記者クラブによって実情は大きく異なる。厚生労働省の記者クラブ(厚生労働記者会)のように、フリーランスの記者が大臣会見に出席することを記者クラブ側が主体的に認めたケースもある。

一方、外務省の記者クラブ(霞クラブ)のように、権力側が主導して会見をオープンにしたケースもある。また、防衛省、警察庁、宮内庁のように、いまだに記者クラブ限定の「閉ざされた記者会見」を続けているケースもある。

残念ながら、内閣記者会は会見のオープン化に消極的だと言わざるを得ない。少なくとも、フリーランスの記者たちが会見のオープン化を求めても、「同じ報道の人間」として加勢することはなかったはずだ。

もし、内閣記者会が会見のオープン化に向けて尽力した証拠があるならば、ぜひ提示してもらいたい。それならば私は共闘できる。報道側の人間が対峙すべきは、情報公開に後ろ向きな権力側だと私は考えているからだ。

公的機関が保有する情報は、納税者たる国民のものだ。公的な立場にある首相の言葉も同じはずだ。その言葉を引き出すための記者会見は、もっとオープンなものであるべきではないだろうか。

■記者同士が対立しては権力側の思うつぼ

私はいま、内閣記者会のみなさんの心に直接語りかけている。記者は権力者側に立つべきではない。ぜひ、軸足を国民の側、視聴者や読者の側に置くことを思い出してほしい。

記者は成果物である報道で競争すればいい。官邸で開かれる公的な記者会見への参加をめぐって記者同士が対立している現状は、権力側の思うつぼだ。「国民の知る権利」に資する共闘であれば、必ず多くの人たちが味方になってくれるはずだ。

そもそも、官庁が庁舎内に「家賃無料の記者室」を提供している理由は、記者クラブの向こうに国民が見えるからではなかったか。

ここまで言ってもわからない記者もいるだろう。そんな記者には、ぜひ、「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」を読み直してもらいたい。

※2:日本新聞協会『記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解』
日本新聞協会『記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解』

この名文には、「記者クラブは『開かれた存在』であるべき」「より開かれた会見を追求していくべき」という崇高な理想がふんだんに盛り込まれている。

この見解が最初に示されたのは2002年のことだ。2006年には一部が改定されている。最新の見解からすでに14年以上が経過した今、実態はどうなっているだろうか? 私は記者クラブに所属する記者のみならず、多くの人に真剣に考えてほしいと思っている。

■会見参加者に課された高いハードル

内輪話はここまでにして、ここからは一般の読者に首相会見の実態を説明したい。まず念頭に置いてほしいのは、これは決して私の自慢話ではないということだ。むしろ、首相会見の「恥ずかしい実態」の暴露である。

今、首相会見に出席できる記者は極めて限られている。「内閣記者会以外の記者」にとって、首相会見に参加するためのハードルが異常に高いからだ。私のようなフリーランスの記者が首相会見に参加するためには、まず、官邸報道室が管理する「事前登録者リスト」に名を連ねる必要がある。その条件は驚くほど厳しい。

第1の条件は「日本新聞協会、日本専門新聞協会、日本雑誌協会、日本インターネット報道協会が発行する媒体に署名記事等を提供し、十分な活動実績・実態を有する者」だ(※2)

※2:官邸ホームページ『新型コロナウイルス感染症に関する安倍内閣総理大臣記者会見への参加について』

そして第2の条件は、前述した団体加盟社からの「推薦状(証明書)を提出すること」となっている。この「推薦状(証明書)」には大きな問題がある。フリーランスの記者にとって、出版社は単なる取引先の一つにすぎない。そこに「会見参加のための推薦状」を頼むのは無理がある。出版社にとっては、社外の人間の連帯保証人にさせられるようなものだろう。

私は「推薦状」がないことを理由に事前登録者リストに入れない記者を少なくとも2人知っている。いずれも記者歴27年の私よりもキャリアが長く、複数の著書があるジャーナリストだ。

■10年たっても変わらない閉鎖的な記者クラブ

私はこのような不条理を見過ごせない。自分だけが参加して後ろ手でドアを閉め、「名誉白人扱い」されることには耐えられない。そのため、今まで以上に幅広い記者が記者会見へ参加できるように何度も働きかけてきた。2010年6月8日には、当時の菅直人首相の記者会見で異常な実態を訴えたこともある(※3)

※3:官邸ホームページのアーカイブ「菅内閣総理大臣記者会見」

しかし、いまだにオープンな会見は実現していない。会見の主催者である内閣記者会が実現のために動いたという話も寡聞にして聞かない。これは報道の場に身を置く者として、極めて恥ずかしい状態だと私は考えている。

また、たとえ「事前登録者リスト」に登録できた者でも、参加申込時には毎回「直近3カ月以内に各月1つ以上記事等を掲載していることを示すもの」を添える必要がある。条件は署名記事の提出だけではない。記事内容にも「総理や官邸の動向を報道するものに限る」という条件がつけられている。

※5:会見参加申込書
会見参加申込書

誰でも「初めての取材」はあるはずだ。官邸側が取材への扉を閉ざしておきながら、報道内容を限定する理由が理解できない。まさか取材もせずに書き飛ばした記事を3本書いてから官邸を取材しろということなのか。

■フリーランスの登録者は11人だけ

こうした理不尽なハードルがあるために、フリーランスの記者で「事前登録者リスト」に載っている者は現在11人(カメラ1人、ペン記者10人)ほどしかいない。そして驚くべきことに、2012年12月26日に第2次安倍政権が発足してからは、一人も新しい登録者がいない。

いま、「事前登録者リスト」に名前を連ねているのは、全員が民主党政権時(首相会見が一部オープン化された2010年3月~安倍政権発足前)に登録した記者たちである。

7年以上も新規参入者を認めない記者会見は「異常」というしかない。これでも会見の主催者である内閣記者会は“自分たちは参加できている”と完全無視を貫き通すのだろうか。

報道に携わる者としての矜持が問われている。

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畠山 理仁(はたけやま・みちよし)
フリーランスライター
1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。2017年には『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社文庫)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)などがある。ウェブメディア「よみタイ」では選挙エッセイ「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」を連載中。 ■twitter: @hatakezo ■ブログ:http://hatakezo.jugem.jp/

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(フリーランスライター 畠山 理仁)

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