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コロナ後の資産運用は「株式・金・円3分割」にするべき理由

プレジデントオンライン / 2020年7月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mattabbe

■「株式が最も報われる投資」だった、今までは

これまで多くの個人は、資産運用の際には「株式」と「債券」を中心に据えてきた。世界経済が成長を続けるという前提に立つのであれば、長期的には株式投資が最も報われることになるだろう。

このことを理論的に証明したのが、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授のジェレミー・シーゲル氏である。

シーゲル氏は200年以上にわたる米国株の長期リターンを研究し、株式の長期投資が最も儲かるとの結論に至ったという。そして、「人々が努力する限り、それは企業活動にとってプラスとなり、そのプラスは企業の利益を生み出し、その利益は株価を押し上げる」と結論付けている。

■1802年に投資した米国株1ドルが150万ドルに……

シーゲル氏によると、1802年に米国株に1ドルを投資していれば、現時点で150万ドルになっているという。これは、217年間で米国株が平均6.7%上昇したことを示している。この数値は、この間の米国のインフレ率である平均1.4%を控除しており、名目の株価成長率は8.1%である。

一方、米国長期債に1ドル投資していれば、現在価値は2000ドル、金は3.4ドル程度にすぎないという。つまり、国債と金の場合の実質利回りは、年間平均でそれぞれ3.5%と0.6%でしかないということである。

数値で見れば、株式投資と債券・金への投資のリターンはあまりに違う。しかし、米国株式市場はかなり特別である。日本株への投資では、このようなリターンは得られない。現在の米国株は、一部のハイテク企業に資金が集中し、株価上昇の大半がこれらの企業の成長で説明できる状況である。

■明らかに鈍化し始めた米国の経済成長率

今後も米国が成長するかは誰にもわからない。ひとつ言えることは、経済成長率は明らかに鈍化しているということである。

また、米国株のリターンそのものも低下してきている。1920年代以降のS&P500の投資リターンを見ると、1920年代以降で20年間保有した場合の年率の平均リターンは11.0%だった。しかし、直近20年の年率の平均リターンは5.6%に低下している。

世界の株価指数で最も大きく上げているといわれる米国でさえ、1年間のリターンはいまや5.6%でしかないのである。シーゲル氏が指摘する、過去217年間での平均リターンである6.7%と比較しても明らかに低下してきている。

■米国株のリターンも低下が続く

現在では、米国の主力企業で構成されるS&P500に投資をしても、以前ほどには収益を得るのが難しくなってきている。

これは、米国の潜在成長率が以前の3.5%から現在の2.0%に低下していることが背景にある。世界的投資家であるウォーレン・バフェット氏は、「個別銘柄への投資がわからなければ、S&P500に投資すればよい」と言っているが、私たちは徐々にリターンが低下しているという事実に目を向けておく必要がある。

シーゲル氏は、米国も高齢化しているものの、インドなどの途上国の成長が今後の米国の成長を助けるとしている。私も以前から、インドが今後最も大きく成長し得る新興国であり、投資先として選別すべきとしてきた。はたしてそれでリターンの低下を補えるかは、しっかり追っていく必要がある。

■リターンの下落をカバーする「金」

新型コロナウイルスによって停滞した世界経済を支えるため、各国の政府・中央銀行が大量の資金供給を行ったことで市場にマネーが溢れ、今後、通貨の価値は下落する一方になるだろう。

債務不履行(デフォルト)は政府・中銀が肩代わりすることで回避される可能性があるものの、その結果、通貨の価値はさらに大きく棄損するだろう。ドルの基軸通貨としての価値が低下し、これまでとはまったく異なる枠組みが構築されていく。

世界情勢が大きく変化していくに従い、今後の資産運用はこれまで通り株式を中心としながらも、低金利でリターンの減った債券の役割は徐々に「金」に置き換えられていくと考えられる。

■金に対して価値が上昇した通貨は「円」だけ

しかし日本の投資家は、金に投資していないように見える。現在の市場リスクを考慮すれば、株式投資を中心に据えるとしても、金と現金(円)の比率をこれまで以上に高めることが不可欠であろう。ドルの金に対する価値は50年で50分の1以下になったが、円の金に対する価値はこの50年で13倍になっており、むしろ上昇しているからだ。

その意味では、金のみならず、円も今後は貴重な資産になるだろう。意外に感じられるかもしれないが、ひとつの事実がある。主要通貨の中で、この50年で金に対して価値が上昇しているのは円だけなのである。

日本では、外貨預金などでドルを投資先に選択している投資家が多いだろうが、歴史を見ればそれはほとんど意味がなく、むしろ資産を減らす可能性のほうが高い。通貨価値という観点に立てば、ドルを買うよりも、むしろ円を保有しておいたほうがよい。これは、ユーロやポンド、豪ドルなど主要通貨に対しても同じである。

■株式・金・円の3分割法を

いまや各国の金利差はほとんどない。金利を投資対象にする時代ではなくなっているという点も、すでにゼロ金利になっている円には有利に働くだろう。債券よりも金利の付かない金や、もともと金利の低い円が相対的な優位さを持つわけである。

このように考えると、今後資産ポートフォリオを組む際には、たとえば株式・金・円を3分の1ずつ保有するくらいの大胆な配分でもよいだろう。そのうえで、長期的な景気サイクルなどを考慮し、大きく価値が低下したものを買い増し、保有比率が一定になるよう調整(リバランス)するようにすればよいだろう。

メモに3つの小さな金色のバー
写真=iStock.com/Vitoria Holdings LLC
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vitoria Holdings LLC

債券などにも投資したいと考える人がいるかもしれないが、それらはあくまで少額とすべきだ。債券がメインの投資対象になる時代はもはや終わったのである。

■株式は個別銘柄よりETFへ

株式については、個別銘柄への投資を志向する人もいるだろう。それは好みの問題である。

ただし、個別企業には倒産リスクや企業不祥事のリスクがある。そのため、個別企業への投資に不案内であれば、主要株価指数に連動するETF(上場投資信託)に投資すればよい。そのうえで、株価が大きく下落したときに、現金を投入して株式に資金を振り向けるなど柔軟に対処すればよいだろう。

ただし、株式投資をする際には、金にも同時に投資することが肝要である。必ずリスク分散を行うようにすることが、リスク軽減につながるのである。

■近年の金のパフォーマンスは良好

さて、投資家はこれから金に何を求めるだろうか。

まずは安全資産としての機能だ。突然の世界情勢の変化などで株式市場が大きく下落するようなときに、資金の逃避先としての機能に期待するだろう。コロナ危機においても、金価格は原稿執筆時点で年初から15%上昇し、大きく値を下げたリスク資産である株式や原油などと比較しても、圧倒的に高いパフォーマンスを示している。

金に関する国際調査機関のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が公表した「戦略的資産としての金の重要性」というレポートでは、過去の金融危機時における主要資産と金のパフォーマンスを比較している。1987年のブラックマンデー、1998年のロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻(債券運用での失敗)、2001年9月11日の米同時多発テロ、2002年の世界経済の失速、2008年のリーマン・ショック、2009年以降の欧州債務危機、2018年の景気減速などが比較対象となっている。

2019年末までのデータを検証したところ、通常の景気拡大期と景気後退期では、金と世界株式の相関係数は「-0.05」および「+0.1」、日本株の代表的な指数である東証株価指数(TOPIX)とは「-0.01」および「+0.1」、世界の債券とはそれぞれ「+0.05」および「+0.2」、日本国債とは「-0.25」および「+0.02」となっている。

つまり、景気がよくても悪くても、金は他の資産とほとんど相関がなく、値動きが異なるということである。これは、株式と金を同時に保有していても、その価格が同じようには動かないことを示している。

■金投資のリターンは?

では、「金投資のリターン」はどうだろう。

金は金利が付かず、配当もないため、保有しているだけではリターンもキャッシュフローも生まない、との指摘がよく聞かれる。しかし、過去20年の金の平均年間リターンは10%程度であり、実際には株式や債券よりも高いリターンが得られている。過去10年および過去5年でも、それぞれ6%および3.5%と堅調である。

前出のシーゲル氏は長期間の株式・債券・金のリターンを調べているが、直近ではむしろ株式のリターンは低下しており、金が高くなっている。これらの数値でも確認できるが、金を保有すれば投資分散効果が得られるのである。

たとえば私たち日本人が円で運用した場合、金を資産の4.13%程度保有すれば、運用パフォーマンスが向上することがわかっている。つまり、金を長期の資産運用に加えたほうがよい、ということである。

■流動性が懸念される時代に金の重要性は際立つ

金市場は規模が小さく、取引がしづらいと思われがちだが、実際には日本株やNYダウ平均株価よりも流動性が高いとされている。2019年の金の売買高は、日次平均で約16兆円もあり、深刻な金融ストレスの状況下でも金の流動性は枯渇しないことがわかっている。

江守哲『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)
江守哲『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)

コロナ危機が発生した2020年3月に株価が急落し、ヘッジファンドや機関投資家が顧客からの解約または追加証拠金(追証)などの要請に応じるため保有資産の売却に動いたときにも、金市場はまったく混乱なく多くの取引を吸収した。市場の厚みは十分証明されている。

すなわち、金融市場の流動性が懸念される事態になったときほど、金の重要性が際立つのである。

一般的に資産運用は、株式と債券が主たる対象になることが多かった。だが、これまで述べてきたように時代は大きく変わりつつある。今後は株式リターンが低下し、金のリターンがそれを上回る時代になる。個人としては資産ポートフォリオの見直しが必須である。

※本稿は、江守哲『金を買え 米国株バブル経済終わりの始まり』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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江守 哲(えもり・てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役
慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事に入社し、非鉄金属取引に従事。1996年に英国住友商事(現欧州住友商事)に出向しロンドンに駐在。その後、Metallgesellschaft Ltd.、三井物産フューチャーズを経て、2007年7月にアストマックス入社。同社でファンドマネージャーに就任。アストマックス退社後、2015年4月にエモリキャピタルマネジメントを設立。ヘッジファンドを中心とした資産運用や株式・為替・債券・コモディティ市場の情報提供などを事業として展開。

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(エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役 江守 哲)

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