「倍返しだ!」トランプ史上最大のピンチ…バイデンが大統領選で政策丸パクリ疑惑

プレジデントオンライン / 2020年7月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawf8

■存在感を徹底的に排除するバイデンの経済政策

7月9日、多くの米国政治ウォッチャーが注目していたバイデン元副大統領の経済政策の発表が行われた。バイデン氏が幼少期を過ごしたペンシルベニア州で行われた演説は、その演説会場に金属工場という舞台装置を選ぶ用意周到さであり、ヒラリーが敗北したラストベルトの工業地帯を強烈に意識したものであった。

今回の肝心のバイデンの経済政策内容はその方向性を欠く玉虫色の政策だったと言える。筆者はこの政策の出し方はトランプ大統領に対抗するために「バイデンの存在感を消す」という戦略の一環として見事であったと思う。

現在、民主党陣営はバイデンを可能な限り露出させない「バンカー戦略」を取っている。バイデンは演説及び対談中の舌禍や物忘れなどが度々指摘されており、その過剰な露出は現在の世論調査上の優勢を崩してしまう可能性を孕んでいる。そのため、コロナ禍を理由としてバイデンは自宅からのインターネット中継以外はほとんど露出せず、大統領選挙としては異例の静かな選挙戦を挑んでいる。

■トランプを独り相撲で苦しめる

一方、トランプ大統領は現職大統領であるとともに、その性格から非常に話題性がある存在だ。ただし、現在はトランプ大統領の性格自体が選挙争点となりつつあり、過剰な露出が逆に支持率低下の致命的な要因となりつつある。したがって、バイデンがあえて目立たない戦略を取り続けることは、トランプ陣営が独り相撲で苦しむ状況を助長する結果を生み出している。

ただし、米国メディアは「バイデンの経済政策」については非常に高い関心を持っており、それが発表される瞬間を待っていたので、その発表イベントが話題になることを避けるのは困難であった。トランプ大統領がバイデン氏に勝っている世論調査上のポイントは「経済」しかなく、そこでバイデン陣営がどのような政策を展開するかについて注目は非常に高かった。そのメディアの関心が高い「経済政策」について、批判も肯定もしにくい玉虫色の政策を打ち出したことは、バイデン陣営の戦略である「バイデン隠し」が想像以上に徹底していることの証左と言えるだろう。

では、バイデン氏が打ち出した経済政策の具体的内容はどのようなものだったのか、「MADE IN ALL OF AMERICA」のキャッチフレーズの下にまとめられた政策の政局上の効果について下記にまとめていこうと思う。その特徴は大きく分けて3つである。

■Ⅰ.トランプ大統領の政策文言の丸パクリ

「Buy American」は今回のバイデン氏が第1に掲げた政策である。これはトランプ大統領の政策文言のパクリであり、バイデンの主張は「同様の政策を更に厳密に進める」というものだ。これはトランプ大統領がラストベルトの有権者狙いで民主党寄りの保護主義政策をBuy Americans政策として採用した経緯があるため、本家民主党のバイデン氏がそのお株を奪い返そうとしていると言えるだろう。

具体的には、4年間で4000億ドルの政府調達を実施することを宣言し、その投資分野はクリーンエネルギー発電分野、インフラ分野、そして戦略産業分野(環境配慮した自動車、医薬品および医療関連製品、AIや通信などのハイテク)などが明言された。また、トランプ政権が導入したBuy American政策の欠点を指摘し、米国調達比率向上・事実上の中国製品排除などの一層の内国産傾向を強める方針を打ち出している。

「バイデンは過去にNAFTAやTPPを推進し、ラストベルトの製造業を衰退させてきた」とトランプ陣営は主張したいところであるが、バイデンの政策は細目の違い(グリーン産業重視など)はあったとしても、トランプ政権が打ち出している政策の方向と実際には大きな違いはない。

■対中政策もトランプに寄せる

また、上記の4000億ドルの他に「Innovation in America」と称して研究開発に対する3000億ドルの大規模な投資も経済政策に盛り込まれている。これは「中国製造2025」に対抗するための米国の研究技術開発に投資するものだ。更に「Stand up for America」や「Supply America」の掛け声の下に、中国の不公正な貿易慣行や知的財産権侵害、そして中国等から自国への製造サプライチェーン回帰などが並んでいる。対中の産業政策に関する方針はトランプ政権と瓜二つのもので、トランプかバイデンかの区別はほぼ無いと言って良い。

したがって、トランプ政権からは「パクリだ!」と批判する以外は批判しづらく、その方向性自体を否定することはトランプ自身の政策の自己否定となってしまう。その結果として、仮にトランプ・バイデンで直接討論になったとしても、やはり「政策の方向性」ではなく「大統領の人格」が問題となってしまう可能性が高まっている。

■Ⅱ.党内左派からの過激な政策の注文の先送り

今回の経済政策の発表に際して、バイデンの経済政策にサンダースらの党内左派の政策がどれだけ並ぶのか、という点も重要なポイントであった。しかし、サンダースらが主張していた政策はほとんど入っていない。

グリーン投資の促進、2050年までの排出量ゼロ、気候変動に対応しない政権に対して炭素税調整を行うなどの強烈な内容は盛り込まれているものの、米国のシェール産業に決定的な打撃を与える水圧破砕法(フラッキング)禁止については盛り込まれていない。水圧破砕法禁止を盛り込むと、オハイオ・ペンシルベニアなどのラストベルトで同項目が争点化してしまうため、左派が求める禁止政策はあえて経済政策に盛り込まれずに見送られている。

米国版の皆保険制度であるメディケア・フォー・オールも入っていない。労働政策、女性支援、マイノリティ支援などの福祉的な要素がある政策は盛り込まれたものの、サンダースやウォーレンの社会保障政策の一丁目一番地である同政策は盛り込まれなかった。あくまで経済政策の公表であることを前提としても、それらについて言及しない点は共和党からの「社会主義批判」を回避する意図があるものと想定される。

■もはや民主党左派的要素で決定的なものはない

そして、コミュニティ・カレッジの無償化や年収12万5000ドル以下世帯に対する大学 4年間の学費免除などは盛り込まれたものの、既存の学生ローンの帳消しは盛り込まれなかった。これも左派がしつこく主張してきた政策であるが、高等教育の税負担化だけが残された形となっている。むしろ、アプレンティス制度(職業教育制度の一環)や貧困地域への投資促進など共和党が推進してきた制度の拡充などもうたわれており、共和党から見ても全否定しにくい内容だ。

つまり、選挙争点になりそうな民主党左派的要素で決定的な要素はほぼなくなっているということだ。環境関連や労働法制強化などについては、共和党保守派は不満であろうが、中道派から見ると一定のバランス感覚があるように見える。

しかし、民主党左派は政権奪取後にイデオロギー色が強い政策を別途粛々と推進するということが予測されるため、これもあくまでも「バイデンが目立たない」という点に配慮していると言えるだろう。

■Ⅲ.トランプ減税の法人税減税を「半分だけやめる」という選択

バイデンの経済政策を目立たなくさせる最大のポイントは法人税21%を28%まで戻すことに演説で言及したことだ。トランプ大統領は35%の法人税率を21%にまで引き下げたので、バイデンはそれを半分だけ元に戻すことを主張していることになる。

その他の減税の見直しについては、所得税最高税率はクリントン政権時代の約40%に戻すものの、左派が求めるそれ以上の大増税には言及しない。そして、キャピタルゲイン税や富裕層税控除については触れるものの、その影響による中間世帯の増税については触れようとしない。

もちろん、共和党側はこれらの法人税減税見直しや資産効果・富裕層課税に対して批判するであろうが、トランプ減税のシンボルである法人税減税見直しがトランプ減税分の半分でしかないことの意味は大きい。この数字であれば共和党内の穏健派などは納得する可能性もあるため、共和党保守派が増税批判を過熱させようとしてもその効果が限定的な状況に留まる可能性がある。

■「トランプじゃなくても良いか」がバイデン陣営の狙い

バイデンの政策は実に「玉虫色」であり、良いも悪いも評価しにくい特徴を持っている。そして、その内容の大半が細かい違いはあるものの、実はトランプ政権と方向性が似通っているのだ。このような政策スタイルを取ることで、有権者に対して「トランプかバイデンか」という選択を迫るのではなく、「バイデンを選ぶ」のではなく「トランプじゃなくても良いか」という判断を促すことがバイデン陣営の狙いであることは明らかだ。

民主党陣営は大統領選挙投票日まで「バイデンを隠し続ける」ことができるのか。とりあえず、経済政策の発表という難問は1つクリアしたと言えるだろう。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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