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「四捨五入すれば自分の責任」ローソンPBデザインで佐藤オオキが考えたこと

プレジデントオンライン / 2020年8月18日 9時15分

nendo代表の佐藤オオキ氏 - 撮影=今村拓馬

ローソンは昨年秋からプライベートブランド(PB)のデザイン刷新を進めている。年内に700点を変える予定だが、今年2月から投入していた納豆や豆腐、食パンなどはネット上で「わかりにくい」との批判を受け、早くもデザインが再変更された。この事態をデザイナーはどう受け止めたのか。デザインを担当した佐藤オオキ氏に聞いた――。

■「竹増さんの即決力は素晴らしいと思いました」

——今回のローソンのPBリニューアルでは、5月頃から「わかりにくい」といった批判がネット上で目立つようになりました。これに対し竹増貞信社長は6月9日にデザイン修正を発表しています。佐藤さんは作ったものをすぐ変えることに抵抗感はありましたか。

いやいやいや。デザインが変わることに抵抗感がないのはなぜか、今考えながら話しているんですけど、これはプロセスをすごく重視してきたからだと思います。PBはローソン自体を表現する商材でもあり、いかに柔軟性とスピードを持って変化させていけるかが重要だと考えています。

そして、今回の新PBデザインは、ローソンとして統一感を生むためのプラットフォームを意識しました。このプラットフォームには、「守り」と「攻め」の要素をもたせています。ローソンの世界観を体現しつつ、購入後の生活空間に馴染むように配慮したデザイン。これを「守り」とすれば、コラボレーションや期間限定商品など、売り場に変化をもたらす商品や次世代のヒット商品の受け皿になるのが「攻め」です。

まずは、「守り」の完成度をいかに高めていくかだと思います。まだ完成度は高くないので、一部の商品をブラッシュアップしていくことで、1年以内にこの完成度を高めていきたいです。

そしてこのプラットフォームをいかに「攻め」に使うか。それは他社のPBだとなかなか採れない戦略だと思います。今回のPBはベージュの地を大きく取ったので、デザイン面の自由度があります。例えば、抹茶を使った限定シリーズであれば上下に緑色の帯をつけるといった仕掛けができます。他にもさまざまなコラボレーションに対応しやすくなります。さらに、今後はシーンを絞り込んだ商品など、背景色をがらっと変えた新商品も進めています。

抹茶シリーズは、L marcheのパッケージに抹茶色のラインを入れ、統一感を出している
画像提供=ローソン
抹茶シリーズは、L marcheのパッケージに抹茶色のラインを入れ、統一感を出している - 画像提供=ローソン

PB全体で700種類を半年で切り替えるわけですから、ミスが一切ないというのは難しい。短期間で今までと方向性を変えるため、なにかしらの弊害は出てしまうかもしれないと思っていました。さらに実際の売り場で起きていることや売り上げを確認しながら、発売後も常に変化させていかなければならない。だから修正がないように最善を尽くしましたが、変更が出てしまうことは想定していました。

むしろ僕としては、竹増さんが判断をして切り替えた、あのスピード感に感動しました。経営のトップが一つひとつの商品の見え方、オーナーさんやユーザーからの声を聞き、精査して優先順位を付ける。優先度の高いものから切り替えていく、あの即決力は素晴らしいと思いました。

■「プラットフォームとしてのデザイン」を作った

——今、具体的にどのようなパッケージ変更を行っているのですか。

納豆とパン、豆腐などから始めています。今回のPBには、「L basic(ベーシック)」と「L marche(マルシェ)」の2つのラインがあります。

ベーシックは生活において基本、定番となるもの。ベージュとグレーの2色で、ベージュは米、パン、牛乳、卵、調味料といった食品、グレーはトイレットペーパー、ティッシュなどの生活用品です。写真や絵がなくてもわかる定番商品ばかりなので、パッケージも文字のみです。

マルシェは冷凍食品、お菓子などです。こちらはベージュの地を大きく取り、プラットフォームとして機能するデザインにしています。

「L basic」の商品(左)、「L marche」の商品(右)
画像提供=ローソン
「L basic」の商品(左)、「L marche」の商品(右) - 画像提供=ローソン

正確に言えば、デザイン変更ではなく、カテゴリの変更なんです。たとえば納豆は文字だけで表現するベーシックに入れていましたが、想定以上に種類があるので、写真やイラストで補足できるマルシェに入れることにしました。また食パンもさまざまな種類をすべてベーシックに入れていたので、一部をマルシェに移動。ベーシックに残す食パンも、価格やアレルギー表示などの情報を目立つ形に変えました。

■「新しいローソン」に向けたPB刷新

——佐藤オオキさんがローソンのPBを手掛けることになった、そもそものきっかけを教えてください。

PBデザインで依頼をいただいたというよりも、定期的に竹増社長とお話をする中で、ローソンというブランドをどうしていくか、という大きな課題が持ち上がったんです。

これまでコンビニの強みは「利便性」だったと思うのですが、それがEC(ネット通販)に取って代わられました。さらに量を買う人はドラッグストアやスーパーマーケットへ、こだわりを持って買い物する人は専門店やECへ。

そうしたなかでコンビニに期待される役割は、「利便性」の要素の一つである「時短」にフォーカスされていった。ただ、時短だけでなく、社会的な意義もちゃんと果たせなければ長期的には生き残れない。そこから新しいコンビニ、新しいローソン、そしてロゴやPBの刷新へと話がつながっていったんです。

取材は東京・赤坂のnendo東京オフィスで行われた。隣であくびをしているのはパグチワワのきなこちゃん。オフィスの人気者だ。
撮影=今村拓馬
取材は東京・赤坂のnendo東京オフィスで行われた。隣であくびをしているのはパグチワワのきなこちゃん。オフィスの人気者だ。 - 撮影=今村拓馬

■NBは短期決戦、PBは長期ブランディング

——佐藤オオキさんはロッテのブレスケアガム「ACUO」や日清の「ラ王」「麺職人」など、NB(ナショナルブランド)のデザインも手掛けています。NBとPBにはどんな違いがあると感じましたか。

時間軸が違いますね。NBは短期決戦。新製品が棚に並んで、POSデータでどれだけいい数字が出せるか、という勝負。いかに瞬時に情報を伝えるか、刺激を与えるか。それがデザインに求められます。

一方、PBは長期戦。店舗全体を面として捉え、そのブランドの世界観を表現するために、お客様やクルーさんの意見を取り入れながら、改善し変化させていかなければいけないものです。

——機動的にデザインを変更していくお仕事は、これまでにもありましたか。

長く愛されるブランドは常にテコ入れをしています。たとえばACUOではマイナーチェンジを20回くらいやっています。ただ、ACUOは基本的にクリアブルーミントとグリーンミントの2種類なんですよね。PBのように700種類を同時に運用するのは初めてです。物理的にも大変ですし、売り場の状況も刻々と変わります。非常に消費カロリーの高い仕事ですが、これまでやってきたことの延長であることは間違いないと思います。

■「プレミアムライン」を作らなかったワケ

——PBでは価格帯によってデザインを変える手法が一般的です。ローソンのPBはそうした手法を採っていませんが、なぜでしょうか。

2つ理由があります。1つはプレミアムラインという手法はすでにあるからです。どれぐらいの価格帯だと、どういう客層が購入して、どんな数字が取れるというのは、ある程度読める。だからあえて今やる必要はないと考えました。

もう1つは、「お金を持っている人が、高くてプレミアムなものを買う」というのは、ちょっと消費者のマインドとして違うのかなと思っているんです。「少しでも安いものを買おう」とか、「少しでも機能があるから買おう」といった単純な購買動機をもつ人は減っていると感じます。

例えば、「自分はこういう考え方を持っている企業を応援する」「こういう思いで作られているからちょっと高いけど私はこれを買って使う」というように、モノを買う事が自分を表現し、自分の立ち位置を定める。こういった買い方がこれから加速していくとしたら、本当の意味での豊かさや贅沢が何なのかを洗い出してから、丁寧に戦略を練っていきたいと考えました。

竹増社長はデザインに関するすべてのミーティングに参加していた。「これからそういう経営者が増えるのかなと思いました」と佐藤さん。
撮影=今村拓馬
竹増社長はデザインに関するすべてのミーティングに参加していた。「これからそういう経営者が増えるのかなと思いました」と佐藤さん。 - 撮影=今村拓馬

■「コンビニ」ではなく「ローソン」として認知されたい

——競合のセブン-イレブンにはプレミアムラインがあります。またセブンもPBデザインを刷新したばかりですが、視認性の高さを重視していて、ローソンとは方向性が違います。

そうですね。僕もセブン-イレブンに依頼されていたら、あの流れをきれいに踏襲するようなデザインをやっていたと思います。でもコンビニのあり方はひとつではないはずです。むしろ多様化していかないといけない。今回のPBデザイン刷新は「コンビニ」ではなくて、「ローソン」としてちゃんと認知されるためのものだと思っています。

——ローソンにはどんな特徴があると捉えていますか。

「ローソンらしさ」をどう捉えるかですよね。僕は他社と比べて「商店街的」だと思っています。からあげクン、悪魔シリーズ、バスチー、MACHI cafeなどいろいろなブランドが1つのお店の中にあって、それぞれが強い個性を持っている。それは他のコンビニとは違うところかと思っています。今回、PBデザインでプラットフォームを意識したのも、例えば第二第三のバスチーのような新しい特徴のある商品が出てきやすいように、そして出てきた時に、より目立ちやすくなると思ったからなんです。

■SNSで自分がたたかれるのはいいけれど……

——今回、ツイッターなどではデザイナーである佐藤オオキさんを名指しで批判しているものもありました。デザイナーの責任というのはどのようにあるべきだと思いますか。

「nendoの佐藤オオキがデザインしています」と発信している以上、僕の責任を問われることは避けられません。ものづくりをする人は一定の覚悟をする必要があると思っています。700もの商品数を変更する今回のような規模のプロジェクトになると、多くの企業や関係者が携わるので、デザイン事務所の手から離れて進行する部分もありますが、四捨五入すれば自分。僕の守備範囲外でも、責任は引き受けるべきだと考えています。

ただ、成果物に対して僕がたたかれるのはいいんですが、スタッフまでたたかれるのはしんどいですね。スタッフの子供が学校で「nendoはネットでこう言われている会社だ」といじめられたら辛いです。それだけは心配しています。

SNSでの批判も悪いことではないと思います。文化を深めるには議論が欠かせません。デザインって何だろう、利便性って何だろう、と多くの人が考えるきっかけになる。そうした議論は日本でもっと行われていいものではないでしょうか。

nendoのスタッフは現在60人弱だ。
撮影=今村拓馬
nendoのスタッフは現在60人弱だ。 - 撮影=今村拓馬

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佐藤 オオキ(さとう・オオキ)
デザインオフィスnendo代表
1977年、カナダ生まれ。2000年早稲田大学理工学部建築学科首席卒業。02年nendo設立。東京とミラノにオフィスを構え2拠点で活動。「世界が尊敬する日本人100人」、「世界が注目する日本の中小企業100社」に選出され、世界的なデザイン賞で数々の「Designer of the Year」を受賞。多くの代表作は世界の主要な美術館に収蔵される。資生堂、日清食品、大幸薬品、丸井グループなど国内の企業から、ルイ・ヴィトン、エルメス、バカラといったヨーロッパブランドまでクライアントは多岐にわたる。現在は、仏高速鉄道TGV新型車両(2024年稼働予定)の内外装デザインを手掛けている。

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(デザインオフィスnendo代表 佐藤 オオキ 聞き手・構成=渡部千春)

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