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なぜマイクロソフトは仕事量をまったく変えず「週勤4日週休3日」を実現できたのか

プレジデントオンライン / 2020年8月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Portra

日本マイクロソフトは2019年夏に「週勤4日週休3日」を実施した。なぜそんなことができたのか。業務改善士の沢渡あまね氏は「大企業だから実現したわけではなく、自分たちの『勝ちパターン』を模索し続けてきた結果だ」と指摘する――。

※本稿は、沢渡あまね『職場の科学』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。

■ただ休みを一日増やしただけではない

2019年夏、日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト米国本社やマイクロソフトの世界各国の法人で共通の場合は「マイクロソフト」と記載)は「週勤4日週休3日」を実施して、世間の注目を浴びました。

日本マイクロソフトにしてみれば「それは取り組みの一つであって、週休3日だけを過剰に話題にしないで欲しい」とのことでしたが、やはり「週休3日」が世間に与えるインパクトは絶大でしょう。

もちろん、彼ら/彼女たちはただ休みを一日増やしただけではありません。この取り組みは「ワークライフチョイス チャレンジ2019夏」の一環で、

●月あたりの就業日数25.4%減(2018年8月比)
●月あたりの印刷枚数58.7%減(2016年8月比)
●30分会議の実施比率46%増(2018年8月比)
●リモート会議実施比率21%増(2019年4~6月比)
●1日あたりのネットワーク数(人材交流)10%増(2018年8月比)

などさまざまな成果を得ました。

ペーパーレス化、リモートワークの活用、1時間以上の会議から30分会議への移行、積極的な人材交流などによって労働生産性を上げているのです。

そうした取り組みの一つが「週勤4日週休3日」でした。

もちろん、日本マイクロソフトの取り組みがあらゆる企業にとっての正解ではありません。「勝ちパターン」は業界によっても、企業や部署によっても、個人によっても異なるでしょう。

■自分たちの勝ちパターンを模索し続けてきた

大事なのは、それぞれの勝ちパターンを見つけ、実践すること。それも「今」の時代や状況に即しているものでなければなりません。

今、多くの業界、企業にとって「勝ちパターン」の過渡期にあることは明らかです。残業時間を減らす、ペーパーレス化、リモートワークを活用するなど、さまざまな取り組みを急速に進めている企業、部署も多いでしょう。

もちろん、そうした「部分の改善」も大切ですが、もっと大きな視点で、時代や状況に即した「自分たちの勝ちパターンとは何か」を考える。これがもっとも重要です。

日本マイクロソフトが行っている取り組みも、今の時代における自分たちの勝ちパターンの発見と実践にほかなりません。

彼ら/彼女たちは、政府が「働き方改革」を掲げる前から「ワークスタイル・イノベーション」を始め、自らの勝ちパターンを模索し続けてきました。

特別な取り組みをしているのではなく、時代が変わり、産業構造が変わり、人の意識が変わり、企業としての事業を変えていく必要に迫られるなか、客観的に勝ちパターンを模索し、トライしてきました。

■斬新な改革を支えた「3つの取り組み」

日本マイクロソフトの取り組みの本質は、次の3つに集約されます。

●働き方の見える化(ホワイトカラーの働き方の見える化)
●コラボレーションを本気で促す
●選択肢と多様性を保証する

マイクロソフトでは「マイアナリティクス」と「ワークプレイスアナリティクス」という自社システムを使って、いわゆるホワイトワーカーの働き方をデータ化し、見える化しています。

「マイアナリティクス」とは個人の行動、働き方をデータ分析したものであり、「ワークプレイスアナリティクス」(図表1)は部門、チーム全体の動きを分析したものです。

ワークプレイスアナリティクスで分析できること

たとえば、「この一週間に働いた時間」「何本のメールを出したのか」「メール作成に使った時間」「相手は誰なのか」「そのメールはどのくらい開封されているのか」「どの会議に、何時間参加したのか」「社内での活動時間と社外での活動時間」「その週に交流した人数や相手の属性」「誰にも邪魔されない集中タイムがどれくらいあったのか」などさまざまなデータを取り、分析して個人の働き方を「見える化」しています。

■そもそも仕事ぶりを数値化するのは難しい

このデータをチームや部門に転換すると、部門として「勤務時間外にどのくらいメールを書いているのか、読んでいるのか」「チームとしての平均会議時間」「会議の参加人数」「上司が参加している会議の比率」「意思決定者が二階層以上参加している会議」「チームのメンバーが、どれくらい他部署の人、他社の人と交流しているのか」など、チームや部署としての特徴を見える化できます。

これが「マイアナリティクス」と「ワークプレイスアナリティクス」です。こうしたデータをAIが分析し、個人やチームにフィードバックすることで、行動特性や傾向の理解・気づきを促し、改善ポイントの発見を促すことができます。

もちろん、こうしたデータ分析が個人やチームの「仕事ぶりのすべて」を表しているわけではありません。何かしらの「正解」や「善し悪し」を示してもいません。

そもそもホワイトカラーの仕事ぶりを完璧に数値化、見える化するのは難しいものです。パソコンに向かっていても、周囲からは何をしているかわかりませんし、カフェに行ってぼんやりしているように見えても、ものすごくクリエイティブな作業をしている可能性もあります。

■行動パターンを把握することで改善点を見つける

また、たとえば「他部署や他社とのコラボレーションの度合い」についてデータ化、見える化されたとしても、部署によって、個人によって「勝ちパターン」は異なります。当然ながら、企画開発部門と、営業部門と、管理部門では「求められるコラボ度」は違います。「データが単純に善し悪しを示していない」とはそのような意味です。

マイクロソフトも同様の考え方で、「マイアナリティクス」にせよ「ワークプレイスアナリティクス」にせよ、データそのものに意味や目的を求めているわけではありません。「自分たちはどんな行動を目指すのか」が大前提にあり、その仮説・検証をするためにデータを活用しているのです。(自分たちの「勝ちパターン」が実践できているかを検証するためのツール)

また、自分たちの「行動パターン」「仕事の傾向」をデータとして客観的に見て、改善ポイントを発見していく。(「勝ちパターン」を発見するためのツール)

そのために「マイアナリティクス」や「ワークプレイスアナリティクス」が機能しています。

■「営業は外回りしてナンボ」と考える上司がいたら

業務改善を進めていく上で「データ化」「見える化」は必要不可欠です。

たとえば、「営業は外回りをしてナンボ」と考えているベテラン上司がいるとします。しかし現代において、必ずしも外に出ればいいわけではなく、SNSなどのツール活用が価値を生むかもしれませんし、オンラインで先方とコミュニケーションした方が、スムーズかつ頻繁なやりとりができる可能性は十分にあります。

ただ、こうした状況を議論のテーブルにのせるのは案外難しい。

「営業は外回りだ」と主張する上司と、「そういう時代じゃありません」と主張する部下の議論は、お互いが感情論をぶつけあうだけで、結局は飲み屋の愚痴レベルで終わってしまう。

「社外での活動時間」「社内での活動時間」「SNSの使用頻度」「営業先とのオンライン対話の回数、時間」などさまざまなデータが明示され、営業成績や残業時間、成約までの工数と紐づけられた分析結果が出たらどうでしょう。

この企業の営業パーソンとしての「効果的な仕事ぶり」、すなわち一つの勝ちパターンが見えてきます。

もちろん、すべての営業パーソンが同じ行動をとった方がいいのかは議論の余地が残りますが、少なくとも「仕事ぶり」と「成果」がデータによって見える化されると、議論のテーブルにのせられるのです。

これこそマイクロソフトが行っている「働き方の見える化」です。

■ピラミッド型の産業構造が崩れつつある

マイクロソフトの取り組みを踏まえつつ、ここで「これまでのマネジメント」と「これからのマネジメント」の違いについて私の考えを述べます。この違いをおさえておくと、本文の事例に対する納得感も増すことでしょう(図表2)。

これからの時代のマネジメント

旧来の産業構造は「ピラミッド型(統制型)」でした。これは自動車産業など製造業に最適化されてきたやり方で、トップあるいは企画部門が答えを持っていて、その他の部門は「トップや企画部門が決めたこと」に従って仕事をするスタイルです。

たとえば自動車メーカーであれば、「この車を作るぞ」とトップや企画部門が決めたら、製造部門、品質管理、管理部門、営業、マーケティングなどはその指示に最適化されたプロセスと指揮命令系統で「右向け右」で人が動く。いわゆる二次請け、三次請けと呼ばれるサプライヤーも、自動車企業を頂点とするピラミッド型で働きます。

個人においても、上の言うとおりに働いて、企業の人事異動に従って全国を転勤したり、どんな理不尽な仕事であっても耐え抜きさえすれば、一生安泰に暮らせました。定年後も、年金で、ある程度裕福な暮らしができた。

ピラミッド構造はこれまでの時代における勝ちパターンであり、最適モデルでした。しかし、それが変わってきています。

■これからは「報・連・相」より「雑相」が活きる

従来のマネジメントにおけるコミュニケーションは、「報・連・相(報告・連絡・相談)」を基本としています。

「報・連・相」は一見すると、下から上へのボトムアップコミュニケーションのように見えますが、「報告の内容や仕方」「相談のタイミング」など、上の人が規定しているケースが目立ちます。「もっと事実を踏まえて報告しろ」「体裁を整えた資料を用意してくれ」「今は忙しいから後にしてくれ」などです。

もちろん「報・連・相」が悪いと言いたいのではありません。業務プロセスが完全に決められていて「そのプロセスや手順に従えば答えを出せる仕事」においては合理的なコミュニケーションであるといえるでしょう。それこそ軍隊のような統制型組織においては、きっちりとした「報・連・相」が勝ちパターンに成り得ます。

しかし、オープン型、コラボレーション型の組織においては、「報・連・相」より「雑相」(ザッソウ)のコミュニケーションが威力を発揮します。「雑相」とは、「全社員リモートワーク」を実施しているIT企業、ソニックガーデンの社長・倉貫義人氏によるコンセプトで、「雑談と相談」および「雑な相談」を意味します。

■「まだ思いつきベースですが…」でもいい

上司であれ、部下であれ、自由に雑談をして、ときにはその延長で「今、こんなことを考えているんですけど、どう思います?」などの相談に発展していく。

沢渡あまね『職場の科学』(文藝春秋)
沢渡あまね『職場の科学』(文藝春秋)

雑談の中で、お互いが「困っていること」「悩み」「考え方」「得意技」などを自己開示し、共有することでオープンな組織、コラボレーションしやすい文化が醸成されていきます。

「雑相」には「雑な相談」の意味もあります。「報・連・相」における相談には、どこかかしこまった雰囲気が漂いますが、仕事をしていると、もっとフランクに「雑な相談」をしたい場面がけっこうあります。「まだ私の思いつきベースなんですけれど、ちょっとだけ聞いてもらっていいですか」のように。

オープン型、コラボレーション型の組織では、こうした「雑な相談」が大事です。組織として、個人としてどのようなコミュニケーションを求めているのか。それによって最適なツールも変わってきます。

「報・連・相」から「雑相」へ。ビジネスコミュニケーションにおける転換点の一つです。

※本書には様々なデータが登場しますが、そのすべてが学術的に証明されたものではなく、特定の条件下・環境下において見られた特徴を表しています。参考値としてご覧ください。

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沢渡 あまね(さわたり・あまね)
あまねキャリア工房 代表
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)兼 株式会社なないろのはな 取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。現役時代、残業だらけのシステム運用チームを定時帰りの職場に変えた経験あり。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。現在は企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書に『仕事ごっこ』『仕事は「徒然草」でうまくいく』『業務デザインの発想法』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『働き方の問題地図』『仕事の問題地図』『システムの問題地図』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『働く人改革』(インプレス)、『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』(C&R研究所)など。

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(あまねキャリア工房 代表 沢渡 あまね)

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