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コロナ前に「有能感」を持っていた昭和上司ほど、コロナ禍で評価が下がるワケ

プレジデントオンライン / 2020年9月9日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sunabesyou)

リモートワークの急速な普及で、各企業では能力の評価基準が変わりつつあります。男性学の第一人者、田中俊之先生は「これまで有能感を持っていた年配男性が無能感を味わうようになる」と予測。その理由とは――。

■有能感を持っていた人ほど危ない

コロナウイルスの感染拡大とそれに続く緊急事態宣言は、多くの企業に業務のリモート化をもたらしました。その結果、職場ではITスキルや自己管理能力を持つ人の価値が高まりつつあります。

オンライン会議をスムーズに進められる人や、在宅勤務でも従来通り、あるいはより大きな成果を出せる人などが、高く評価されるようになってきました。こうした人たちは、ポジションに関係なく周囲から頼りにされるようになり、それに連れて職場での発言権も増しているように思います。

逆に、ITスキルが低い人や、会社にいることで「仕事している感」を得ているような人は、会社からも周囲からも評価されなくなり始めています。その多くが50代以上の男性で、管理職などある程度の地位を得ている人たちです。

彼らの中には、ITスキルがなくても、昭和の価値観のままでも、何とか定年まで逃げ切れるだろうと思っていた人も少なくありません。しかし、そうしたこれまでの環境は、突然のコロナショックで急激に変わってしまいました。

この変化によって、これまで「有能感」を持って働いてきた人ほど「無能感」を覚えるようになっていくのではないかと思います。「有能感」と「無能感」、この2つの感覚は、一体どこからくるものなのでしょうか。

■生活のすべてを仕事につぎ込む昭和な働き方

今、上司の立場にある年配男性の多くは、「仕事ができる人」として有能感を持って働いてきたはずです。現在のポジションにいるのは、これまでの自分の働きぶりが会社に評価されたからだと考えているでしょう。

彼らは長らく、「生活のすべてを仕事につぎ込むこと」で会社から評価されてきました。毎日決められた時刻に出社し、残業や転勤もいとわない、そういう人こそが有能だという評価基準の中で働いてきたのです。

自分はずっとそうしてきた、だから有能と認められて今の地位にいる──。彼らの有能感は、こうした考え方から出来上がったもの。自らの体験をもとに、長い時間をかけて築かれた「信念」のようなものなので、若手社員が何か言ったところでそう簡単には変わりません。

ところが今は、生活を仕事につぎ込むような働き方をしても評価されないどころか、会社から在宅勤務やリモートでのマネジメントを求められる時代。以前は有能の証しだった働き方は、コロナショック以降あまり評価されなくなってしまいました。

■従来の評価基準が通用しなくなったことが、つらさの原因に

こうした状況に直面して、長く昭和的働き方をしてきた人たちは、これまで評価されてきたことが通用しなくなったと感じています。これが無能感の正体です。

世間や会社の評価基準が「生活のすべてを仕事に捧げること」だった時は有能だったのに、働き方が急に変わったせいで急に無能になってしまった──。この感覚は、本人にとってかなりつらいものに違いありません。

社会がこれほど急激に変わるとは、想像もしていなかったはずです。実際、こんな変化はめったに起こるものではありません。国による働き方改革でも、日本企業の働き方や評価基準はそれほど大きくは変わりませんでした。そう考えると、彼らは価値観を変えにくい年になってから急激な転換を求められたわけで、ある意味かわいそうな状況とも言えます。

しかし、評価基準の変化自体は社会にとって望ましいことです。これが進めば働き方の選択肢が広がり、より多くの人が無理なく仕事を続けられるようになるでしょう。たとえ彼らがつらくても、この変化はさらに進めていかなければなりません。

■「無能感」は自分を変える良いきっかけになる

無能感や無力感を味わう経験は、価値観を変える上ではいいきっかけになります。つらい思いをしている人には、この機会に価値の軸を「仕事だけ」から家庭や地域にも広げてほしいと思います。

時代に合わせて今のうちに自ら変わることができれば、以降の人生で得られるものはぐんと増えるはず。定年後の人生にも大きく役立つと思います。

職場でも、彼らの変化を後押しすることは可能です。評価基準が変わったからといって、年配の人たちの経験がすべて無になるわけではありません。職場の人や顧客と信頼関係を築くには、出社や対面が望ましい場合も多々あります。

人間関係には、直接会わないと分かり合えない部分も存在します。表情やジェスチャーといったノンバーバル(非言語)コミュニケーションは、リモートでも可能ではありますが、リアルで会ったことのない人が相手だとやはり読み取りにくいもの。

一度リアルで会っておき、その後リモートに切り替えたほうがうまく進む場合もあるでしょう。その意味では、昭和上司の「その場にいることが大事」という価値観も全否定はできません。

直接会わなくても進められる業務は何か、会うべき業務はどれか。多くの企業がリモートワークを経験した今だからこそ、世代を超えて議論を重ねるべきではないでしょうか。業種によっては、リモートで置き換えられない部分もきっと出てくるだろうと思います。

■おじさんを全否定しても良い結果を生まない

今、評価基準の変化によって無能感や無力感を感じている人は、働き方を変えられる立場なのに変えてこなかった人たちでもあります。しかし、彼らの価値観を全否定してもいい結果は生まれません。互いにいい面は取り入れていこうという姿勢で、ともに議論していくことが大切です。

中には、時代に合わせて変わろうとしているけれどITはどうしても苦手という人もいるかもしれません。もし、そんな上司からオンライン会議の設定などを頼まれたら、快く手伝ってあげてほしいですね。ただし、最終目標は上司が自分でできるようになること。雑用の丸投げが続かないよう注意しつつ、変化を後押ししてあげてほしいと思います。

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田中 俊之(たなか・としゆき)
大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。

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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=辻村洋子 写真=iStock.com)

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