「客数は7割減も、8割は営業中」いつもガラガラなスキー場はなぜ潰れないのか

プレジデントオンライン / 2020年10月27日 9時15分

画像=観光庁「『スノーリゾートの投資環境整備に関する検討会』報告書」2020年4月28日

日本人のスキー離れが止まらない。現在のスキー・スノーボード人口はピーク時の約3割まで落ち込んでいる。しかも今年は新型コロナウイルスの影響で、インバウンドも期待できない。日本のスキー場はどうなってしまうのか。金融アナリストの高橋克英氏が解説する——。

■国内スキー人口の減少と降雪不足

レジャー白書によると、日本国内のスキー・スノーボード人口は580万人(2016年)と最盛期だった1800万人(1998年)の約3割にまで減少している。レジャーの多様化とデフレ下で実質所得が低迷したことが背景にある。また、過疎化や少子高齢化の進展もあり、スキー場周辺の宿泊施設や飲食店の廃業なども続いており、スキー場の利用者減少につながっている。さらに追い打ちをかけるのが、雪不足だ。温暖化により降雪不足が続き、営業日数が確保できないスキー場も増えている。

国内スキー人口の減少や降雪不足により、スキー場利用収入が減少、リフトやゴンドラの更新やスマホ対応など設備投資ができず、スキー場の魅力が低下し、さらなる利用者の減少を招く、という負のスパイラルに陥っているのだ。

たとえば長野市の公的セクターが運営する飯綱高原スキー場は、長野冬季五輪の会場にもなった由緒あるスキー場だったが、国内スキー人口の減少などにより採算が悪化し、今年2月に営業を終了し閉鎖された。また、新潟県の糸魚川シーサイドバレーでは、降雪不足により、1980年の開業以来、初めて冬季の営業を断念している。日本経済新聞の報道によると、新潟県内では昨年(2019~2020年シーズン)、57あるスキー場のうち10施設が営業日ゼロという異例の状況だったという。

最盛期には、600前後あった日本国内のスキー場は、バブル崩壊による倒産などで大きく減少し、現在は500前後にまで減っている。もっとも、スキー人口が最盛期の約3割に対して、スキー場は最盛期の約8割も残っていることになり、数少ない顧客を多くのスキー場で奪い合う状況に陥っている。

■スキー場を救ってきたインバウンド

こうした長期低迷の状況に歯止めをかけてきたのが、インバウンド(訪日外国人)だ。

2000年代以降、北海道のニセコでの豪州スキーヤーの増加を皮切りに、円安によるインバウンド増加もあり、スキーを楽しむ訪日外国人も増え、国内スキー人口の減少を補ってきた。

さらに、観光庁によると、スキー・スノーボードを行った訪日外国人1人当たり旅行支出は22万5000円と、訪日外国人1人当たりの旅行支出である15万3000円を上回っていることも、スキー場には恩恵となり、設備投資や新規投資が進み、ますます魅力が増して、スキーヤーも増えるという好循環も生まれていた。

日本のスキー場は、パウダースノーに代表される雪質は無論、温泉や食事の魅力であり、2022年の北京冬季五輪も控え、アジアを中心としたインバウンドの受け入れ体制を整えることで、わが国のスキー場はさらなる発展の過程にあった。

しかし、コロナショックによって、インバウンドは今年4月以降、ほぼゼロの状態が続いている。ビジネス渡航などは、往来が緩和されてきているものの、欧米では感染者数が収まっておらず、2020~2021年シーズンのスキー場に訪日外国人が戻る可能性は低い。

■海外富裕層の集客に成功しているニセコ

いずれ、インバウンドが回復しても、当面は、安全・安心が最優先されるため、観光に関わるコスト増加は免れず、結果的に、旅行者数は減少し、所得に余裕のある富裕層が中心顧客に返り咲くことになろう。

コロナ禍が収まり渡航解除後には、国内のスキーリゾートも、旅行消費額単価の高い豪州、米国、欧州や華僑など富裕層が満足するようなサービスをより充実させるべきということになる。こうした海外富裕層をターゲットにして成功しているスキー場の事例は既に日本にもある。それはニセコだ。ニセコでは、パウダースノーを求めて「外国人による外国人のための楽園」ができており、コロナ禍でも地価の上昇が続いている。5つ星ホテルのパークハイアットがあるのは、日本では、東京、京都、ニセコのみだ。リッツ・カールトンが今年12月に開業し、さらにアマンの建設も進行中だ。

ニセコ・羊蹄山のスキー場
写真=iStock.com/Keattisak A
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Keattisak A

世界的なスキーリゾートとなったニセコを支えるのが海外企業と海外富裕層だ。実際、パークハイアットは香港資本、リッツはマレーシア資本、アマンはシンガポール資本による大規模開発だ。

■コロナ禍でも不動産投資が活発

バブル崩壊後、西武グループや日本航空など日本企業がニセコから相次いで退却するなか、不況下の日本で自らリスクをとって、ニセコに投資した外国人や外資系企業によって今のニセコがある。この先も、巨大な外資系資本による大規模開発はめじろ押しであり、2030年の北海道新幹線の新駅開業、高速道路の開通だけでなく、札幌オリンピックの会場となる可能性もあり、ニセコの未来は輝いている。

無論、足元ではコロナ禍が続いており、インバウンドはゼロだ。ニセコも例外ではなく、実体経済はダメージを受けているのは確かだ。

しかし、一方で、コロナ禍以降も、ニセコでは、大型開発は継続しており、北海道新聞によれば、さらに、中国や韓国、タイ、シンガポール資本による新たな開発計画も明らかになっている。国内外の富裕層による億円単位の不動産投資も引き続き活発だ。

ニセコは、パウダースノーという絶対的なキラーコンテンツを生かし、海外、富裕層、スキーに絞った「選択と集中」を実践してきた。

世界的な金融緩和策もあり、国内外の富裕層が集まり、良質なホテルやコンドミニアムなどが供給され、ブランド化が進み、資産価値の上昇により、さらなる開発投資が行われる、という、投資が投資を呼ぶ好循環が続いているのだ。

■追随する北海道のスキーリゾートたち

ニセコの成功事例は、北海道の他のスキー場も刺激している。

富良野スキー場では、富良野初の高級コンドミニアムとして今年12月に「フェニックス富良野」が開業する。客室数61部屋でスキー場に直結しており、最も高い部屋で2億円を超え富良野エリアでは最高価格帯だが、華僑を中心とした富裕層に既に全戸完売だという。

富良野だけではない。ウェスティンルスツリゾートに加え、高級コンドミニアムの「ザ・ヴェール・ルスツ」を有し、ニセコからも近く、加森観光が運営するルスツリゾート。シェラトン北海道キロロリゾートに加え、高級コンドミニアムもあり、リフト新設などスキー場への投資も行っているタイ資本のキロロリゾート、星野リゾートやクラブメッドがあるトマムなど、海外富裕層のスキー需要と、国内外投資家の収益ニーズを満たすようなスキーリゾートが、北海道には増えてきている。

■ニセコに次ぐインバウンド集客力を誇る「白馬」

本州のスキー場では、白馬の先駆的な試みが目立つ。白馬は、1980年代のバブル期には国内有数のスキー場として謳歌を誇ったものの、他の多くのスキー場と同様に、バブル崩壊による国内市場の縮小やデフレ経済の進展により、スキーヤーは減少し続けた。1998年には長野冬季五輪のアルペンスキーの会場となったものの、スキーヤーや宿泊客が増えることはなく、多くの宿泊施設が廃業に追い込まれてきた。

冬の白馬山
写真=iStock.com/Yokerz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yokerz

閉塞感ある状況を打破するため、索道事業者が中心となり、2019年4月に、一般社団法人HAKUBAVALLEY TOURISM(白馬バレーツーリズム)が広域DMO(観光地域づくり法人)として誕生した。

白馬バレー(HAKUBA VALLEY)は、白馬八方尾根スキー場など10のスキー場で構成されるが、共通自動改札システムの導入や、地元バス会社と連携し、羽田や成田、中部、関西からの高校バスによる直通便を増発、各スキー場をつなぐシャトルバスや、ナイトシャトルバスの運行に加え、アプリにより観光情報、スキー場の天候、リフト運行状況などの発信も始めている。

こうした施策に加え、ベイルやウィスラーなど海外の高級スキーリゾートとのシーズンパス提携による知名度やブランドイメージが向上寄与し、白馬バレーの2018~2019年シーズンの総来場者数は、約154万人、このうち外国人が前年比11%増加の約36万7000人と総来場者数の24%を占めるに至っている。スキー場として、ニセコに次ぐ国内2位のインバウンド集客率だ。今年7月の基準地価では、商業地における上昇率で、白馬(白馬村)が30.3%と、ニセコ(倶知安町)の32.0%に次ぎ、全国4位にランクインしている。

■スキーリゾートは復活の兆しを見せている

コロナ禍下にあり、足元はインバウンドゼロの世界である。だが、GoToキャンペーンもあり、国内旅行消費額の8割を占める日本人による旅行消費額の増加や、テレワークやワーケーションによるリゾート地への関心の高まりなどにより、既にブランド力が確立されているスキーリゾート地は、徐々に息を吹き返してきている。

そして、コロナが落ち着き、渡航解禁された暁には、海外富裕層を中心としたインバウンド需要により、外資系ラグジュアリーホテルがあるようなブランド力あるスキー場はより輝きを増すといった展開も望めよう。ニセコに加え、白馬や富良野、ルスツ、トマムなどがその筆頭候補だ。

■小規模で赤字続きのスキー場が消えていく

一方で、コロナ後であっても、国内スキー人口の減少や降雪不足、過疎化や少子高齢化といった問題は解消しそうにない。知名度や魅力で劣り、資本力がなくリフトやゴンドラの更新やスマホ対応など設備投資ができないスキー場は、この先さらに淘汰されることになろう。

観光庁の「スキー場事業者に対するアンケート調査」によると、全国のスキー場の半数以上は公的セクターが経営に関与している。また、全国のスキー場のうち48%はゴンドラ・リフト合わせて1~3本しかない小規模スキー場であり、40%が赤字であるという。しかも、ゴンドラ・リフトが合わせて5本以下のスキー場では半数以上が赤字なのに対し、6本以上のスキー場での赤字割合は27%にとどまる。

ゴンドラ・リフトの保有数と赤字割合の関係
画像=観光庁「スキー場事業者に対するアンケート調査結果」より

過疎化や人口減少、少雪化も踏まえると、公的セクターが運営するような小規模で赤字続きのスキー場を中心に廃業が進み、10年後には、現在500前後あるスキー場が、300前後にまで大幅に減少する可能性がある。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『いまさら始める?個人不動産投資』、『人生100年時代の銀行シニアビジネス事例』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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