SBI北尾氏が仕掛ける「地銀再編」で取り沙汰される4地銀の名前

プレジデントオンライン / 2020年11月17日 9時15分

2020年6月8日、地方創生を後押しする新会社「地方創生パートナーズ」設立について記者会見するSBIホールディングスの北尾吉孝社長。スクリーン右はオンラインで出席する新生銀行の工藤英之社長、同左は山口フィナンシャルグループ(FG)の吉村猛社長。 - 写真=時事通信フォト

菅義偉首相は9月の総裁選で「将来的には数が多すぎるのではないか」と地銀再編に踏み込んだ発言をしていた。そんな中、菅首相のブレーンとして知られるSBIホールディングスの北尾吉孝社長の動きが、市場で注目を集めている。北尾氏が仕掛ける「地銀再編」のターゲットとは——。

■当座預金に年0.1%の上乗せ金利を付けるというが…

地域経済を安定化させながら地銀再編を進める——。そんな菅政権の地銀再編策の輪郭が明らかになってきた。

日本銀行は11月10日、政策委員会の通常会合で「地域金融強化のための特別当座預金制度」を導入することを決めた。地銀と信用金庫を対象に日銀に預ける当座預金に年0.1%の上乗せ金利を付けるというものだ。

適用期間は今年度から2022年度までの3年間。ただし、上乗せ金利を受け取るには、以下の2つが要件になる。

①一定の経営基盤の強化を実現すること(収益力強化や経費削減により損益分岐点を一定以上へ引き下げる)
②経営統合等により経営基盤の強化を図ること

日銀の決定に対して、加藤勝信官房長官は11日午前の記者会見で、「政府として地域銀行については人口減少による経営基盤が厳しい中で自ら経営改革を進める地域に貢献することを期待しており、日銀も政府と認識を共有した上で、こうした制度を導入したと理解している」と述べた。

■菅義偉首相は「再編も一つの選択肢になる」と踏み込んだ発言

菅義偉首相は9月の総裁選の過程で、「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と語り、「再編も一つの選択肢になる」と踏み込んだ発言をしている。今回の日銀の決定は、この菅首相の意向を踏まえた措置と言っていい。

その手法はまさに0.1%の金利上乗せという「アメ」と、経営統合という「ムチ」の使い分けであり、「菅首相が強調する“自助”を地銀に求めることを象徴する施策」(メガバンク幹部)と受け止められている。

ポイントはこの措置が期間3年の時限措置であることにある。「3年以内で地銀・信金は答えを出せといっているようなものだ」(同)。

背景には地銀が置かれた厳しい収益環境がある。

上場する地銀78行・グループの2020年4~6月決算は、連結最終損益が全体の6割に当たる48行で前年同期に比べて減益または赤字になっている。超低金利が継続し、預貸業務で収益を出しにくい環境が続いているためで、さらに新型コロナウイルス感染拡大に伴い、与信費用もじわじわと上昇に転じつつある。

■静岡銀行と山梨中央銀行は県をまたぐ広域連合へ

菅首相の発言を見据えたように地銀の再編はジワリと動き出している。静岡銀行と山梨中央銀行は10月28日、業務提携することで合意した。両行は相互に出資する資本提携も結ぶ予定で、県をまたぐ広域連合が誕生することになる。

両行は2019年に地方創生を目的に連携協定を結んでいたが、将来的なシステムの共同化なども視野に入れた包括提携に踏み込む。圧倒的なシェアを誇る静岡、山梨両県の営業基盤をベースに、手を携えて収益性の高い東京都などの巨大経済圏に打って出るのが狙いだ。

夕暮れの富士と甲府の街
写真=iStock.com/Sean Pavone
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean Pavone

同様に地銀トップの横浜銀行と千葉銀行も2019年に業務提携しており、メガバンクを含め首都圏での競争は激化している。

■「SBI地銀」は福島、島根、筑邦、清水、大東の5行に資本出資

こうした大手地銀の再編が動き出す一方、経営不振銀行の駆け込み寺となっているのが、SBIホールディングス(北尾吉孝社長)が進める「地銀連合」だ。

SBIは子会社の「SBI地銀ホールディングス」を通じて、これまでに福島、島根、筑邦、清水、大東の5行に資本出資した。さらに10月23日には、群馬県を地盤とする東和銀行に出資、東和銀行もSBIホールディングスに出資すると発表した。

※編註:初出時、「福島、島根、筑邦、大東の4行に資本出資」としていましたが、正しくは「福島、島根、筑邦、清水、大東の5行に資本出資」でした。訂正します。(11月17日14時45分追記)

自民党もSBIの「地銀連合」に期待を寄せている。自民党の「地域金融機関の経営強化策を検討する小委員会」(片山さつき委員長)は10月29日に初会合を開き、地銀の収益力強化について議論を開始したが、初会合にはSBIホールディングスの北尾吉孝社長が招かれて講演した。菅首相のブレーンの一人で地銀再編のキーパーソンとみられる北尾氏が招聘されたのは意味深長だ。

北尾氏は地銀連合には10行程度の地銀の参加が見込まれるとしており、残る地銀はどこなのかと市場関係者は固唾を飲んで見守っている。なぜならSBIが出資した地銀の株価が軒並み上昇しているためだ。

■北尾氏の「ターゲット」として取り沙汰される4地銀

北尾氏が狙う次の地銀はどこか。市場では次の4地銀の名前が取り沙汰されている。

栃木(栃木県)、筑波(茨城県)、福邦(福井県)、長野(長野県)の4行である。いずれも同一県内に強力なライバル地銀があり、収益圧迫要因となっている。

宇都宮の繁華街をドローンで空撮
写真=iStock.com/Vonkara1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vonkara1

栃木銀行には足利銀行、筑波銀行には常陽銀行、福邦銀行には福井銀行、長野銀行には八十二銀行という県を代表する有力地銀がある。しかも、足利銀行と常陽銀行は手を組み、北関東で強者連合「めぶきフィナンシャルグループ」を形成している。

「県の指定金融機関を務めるこれら有力地銀は、自治体との強固な関係をベースに県内の有力企業取引を独占、メインバンクとなっている。同一県内の競合他行は中堅・中小企業、個人に活路を見いだすしかない」(地銀幹部)という苦しい状況に置かれている。

■規模に応じて20億~30億円を補助、返済は不要

今回の日銀の「特別当座預金制度」の発表を受け、地銀の株価は軒並み上昇したが、中でも値上がり上位にはSBIが出資する島根銀行のほか、SBIグループ入りが市場で囁(ささや)かれる筑波銀行横浜銀行と強者連合をつくる千葉銀行などの名前が並んだ。

また、統合の思惑が浮上している青森銀行とみちのく銀行、福井銀行、宮崎太陽銀行の株価上昇も目立った。次の地銀再編はどこなのかが、市場の最大注目点のひとつになっている。

政府は地域金融機関の再編を促すための補助金「資金交付制度」を2021年夏にも創設する方向で検討に入った。地銀や信金が合併・経営統合に踏み切った場合、国がシステム統合などの再編費用の一部を補助するもので、金融機関の規模に応じて20億~30億円を補助する。返済は不要だ。

■350億円程度の剰余金があり、10件程度の合併支援が可能

「地銀の合併にはシステム統合費用などに100億円規模のコストがかかることから、合併を躊躇する要因の一つになっている。この阻害要因を国が肩代わりすることで、再編を促すことが狙いだ。金融庁の金融審議会で議論し、来年の通常国会に同制度を盛り込んだ金融機能強化法の改正案を提出する」(自民党幹部)という。

補助金の財源は預金保険機構の利益剰余金を充てる方針で、「税金投入というわけではない」(先の自民党幹部)とされる。預金保険機構には現在350億円程度の剰余金があり、10件程度の合併支援が可能と見られている。

金融機関の破綻がなくなったことで、預金保険機構の剰余金は増えているが、原資は全預金取り扱い金融機関が拠出する預金保険料だ。それが特定の金融機関の合併補助金に使われることに異論が出る可能性もある。

日銀、政府を挙げて地域金融機関の再編を手助けする裏には、「地方経済の安定には地元金融機関の強化が不可欠」との思いがある。菅政権にとって「地方」は特別の意味を持つようだ。

■「組む相手も銀行同士ではないかもしれない」

まさに当事者である全国地方銀行協会の大矢恭好会長(横浜銀行頭取)は9月16日の記者会見で次のように述べていた。

「貸出に関して言えば、銀行の主たる収益源の一つであるわけです。コロナ禍で情勢は変わったと思いますが、企業サイドも資金余剰になってきており、あまり日本の中での資金需要が見込めなくなってきているというのが、ここ何十年かの趨勢ではないかと思う」

「横浜銀行の場合は7割くらいが資金利益で稼いでいて、フィービジネスの割合はまだまだ低い。マーケット金利がどんどん低下し、ストックの貸出利回りも高いものからどんどん入れ替わっていく。資金利益が減っていく状況からはどの銀行も脱し、ようやく横ばいになりつつあります」

最悪期は脱しつつあるが、依然として地銀の収益の根幹は伝統的な預貸業務に依存している構図は変わらず、このままのビジネスモデルで経営を持続することは容易ではないということだろう。その処方箋として「再編ということが、その解決策ということももちろんあろうかと思うが、再編だけがソリューションの手段ではないとも思っている。組む相手も銀行同士ではないかもしれない」(大矢会長)とも述べている。

地方銀行の経営陣は、いよいよ正念場を迎えている。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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