「暴力夫、子供4人、毒親」そんな39歳シングルマザーが自分の不幸話を隠さないワケ
プレジデントオンライン / 2020年11月24日 15時15分
■母子家庭の平均年収は243万円
先進国のなかで、ひとり親家庭の相対貧困率が最悪水準にある日本。厚生労働省による令和2年4月の調査によれば、ひとり親家庭のうち、母子家庭が123万2000世帯、父子家庭が18万7000世帯で、約87%にあたるほとんどが母子家庭となっている。そして平均年収については、母子家庭が243万円に対し、父子家庭は420万円で、2倍近く差がついており、シングルマザーが経済的に苦しい状況にいるのは明らかだ。ただ、シングルマザーが陥る生活苦は、経済的な問題だけではない。
「やっと落ち着いて暮らせるようになりました」
4人の子供を育てるシングルマザーのはなえさん(39歳)は、過去を振り返ってこう口にした。月収17万円の派遣社員をしながら昨年末からYouTuberとしても活動し、チャンネル登録数は1万8000人を超える。これまでシングルマザーとして必死に生き抜いてきた彼女は、どのようにして今の生活にたどり着いたのだろうか。
千葉県で4人きょうだいの長女として生まれたはなえさん。生まれ育った家庭からして、平穏な暮らしとは程遠いものだった。
■6歳年上の彼と結婚して幸せになるはずが…
「夫婦喧嘩がひどくて、母親が包丁持ちだして『死んでやる』と大騒ぎすることはしょっちゅうありました。母親はいわゆる毒親です。私に依存してきて、コントロールしようとする。思い通りにいかないと、ものを壊したり、暴力を振るわれたりして……電話のコードで首を絞められたこともありました」
早くこの家から出たい。そんな思いが大きくなるなか、高校3年生のときに地域のボランティア活動で6歳年上の社会人の男性と出会った。実家から逃げるように、彼との交際が始まった。
「結婚を前提に彼と同棲し始めると、母親は『娘が誘拐された!』と警察沙汰にして、近所に『この人を探してます』と張り紙されて嫌がらせをしてきました。玄関に切り裂かれた自分の服が置かれたり、灯油をまかれたりしたこともありました。母親からの嫌がらせは2年ほど続きました」
19歳の時に妊娠し、結婚。ようやく手に入れた幸せな暮らし……になるはずだった。
■「でも、自分の家の異常さをわからなかったんです」
「気づいたら、親の機嫌を取るように生きてきたのが、夫に代わっただけ。何かあれば怒鳴られて暴力。赤ちゃんの夜泣きにも『うるせぇ!』とものすごく怒られて、夫が寝る寝室から一番離れた玄関で、子どもを寝かしつけながら一晩過ごすこともありました。
でも、私は自分の家の異常さをわからなかったんです。突然キレたり物を投げられたりするのは、母も同じ。私にとって、そういう人がいることは普通のことでした」
パートで働くようになったとき、パート仲間から聞いた夫婦関係は対等で、自分の家との違いに驚いた。しかも、夫の問題は暴力だけではなかった。
「夫は人間関係でもめてすぐに会社を辞めてしまうので、家計はいつもギリギリの状態でした。仕事はトラックの運転手とか、飲食のアルバイトで、月収はだいたい25万円くらい。無職の期間も度々あったのに、毎月5万〜6万円は夫のお小遣いに消えていきました。
そのお金を何に使うかというと、浮気です。夫には女性の影が常にありました。だけど夫が怖くて、見て見ないふりをしていました。子供の行事の七五三にも車の保険にもお金は使わないのに、女性と遊ぶために消費者金融からも借りるようになりました。これ以上借入ができないとなれば私のクレジットカードを使うようになり、借金は総額950万円まで膨れ上がりました。その後、夫は自己破産をしました」
暴力、借金、女性関係、という三重苦のうえ、結婚して8年の間に4人の子供を出産している。
■逃げたはなえさんを追って、夫は郵便局で暴れ散らし…
「すべて夫のなすがままで妊娠していました。一度、『もう育てられないだろう』と夫が言うので中絶したこともありましたが、同時期に夫の浮気相手も妊娠していて、結婚のあいさつまでしていたことがのちに発覚しました」
鬱になって病院に通うようになったとき、カウンセリングで徐々に家の異常さを確信した。夫から逃げなくては――。
はなえさんは、鬱状態でも必死で子育てや家事を行いながら、夫にバレないように水面下で役所やシェルターなど各所へ相談に回った。パートで働いた給与を少しずつ貯金し、引っ越せるように隣町に賃貸を契約。子供の転校や仕事のこともあるので逃げるタイミングを見計らっていた頃、そのときはきた。
「夫がいつも以上に怒りを爆発させて、小学生の長男を鼻血が出るまで蹴ったんです。ほかの子供たちも怯えていて、もう限界でした。その夜に、もう夫から逃げようと決めて、翌日には小学生2人と保育園児2人の子供を連れてシェルターに入りました。
でも、これで逃げられたわけではなかったんです。数週間シェルターにいた後、契約していた賃貸に引っ越す予定でしたが、郵便物の転送届をヒントに、夫は郵便局で暴れ散らして市町村までを聞き出したのです。しらみつぶしに町内の家を一軒一軒探して、駐車場にある私の車が見つかってしまいました。結局、そこには住めませんでした」
それからも、母子寮、生活支援施設と4人の子供を連れて転々とし、派遣社員の給与と生活保護費で生計をやりくりした。再びアパート暮らしを始めると、離婚調停で家庭裁判所から帰宅するところを尾行されて自宅がバレてしまい、また引っ越し。県をまたいで引っ越したとき、ようやく夫から逃れることができた。はじめに家を脱出してから、半年の月日が経っていた。
■それでも夫や親に怒りを覚えたことはなかった
めまぐるしい壮絶な過去に、言葉がつまるばかりだ。内容に反して淡々と語るはなえさんに、夫や親に対して怒りを覚えたことはなかったのかを問うと、意外な答えが返ってきた。
「周りの人を責めたことはなかったので、怒りもなかったです。あの時あの道を選んだ自分が悪いと、責めるのはいつも自分でした。人のことを嫌っても嫌われてもいけないと思ってきたので。
なぜそんな思考になったのかというと、恐らく母親の影響です。母親はどう思うのか、怒られるんじゃないかということを第一に考えて生きてきたせいだろうなって。無意識のうちに自分が周りにどう思われているのか、人の目ばかりを気にしていました」
そんな価値観を変えるために、はなえさんが意識したことがあるという。
■生き方を見つめ直し、YouTuberとして悩みを発信
「無理してニコニコしない、人と比べないことを意識するようにしたら、精神的な余裕ができました。子供にはいろいろ我慢をさせることも多いので、昔はダメ親だなって自分を責めてばかりでしたが、考え方を変えたら無駄に落ち込まなくなったし、何より子供に対しても寛容になって怒ることが減りました。
経済的にもいろんなことを我慢させている子供には申し訳ないけど、今はみんな笑ってられればいいかなくらいに思います。最低限、ご飯食べて生きていければ。動物の子育てみたいな感じです。自分は自分だと思うようにしました」
等身大の自分でいい。自分の生き方を見つめ直したはなえさんは、昨年末から「貧乏・借金・子沢山 シンママはなえのこじらせ劇場」としてYouTubeに動画を投稿している。内容はシングルマザーの悩みや暮らしについてだ。
「はじめは吐け口のような部分も正直ありました。でもそれ以上に、私の経験が誰かの気づきになればという思いが前々からあって。本当は、インスタに流れてくるようなキラキラした生活にも憧れたし、不幸だ、かわいそうだ、と思われたくない自分もいました。
でも、人にどう思われるかは操作できないと思ったんです。わたしをみて不幸だと思う人もいれば、もしかしたら幸せそうに見える人もいるのかもしれない。それなら飾らなくていいのかもと思えました。
実際、コメントを見ると、「同じような人がいてうれしい」と言ってくれる人もいれば、「まだマシでしょ」「あんたより私のほうがツラいわ」と否定的な人もいます。でも、アンチコメントって、犬が吠えるのと同じで、強く攻撃的な人ほど何か抱えているものがあるのかなって思っているんです。
母親も、どこかで寂しい、哀しいという思いが、攻撃的な言動になっていたのかなって。だから、その人が感情を出せたと思うと、攻撃的なコメントすら意味があったのかなと思っています」
■「つらい気持ちはどこかに吐き出してほしい」
現在の暮らしは、派遣社員の月収17万円の収入のほかに児童手当の支給もあるが、生活はカツカツだ。養育費の振り込みも止まっている。だが、YouTubeの収益が月平均6万円に達し、家計を助けてくれている。
最後に、シングルマザーにどんなメッセージを届けたいか聞いてみた。
「つらいという気持ちを出さないようにしている人が多いんじゃないかと思うので、どこかに出すというのをちょっとずつしてほしいです。独り言でもいいし、紙に書くでも。どんな形であれ、つらい気持ちを抱え込みすぎないようにしてほしい」
彼女の場合、そうした気持ちを出す場所がYouTubeであり、それは収入にもつながった。人生、なにが起きるかわからない。今度の人生は、過去を巻き返すようなポジティブな出来事が続いてほしい。
(フリーライター ツマミ 具依)
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