「大切なのは街並みではない」アフターコロナで観光産業で本当に必要なこと

プレジデントオンライン / 2021年1月8日 11時15分

(左)『インバウンド再生』(学芸出版社)宗田氏、(中央)『観光再生』(プレジデント社)村山氏、(右)『観光は滅びない』(星海社新書)中井氏 - 写真=遠藤由次郎

「アフターコロナの観光」を占う3つの書籍が相次いで出版された。著者の1人であるやまとごころ代表取締役の村山慶輔氏は「観光にエネルギーを与えるのは歴史的建造物ではなく、コンテンツを創造する人だ。多様性を重視し、クリエイティブな人材を集めなければ観光業界は壊滅してしまう」という。京都府立大学教授の宗田好史氏、社会学者の中井治郎氏との鼎談をお届けしよう——。(第3回/全3回)

※当鼎談は「FabCafe Kyoto」の協力のもと、感染症対策を配慮して行いました。

■快適な家で旅行体験ができるバーチャル観光

【村山慶輔(やまとごころ代表取締役)】いま、日本の観光は非常に苦しい状況に置かれています。2019年には3000万人を超えたインバウンド(訪日外国人観光客)がほぼゼロになり、国内旅行者も観光することに慎重な人が少なくありません。

一方、新型コロナウイルス感染症が生活様式を半強制的に変えたことで、あたらしい観光のあり方や取り組みが出てきています。拙著『観光再生』でも触れましたが、象徴的なのがバーチャル(オンライン)ツーリズムです。

【宗田好史(京都府立大学教授)】オンラインツーリズムのことを考えると、実は京都の観光は危うい側面を持っているといえます。今から約20数年前、インターネットというものが普及しだしたときですが、フランスのある地理学者が「航空会社と旅行代理店は壊滅する」という論文を書いたんです。

歴史的にみて、旅というのは苦しいものです。その苦しさを軽減するために、交通機関が発達し、快適なホテルが発展してきたわけですが、それでもやはりリアルに旅をしようとすると、苦しいんですね。

だから、バーチャルで、つまり快適な家から一歩も外に出ることなく旅行体験ができるなら、そっちのほうがいいよねって。

【村山】今回のコロナ禍によって、それが急速に進んできているということですね。

【宗田】そう。そこで、バーチャルで体験できることと、リアルが強いコンテンツを考えていくと、京都みたいな文化性に特徴を持つ観光地は危うくなるわけです。スキーや登山とかは、やっぱりまだまだバーチャルでは弱いですから。

■特産物のツアーガイドが自宅で受けられる

【中井治郎(社会学者)】そうすると、僕らみたいな住民には辛いだけですが、京都の“冬の底冷え”みたいなものをコンテンツにしていかないといけないってことでしょうか。

【宗田】底冷えする冬に、お寺で石庭を掃く。これはいいかもしれません。つまり、そういう自由な発想で、クリエイティブな体験をたくさんつくっていかないと、将来的に京都は持たないかもしれないということです。

【中井】私は、表向きには社会学者ですが、京都とアジアをふらふらしながら暮らしている現役のバックパッカーでもあるんです。このコロナ禍で貧乏旅行ができなくなった僕らは、バンコクのBTSというスカイトレインの車内アナウンスとか、ホーチミンのブイビエン通りの雑踏を音声とかをオンラインで聞く、みたいな遊びを始めたんですね。

コロナ禍前は、自分が何をもって旅の体験だと感じていたのか、今回あらためて見つめ直しているということ。おそらく私みたいな人はいっぱいいて、そうした自分の旅行体験を見直して、オンラインに還元する流れは進んでいると感じます。

中井氏
写真=遠藤由次郎

【村山】本にも書きましたが、オンラインツアーは広がりをみせています。たとえば、あらかじめ地域の特産物を宅急便で送っておいたうえで、生産者がツアーガイドとなって特産物の紹介や生産地の様子を、ライブ配信で現地から届けるということを行っている。

これは生産者支援ということにもつながっているし、すごく可能性が感じられます。一方で、宗田先生のおっしゃるように、工夫や創造性がないと、オンラインで満足してしまって、現地に足を運ぶ機会が減るということは十分に起こりそうです。

■重要なのは街並みではなく現地に暮らす人びと

【宗田】アメリカの社会学者にリチャード・フロリダという人がいるのですが、彼がいうクリエイティブ・クラスの概念です。

詳しく説明すると長くなるので、『インバウンド再生』を参照してもらえれば嬉しいんだけど(笑)、簡単にいうと、イタリアで若者を筆頭に外国人観光客を受け入れた層がいて、継続的な文化接触が起きた。

その結果、アカルチュレーションと呼ばれる文化変容が起きて、観光にエネルギーが注がれつづけていく。少し前に『町家再生の論理』という本でも書いたことですが、町並みを保存したら観光が盛り上がる、というわけではないということです。

宗田氏
写真=遠藤由次郎

【村山】先ほど中井さんが「冬の底冷えがコンテンツになる」と言ったのは、それは中井さん自身がバックパックを背負って、いろんな国を旅しているから出てくる発想だということですね。

【宗田】つまり、最初に「京都は危うい」と言いましたが、このクリエイティブ・クラスが活躍できる土壌があるかどうかにかかっているということ。

【村山】いまの宗田さんのお話を聞いていると、観光にエネルギーを与えるのは歴史的建造物やアウトドアスポーツといったコンテンツではなく、コンテンツを創造する人であるといえるわけですね。

私は仕事柄、いろんな地域や場所で観光に携わる人たちと広く接点をいただいていますが、ここ数年は特に優秀な、それこそ宗田先生がいうようなクリエイティブな人たちが観光の分野に入ってきてくれていて、実際に活躍の場を広げていたように感じていました。

■国のイメージではなく「田舎」の魅力をアピール

【中井】京都で観光業をしている経営者のみなさんに話を聞くと、共通して口のするのが、アルバイトとして雇った学生のレベルの高さです。学生なのでそこまで高い給料を払わずとも、たとえば第二外国語で習っている中国語や韓国語を使ったりしながら、すごく上手に接客してくれる、と。

【宗田】一方で、いま、外国人嫌いみたいなものが日本社会には蔓延していて、オーバーツーリズムの問題を肥大化させている。けれど、観光人類学の第一人者ともいわれるヴァーレン・スミスの本にもあるように、観光客と彼らを受け入れる側、その両方がクリエイティブじゃなければ、文化は花開かないわけです。

【村山】先ほどおっしゃられたアカルチュレーションの概念ですね。それには受け入れる側のスタンスも重要になってくる、と。

【宗田】そう。それもローマやベネチアで起きたことを見るとよくわかります。ローマやベネチアでクリエイティブな若者たちが観光のノウハウを積み上げていったんですが、そこに団体バスや大型クルーズ船で乗り付ける観光客がどっと押し寄せてきた。

その結果、クリエイティブな人たちはどうしたのかというと、「ここでイタリアの文化を売るよりも、田舎でやったほうがいい」と考え、田舎に移住したわけです。

たとえば、ちょうど世界遺産にもなったオルチア渓谷(2004年に世界文化遺産に登録された)の近くの農家を買って、自分で好きに直して、アグリ・ツーリズモ(ツーリズム)をやった。日本もまさに同じことが起きてきているということです。

【村山】『なぜイタリアの村は美しく元気なのか』という本で書かれていたことですね。

■観光産業は市場原理にゆだねてはいけない

【宗田】旅行もなにもしたことがない田舎の人間が、いきなり1人でアグリ・ツーリズモを始めてもだめなんですよ。やっぱり都会で働いて、世界各地をさんざん観光して歩いてきた人間が、好きなことをやりたいと言って会社を辞め、農家民宿を開くから観光客を喜ばせることができる。

【村山】もちろんその「世界各地を観光して歩く」というのは、パッケージツアーではなく、自分で個人旅行していないと意味がないといえそうです。

【中井】そう考えると、『観光は滅びない』でもルポしたんですが、ゲストハウスやその文化の存在を無視してはいけないですよね。

宗田先生がおっしゃられるように、観光を文化的利益だと捉えた場合、“お金持ちしかくることができない街”にしてしまうと、急速に文化の枯渇につながっていくと思われるからです。

「経営的に体力のあるところが生き残ればいい」というような市場原理に任せると日本の観光は壊滅的になる、ということで国はGo Toトラベルを行っている。そうであるならば、多様性や重層性のようなものを意識的に守るようなことも必要なのではないでしょうか。

【村山】自分でゲストハウスをやるようなクリエイティブな人たちを、観光業につなぎとめるという意味でも、それは重要な視点だと思います。

■メインカルチャーの勢いがサブカルチャーを活性化させる

【宗田】僕は、その部分については別の意見を持っています。サブカルチャーというのは、メインカルチャーがあるからこそ育つものだからです。

『観光再生』『観光は滅びない』『インバウンド再生』
写真=遠藤由次郎

京都には、京都精華大学というサブカルに強い大学がありますが、あれは京都大学に人文科学研究所があったからですよ。そこに梅棹忠夫さんを筆頭にすごい人たちが集まって、一つの文化を築いた。その反動のようなかたちで京都精華大学のような存在が出てきたということ。

1997年にはCOP3(気候変動枠組条約締約国会議)が京都で行われました。あのときにも京都には環境活動家だらけになった。国際文化に触れたい学生が全国から集まってCOP3のお手伝いをして、彼らは現在、日本中で環境運動を支える存在になっています。

【村山】いずれにしても、観光を再生させるためには、「人」が重要になるということですね。でも、このコロナ禍において手を打たないと、せっかく観光に目を向けてくれていたクリエイティブな力を持つ若者が、観光から離れていってしまうかもしれない。

【宗田】もちろん、メインが元気だからサブが育つとはいえ、学生を筆頭に、若い人たち、旅行好きな人たちをどう再生するか、あるいは彼らのクリエイティビティをどう引き出すかという視点は必要なものです。

■観光は手段であって目的ではない

【村山】拝読させていただいたお二人の本、そして私の本も含めて、共通しているのは「観光やインバウンドは、あくまで手段であって目的ではない」というところだと感じました。

村山氏
写真=遠藤由次郎

つまり、そもそも何を再生させたいのかというところに立ち返らないと、何をしたらいいか見失ってしまいかねません。

現状は、産業としての観光を再生させようとしているふうに見えてしまうのですが、これではアフターコロナで国際観光が正常化していったときに、日本は大丈夫かと、少し心配になってしまいます。

『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)
『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)

【中井】たとえばGo Toトラベルも、緊急事態でしたので仕方ないところはあるんですが、カンフル剤的にバーンと大雑把にお金を入れるのではなくて、もう少し区分けしていく必要があるということだと思います。

観光産業全体のなかで、どこが欠けてしまうと文化的な損失になるのかという視点をもたないといけない。

【宗田】それは、私も含めて、政策立案者側が考えないといけないところでもあって。やっぱり、クリエイティブなところはできるだけ生き残れるようにしたいし、単純に金勘定だけでやっているようなところは市場原理に任せておく。

そういうバランスを取っていかないといけないということですし、実際にやっています。もっといえば、私の専門であるイタリアを含め、観光先進国はみんなやっていることで、その動きは日本の観光地でも進んでいくでしょうね。

【村山】まだまだ話し足りませんが、そろそろ時間が来たようなので。アフターコロナを占ううえで、重要な3つの本だと思いますので、興味をもってくださった方はぜひ読んでみてください。本日はどうもありがとございました。

【宗田・中井】ありがとうございました。

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中井 治郎(なかい・じろう)
社会学者
1977年、大阪府生まれ。龍谷大学社会学部卒業、同大学院博士課程修了。京都界隈で延長に延長を重ねた学生時代を過ごし、就職氷河期やリーマンショックを受け流してきた人生再設計第一世代の社会学者。現在は京都の三条通で暮らしながら非常勤講師として母校の龍谷大学などで教鞭を執っている。専攻は観光社会学。京都府美山町や世界遺産・熊野古道をフィールドに、文化遺産の観光資源化と山伏についての研究を行う。著書に『観光は滅びない 99.9%減からの復活が京都からはじまる』(星海社新書)などがある。

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宗田 好史(むねた・よしふみ)
京都府立大学教授
1956年浜松市生まれ。法政大学工学部建築学科、同大学院を経て、イタリア・ピサ大学・ローマ大学大学院にて都市・地域計画学を専攻、歴史都市再生政策の研究で工学博士(京都大学)。国際連合地域開発センターを経て、1993年より京都府立大学助教授、2012年より同教授、2016年4月~2020年3月副学長・和食文化研究センター長。京都市景観まちづくりセンター理事、(特)京町家再生研究会理事などを併任。国際記念物遺産会議(ICOMOS)国内委員会理事、東京文化財研究所客員研究員、国立民族学博物館共同研究員などを歴任。主な著書に『にぎわいを呼ぶイタリアのまちづくり』(2000)『中心市街地の創造力』(2007)『創造都市のための観光振興』(2009)『町家再生の論理』(2009)『なぜイタリアの村は美しく元気なのか』(2012)がある。

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村山 慶輔(むらやま・けいすけ)
やまとごころ代表取締役
兵庫県神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。2000年にアクセンチュア入社。2006年に同社を退社。2007年より国内最大級の観光総合情報サイト「やまとごころ.jp」を運営。「インバウンドツーリズムを通じて日本を元気にする」をミッションに、内閣府観光戦略実行推進有識者会議メンバー、観光庁最先端観光コンテンツインキュベーター事業委員をはじめ、国や地域の観光政策に携わる。 11月16日に『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)を出版した。

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(社会学者 中井 治郎、京都府立大学教授 宗田 好史、やまとごころ代表取締役 村山 慶輔 構成・撮影=遠藤由次郎(書籍編集者/ライター))

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