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2度目の緊急事態宣言で悲劇再び…コロナ失政のツケは「非正規の女性」が全部かぶっている

プレジデントオンライン / 2021年1月7日 17時15分

2度目の緊急事態宣言で雇用環境はどうなってしまうのだろうか。統計データ分析家の本川裕氏は「2020年9月までに、新型コロナウイルス感染拡大によって労働環境は大きく変化しました。とりわけ目立つのは非正規雇用者の減少。宿泊、飲食、娯楽の業種に勤めるパート・バイトなどの女性の多くが失職しています」という――。

■コロナの感染拡大への不安にだんだん慣れてしまった日本人

昨年、2020年は新型コロナウイルス感染症の流行によってさまざまな面で大きな影響を被った一年であった。今回は、今後を冷静に展望するための準備作業として、感染不安、経済、家計、仕事、雇用などの主要データから昨年の状況の推移を客観的に振り返ってみたい。

まず、ベースとなる感染状況の推移と感染への不安感情の推移を押さえておこう(図表1参照)。

新型コロナの感染拡大が3波にわたってだんだん規模を大きくしながら日本列島を襲ってきたことが半月ごとの感染者数の推移から明らかである。

12月に入って過去最大の感染拡大の波が襲ってきており、1月2日の首都圏1都3県の知事要請を受け、昨年4~5月に続いて2回目の緊急事態宣言の発出が政府において準備されている。

NHK調査によって、自らや家族が感染する不安の程度について、毎月の推移を追ってみると、感染拡大の波に対応して上下する中で、ピークの値は、第1波のときは77.5%、第2波のときは77.3%、そして第3波は73.5%とわずかながら低下してきていることがわかる(月半ばに明らかとなる今年1月の結果も見ないと確定的なことは言えないが)。

■不安の「安定化」が感染爆発と2度目の緊急事態宣言の背景にある

正体不明の新型ウイルスという不気味さがただよっていた第1波から時間が経ち、被害の程度もおおむね推測可能となっているため、そうやすやすと強化できない医療体制にとってのリスクが感染者数規模の拡大により確実に高まっているにもかかわらず、国民の不安度は以前より高じている訳ではないのである。

こうした不安度のいわば「安定化」が実はかえって感染拡大がなかなか止まらない要因となっていることは言うまでもあるまい。政府や自治体の対策も国民の不安度に対応して、その厳しさの程度も決まってきているので、感染拡大への歯止めとしては不十分さが否めないのである。

■GDP規模は1割程度落ち込み、回復はなお半分に満たない

コロナの感染拡大による経済の落ち込みはどの程度だったのであろうか。経済の総合指標としてまず取り上げられるGDPで見てみよう。

GDPは精度の関係もあって月別ではなく最短で四半期ごとに集計される。通常、発表されるGDPの動きは四半期別の季節調整済みの実質GDPの伸び率(しかも年率換算)である。

伸び率の指標は経済が順調に成長しているか、していないかを測るには適している。しかし、災害や感染症など突然のショックの影響でどのくらい経済が落ち込んだか、またどのくらい回復したのかを知るには、実数そのものの推移を見た方がよい。また、そういう場合は、指標化するにしても伸び率では分かりにくく、かえって対前年同期比の方が適している。

そこでここで掲げたのは、実数の動きと対前年同期比の各国比較である(図表2参照)。

■欧米より感染規模は小さいが経済の落ち込みは欧米と同等水準

コロナショックによる経済の落ち込みがリーマンショックに匹敵する規模であり、しかも直前の消費税引き上げによる落ち込みと合わせるとリーマンショックを上回る規模であることが一目瞭然である。

緊急事態宣言が出された2020年4~6月期の対前年同期比はマイナス10.3%であり、その後、7~9月期には大きく回復したとはいえ、マイナス5.7%にとどまっている。すなわち回復はなお落ち込み幅の半分に満たないのである。

感染拡大でGDPで1割もの経済の落ち込み

日本の経済の落ち込みを他国と比較してみると、感染拡大を早々に収束させた中国が4~6月期から対前年同期比でプラスに転じているのは例外として、日本や欧米主要国について、4~6月期に1割から2割の落ち込み、その後、大きく回復という流れは共通である。

日本は欧米と比較して感染規模では大きく下回っているのに、経済の落ち込みでは欧米と同等水準である。また7~9月期の回復度は、おおむね、欧米より弱くなっている。日本の経済パフォーマンスは、感染被害の相対的な軽さとは裏腹に、かなり厳しいものがあると判断できよう。

■7~10月「外食」費が回復し、第3波の引き金になったか

経済の落ち込みの中で全体としては家計の消費支出も落ち込んだが、その中で伸びていた消費もある。支出額の増えた費目と減った費目について目立ったものを四半期ごとに見てみよう(図表3参照)。

家計支出の変化:増えた「巣ごもり消費」、減った「外出消費」

「減った支出」の方から見てみよう。

緊急事態宣言が発せられていた期間を含む4~6月の落ち込みが特に目立っていたのは、「宿泊料」「交通費」「外食」「洋服」「交際費」など外出そのもの、あるいは外出にともなう消費であり、外出を大きく自粛されたことがこうした結果をもたらしたことは明白であろう。特に、「宿泊料」「交通費」「外食」が50%以上も減っていたのが目立っている。

4~6月には「医療費」も15.3%も減っており、病院の受診控えが深刻だったことが分かる。この時期、コロナ感染による死亡より受診控えによる死亡の方が深刻だったとも考えられるのである。

第2四半期の4~6月に次ぐ第3四半期は本来7~9月であるが、ここでは、前年の消費税引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を相殺するため、もう1カ月延長して7~10月の集計に代えている。

7~10月になると「理美容」や「医療費」など消費がかなり回復した項目もあるが、「宿泊料」「交通費」などはなお深刻な落ち込みが継続している。この2項目と比較して「外食」はかなり回復しているが、これが、第3波の引き金になっているとの見方もあろう。

■巣ごもり消費で日本人は「麺」「酒」「肉」を飲み食いした

次に、コロナの影響でむしろ「増えた支出」を見てみよう。

4~6月の消費が最も大きく伸びたのは「生地・糸類」である。これは、マスク不足の中で各自が自分でマスクづくりに精を出した影響であろう。次に「自転車」であるが、通勤を電車にかえて自転車にした者が多かったせいであろう。

「マスクなど保健医療品」は4~6月も値が高かったが7~10月はさらにこれを上回っている。不足していたマスクが出回るようになり、アルコールなど消毒用の物品等も加わった需要の拡大が要因だろう。「トイレットペーパー等」は買い占めの影響で1~3月から伸びが高かったが、7~10月には供給の安定により需要増はほぼ収まっている。

巣ごもり消費の拡大と見られるのは、「麺類」「酒類」「肉類」「生鮮野菜」への支出増である。外食を控えて家庭内で食事するケースが拡大していることがうかがわれる。

「たばこ」の消費も増えているが、巣ごもり消費の一環と見るか、感染拡大による不安心理のなせる業なのかは見方が分かれよう。

■ホテル・旅館、飲食店、娯楽業でコロナの影響は半端でなかった

次に、どんな産業、どんな仕事への影響が大きかったかを見てみよう。

総務省統計局が行っている労働力調査では、各月の月末1週間の就業状態を調べており、各人の労働時間を総集計した延週間就業時間の値を産業別に公表している。これには就業者数の増減と就業時間の増減が両方ミックスされており、各産業の業況を端的に示すものとなっている。なお、休業者は就業時間ゼロであり、休業者が増えれば平均の就業時間も減る。

どんな仕事がどれほど減ったか:宿泊業、飲食店、娯楽業で一時期半減

ここでは、主要産業の延週間就業時間の対前年同月比の推移を追っている(図表4参照)。Y軸のスケールはプラスマイナス80%の幅に統一しているので各産業の業況推移の違いを比較することができる。

産業計では、緊急事態宣言が出ていた4~5月の就業時間の減少はほぼ1割であった。GDPの落ち込みが図表2で見たようにこの時期約1割だったのとほぼ一致している。

■落ち込みが大きかったのは「宿泊業」「飲食店」「娯楽業」

しかし、産業別に見ると影響の大きかった業種もあれば、影響が小さかった業種もある。

延週間就業時間の落ち込みが5割前後と大きかったのは「宿泊業」「飲食店」「娯楽業」などである。これは、上で見た家計支出の動きとも対応している。そして、年末にかけて「飲食店」「娯楽業」では落ち込み幅が縮小する傾向にあった。

「製造業」や「卸・小売業」はこれら3業種と比較すると、最大の落ち込み幅が1割前後と比較的小さいが、全体の推移は、似たパターンである。

「農林業」「医療業」「公務」などは就業時間の面ではあまりコロナの影響は認められない。医療では受診控えがあっても診療を休むわけには行かず、また、感染症対応の医療分野ではむしろ忙しくなっているためと考えられる。

一方、コロナの影響でむしろ仕事が増えている業種の典型としては「通信業」が挙げられる。リモートワークやオンライン会議・授業、インターネット販売への対応として出番が多くなったためであろう。

■女性の非正規雇用者の失職が目立って増えた

こうした仕事への大きな影響により失職した者も多い。最後に、どのような者が職を失ったのかを見てみよう。

労働力調査では正規・非正規別、年齢別の雇用者数を集計している。ここでは、過去1年間の雇用者数の増減を2018~19年は年単位、2020年は四半期別に掲げた(図表5参照)。

2010年代の前半までは若者を中心に正規雇用者が減少する一方で非正規雇用者が増え、非正規比率の上昇が目立っていたが、2018~19年には、状況は変化し、高齢化に伴う労働力不足の展望から若年層を含めて正規雇用者が非正規雇用者と同じように増加する傾向となっていた。そして、非正規雇用者の増加の中心は定年後再雇用などによる65歳以上の高齢就業者が中心を占めるようになっていた。

2020年に入り、コロナの感染拡大がはじまって以降、こうした状況は大きく変貌を遂げた。

正規雇用者は相変わらず拡大を継続する一方で、非正規雇用者が急減し始めたのである。非正規雇用者の男女・年齢別の内訳に着目すると、女性の若年層や中年層が、特に、大きく減少している点が目立っている。

上(図表4)で見たように、仕事が大きく縮小した業種は「宿泊業」「飲食店」「娯楽業」などであるが、こうした業種には女性の非正規雇用者が多いことが、女性の非正規雇用者の急減の要因となっている。

誰が職を失っているか:女性の非正規雇用者の減少が顕著

■「正規」を増やす一方、パート・アルバイトなどの「非正規」をクビに

また、非正規の減少は、正規を増やし続けているからという側面も見逃せない。

正規が増え続け、非正規のみが減っているのは、コロナの影響による労働需要の減少に対して、パート、アルバイトなどの非正規雇用を大きく整理し、正規雇用者はむしろ残したり増やしたりして現状または将来の労力不足に備えるという行動を企業がとっているからではないかと想像される。

政府は、経営が悪化した企業に対する雇用を維持するための「雇用調整助成金」について、新型コロナウイルスの影響を受けた企業への特例措置として、ひとり1日当たり8330円の助成金の上限額を1万5000円に、従業員に支払った休業手当などの助成率を、大企業は50%から75%、中小企業は3分の2から100%にそれぞれ引き上げているが、正規雇用の増については、こうした措置の影響もあろう。特例措置は、パートやアルバイトなど雇用保険に入っていない人を休業させた場合も対象となるが、やはり、非正規より正規の雇用維持につながっているのではないかと考えられる。

こうした動きの結果、少なくとも2020年の年平均では非正規雇用比率はリーマンショックの時のようにかなり低下するものと見込まれる。高齢化に伴う今後の労働力不足を踏まえると、この低下は一時的なものにとどまらない可能性が高い。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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