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独身男女の高くて厚い壁…「港区女子と足立区男子」は永遠に出会えない

プレジデントオンライン / 2021年1月23日 9時15分

荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より

都内在住の独身者はどこに住んでいるのか。統計調査を分析した独身研究家の荒川和久氏は、「女性独身者はセキュリティーのしっかりした賃貸物件の多い港・中央・渋谷区に住む傾向がある一方、男性独身者は家賃が安い江戸川・葛飾・足立に住み、その分、飲食費にお金をかけている」という――。

※本稿は、荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■「港区女子vs.足立区男子」独身男女を隔てる壁

【荒川】日本は昔からずっと東京一極集中なのかと勘違いしがちですが、この65年間の人口移動を表したのが次の図表1です。1960年代から90年代前半にかけて、ぐっと人口が増加している②の線は埼玉・千葉・神奈川です。つまり、東京以外の3県が増えるドーナツ化現象。

【中野】いわゆるベッドタウンですね。

【荒川】そうです。通勤ラッシュをつくったのもベッドタウンの人たちです。グラフを見ると、今は全然増えていないですが。逆に、当時の東京は人口が減っていたんですよ。

【中野】都心に住めないからでしょうか?

【荒川】そうです。東京の人口が減り3県は増加という現象が、今は逆転しています。東京が増えて、周りが減りました。東京に人が移ってくるようになったのは最近なんです。

【中野】利便性とか老後の足とかを考えたら、都内は便利ですからね。

【荒川】ちなみに若い女性でも、恵比寿のような家賃の高いエリアに住んでいる人が多いです。特殊な例かもしれませんが、新入社員なのに家賃15万円のワンルームとか。

【中野】それは、シェアハウスや「パパ活女子」というケースではないんですか?

【荒川】違います、普通の若い人です。給料の構成比50%を家賃にあてると聞いて驚きました。ただ、彼女たちからすれば、家賃が高くてもセキュリティー(安全面)がしっかりしたところに住みたいという理由もあるんです。

以前、僕がこの件で記事を書いたら、『月曜から夜ふかし』というテレビ番組に取り上げられましたけど、独身女性と独身男性では住む区が違うんですよ。区が違うというよりも、住んでいる男女比が全然違います。

比率でいうと、港区・中央区・渋谷区とかは女性が圧倒的に多い。逆に男性が多く住んでいる区は、20代から60代までで1位、2位、3位がほぼ同じです(※2015年国勢調査より単身世帯の男女比で男性のほうが多いランキング)。つまり、江戸川・葛飾・足立の3区は独身男性の一人暮らしが非常に多い。

■何でも安いダウンタウンvs.安全安心なアップタウンという分断

【中野】家賃が安いからですか?

【荒川】そうです。もはや完全に男はダウンタウンに住み、女はアップタウンに住むという状況。この状況なら、未婚男女はもう永遠に出会わないよね、と思うんです。

【中野】「港区女子と足立区男子」、面白いですね。住むエリアを色分けできてしまう、と。

【荒川】男町、女町というわけです。治安やセキュリティーにお金をかける女性と、安全面はさておき、ごはんや遊びにお金をかける男性とに分かれます。

【中野】なるほど。家賃という固定費をどれだけ払えるかというマインドの差がそうやって表れるんですね。

【荒川】そう思います。葛飾区とかはずいぶん安いですから。

【中野】可処分所得が固定費に取られない分を、男性はどういうところに使うんですか?

【荒川】飲んだり食ったり、要するに飲食です。家計調査で見ると、一番お金をかけているのは食費だとわかりました。

■一人でいたい人は4割、他者と一緒にいたい人は6割

【荒川】話を戻しましょう。独身人口が増加する理由として、離婚の増加も挙げられます。次の図表2のように、特殊離婚率と人口千対(1000人の人口集団の中での発生比率)の普通離婚率で見ると、人口千対の離婚率が下がっているように見えますが、そもそも人口が減っているので、こうなっています。特殊離婚率は、離婚数を婚姻数で割るのですが、ここ15年は35%くらいで推移しています。

マスコミがよく使う「3組に1組は離婚する」というフレーズはこの特殊離婚率をもとにしています。これも離婚が増えたのではなくて、日本人が元に戻ったように思えてなりません。というのも、江戸時代などは離婚が多かったですから。

離婚率の推移
荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より

【中野】そうですね。離婚が少ない明治時代は、実は特異的ですね。

【荒川】明治から昭和の高度経済成長期までが、むしろ離婚が少なすぎるんですよ。本書のテーマと異なるので、この話は掘り下げませんが。「増える一人暮らし」ということで、独身人口についてお話ししましょう。先ほども述べたように、2040年には一人暮らしの世帯が4〜5割になります。昔は夫婦と子どもの標準世帯といわれていたのが、今後は23%にまで下がります。

【中野】『サザエさん』家庭が標準なわけではないですね。

【荒川】『サザエさん』のような大家族どころか、「パパとママと子ども」という家族構成が、23%しかいなくなってしまうんです。

【中野】4分の1を切っているんですね。

■「パパとママと子ども」という「家族」の形態も終わるかもしれない

【荒川】つまり、このような家族という形態も終わるかもしれません。次のページの図表3のように4象限にしてみました。ソロだけじゃなく結婚している人も入れて、縦軸が独身か既婚(有配偶)かという基軸で、横軸がソロ度が高いか低いかです。つまり、一人でいたいか、みんなでいたいか、です。このソロ度が高い人は、日本ではざっくり言うと4割くらいいます。逆に、みんなと一緒にいたいという人は6割いる。

ソロ属性4象限
荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より

縦軸の独身と既婚の比率も今は4対6です。それをさらに分けると、まず「ガチソロ」というグループがいます。ガチソロは結婚意欲も低いし、むしろ一人の時間のほうがくつろげるという人たちです。この生涯未婚かもしれないガチソロたちが20%。

「エセソロ」とは、今は独身(ソロ)なんですけれども、ゆくゆくは結婚して「ノンソロ」(既婚)になる人たち。家族が大事で、よき父、よき母みたいな人たちが「ノンソロ」。一番多くて4割を占めます。

「カゲソロ」とは、結婚はしたけれど本当は一人が好きというような人たち。この人たちが実はガチソロとカゲソロを行ったり来たりして、離婚と再婚を繰り返す。全体のうち有配偶は6割、カゲソロは2割なので、有配偶の3分の1がカゲソロになります。先ほどの3分の1は離婚するというのはまさにこういうことで、ここを行ったり来たりする。こうやって分けると、あとから理屈づけしたわけじゃなくて、数字のつじつまは合っているなと思います。

■あなたのタイプは「エセソロ? ノンソロ? ガチソロ? カゲソロ?」

【中野】非常に興味深い図表ですよね。人とうまくやっていくのが得意な人か、不得意な人という分け方は本質に迫るものだと思います。もちろん、その得意不得意には生まれつきの要素も、後天的な要素もどちらもあるでしょう。エセソロとノンソロは、ほかの人と一緒にいても自分の領域をちゃんと守れて、バランスよくつき合える人たち。

ガチソロとカゲソロは、ほかの人がそばにいると不快に感じる人たち。人に親切にするのもどちらかといえば苦手で、関係の初期にはがんばって親切にするけれども、ずっとそれを続けるのは負担になってしまうタイプですね。

【荒川】生まれつきは変わらないものなんですか?

■1歳半までの愛着関係が人づき合いを左右する?

【中野】生まれつきの要素と、後天的に育まれる要素、どちらもあります。後天的な要素はほぼ1歳半くらいまでで決まると考えられています。具体的には、生後6カ月から1歳半。ある脳内物質レセプタの密度が決まる重要な時期です。カギになるのは、養育者との関係。この時期に適切な愛着関係が築けていないと、誰かがそばにいることを好まない、あるいは逆に一人でいたいわけではなく、過剰に誰かに近づこうとしてぎこちなくなり失敗する、というケースが多くなります。

荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【荒川】昨今、未婚者が増えているのは、1歳半までにその適切な関係が築けていない人が多かったということですか?

【中野】そう言うと、親御さんを責めているように聞こえてしまいますが……。さまざまな事情によって、養育者と子どもとの(愛着)関係にはバリエーションが生まれるのは事実です。1歳半までの養育者との関係によって、その後の人生で他者とのつき合い方が異なってきます。

私の著書でも紹介しているように、イギリスの精神科医のジョン・ボウルビイやアメリカの発達心理学者メアリ・エインスワースらによって確立された「アタッチメント理論」(愛着理論)によれば、愛着スタイル(人間関係を築くうえでベースとなる認知の様式)には「安定型」「回避型(拒絶型)」「不安型」などのタイプがあります。ここではざっくり説明しますが、次のような特徴を持つと考えられています。

安定型 他者とのフランクな関係の構築が得意
回避型 他者とのフランクな関係の構築には消極的
不安型 他者に対する過度の期待や失望、喪失の危機感を抱く傾向が強い

つまり、タイプによっては他者とともに過ごすことが得意でない人もいます。もちろん、ソロが悪いというわけでなく、一人で過ごすほうが向いているとそもそも感じやすい脳の人もいるということです。

【荒川】なるほど、みんなが結婚に向いているわけではないんですね。結婚は義務ではないですから、当然ながら自分に合った適応戦略を取ればいいですよね。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
1975年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、同大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。東日本国際大学教授として教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を生かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。著書には『サイコパス』『不倫』(以上、文春新書)、『空気を読む脳』(講談社+α新書)、『ペルソナ』(講談社現代新書)、『引き寄せる脳 遠ざける脳』(プレジデント社)、共著書に『脳から見るミュージアム』(講談社現代新書)、『「超」勉強力』(プレジデント社)などがある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久、脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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