男性は3人に1人、女性は5人に1人が結婚しない社会に…現代日本が「結婚不要社会」となってしまった決定的要因
集英社オンライン / 2024年4月3日 8時0分
〈60歳を迎えた人の3分の1がパートナーを持たず、男性の生涯未婚率は3割に。異常な難婚社会の背景にある「日本独自の親子関係」〉から続く
なぜ日本人にとって、結婚はこんなにも困難になってしまったのか。あらゆる角度からその理由を考察した書籍『パラサイト難婚社会』。家族社会学の専門家である山田昌弘氏によると、親世代との同居もその一因を担っているという。書籍より一部抜粋・再構成し、昭和の時代から劇的に変化した日本社会の構造について解説する。
「生涯未婚率」の急上昇
一昔前、子どもに「将来の夢」を訊ねると、「消防士さん」や「看護婦さん」に混じり、「お嫁さん」や「お母さん」という答えが返ってきたものです。
幼い女子にとって「お嫁さん」や「お母さん」は、日々のおままごとでも登場回数が多い人気の役柄です。日常で一番身近な存在である父母の姿に、将来の自分の姿を投影する子がいても不思議はありません。毎朝出勤するお父さんの姿を見て、またご飯をつくって宿題を見てくれるお母さんの姿を見て、「私(僕)も、将来お母さん(お父さん)みたいな人になりたい」と願っていたあの子どもたちは、今どのような大人になっているのでしょう。
2021年の末、「生涯未婚率」の急上昇が、日本のメディアを騒がせました。2020年の国勢調査の結果が公表され、日本人男性の28.3%、女性の17.9%が、生涯未婚であるという報道です。今後、男性の約3割弱、女性の約2割弱が、結婚せずに人生を終える実態を、内閣府の「少子化社会対策白書」が提示したのです。
ちなみに「生涯未婚率」とは、50歳時点で「未婚」の人たちの割合です。厳密に言えば、彼らが「生涯にわたり絶対に結婚しない」とは限りません。ただし50歳で「未婚」ならば、生涯にわたり未婚であり続ける確率が高く、出産もほとんど見込めないため人口動態を考える材料とされているのです。
もちろん中には、「結果的に55歳で結婚しました」というケースもあるでしょう。ただ数としては少数派となります。何しろ21年度の調査によると、日本人の平均初婚年齢は、男性は31.0歳で、女性は29.4歳です。50歳まで一度も結婚せずにいる人たちが、51歳以降モーレツに婚活に励むというのは、あまりリアルな想像ではありません。
男性は3人に1人、女性も5人に1人は結婚しない
実際、私の調査でも、同じ50代独身者でも離別者や死別者の方が、未婚者よりも結婚意欲が高く出るのです(2022年科学研究費による調査婚活をしている50代独身者6.8%、うち50代離死別男性14.6%/恋人がいる人、未婚者13%、50代離死別男性23%〈山田昌弘2022「中年独身者の生活実態と将来不安」中央大学社会科学研究所年報26号〉)。
さて、この「生涯未婚率」ですが、終戦直後の1950年時点では、なんと男性は1.5%、女性は1.4%でした(1900年生まれ相当)。つまり100人いれば、男女共に98人は結婚していた計算です。戦後から高度経済成長期までの日本社会は、国民のほとんどが結婚する「皆婚」社会だったと先に述べましたが、この数字からますます納得できるのではないでしょうか。
さらに時代を経た1995年時点でも、「生涯未婚率」は男性9.0%で、女性は5.1%です。男性が100人いれば、90人は結婚していたし、女性も100人中、95人は結婚していた計算になります(2024年現在79歳前後)。2000年時点ですら、男性12.6%、女性5.8%であることを見ると(現在74歳前後)、ごく最近まで、日本人の大多数は「生涯一度は結婚するもの」であったと言えるでしょう。
ところがその後、日本の「生涯未婚率」は急上昇していきます。2010年には、男性20.1%に、女性10.6%になり、2020年には男性28.3%、女性17.9%になりました。2035年には、緩めの推計でも男性29.0%、女性19.2%まで上昇すると考えられています(平成28年版厚生労働白書・生涯未婚率の推移〈将来推計含む〉)。
現在の状況に鑑みるに、そのスピードはさらに加速するかもしれません。私たち日本人は、男性は3人に1人、女性も5人に1人は結婚しない社会に生きていくということです。
親子密着型同居 スタイルの功罪
「一生、結婚しない人がこれだけ増えた!」というニュースは衝撃的ですが、そもそも現代人は、「独身」である期間が、親世代や祖父母世代に比べて、圧倒的に伸びました。
「結婚しないまま人生を終える人」以外にも、「40歳近くまで結婚しない人」「結婚したけれど、離婚して独身に戻った人」「結婚したけれど、配偶者に先立たれた人」も増加したのです。その理由の一端が、日本人の長寿化にあります。
大学の講義で、私は小津安二郎監督作品の『晩春』(1949年公開)を紹介することがあります。物語の中で笠智衆さん演じる父親が、原節子さん演じる27歳の一人娘に、結婚を促すために語る言葉があるのですが、その内容に学生たちはどよめきます。
「お父さんはもう56(歳)だ、もう先は長くない」というセリフです。
現代の日本社会で「56歳」という年齢が「老い」に結びつくことはほとんどありません。芸能人に限らず一般人でも、今の50代は光り輝いており、生命力に満ち溢れています。むしろ「人生百年時代」において、「50代は人生の折り返し地点」と捉える人も少なくないのではないでしょうか。
ですが、この映画がつくられた時代は違いました。当時の男性の平均寿命は約60歳だったのです。この物語のお父さんは、決して泣き落とし戦略で娘を結婚させようとしたのではなく、本人のリアルな感覚として「もう自分の人生は長くない」、そう感じていた、ということです(母親はすでに他界しているという設定です)。
当時は、年金受給前に約半分の男性が亡くなる時代です。今のような年金財政破綻の心配がないと同時に、27歳の娘も「万が一結婚できなかったら、親にパラサイトしよう」などとは思わなかったはずです。
むしろ「早く結婚しなくては、自分はひとりぼっちになってしまう」という、生活の経済的基盤と心のよりどころを失う焦燥感の方が強かったはずです。それが「皆婚」時代の昭和と、「難婚」社会の平成かつ「結婚不要社会」の令和との最大の違いです。
今や結婚しないまま30代になり、40代そして50代になっても、実家に同居することは可能です。親が60代、70代、80代を過ぎても健康であることも多くなりました。途中から年金受給も始まります。パラサイトしている子も、給料から幾分かを家計費として納めていれば、親世代も助かるかもしれません。
中年になった我が子の世話を、高齢になっても続けなければならない親世代の心労も、とめどない子への愛情で解消できるのかもしれません。「子はいくつになっても愛しいもの」「老いては子に従え」の変形が、日本社会特有の親子密着型同居スタイルに継承されているのかもしれません。
自らは結婚せず「未婚」を選んでも、家に帰れば家族がいる安心感、これは大きいものです。あるいは一度結婚したものの「離婚」となった場合も、「実家に戻る」選択肢があります。日本では、若年で離婚した女性の約半数が実家に戻るという報告もあります。
自分で選んだ配偶者との関係は解消可能でも、実家に戻れば、血でつながった本物の「家族」がいる安心感。そしてそれを許してきた親世代という構図が、社会のセーフティネットの欠損部分を補い機能し続けている。この実態こそが、日本の「未婚社会」を下支えしている大きな要因となっています。
図/書籍『パラサイト難婚社会』より
写真/shutterstock
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