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「辞められると困る」東京五輪のカネと利権を配れるのは森喜朗会長だけだ

プレジデントオンライン / 2021年2月10日 15時15分

女性理事を巡る発言について記者会見する森会長=2021年2月4日、東京都 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「女性蔑視発言」謝罪もさらに炎上

明らかに五輪の理念に反する「女性蔑視発言」をした森喜朗会長を、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会はなぜ辞めさせないのだろう。

この「素朴な疑問」について考えてみたい。

森は2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会で、おおむねこう発言した。

「女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。

女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。女性を増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困る」

これに対して日本だけではなく世界中から批判が起こると、4日に森は撤回会見を開いた。だが、それが火に油を注ぐ結果になったのである。

■「大騒ぎをしたからなかったことにした」といわんばかり

「『オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な発言だった。深く反省している』と述べ、発言を撤回した。また『辞任するという考えはありません。私は、一生懸命、献身的にお手伝いして、7年間やってきたわけですので、自分からどうしようという気持ちはありません。皆さんが邪魔だと言われれば、おっしゃる通り、老害が粗大ごみになったのかもしれませんから、そしたら掃いてもらえば良いんじゃないですか』と述べ、続投する意向を示した」(朝日新聞デジタル 2月4日 14時10分)

「『(自ら)「五輪精神に反する」と認めている人が組織委会長として適任か』との質問には『あなたはどう思うか』と聞き返し、記者が『適任ではない』と答えると『ではそういうふうに承っておきます』と回答。『そういう話はもう聞きたくない』『面白おかしくしたいから聞いているんだろう』と語気を強める場面も見られた」(毎日新聞2月5日付)

お前たちが大騒ぎをしたから、発言を撤回して「なかったことにした」のだからどこが悪い。「オレの首に鈴をつけられるヤツがいるなら出てこい」と開き直ったのだから、内外から「森辞めろ」の声が沸き起こったのも無理はない。

■女性理事、アスリートも苦言

ソウル五輪の柔道・銅メダリストの山口香が東京スポーツWeb(2月6日)でこういっている。

「一応、発言を撤回、謝罪していましたが、心から謝ってはいないですよね。というか、もともと何が悪かったかを理解していないと思います。これって自分の生きざまや成功体験と結びついている気がするんです。自分はこうやって生きてきて、こういう考えでやってきたから『今』がある。そんな確固たるポリシーがあるから新しい考えを受け入れられない。だから謝れないんですよ。謝罪したら過去の自分を否定したことになるので」

テニスの大坂なおみも、「森会長の発言に関する質問に『まったく無知な発言だったと思う』と述べ、『このような発言をする人は、話す内容についてもっと知識を持つ必要がある』と話した」(AFP 2月6日 21:06)

だが「身内」は批判する素振りは見せるが、引きずり下ろそうという人間は誰も出てこない。

■IOC、政府、都知事も容認してしまった

森自身が毎日新聞の記者にこういっている。

「元々、会長職に未練はなく、いったんは辞任する腹を決めたが、武藤敏郎事務総長らの強い説得で思いとどまった」(2月6日付)

IOCのバッハ会長は、五輪精神を汚されたにも関わらず、「謝罪を理解し、この問題は終了した」と発表した。

だが、森発言に対して日本だけではなく世界各国から「森は辞任すべきだ」という批判の声が巻き起こり、あわてたのだろう。2月9日には一転して、「森会長の発言は極めて不適切で、IOCが取り組むアジェンダ2020での改革や決意と矛盾する」(朝日新聞デジタル2月9日 20時22分)と厳しく批判した。

IOCは多様性を尊重することを謳いながら、当初、森発言がその精神に矛盾すると考えなかったのだろうか。

私は、背景にはバッハと森との“癒着構造”があり、発言内容を精査しないまま事態を収拾しようとしたために起きた“事故”だったと思う。

森が自著『遺書 東京五輪への覚悟』(幻冬舎)で「小池さんはどうも(五輪のこと=筆者注)よくわかっていらっしゃらなかったようなので、都知事になられて最初に挨拶に来られたときに、『よく勉強してください』と申し上げたけれども、その後も勉強をされておられなかったようです」と痛烈に批判している“天敵”小池百合子都知事も、森からの謝罪の電話があったことで続投を容認してしまった。

東京都庁
写真=iStock.com/voyata
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/voyata

■彼のどこにそんな“凄み”があるのか

中でも、極めつけは菅義偉首相である。2月4日に国会で、森発言についてどう思うかと聞かれ、「発言の詳細については承知していない」と答えたのである。

その後も、「森さんを辞めさせることができるのは、あなたしかいないのだから、辞めさせなさい」と追及されても、「国益にとっては芳しいものではないと思う」というだけで、「(組織委は)政府とは独立した法人として自ら判断されるものだと思う」と、責任放棄してしまったのだ。

83歳の、自ら「老害」と公言する人物を、なぜ、襤褸(ぼろ)の如く捨て去れないのだろう。

五輪のボランティアからも辞退する人間が出ている。世界の女性アスリートたちの中から、もし開催されてもボイコットする動きが広がっているようだ。

“五輪の恥、日本の恥、世界の恥”として長く記憶されることになるだろう森喜朗という男のどこに、周囲を怯ませる“凄み”があるのだろう。

2000年4月、小渕恵三首相が脳梗塞で倒れたため、当時、自民党のドンといわれていた青木幹雄、野中広務、村上正邦ら5人(森も入っていた)が密室で、後継を森に決めてしまった。

たしかに小渕政権で幹事長をしていたが、放言や暴言が多く、首相の器ではないといわれていた。国民にとってはまさに青天の霹靂ではあったが、青木や野中にとっては、「神輿は軽いほうがいい」、自分たちの思い通りになる人間を据えておいて、裏で操るという思惑だったのであろう。

それが証拠に、村上は後年、週刊ポスト(2018年8/17・24日号)で、「森は戦後歴代最低の総理大臣」だとして、総理にしたのは間違いだったと話している。

■数々の失言、「えひめ丸」事故対応が問題に

案の定、「ノミの心臓、サメの脳みそ」と揶揄(やゆ)された森は本領を発揮して、わずか1年という短命政権で終わった。

森を辞任に追い込んだのは、数々の失言や暴言もそうだが、2001年2月に起きた「えひめ丸」事故だった。ハワイ沖を航行していた日本の高校生の練習船が、アメリカ海軍の原子力潜水艦に衝突され、日本人9人が死亡した。

森はその日、大好きなゴルフをやっていたが、すぐに連絡が入った。だが彼はすぐにプレーを中止せず、その後もプレーを続けた。この危機管理意識のなさが国民の怒りをかき立て、支持率8%、不支持率82%という前代未聞の世論調査の数字が出て、退陣に追い込まれるのである。

ゴルフボール
写真=iStock.com/antpkr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/antpkr

■政界、外交、スポーツ界に幅広い人脈

森が今のような力を持つのは、首相の座を追われてからのことだ。

敗戦後、数多く首相はいるが、職を辞してからも表立って活動する人間はほとんどいない。田中角栄や竹下登など、引退後も力を持ち続けた元首相はいるが、奥の院に引き籠(こも)って影響力を行使した。

しかし森は、退陣後も派閥「清和会」の事実上のトップとして君臨し続け、小泉純一郎を首相にし、小泉は就任後も森を兄貴分として慕ったという。安倍晋三、福田康夫なども清和会出身である。

政界だけではなく、在任中に日本の首相としては初めてアフリカを訪問し、アフリカに太い人脈がある。

ロシアのプーチン大統領との仲は良く知られている。安倍首相(当時)がプーチン宛ての親書を森に託し、森が密かに訪ロしたこともあった。

森は安倍の父親・安倍晋太郎に近かったため、安倍晋三は森のことを「私の政治の師」といっている。

安倍政治の継承者を自任する菅首相が、森に何かいえるはずはないのである。

生前交遊があった台湾の李登輝元総統の告別式にも参列している。

スポーツ界では、学生時代からやっていた縁で、日本ラグビーフットボール協会の会長に就き、2019年に日本で行われたラグビーW杯招致に尽力したといわれる。

元首相で、これだけ幅広い人脈を持っている人間を他に知らない。安倍前首相は退陣して数カ月だが、政界はともかく、外交やスポーツ界への影響力は日に日に薄れている。

■目の当たりにした「気配りの達人」

持ち上げるわけではないが、森の強みは、気配りの達人であることだろう。

私も一度、それを経験したことがある。

私が週刊現代編集長の時だったから、1990年代の半ばだと記憶している。森は自民党幹事長か閣僚だったと思う。森と親しかった現代の記者から、「森さんとゴルフをしませんか」と誘われた。ゴルフ場は森がメンバーになっているところだった。

だが当日の早朝、記者から電話があり、森が階段かなにかから落ちて足を骨折して動けないという。私は、口実で、他に用事ができたのだなと思ったが、2人で回ろうということになり、ゴルフ場へ向かった。

すると足を包帯でぐるぐる巻きにした森が、クラブハウスの入り口で待っていた。

彼は「申し訳ない」と頭を下げ、「足が治ったらやりましょう」といって杖を突きながら帰って行った。

それ以来会うことはなかったが、森はこの“情”一本やりで、日本の政界に影響力を持ち続け、世界の要人たちとの人脈をつくり上げてきたのであろう。

そこに“理”や“知”は必要なかった。

■なぜ組織委員長を辞められないか

今回の女性への差別的発言もそうだが、森の女性差別には年季が入っている。

よく知られているのは、2003年に鹿児島市内で開かれた「全日本私立幼稚園連合九州地区大会」でのこの発言だ。

「子どもを沢山つくった女性が、将来国がご苦労様でしたといって、面倒を見るのが本来の福祉です。ところが子どもを1人もつくらない女性が、好き勝手、と言っちゃいかんけど、自由を謳歌して、楽しんで、年とって……税金で面倒見なさいというのは、本当におかしいですよ」

こんな考えの人間が長年、この国の政治を牛耳ってきたのだ。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数2020」(2019年)で、G7の中で最下位の121位というのは当然であろう。

政治を引退し、がんを患いながら、森が最後に選んだのが東京五輪の組織委会長の椅子だった。森は『遺書』で会長職はボランティアで、「私設秘書や運転手は自分のお金で雇っています」といっている。だが、ここは元都知事の舛添要一がツイッターで指摘したように利権の巣窟である。

「五輪は巨額のカネが動く。日本は準備に2兆円、儲けの目論見は33兆円。アスリート・ファーストなどと綺麗事を言っても、所詮はカネだ。菅義偉、大臣病の政治家、電通、スポーツ団体、財界に命令し、利権の調整と配分が出来るのは森喜朗しかいない。だから辞められない」

新国立競技場
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ryosei Watanabe

■各方面との利害調整ができる人間はいない

また、日本側から「中止」をいい出すと、IOCが保険会社から受け取るといわれる保険金の一部を受け取れないため、最後まで開催といい続け、IOCが「中止を決定」して、やむなくそれに従うという形に持っていくという話も流れている。

どちらにしても、そうしたドロドロした話をまとめ、一番有利な形に持っていく「腹芸」ができるのは、森を置いて他にいないことは間違いない。

森が「必ず開催する」「無観客でもやる」といい続けているのは、IOCやJOC、日本政府、東京都などの利害を“忖度”し、水面下で調整しているからであろう。

すでに東京五輪は中止へと動いていると思う。第一、世論のほとんどが「やるべきではない」といっている東京五輪には、もはや大義名分はない。

今回の女性に対する差別的な発言も、森の周りに知恵者がいて、そうした「東京五輪中止利権」から、納税者である国民の目を逸らせる“策略”ではないのか。私にはそう思えてならないのだが。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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