「スマホを買ったばかり」中1女子の裸写真がネットに流出した理由
プレジデントオンライン / 2021年3月2日 15時15分
※本稿は、佐々木成三『元捜査一課刑事が明かす手口 スマホで子どもが騙される』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■最初は優しかった相手から「裸の写真送ってよ」
中学1年生のアユミは最近スマホが手放せない。
中学入学のお祝いに、やっとスマホを買ってもらえたのだ。
学校ではスマホの使用は禁止だけど、帰宅するとすぐに部屋に閉じこもり、スマホでゲームをするのが日課だ。
今日も寝転がってゲームをやりながら、ふとゲームアプリの掲示板を見ると、
「無料でLINEのスタンプをあげます!」
という書き込みを見つけた。
軽い気持ちで「ほしいです!」と返事をすると、すぐに、返事が来た。
何回かやりとりしていると、最初は優しかった相手の態度が変わってきた。
「無料でスタンプだけあげるわけないだろ。裸の写真送ってよ」
「……えっ」
無視しようと思った。このままやり過ごせばきっと大丈夫。
相手からさらに追い討ちをかけるような返事が来た。
「写真を送らないと、学校に行けなくなるぞ」
……無視、無視。このままスルーしちゃおう。
■女の子からのメッセージ「実は私も同じ目に遭ったの」
すると、そのやりとりを見ていたらしき女の子から「大丈夫?」とメッセージが来た。たまらなく不安になり、「どうしよう。無視してもいいよね?」と相談すると、「実は私も同じ目に遭ったの」という。どうやら私と同じ年齢の女の子のようだった。私は安心して、不安な気持ちを彼女に打ち明けた。
それからだ。彼女から次々と恐ろしいメッセージが届き始めた。
「私も最初は無視していたんだけど、やりとりしていくうちに私のこといろいろ調べたらしくて、名前も通っている中学もバレちゃったの。それで学校にもあることないことデマを流されて」
「どんなにデマだって言ってもダメだった。おまけにネットでも嘘のデマをさらされちゃって……」
「親も学校に呼び出されて、最終的には学校にいられなくなって、転校することになっちゃったんだ」
「私が早く写真を送っていれば、こんなことにはならなかったかも。いつまでも送らないでいると、何をしてくるかわからないよ。送っちゃったほうが早いよ」
「1回送っちゃえば大丈夫だから。しつこくはしてこないよ」
「“すぐに削除して”って頼んでおけば大丈夫だよ」
■「断ったら、個人情報をネットにさらすぞ」
不安で不安で胸が押しつぶされそうだった。でも親には相談できない。
「許してもらいたければ、早く裸の写真を送れ! どこに住んでいるか、名前も中学校名ももうわかってるんだよ!」
「断ったら、お前の個人情報をネットにさらすぞ」
文面がどんどんエスカレートして、恐怖で震えながら裸の自撮り画像を1枚だけ送った。「ごめんなさい。許してください」というコメントをつけて。
とりあえずほっとした。少し怖いけど写真は送ったんだから、すぐ削除してくれるはず。
ところが……‼
その後、私の画像がネット上で公開されていることがわかった。
「JC自撮りエロ画像」というタイトルがついて。
それは、私が画像を送った男の人が、別のわいせつ事件で逮捕されたことで判明した。その人のスマホには、数百枚の女の子のわいせつ画像が入っていたそうだ。
そして恐ろしい手口もわかった。
掲示板のやりとりで、私を心配してくれた女子中学生は、犯人がなりすましたものだった。別のスマホを使って、女子中学生のふりをして私を不安がらせ、写真を送らせたのだ。
お父さん、お母さん、ごめんなさい……。
私の画像は、今もSNS上に残ったままになっている。
■自撮りの被害者のうち5割が中学生
2019年に警察が特定した児童ポルノ事件の被害者は過去最多の1559人。4年連続で1000人を超えています。
なかでもSNSで知り合った人などから、裸や下着姿の写真を送信させられる「自撮り」が増えています。
自撮りの被害者で最も増えているのが中学生で、全体の5割を占めています。
しかし、これは氷山の一角。警察に届け出をしていない件数を考えると、この件数は数倍にはね上がるのではないかと思います。
とくに中学1年生は注意が必要です。今まで親のスマホを使っていた子どもが、初めて自分のスマホを持つことになるケースが多いからです。まだスマホに慣れていなくて、スマホの危険性を知らされる前に被害が相次いでいるからです。
中高生の投稿にはあまりにも無防備なものが多いと感じます。子どもは親に比べれば、ずっとSNSに慣れています。でも、SNSに慣れていることと、警戒心の強さは比例しません。慣れているからこそ、危険性には鈍感になる可能性もあります。
■裸の写真を送った瞬間に「デジタル・タトゥー」となる
実際に「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」で逮捕された30代男性の事例では、女子中学生に近づくために同学年の女子を装っていました。
男は架空の設定をつくり上げ「私も同じ学年だよ」などとSNSを通じて学校の話などをして、女子中学生の共感を得ていました。
インターネットで入手した別の女の子のわいせつな画像を送り、「私も送ったからあなたも見せてよ」と言って、女の子に裸の画像を送らせたのです。男のスマホからは数百枚の未成年のわいせつ画像が保存されていました。
また、19歳の男性モデルになりすました男が、掲示板で知り合った女子中学生と無料通信アプリのIDを交換。女子中学生のグループに招待させ、仲よくなった中学生に「裸の写真を送って」「すぐに削除するから大丈夫」などとして約1600人の児童とやりとりをし、100人を超える被害に遭わせた例もあります。
ちなみにこの被疑者は46歳だったそうです。このデジタル社会ではネット空間で裸の写真を送った瞬間に「デジタル・タトゥー」となり、写真が公開されてしまったり、直接性被害に遭ったりする事件も後を絶ちません。
■名前が特定されると就活等にまで影響する
無料通信アプリで中学生の女子生徒に顔が入った自撮りの裸画像を送らせ、その画像を「ばらまく」などと脅して呼び出し、性的暴行を加えた事件もあります。
これがリベンジポルノの恐ろしさです。
「相手も顔写真を送ってきたから」「相手の顔写真が公開されているから」と信用してはいけません。その写真も、プロフィールも全て嘘かもしれないのです。
「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」は、18歳未満の子どもに対して、わいせつな画像を送らせた時点で成立します。
わざわざ卑猥な画像をまとめた「まとめサイト」まで存在しています。そこに掲載されてしまうと、削除するのは難しいでしょう。
永久に消せない「デジタル・タトゥー」となるだけでなく、名前が特定されると就活等にも影響してしまいます。
■交際相手でも、別れてしまったら…
とくに脅迫されたわけではないのに、裸の画像を送ってしまう女の子もたくさんいます。彼女たちはなぜ、裸の画像を送ってしまうのでしょうか。
根底には、承認欲求があると思います。
男の子に比べて女の子は、性に目覚めるのが早いため、それが武器になることを知っています。男性が自分に興味を持つ、注目されることがわかっている。
「裸の写真を送って」とストレートに言われると、興味を持ってほしい、注目されたい、気を引きたいという思いから、送ってしまう子が多いようです。子どもたちには、デメリットがわからないため、「この人はいい人だから大丈夫」と思ってしまうのです。
まさかバラまかれるとは思っていないですし、削除すればいいや、と思っています。
例えばその女の子が20歳になって有名モデルになったら……。有名になった後で、当時の裸の画像が出てきた、などということも十分あり得ます。今のほんの少しのいたずら心が自分の人生まで狂わすことになります。
では仮に、つき合っているもの同士ならいいのかといえば、そうではありません。
ガールフレンドに裸の写真や抱き合っている写真を求めるケースは、よくあることです。寝ている間にスマホで撮影されているケースもあるでしょう。
でも、もし別れてしまったら?
リベンジポルノで、写真や動画をネットに流されてしまう可能性もあります。知らず知らずに加害者になってしまうこともあります。
送信者の許可なく、スマホの紛失やウイルスの感染等の理由で拡散してしまうこともあり、それが問題をさらに大きくしているのです。
■「パパ活募集」が性犯罪の起因になっている
最近、新型コロナウイルスの影響もあり、女子高生や女子大学生のあるバイト稼働日数が落ち、お小遣いほしさにパパ活を募集する女子高生や女子大生のツイッターの書き込みが増えているという現実もあります。
「コロナでバイトが多くなくてP活始めました。条件はDMでお願いします。秘密厳守します♡」
「コロナでP活も規制しようと思ったけど無理〜。コロナ対策、万全にします」
こうした書き込みに対し、
「奨学金の返済が大変な方、母子家庭の方、コロナで仕事がなくなった方、支援します! 気軽にDMください」
とツイートする男性もいます。
これが性犯罪の起因になっています。
SNSで知り合った女の子をホテルに連れ込むなどの誘拐事件も多発しています。SNSには性犯罪を狙う者がうようよしているのです。
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元埼玉県警 捜査一課刑事
1976年岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査一課の警部補。デジタル捜査班の班長として活躍。現在は、小中高大学生らが巻き込まれる犯罪を防止するために設立された「一般社団法人スクールポリス」の理事を務め、講演活動を行うほか、刑事ドラマの監修、テレビ番組のコメンテーターとして多数出演している。
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(元埼玉県警 捜査一課刑事 佐々木 成三)
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