なぜ文在寅政権は「北朝鮮の核ミサイル武装」を平気で許すのか
プレジデントオンライン / 2021年3月30日 11時15分
■昨年3月以来となる北朝鮮の弾道ミサイル発射
3月25日、北朝鮮が東部・宣徳(ソンドク)付近から日本海に向け、短距離の弾道ミサイルを1発ずつ発射した。発射は午前7時4分ごろと午前7時23分ごろで、いずれも日本のEEZ(排他的経済水域)の外に落下した。北朝鮮の弾道ミサイル発射は昨年3月29日以来だ。
弾道ミサイルは北朝鮮から東方向に発射され、100キロ以下の高度で450キロ飛んだ。航空機や船舶に被害はなかったが、日本政府はNSC(国家安全保障会議)を開催するとともに中国・北京の外交ルートを通じ、北朝鮮に抗議した。
■ワシントンを核ミサイルで狙えれば、アメリカと交渉できる
菅義偉首相は25日朝、首相官邸で記者団に対してこう語った。
「わが国と地域の平和、安全を脅かすものだ。国連安全保障理事会の決議違反だ。厳重に抗議し、強く非難する」
外務省の船越健裕アジア大洋州局長も、アメリカのソン・キム国務次官補代行(東アジア・太平洋担当)と電話で会談し、連携を緊密にしていくことを確認し合った。アメリカのインド太平洋軍は「アメリカの日本と韓国を防衛する決意は固い」との声明を出した。国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会も26日に緊急の会合を開き、議長国のノルウェーやその他多くの国が「安保理決議違反だ」との懸念を表明した。
これまでも北朝鮮は厳しく批判されてきた。だが、弾道ミサイルの発射を止めることはなかった。なぜ止めようとしないのか。
北朝鮮は国際社会に非難されることを承知で、核・ミサイル開発を続けている。開発実験を重ね、核弾頭を東海岸のワシントンD.C.のホワイトハウスまで確実に飛ばす能力を獲得できれば、アメリカと対等と勝負でき、自らの主張を押し通せると考えているからである。
■少しずつ核・ミサイル開発のレベルを上げる「サラミ戦略」
北朝鮮は弾道ミサイル発射を交渉のカードに使ってきた。日米韓を中心とする国際社会を脅し、交渉を有利に進めようと企ててきた。トランプ政権のときに米朝首脳会談が実現したことで一時、発射を見合わせてはいたものの、それはアメリカの出方を探っていたのである。
そして新たに誕生したバイデン政権が北朝鮮政策の見直しを始めると、今度は3月21日に短距離の巡航ミサイルを2発、黄海に向けて発射した。バイデン大統領が「通常の軍事訓練の範囲内で問題ない」との見方を示すと、25日に問題の弾道ミサイルを打ち上げた。
要は北朝鮮政策の見直しを進めるバイデン政権の態度の変化に注意しながら、少しずつ核・ミサイル開発のレベルを上げ、核・ミサイルの攻撃能力を確実なものにしていくつもりなのだろう。北朝鮮が得意とする、酒のつまみのサラミをナイフで少しずつ切り取るように時間をかけて相手を懐柔していく、いわゆるサラミ戦術なのである。北朝鮮のしたたかな戦略には注意が必要だ。
■「今後も核・ミサイルの開発を続けて圧倒的な軍事力をつくる」
北朝鮮は27日になって朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の側近で発射に立ち会った朝鮮労働党の李炳哲(リ・ビョンチョル)書記の次のような談話を発表した。
「主権国家としての自衛権に基づいた行動だ」
「3月に実施されたアメリカと韓国の合同軍事演習に対抗するための措置だ」
「国連の安保理決議に違反するとのバイデン大統領の発言は自衛権に対する露骨な侵害であり、挑発だ。われわれへの敵対感をあらわにした」
「バイデン政権ははじめから間違っている。われわれは自分たちがすべきことを分かっている。今後も核・ミサイルの開発を続けて圧倒的な軍事力をつくっていく」
いやはやなんとも強気な談話である。こうした言葉を国際社会に向けて平気で発信するところに北朝鮮の異常さと危うさがある。
■アメリカと中国の「新冷戦」が北朝鮮問題を深刻化させる
アメリカは、前述した国連安全保障理事会の制裁委員会に対し、今回の北朝鮮の弾道ミサイル発射についての調査を求め、制裁強化を視野に入れた独自の資料の提出も示唆している。
アメリカが北朝鮮に強硬姿勢を見せるのに対し、北朝鮮に対して融和姿勢を示しているのが中国とロシアだ。中国とロシアは「拙速な行動は控え、長期的な視野に立って制裁を緩和すべきだ」との主張を制裁委員会でも繰り返した。
特に中国は、朝鮮中央通信が23日に報じたところによると、金正恩総書記が中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と口頭でのメッセージを送り合い、敵対する勢力からの挑戦と妨害に対し、北朝鮮と中国が団結することを誓い合ったという。「敵対する勢力」とは、アメリカのバイデン政権のことだろう。正恩氏は「中国は人権問題をめぐる敵対勢力からの誹謗中傷に屈せず、社会主義体制を強固にしている」と語り、中国支持の姿勢を示した。
中国中央テレビも前日の22日に、習近平氏が金正恩氏に宛てたメッセージについて報じている。今後、北朝鮮問題はアメリカと中国の「新冷戦」によってさらに深刻さを増す恐れがある。
■韓国・文在寅政権の態度は煮え切らない
北朝鮮に核・ミサイル開発を諦めさせるには、日本とアメリカ、それに韓国の3カ国の強い連携が必要であることは言うまでもない。しかし、肝心の韓国の動きが鈍い。慰安婦問題と徴用工訴訟で反日感情を煽り、自らの政権維持に利用してきた文在寅(ムン・ジェイン)大統領に問題がある。
3月18日の「米韓外務・防衛閣僚会合」(2プラス2)でも、北朝鮮についてバイデン政権は経済制裁を堅持する姿勢を示したうえで、文在寅政権に発破をかけ、「国連の安全保障理事会決議を完璧に履行することが重要だ」と韓国側に認識を求めた。
だが、文在寅政権の態度は煮え切らない。文在寅大統領が北朝鮮に対し、融和路線を取って北朝鮮との経済協力事業の再開を強く目指しているからだ。文在寅大統領の北朝鮮融和もいい加減にしてもらいたい。停戦中とはいえ、北の核兵器開発に対する脅威はないのか。
■「揺さぶりで有利な駆け引きを狙う戦術は見え透いている」
3月26日付の朝日新聞の社説は「北朝鮮の挑発 同じ愚を繰り返すのか」との見出しを付け、こう書き出す。
「危うい恫喝による瀬戸際外交に回帰しようというのか。足元の苦境を直視し、不毛なパターン思考を改めるべきだ」
「北朝鮮がきのう、日本海側に弾道ミサイル2発を発射した。国連安保理決議に反する発射は昨年3月以来で、バイデン米政権発足後では初めてだ」
北朝鮮のやり方はまさに瀬戸際外交で、破れかぶれに見える。
朝日社説は指摘する。
「だが、こうした揺さぶりで有利な駆け引きを狙う浅薄な戦術は、もう見え透いている。米政権との対話を一時的に拒んでも、北朝鮮の閉塞状況は何ら改善されない」
北朝鮮の金正恩総書記の頭には軍事力の強化しかなく、国民の生活を向上させることはまったく考えていない。本来、金正恩氏が取り組むべきことは経済の立て直しであり、自然災害や食料不足で苦しむ北朝鮮の人々を救うことのはずだ。
■これまでの朝日社説と違って韓国に厳しい
後半で朝日社説は韓国に注文する。
「南北融和を最優先に掲げる韓国の文在寅政権は、残り任期が約1年となった。独自に制裁の緩和や支援を模索しているようだが、日米とのすり合わせを経ない単独行動は慎むべきだ」
「慰安婦や徴用工などの問題で対立を続ける日韓関係も、大きな支障となっている。北朝鮮の短・中距離弾道ミサイルは、日韓を脅かす共通の懸念であることを忘れてなるまい」
これまでの朝日社説と違って韓国に厳しい。書き手の論説委員が変わったのかもしれない。今後の社説の展開にも注目していきたい。
■「北朝鮮に非核化措置をとらせる戦略の構築が重要だ」
読売新聞も3月26日付で「北ミサイル発射 日米韓の連携が問われている」(見出し)という社説を掲載している。
読売社説は「北朝鮮は、米国が日韓との同盟強化に動いていることに反発し、バイデン政権からの接触の提案を拒んでいる。発射には、米国の出方を探り、自国に有利な形で対話を始める狙いがあろう」と指摘したうえで、こう書く。
「バイデン政権は、『圧力と対話』の組み合わせを基調に、北朝鮮政策の見直しを進めており、今後数週間で完了させるという」
「圧力の中心は制裁だが、北朝鮮の最大の貿易相手国である中国の措置は限定的で、石炭密輸などの制裁破りが繰り返されてきた。米中対立が激化する中、中国が米国の圧力強化策に応じないと、北朝鮮は考えているのではないか」
北朝鮮の金正恩総書記はしたたかだ。北朝鮮は中国という威を借り、中国を後ろ盾にしてことを有利に運ぼうとしている。
読売社説は訴える。
「事態を放置すれば、北朝鮮は中長距離弾道ミサイルの発射や核実験まで強行し、緊張を高める恐れがある。中国にとっても情勢の不安定化は不利益が大きいはずだ。制裁の抜け穴をふさぐ取り組みを強化しなければならない」
北朝鮮が極端な行動に走った場合、一番困るのは中国だろう。読売社説が指摘するように利益を大きく喪失するからだ。今後の中国の動きが気になる。
■日米韓の安全保障担当の高官がワシントンで協議
最後に読売社説も朝日社説と同様、韓国の問題に触れている。
「韓国の文在寅大統領の北朝鮮に対する融和的な姿勢も不安材料として残っている。今月実施された米韓合同演習は、文政権の意向で野外機動訓練は行わず、机上演習にとどめたという。これで有事に即応できるのか」
「日米韓は近く、ワシントンで高官協議を行う。北朝鮮を対話に引き出し、非核化の措置をとらせる戦略の構築が重要だ」
やはり韓国の融和姿勢は問題だ。これでは北朝鮮の問題は解消しない。米国のバイデン政権は今週、日本と韓国の安全保障担当の高官を首都ワシントンに招き、3カ国で北朝鮮への対応などを協議する。協議について米政府高官は「政権発足後、ワシントンを訪れる最もハイレベルの外国政府の高官になる」と説明している。どこまで踏み込んだ内容になるだろうか。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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