話題沸騰NFT市場ではなぜツイッターCEOのつぶやきが3億円で売れるのか
プレジデントオンライン / 2021年5月4日 8時15分
2021年3月10日に6930万ドル(約75億円)の値が付いたビープルのデジタル作品「Everydays:The First 5000 Days」 - 写真=AFP PHOTO/CHRISTIE'S AUCTION HOUSE/HANDOUT/時事通信フォト
■大坂選手を描いた作品に2000万円
最近、アメリカのテニス関連のウェブサイトで、大坂なおみ選手に関するこんな記事を見つけた。「Naomi Osaka enters NFT space with sister Mari(大坂なおみ、姉のまりと共にNFT分野に参入)」
NFTとは、世界のさまざまなクリエーターたちが自分たちの作品を売り出す手段として注目しているNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)のことで、デジタル資産の一種だ。今回のニュースは、姉のまりさんが大坂なおみ選手を描いた「The colors of Naomi Osaka 」というアート作品集が、NFTとして出品されたという話だ。そのうち一つは、20万ドル(約2100万円)の値が付いた。また、最後の6枚目の作品は、1枚につき5ドルで抽選され、すべての収益は彼女が作った女性アスリートを支援するための「Play Academy」という団体に寄付されるという。
今年に入ってから、NFT関連のニュースが世界で続いている。とはいえ、まだまだ私のような一般人にはあまりなじみがない。
デジタル作品はコピーが簡単に作れてしまうので、これまでは本物との区別をつけるのが難しく、価値を付けるのが困難だった。ところが、改ざんすることができない(改ざんしてしまうと履歴が残ってしまう)というブロックチェーンの技術を使うことにより、一度オリジナルの作品をNFT化すれば、いくらコピーが出回ったとしても、自分の持っているものがオリジナルの作品であると電子的に証明できるようになった。
自分の作品をNFT化して売買するには、インターネット上でNFTの取引の場を提供するマーケットプレイスと呼ばれるところに出品する。現実のオークションのように、そこで値がつけば落札となり、所有者が決まるというわけだ。
■75億円の値が付いたデジタル作品
それにしても、最近のNFTの状況はまさにバブルだ。
例えば、アバターが住むデジタルの家としてマーズハウス(Mars House)と名付けられた3Dファイルとビデオクリップが、51万2712ドル(約5650万円)で売られた。また、オークション大手のクリスティーズが、デジタルアーティスト、ビープル(Beeple)の「Everydays:The First 5000 Days」という5000点のデジタル画像を合成して作ったコラージュ作品をNFT化して売りに出したところ、100ドルで始まったオークションが6930万ドル(約75億円)まで跳ね上がり、落札された。
NFT化されているのは、アート作品だけではない。ツイッター(Twitter)の共同創業者でCEOのジャック・ドーシー氏が2006年3月21日に投稿した初めてのツイートには、290万ドル(約3億2000万円)の値が付いた。
■デジタルの「オリジナル」を所有する意味
「所有」といっても所有しているのはあくまでデジタルデータであって、実際の作品をリアルで所有するのとは違う。もちろん、落札者がデータをダウンロードして印刷し、その作品を自分の居間に飾るといったようなことはできるが、そういう楽しみ方ではなく、「世界に一つしかないこのデータを持っているのは私です」と、ネット上で明らかにできるというところに価値が見いだされているというのだ。
しかし、アート作品ならともかく、初めてのツイートに値段が付くとは、どういうことだろう? 考えてみると、ツイッター創業者の初めての投稿は人類の歴史でもある。これから先、歴史がデジタルで記録されていくことを考えると、そのオリジナルデータを自分が所有しているということは、非常に価値のあるもののようにも思えてくる。
NFTに詳しい京都大学大学院特任准教授の山本康正氏は、デジタル空間が当たり前になってきている現代において、NFTは人々の承認欲求を満たすものだという。
例えば、『フォートナイト』や『あつまれ動物の森』といったオンラインゲームでは、バーチャル空間で他人とコミュニケーションすることで盛り上がっている。「そういった形でコミュニケーションする機会が増えれば増えるほど、バーチャルの中でデジタルアートなどを持っていることを人々に言いたいという、承認欲求が出てくるのです」
■クリエーターにはありがたい仕組み
NFTのもう一つの特徴は、作品が売買されるたびにクリエーターにお金が入る仕組みを、NFTに書き込むことができるという点だ。今までのアート作品などは、最初に売った時には作家にお金が入るが、二次流通以降の売買には作家は関与できない。誰の手にその作品が渡ったのかはわからないし、もちろん収入にもならない。
ブロックチェーンの仕組みによって、自分が作った作品が今、誰の手にあるのかトラッキングできる。またNFTでは、例えば「売却されるたびにその金額の何%かがオリジナルの作家の手元に行く」といった設定もできるので、クリエーターにとってはありがたい仕組みでもある。そして、売ったデジタル作品は通常ネット上にそのまま残るため、他の人もその作品を見ることができる。
■「後藤健二の作品」を誰か1人のものにしない
そんなNFTの仕組みに熱い視線を向けているのが、クリエーターのこうづなかば氏だ。
2015年、国際ジャーナリスト、後藤健二氏がシリアで拘束され、過激派組織のイスラム国に殺害されたショッキングなニュースを覚えている人も多いだろう。こうづ氏は、後藤氏とともに2009年、ジャーナリズムを現代アートとして作品化するプロジェクトthe chordを立ち上げ、後藤氏の撮影した難民キャンプや世界の紛争地域での風景、子供たちの映像をベースにアート作品を作ってきた人だ。
たとえば、silent dance(静なるダンス)という作品は、連日戦闘が続く西アフリカに位置するリベリアで、命を落とした少年の遺体が、遺体置き場用に掘られた砂の穴の中に回転しながら落ちていく画像を宇宙の背景とコラージュにし幻想的な作品に仕立てた。
報道写真や映像は現実を直視するため厳しいものが多く、決して多くの人が好んで見たいと思うものではないかもしれない。しかし、「アート作品になれば、どこか優し気だったり、不思議だったりするため、もっと幅広い層に届けることができるのではないかと思った」という。
2人は2011年に作品をニューヨークのアートフェアに出展した。初日、幸運にも少年兵を題材にした作品が売れたが、うれしさよりも罪悪感をもったそうだ。
「本当に売ってしまってよかったのだろうか? 作品作りにはお金がかかっていて、活動費も必要だけど、作品に写っていた少年たちにはお金は還元されない。そして、売れた作品は買った人だけものになってしまった。その人の部屋には飾られるが、それ以外の人の目にはもう触れない。そんなことを2人で話して、結局、2日目以降、僕らは作品を売るのをやめたんです」
こうづ氏は、その時のことを振り返りながら、今後、自分たちの作品をNFT化したいと考えているという。NFT化することによって、もっとたくさんの人に見てもらうことができるのではないか、また、デジタルという形で作品が残るので、作品がより永遠性を持つようになるのではないかと感じているという。「NFTは社会性のある作品にこそ、合っているのではないかと思います」
■詐欺などのリスクも
山本氏も、モナリザやゴッホなど、死してなお輝きを放つもの、価値が続いてるものこそNFTとしての意味があり、「例えばビープル(Beeple)のデジタルアートや大坂なおみさんが出しているものが、時が経てば経つほどそれは『すごかった』と言えるものになっていくかどうか、ファンが残り続けるかどうかということが重要だ」と言う。
とはいえ、この分野には、課題もある。まず気を付けなければいけないのは詐欺だ。「例えば、本当は所有していないのに『これを売ります』と言ってお金だけだまし取るといったケースはありうる。『確かにこの人は所有している』という確証を取るなど、そういうところは、(マーケットプレイスの)運営者がやるしかない」と、山本氏は言う。また、思わぬ高値で買ってしまうリスクもあるかもしれない。
■テクノロジーへの感度が足りない日本
NFTは世界に開かれたマーケットプレイスで売買されるので、グローバルに資金調達する手段でもある。
4月初め、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムがグローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミットを開いたが、その会議の場でもNFTが話題になった。参加者の一人、アラブ首長国連邦のアブドラ・ビン・トゥク経済大臣は、アラブ首長国連邦は国を挙げて、NFTを含め、国のさまざまな資産のトークン化やパイロットプロジェクトを進めているという。
「トークン化をすることによって、投資、資本、国外の投資へのアクセスを進め、資産の細分化もできる」と大臣は言う。「NFTは、これまで資本の調達がなかなかできなかった人に、門戸を開くことができるのです」
日本はどうだろう。もっと新しいテクノロジーに対して、政府を挙げてアンテナを上げていく必要があるのではないだろうか。新型コロナの対応一つ取ってもそうだ。政府のデジタル化、教育のデジタル化、どれを取ってもデジタル化によって新たな可能性を広げていっている国と比べると、遅れている感がいなめない。
長年シリコンバレーでビジネスを展開してきた山本氏は、日本は、テクノロジーなど新しいことを試すということに対して、ハードルが高すぎると指摘する。
「今、日本は、デジタル庁という巨大な新しい戦艦を作ろうとしている。それはよいのですが、併せて、小規模でスピード感のある動きもしてほしい。NFTや新しい量子コンピューターに出資するなり、研究プロジェクトを立ち上げるなり、まずはやってみるということが大事だと思います。そして、そこで知見を得て次にどうするかを考えていってほしい」
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ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。
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(ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員 大門 小百合)
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