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「"牛乳は開封しても日付までは大丈夫"はウソ」賞味期限の俗説を徹底検証する

プレジデントオンライン / 2021年6月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chameleonseye

賞味期限の切れた食品は、ただちに食べられなくなるわけではない。では、いつまで食べられるのか。科学ジャーナリストの松永和紀さんは「食品製造時の衛生環境や容器包装の種類、保存条件などによって、食品を安全に食べられる期間は大きく変わる。俗説を鵜吞みにするのは危険だ」という――。

■わかりやすい数字は往々にして独り歩きするが…

私は何度も、「食品ロス削減のため、賞味期限切れを捨てないで」という記事を書いてきました。でも、食の安全と食品ロス削減、両立しないことはやっぱりあります。前編での消費者庁食品ロス削減推進室の堀部敦子課長補佐の言葉が忘れられません。「もったいないという気持ちはとても大事です。でも、食品ロス対策は科学的に行うべき。安全をおろそかにした食品ロス対策はあり得ません」

そうなのです。これまでの食中毒事例など考えれば考えるほど、昨今の「もったいないから、食べましょう」の風潮に賛成しつつも、「ちょっと怖いな。大きな事故につながらなければいいけれど」とも思えてくる。もう少し慎重に、でも科学的に、考えたい。

後編では、卵や牛乳、豆腐、塩辛などの事例で、さらに期限について考えます。

卵は、冬場であれば産卵から57日間は生で食べられる……。

近頃、テレビ番組やウェブメディア等でもちょくちょく報じられるようになりました。例えば「エシカルはおいしい」というウェブサイトの記事「冬場に生で食べられる卵の賞味期限は?」には、「日本卵業協会によれば、夏は産卵後16日、冬は57日以内とされています」という記述があります。わかりやすい数字は往々にして独り歩きしますが、危険です。冬場でも、57日間大丈夫とは言い切れません。

■卵黄膜が弱くなるとサルモネラ属菌の増殖につながる

そもそも、57日間という数字はどこから出てきたのか? 食中毒を招くサルモネラ属菌が、殻の中で増殖を抑えられる期間です。生きている鶏はサルモネラ属菌を持っていることが多く、卵の中にも菌が入り込んでいる場合があります。食品安全委員会の研究では、市販鶏卵の汚染率は0.0029%程度。販売される10万個の卵のうち2.9個にはサルモネラ属菌がわずかな数ではありますが入っているという推定です。しかし、菌数が少なければ生で食べても食中毒にはつながりません。

卵の中で、サルモネラ属菌は卵白部分にいます。黄身を包み込んでいる卵黄膜は産卵からしばらくはしっかりしていますが、だんだんと弱くなり中の鉄などの成分が漏れ出します。これがサルモネラ属菌の栄養分となり増殖がはじまります。

したがって、卵黄膜から成分が漏れ出す前であれば大丈夫。卵黄膜は、温度が高いと弱体化が早まります。英国のTJ Humphrey博士が1990年代、研究して論文を発表しており、それに基づくと、下記の図表のような関係が成り立つとされています。

出典=鶏卵の日付等表示マニュアル−改訂版
出典=鶏卵の日付等表示マニュアル−改訂版

サルモネラ属菌の増殖が始まるまで、保存温度が10℃であれば57日、20℃であれば30日、30℃であれば13日……。だから、温度が10℃を下回る冬場であれば、57日間は生で食べられる、というわけです。

■「冬場、卵は57日間、生で食べられる」は単純化しすぎ

しかし、冬場は常に10℃を下回るでしょうか? スーパーマーケットの店内は暖房され、安売り卵が室温で販売されています。流通のさまざまな段階や、消費者が購入してから冷蔵庫に収まるまで、消費者の冷蔵庫の開閉による温度変化など、現代社会においては冬場でも10℃を超えそうな環境はいくらでもあります。

実際に、日本の四季における温度変化等も加味してサルモネラ属菌の増殖を調べた実験も行われ論文発表されています。10℃で18日間保存していた卵は新鮮さを失い卵黄膜が弱くなっており、リスクはあることが確認されています。

こうしたことを考慮すると、「冬場、卵は57日間、生で食べられる」という情報はあまりにも短絡的、単純化しすぎなのです。サルモネラ属菌食中毒にかかったら、命を落とす場合もあります。

プラスチックパックに入っている卵
写真=iStock.com/karimitsu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/karimitsu

■「卵は賞味期限が切れたら加熱して食べる」と考えたほうがいい

卵は通常、産まれた当日、または翌日には集められ、その日のうちに洗卵パック詰めして出荷されます。多くの業者は輸送や店頭陳列段階も冷蔵するなど管理に努め、消費者に対しても冷蔵庫で保存するように表示しています。そのうえで、年間を通しておおむね産卵後2週間を賞味期限としています。

上記の表から考えると、期限が切れても1週間ぐらいは大丈夫でしょう。でも、消費者は自分が食べる卵について、産卵からの長い工程でどのような管理が行われたか、細かくは把握できません。ならば、生でいつまで食べられるかを追求するよりも、「卵は賞味期限が切れたら加熱して食べる」をだれもが知る“常識”にしたほうがよいのではないでしょうか。

参考情報
・JA全農たまご株式会社・鶏卵の日付等表示マニュアル−改訂版
・Miyahara, M. et al, Shell Eggs and Salmonella Enteritidis in Various Seasons in Japan. Biocontrol Science 7, 197–201 (2002).
・食品安全委員会・卵の安全性;サルモネラについて

■あずきばっとうを食べてボツリヌス菌食中毒に

2012年、食品関係者にとって今も忘れられない事件が起きました。「あずきばっとう」によるボツリヌス菌食中毒です。この事例を知れば、「賞味期限切れでも食べられる」と安易に考えることの恐ろしさを感じることでしょう。

あずきばっとうというのは、岩手県と青森県の郷土料理で、甘く煮たあずきにうどんが入ったもの。岩手県で2012年2〜3月に製造された約400個のうちの1つを鳥取県の夫婦が3月下旬に食べ、ボツリヌス菌食中毒となりました。発症すると死に至ることも多い、非常に怖い菌。夫婦は同年6月の段階で人工呼吸管理中と報告されています。

このあずきばっとうは、真空包装し1時間煮沸して製造されていました。ボツリヌス菌は高温に強く、「芽胞」という構造を作って生き延び、温度が下がって適温になると増殖します。この条件では、ボツリヌス菌を死滅させることはできません。

しかし、ボツリヌス菌がいたとしても、冷蔵して増殖を抑え早めに食べていれば、リスクは大きく下がります。県が患者の自宅を調べた時には、製品の賞味期限は剝がれて不明。要冷蔵(5℃以下)の表示がありましたが、守られていたかわかりません。

ボツリヌス菌は120℃、4分以上の加熱では死滅する、とされています。レトルト食品(レトルトパウチ食品)は法律上の名称が「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」で、加圧することにより温度を上げこの条件をクリアできます。

レトルトカレーの表示。レトルトパウチ食品であることが記載され、殺菌方法という項目で、気密性容器に密封し加圧加熱殺菌と記載されていれば、芽胞等も死滅している
レトルトカレーの表示。レトルトパウチ食品であることが記載され、殺菌方法という項目で、気密性容器に密封し加圧加熱殺菌と記載されていれば、芽胞等も死滅している

■レトルト食品と真空パック詰食品の違いに注意

結局のところ、被害者から事情を聞けず詳細はわかりませんでした。しかし、レトルト食品と真空包装パック詰の食品は、いずれもプラスチックの袋に食品が包まれ、なんとなく似ています。この二つが混同され、あずきばっとうが冷蔵されていなかったのではないか? ボツリヌス菌は嫌気的な条件を好むため、真空包装パックの中で大量増殖していたのではないか、と推測されたのです。

このあずきばっとう製品を食べたほかの人は食中毒になっておらず、この夫婦だけが発症しました。つまり、製造ではなく、その後の取り扱いが運命を変えたようです。この事例を覚えている食品関係者は、賞味期限切れを食べられるかどうか、簡単には答えられません。「食品の種類は?」「容器包装は?」「保存はどのように行っていたか?」と尋ねます。

この事件の後、厚労省は食品業界に、レトルト食品と真空パック詰食品を区別しボツリヌス菌に対処することなどを求める通知を出しました。併せて、真空パック詰食品には「要冷蔵」をはっきりと表示し、消費者も確認して冷蔵保存するように、と注意喚起しました。

参考情報
・国立感染症研究所・鳥取県で発生した国内5年ぶりとなる食餌性ボツリヌス症
・厚労省・真空パック詰食品(容器包装詰低酸性食品)のボツリヌス食中毒対策

■安全安心・日持ちよしの缶詰だが、くだもの缶は注意

缶詰、びん詰、レトルト食品は、原則として、食品を容器に密封して加熱殺菌してあるので、腐敗につながる菌はいません。昔は、芽胞を作る菌が生き残り酸っぱくなったり容器が膨張したりする事故も多くありましたが、現在では原材料の段階で殺菌したり加熱時の温度と時間を調節したりするなどで、芽胞のリスクを抑え込んでいます。したがって、これらは賞味期限が切れても安全上の問題が起きるとは考えにくい、と言えるでしょう。

日本缶詰びん詰レトルト食品協会のウェブサイトで、安全性や賞味期限等について詳しく解説されています。賞味期限を過ぎたものについては、缶詰の場合は缶がさび付いていないか/ふたや容器が膨らんでいないか/ふたを指で押すとペコペコとへこまないか……を確認し、該当する場合は廃棄を、と明快です。

ただし、これらであっても保存されてきた環境が重要です。協会は「缶詰といえど、高温多湿な場所で長期間おいておくと品質の劣化はやはり早まりますので、表示されている賞味期限以内の日付であっても、期待されるおいしさでなくなっていることがあります」と明記しています。

加えて、くだものの缶詰は注意が必要。長期保存していると缶の鉄分とくだものの酸が反応し始め、ガスが発生したり中身が変質したりしやすいのです。開封したら中身はドロドロとか、突然、缶が破れ中身が噴出、いう事故もおきます。コープこうべ商品検査センターが、組合員からの質問に対して、詳しく回答しています。くだもの缶は、賞味期限までに食べた方がよさそうです。

参考情報
・公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会
・生活協同組合コープこうべ商品検査センター・商品Q&A

■牛乳の期限も開封したら無効

牛乳の期限は殺菌方法により消費期限と賞味期限の2種類があることを2020年10月30日配信のプレジデントオンラインの記事「『賞味期限を過ぎたら食べないほうがいい』が間違いである根本的な理由」でお伝えしました。どちらの期限かは、パッケージに明記されています。ちなみに、低温保持殺菌は体によく超高温瞬間殺菌は悪い、という俗説がありますが、科学的な根拠はなく、栄養価に違いはありません。

ただし、牛乳の期限はどうも誤解されているようです。1リットルのパッケージを開けて飲みながら、この日付までに飲みきったらよい、と思っていませんか?

それは間違い。消費期限、賞味期限共に、開封すると無効。開けた後は菌やカビ胞子などが入り込み増殖が始まるので、メーカーは責任を負えません。開けたらなるべく早く飲みましょう。それに、パックに口をつけて飲むのは御法度。人の口は汚いのです。微生物が牛乳にさらに入り込み増殖して、変質が早まります。

参考情報・Jミルク・期限表示を知って牛乳をおいしく飲みましょう

■いかの塩辛は、減塩志向で食中毒が発生した

食品の日持ちは、味付けによっても変わります。「これまでの経験から、この程度は日持ちするはず」という思い込みは通用しません。

2007年に宮城県で製造されたいかの塩辛により腸炎ビブリオ食中毒が発生し、全国の約600人が症状を訴えました。賞味期限内であっても、食中毒につながったのです。自治体などの調査の結果、この塩辛は伝統的な高塩分熟成タイプではなく、塩分4%程度の低塩で、食塩による食中毒菌の増殖抑制効果を期待できないのに製造時の管理が不適切だったことが判明しました。

この後、厚労省は低塩分の塩辛の製造、流通、販売等において、一貫した低温管理(10°C以下)を行うよう業者に指導することなど、全国の自治体に通知しています。

消費者も「塩辛は……」という思い込みにとらわれるのではなく、容器包装に書かれている保存方法を守りましょう。もちろん、開封後はどちらの塩辛も冷蔵庫に保存しなるべく早く食べきるべきです。

参考情報
・厚労省・いかの塩辛を推定原因とする腸炎ビブリオ食中毒の発生について
・食品分析開発センターSUNATEC・イカの塩辛で腸炎ビブリオ食中毒?

■「新鮮な鶏肉だから安全」ではない

新鮮であれば、食中毒菌は増殖しておらず安全……。多くの人はそう考えていると思いますが、当てはまらない菌もあります。消費期限・賞味期限の話から少し脱線しますが、鶏肉のカンピロバクター食中毒の事例をご紹介します。

厚生労働省・細菌による食中毒より

厚労省の食中毒統計によれば、細菌による食中毒で発生事件数がもっとも多いのはカンピロバクター。加熱して食べなければならない鶏肉の生食が主な原因です。カンピロバクターは鶏の腸管内にいて、食鳥処理した時にカンピロバクターが肉につきやすく、わずかな菌数であっても食中毒につながります。

興味深いことにカンピロバクターの多くは嫌気性菌なので、肉の表面の菌は空気に触れると死にます。そのため、「空気に触れている時間の短い新鮮な肉の方が、むしろ危険ですよ」と話す専門家すらいるほど。だからといって、空気にさらした鮮度の落ちた鶏肉を生で食べてはダメ。肉と肉の間で空気に触れていないカンピロバクターが増えていたり、サルモネラ属菌などが増殖している可能性もあります。鶏肉は、しっかり加熱して食べることをお勧めします。

参考情報・厚労省・食中毒

■常温保存できる豆腐が増えてきた

最近、常温で長期保存できる豆腐を店頭で見かけるようになりました。

豆腐は従来、冷蔵が義務付けられ、メーカーにより消費期限か賞味期限が付けられていました。しかし、無菌充填豆腐であれば芽胞をつくる菌は製造過程で死滅していることなどが確認されて、2018年、無菌充填豆腐の常温での保存や販売が許されることになりました。メーカーにより常温で120日保存できるものや、6カ月強日持ちする製品があります。災害用の備蓄食品としても利用できそうです。

ただし、消費者が間違えて要冷蔵の豆腐を常温保存すると、食中毒につながります。メーカーは「常温保存可能品」と大きくパッケージに表示していますので、見分けましょう。

主な豆腐の製造の流れ(一般)
出典=食品安全委員会季刊誌「食品安全」第54号

参考情報・厚労省通知・食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について(豆腐の規格基準の一部改正)

■テイクアウトの弁当には期限が表示されていない?

弁当、そうざいには消費期限が付けられます。ところが、なんの表示もない場合も。これは、その場で作ったものを販売したりテイクアウト、デリバリーしたりする場合は表示しなくてもよい、というのが食品表示法に基づくルールだから。対面であれば直接、客に説明できるためです。ただし、自主的に表示している事業者も多いようです。

厚労省は、新型コロナウイルス感染症対策のためテイクアウト、デリバリーが推奨されていた昨年5月、自治体等に通知を出し、消費者に対して速やかに食べるように注意喚起することを求めています。

参考情報・厚労省・食中毒

■期限切れを食べて食中毒になったら、だれの責任?

最後に、もし期限切れの食品により食中毒が発生したら、だれの責任になるのか? 消費者は補償を受けられるのか? そんなことが心配になったことはありませんか?

実は、食品表示法に基づき消費者庁から示されている「食品表示基準Q&A」のQ加工食品-48、49で、回答が示されています。48はこんな回答です。

消費者庁・食品表示基準Q&A第2章加工食品

いかにも役所的でわかりにくい文章ですが、最後がポイント。「期限後の食品であることをもって、直ちに営業者が免責されることにはならないと考えられます」。

食品製造時の衛生環境や容器包装の種類、保存条件などさまざまな要素によって、食品の安全性や品質保持期間には大きな違いが生じます。食中毒が起きたら調べられ、おのおのの責任が問われることとなります。現実には細かな状況を把握するのは容易ではなく、企業側は「責任を負わされるのでは?」と戦々恐々。したがって、いくら食品ロス削減が叫ばれようとも、「賞味期限内に開封し食べて」の一点張りにならざるを得ない面があります。

ここまで述べてきたように、開封前の食品であっても私たち消費者の取り扱い方によって、その品質、安全性は大きく変わります。そのうえでの「賞味期限切れは食べられる」であることを肝に銘じてほしい、と思います。

参考情報・消費者庁・食品表示基準Q&A第2章加工食品

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松永 和紀(まつなが・わき)
科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同、科学ジャーナリスト賞受賞)など。

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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)

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