「外食産業の真実爆弾」ウハウハのマクドナルド、崖っぷちワタミの"笑えない格差"はどこでついたか
プレジデントオンライン / 2021年6月15日 11時15分
■同じコロナ禍で、これほどまでにくっきり明暗がわかれるワケ
新型コロナウイルスの影響が長引く中、外食産業では明暗がくっきりと分かれています。
「牛角」「かっぱ寿司」などを保有するコロワイドや、居酒屋チェーンや宅配食を展開するワタミはかなり厳しい状況です。一方、マクドナルドは好調を維持しています。今回は、これら3社の財務内容を分析してみましょう。
■「牛角」「かっぱ寿司」「大戸屋」などを抱えるコロワイドは大赤字
まず、コロワイドの状況を見ていきましょう。コロワイドは、先ほども述べたように「牛角」や「かっぱ寿司」を保有していますが、他に「しゃぶしゃぶ温野菜」や「甘太郎」などを展開するほか、近ごろ「大戸屋」も傘下に加えました。
図表1をご覧ください。直近の決算である2021年3月期とその2020年度との売上高を比べると、前年度の2353億円が1681億円にまで、率にして28.5%減少しています。大幅減少です。それにともない前年度は56億円あった事業利益(営業利益)も81億円の赤字に陥っています。(親会社株主に帰属する)当期純利益も赤字幅が拡大し、97億円のマイナスです。
そのため、資金の流出を防ぐ意味もあり、事業の投資を絞っています。2021年3月期の1年間では、店舗政策で見ると、26店舗の新規出店とフランチャイズの50店舗を直営化する一方、218店舗の閉店と直営3店舗のFC化を行いました。
私が経営コンサルタントとして顧客企業の財務状況を事業投資の規模の観点から判断するときには、「減価償却費と減損損失を足したもの(減価償却費等)」とキャッシュ・フロー計算書にある「有形固定資産の取得」とを比べます。減価償却費等は設備などの価値の目減り分で、通常は、その分くらいは再投資しないと全体の売り上げが減り事業規模の維持が難しいからです。
コロワイドの場合、2021年3月期で減価償却費等が267億円に対して有形固定資産の取得のための支出が53億円とかなり小さく、投資を抑制しているのが分かります。大戸屋の取得など、子会社の取得に別途約44億円を使っていますが、それを足しても減価償却費等には大きく及びません。
大きな当期損失が出ているので、通常なら中長期的な安定性を表す自己資本比率は、その損失分だけ減少するはずですが、逆に10%だったのが11.9%まで上昇しているのは増資を行っているからです。これにより、安全ラインの最低限の10%をかろうじて維持しています。また、増資と合わせ、有利子負債を225億円近く増加させることで現預金を確保し、2021年3月末で384億円の現預金を確保しており、当面の資金繰りには問題はないと考えられます。ただし、前述したように、抱えている多くのグループの飲食チェーンが不調の今、経営的には大きな試練の時期だと言えます。
■もっと厳しいのはワタミ、政投銀からの増資を受け入れ
図表2はワタミの財務内容です。
ワタミはグループ全体ではコロワイドよりも規模は小さく、2021年3月期での売上高は600億円を少し超える程度です。売上高の減少幅は、2020年度に比べて33.1%と大きく減少しています。
営業利益に注目してください。ワタミの場合、2020年3月期でも9200万円とわずかしか出ていませんでした。それがコロナの影響を大きく受けた2021年3月期には97億円の赤字、(親会社株主に帰属する)当期純利益は115億円の赤字です。
ここで見るべき数字は、自己資本比率。先ほども説明しましたが、これは企業の中長期的な安全性を表す代表的な指標で、金融機関をのぞいては10%を切ると過小資本とみなすことが多いのです。
それが、ワタミの場合、2020年3月期には34.1%あったものが、巨額の損失を出したため、7%まで落ちているのです。明らかに過小資本です。そして、今後もしばらくコロナの影響が出るとなれば、自己資本比率がマイナス、つまり債務超過にもなりかねません。
もちろん、十分な投資ができる状況にはなく、減価償却費等の10分の1以下の有形固定資産の取得しか行っていません。それにより、資金の流出を極力減らしているわけです。
一方、企業が厳しい状況の場合に、私が何よりも注目するのは現預金です。同社は、2021年3月末で200億円を超える額を保有しており、この点では当面の資金繰りには問題はないと言えます。
しかし、長期借入金の残高が180億円と、その前の期末よりも135億円ほど増加しており、借り入れに頼った資金繰りになっており、このままの業績がしばらく続けば、問題はさらに深刻化します。
そこでワタミは、現預金を潤沢にし、かつ自己資本比率を上げるために、増資を発表しています。具体的には、日本政策投資銀行が120億円の第三者割当増資を行うことを発表しており、6月27日の株主総会で決議される予定です。
ワタミは、居酒屋業態を焼肉店に変更していくことなどで、売上高や利益の向上を図ろうとしていますが、増資により財務的、時間的な余力を得ると言えます。
■好調なマクドナルド「自己資本比率は驚異の75.1%」
一方、マクドナルドは好調です。
マクドナルドは12月決算ですが、前年度に比べて売上高、営業利益、純利益ともに増加しています。自己資本比率にいたっては、コロワイドやワタミが10%前後で低迷しているのに比べ、2020年12月末では75.1%と驚異的といってもいい数字です。
事業戦略的には、顧客の要望に応えるために打った手が功を奏しています。
例えば、時間帯に合わせたメニューラインナップの強化、また「月見バーガー」「グラコロ」「チーズロコモコ」などの期間限定商品や低価格の「バリューランチ」を販売するなどで、商品や価格への訴求をさらに進めました。さらに「モバイルオーダー」や「デリバリー」強化などによる利用客の利便性を高める施策も成功しました。
2020年は閉鎖店舗34店に対し、新規出店が48店舗と、店舗数の拡大も行っています。
数字的に投資の状況を見るために、減価償却費等と有形固定資産の取得を比べると、2019年12月期で104億円の減価償却費等に対して、有形固定資産の取得、つまり「投資」が145億円、2020年12月期でも116億円の減価償却費等に対して183億円の有形固定資産の取得を行っており、積極的に店舗展開やリニューアルを行っているのが、数字から見て取れます。将来のための投資を積極的にしているわけです。
2021年に入り、第1四半期(1~3月)の業績を見ても、2020年の同時期と比べ、売上高で5%、営業利益では20%の増加となっています。前年の同時期はコロナの影響が少し出始めたころだったので、業績の比較は難しいところですが、比較的堅調に推移していると言えます。
米国の経済統計を見ていると、コロナに対するワクチンの接種の進行もあり、1~3月期で実質GDPが年率6%を超える成長をしている一方、ワクチンの接種が進まない日本ではマイナス成長となっています。
最近になってようやくワクチン接種が進行し始めたことを考えると、今秋以降には外食業界にも明るさが見えてくるかもしれませんが、予断は許されません。3社の動向は、いわば日本経済が復活できるかどうかのリトマス試験紙のような存在であり、引き続き注視していく予定です。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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