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「中韓を抜いて世界一に」アップルカーも採用を検討する"日の丸蓄電池"のすごい性能

プレジデントオンライン / 2021年6月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

今後、普及が見込まれる電気自動車(EV)にはどんな蓄電池が採用されるのか。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「車載電池では上位7社中6社が中韓勢で、現状では日本勢は苦しい。しかし日本勢が強みをもつ『SCiB』がアップルカーに採用されれば、勢力図は一気に変わる可能性がある」という――。

■世界が注目する「日の丸蓄電池」

6月11日から英国で開かれたG7首脳会合では、気候変動対策や温室効果ガス排出削減がテーマとなり、「脱炭素」は2021年のメガトレンドになっている。

前回記事で紹介した自動車産業のEV開発競争は、まさに脱炭素の主戦場の一つだ。とはいえEVの命運は、車載される蓄電池の進化にかかっていると言っても過言ではない。各国政府が巨額の予算で投じて蓄電池の開発を支えている理由はここにある。

EVのネックは「航続距離」だ。現時点では、延びてきたとはいえ、ガソリン車よりEVは航続距離で不利とされ、EVの命運は航続距離どれだけ延ばせるか、どれだけ軽量で多くの容量を車載できるかにかかっている。EVを製造している各社は、競争力のある車載用蓄電池を求めて蓄電池メーカーと提携し、その課題を克服しようとしのぎを削っている。

そんななか日本の蓄電池が世界から注目される出来事が起こった。

その蓄電地とは、東芝の「SCiB」だ。

■“アップルEV”報道で大注目の東芝「SCiB」

契機は、2024年にも発表すると目されている米アップル社のEV、通称「アップルカー」に関する報道だった。どの自動車メーカーと組むのか、どの蓄電池を採用するのかに一気に関心が集まった。その候補に「SCiB」の名が挙がったのだ。

アップル社からの公式な発表はなく、報道ベースの情報にすぎない。それに「SCiB」も、他の蓄電池と同じく航続距離の課題を抱えている。車載蓄電池としての実績は、三菱の「i-MiEV」シリーズや国内外の電気バスにとどまる。

そのうえ調査会社「テクノ・システム・リサーチ」によると、2020年の車載電池の出荷量(要領)は1位が中国・CATLの26%、2位が韓国・LG化学の23%、3位がパナソニックの18%。上位7社中6社が中韓勢で、日本勢の後退が著しい。

しかし、アップル社の描く「戦略」を踏まえれば、SCiBが有力候補の一つと目されるのも納得がいく。さらに私は、1980年代に日本の半導体が世界シェアの半数を占めたように、「日の丸蓄電池」が大逆転できる可能性が高いと考えている。本稿でその理由を紹介しよう。

■SCiBの特性:長寿命と急速充電

蓄電池は「リチウムイオン電池」が基本形だ。正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池だ。

SCiBは負極にチタン酸リチウムを採用することで、安全性、長寿命、急速充電、高入出力、低温性能、広いレンジのSOCレンジと6つの優れた性能を持ち合わせ、EVに必要な論点をこれでもかというくらいに優秀に網羅している蓄電池になり得た。

二次電池SCiB™
画像=東芝オフィシャルページより

特筆すべきは長寿命と急速充電の特徴だろう。

リチウムイオン電池は充放電の際に5~15%の体積の変化を伴うが、これが材料の損傷などを招いて容量を低下させ、電池の寿命を縮める。その点、SCiBの場合は2万回の充放電を繰り返しても体積の変化がほとんどなく、劣化しにくい。

一般的なリチウムイオン電池の充放電サイクルが4000回程度というものが多い中、SCiBの充放電サイクル寿命は1万5000~6万回と他を圧倒している。

一般的なリチウムイオン電池との性能比較 
画像=東芝オフィシャルページより

充電に関しては、6分間で80%以上の急速充電が可能だ。2017年の試作段階で、6分の充電で走行距離320kmを実現し、旧来のリチウムイオン電池の3倍の充電効率を達成した。これは小型EVでの試算であるが、容量の大きい蓄電池搭載に換算した場合、10分強で600kmを走行できることになる。

スーパーチャージャーという超急速充電を売りにするテスラ社のEV(蓄電池はパナソニック、CATL、LGのいずれか社製)ですら30分ほどの充電を要することを考えれば、このSCiBの急速充電がいかに優れているか分かる。

■唯一の欠点は「航続距離」だが…

ただ、性能面で唯一欠点がある。それはエネルギー密度の低さだ。目下、EVは蓄電池の大容量化が進んでいるが、それが航続距離を延ばし、ガソリン車に対抗をするために取られているいわば適応策である。

SCiBの場合、エネルギー密度が低いため、同じ体積の電池を積んだとしても1回の充電で走行できる航続距離が短くなってしまう。EVの命運は航続距離どれだけ延ばせるか、にかかっているのは先述の通りだが、これはSCiBの致命傷だった。目下のEV戦線においてSCiBが主役に躍り出なかった理由がここにある。

しかし、アップルのEV戦略を考えた場合、この欠点は決して致命的なものとはならない。むしろ「SCiB」が車載蓄電池として最もふさわしい蓄電池になる。それはなぜか。ポイントは2つある。「OS・クラウドサービスの導入」と「充電設備の拡充」だ。この2点が、SCiBの唯一の欠点を補完する状況がやってくる。

これからの車はスマートフォンやPCのように、アンドロイドなどのOSが搭載される「スマートカー」が当たり前になる。自動運転のほかに、利用者は音声アシストで操作を行いながら、クラウドと連動をした各種サービスを享受する。

アップルカーについても当然、iOSのようなOSを車に搭載し、アップルのクラウドサービスとの連携を行うことを前提として開発を進めていると見て間違いない。

すでにアンドロイドでは搭載が予定される機能になるが、OSのマップ機能と車が連動し、車の充電残量を把握した上で最も効率のいい経路での走行が可能となる。航続距離の短さというSCiBの欠点は、こうした機能によって補うことができる。

目的地までの道中で最も効率よく行けるルート上に充電ステーションを入れ込み、必要に応じ、その中で急速充電を短時間できればいいという割り切りも出てくる。よって航続距離の課題は車の「スマート化」によって補完できるわけだ。

スウェーデン・イェーテボリの駐車場で充電中のKIAニロ
写真=iStock.com/nrqemi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nrqemi

■充電設備の拡充が進めば最強の蓄電池になる

そして、SCiBの弱点は、充電設備の拡充が進むことでも十分に補完される。現在、充電についてはワイヤレス充電やロボット給電など、すでにさまざまな充電形態が検討をされている。いずれの形であるにせよ、欧米も中国も具体的な数字を出して、EVの充電インフラの増強に取り組んでいる。

報道によれば、アップルカーの投入が早くとも2024年とされている。充電設備は現時点より格段に整備が進んでいることが容易に想定される。

つまり、経路上でアクセスできる充電の選択肢が、アップルカー投入時点では十分に存在するという前提で、アップルはEV戦略を構築できる。充電インフラ設備が増えるほど、駐車した先での充電が可能となる。行った先々でのエネルギー補充が可能となれば、急速充電の効果でフル充電は容易だ。

また、EVを「移動式蓄電池」として社会で活用していく次世代型の構想もある。例えばフォルクスワーゲン(VW)などはVehicle to Grid(V2G)というコンセプトを発表し、街中いたるところでEVを系統に接続し、電力の融通をし合う仕組み作りを目指していくという方向性を示している。

そのような状況下で最も重要になるのは、高容量バッテリーによる「航続距離の長さ」という論点ではなくなる。むしろ充放電に伴う電池の劣化、つまり蓄電池の寿命が最大のテーマになるだろう。であればSCiBの致命傷は癒え、長寿命・急速充電という長所が最大限発揮されることになり、車載に最も適した蓄電池のポジションになる。

■急速充電、長寿命という武器

現時点で、EVはガソリン車と対抗するため「航続距離」を重視せざるを得ない。そのため、航続距離が長い蓄電池のシェアが拡大する。

しかし、2024年以降に登場が目されているアップルカーであれば、2024年以降の状況を踏まえたEV戦略を考えればよい。OSによる効率化や充電インフラの拡充を前提に、最も適合する蓄電池を採用するのがアップルの蓄電池戦略となる。

そう考えれば、SCiBの急速充電・長寿命という特性はアップルにとって非常に魅力的な蓄電池となる。これまであまり注目されてこなかったSCiBが一躍脚光を浴びることになったのも十分理解できる。加えて、安全性、高出入力、低温性能、広いSOCレンジといった特徴も効果的に活きてくるであろう。

さらにロイター通信の記事によると、アップルはバッテリー内の各セルをかさ上げし、電池材料を収納するポーチやモジュールを排除することにより、バッテリーパック内のスペースを開放するという。これによってより多くの電池材料の搭載でき、より長い航続距離を実現させることが可能になるという。

航続距離に関してSCiBには欠点があるとはいえ、三菱の「i-MiEV」シリーズなどで活用されてきた実績がある蓄電池だ。仮に今回のアップルのモノセル設計報道が真実であるならば、SCiBの低密度問題は解消に向かう公算が高い。

■日本の蓄電池は大復活できる

アップルの動向に関係なく、今後EV化がより一層進展していくことは現在の各国の政策を見る限り間違いない。充電インフラの拡充と車の電動化に合わせて、車のスマート化も同時並行で進み、OSによる効率化が図られることも確実だ。

いまEVは、航続距離を延ばすこと、およびコストダウンが競争の主戦場になっている。それが一定程度決着すれば、OSの進展やインフラの拡充が起きたとき、どのような蓄電池が最適なのかという論点が再度浮上する。エネルギー効率が優れた酸化ガリウム基板の次世代半導体の実装が先に到来し、蓄電池の容量合戦に終止符が打たれる可能性もある。

その時、SCiBは「日の丸蓄電池」の主軸となるだけでなく、EVに最も適した蓄電池になりうる。もちろんコストという課題も存在するが、なんといっても寿命、充電の論点では他を圧倒しており、安全性も指折りである。他を圧倒するこのSCiBは、世界最強の蓄電池といってもいいのではないだろうか。

このような素晴らしい技術を日本企業が有していることは誇らしく、ぜひこうした技術をいかし、世界と勝負をしていってもらいたい。

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前田 雄大(まえだ・ゆうだい)
元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長(afterFITメディア事業部長)
1984年生まれ。2007年、東京大学経済学部経営学科を卒業後、外務省入省。開発協力、原子力、大臣官房業務などを経て、2017年から気候変動を担当。G20大阪サミットの成功に貢献。パリ協定に基づく成長戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。2020年より現職。日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関「富士山会合ヤング・フォーラム」のフェローとしても現在活動中。YouTubeチャンネル「エナシフTV」で情報を発信している。

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(元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長(afterFITメディア事業部長) 前田 雄大)

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