「子育てに冷たい日本社会はダメだ」と愚痴るだけで済ませる大問題
プレジデントオンライン / 2021年7月12日 8時15分
■日本の女性が家事育児にかける時間は男性の5.5倍
日本は子育てがしにくい国。これは私が2人の子どもを育てる中で、日々感じていることです。そのため、先日明らかになった内閣府の調査にて、諸外国に比べてネガティブな回答が多いことに、全く意外性を感じませんでした。私のように「それはそうだろう」と感じた人も多かったことでしょう。
なぜ、日本は子育てをしづらいのでしょうか。理由はいろいろと考えられますが、女性の「ワンオペ育児」は大きな要因の一つです。
家事育児にかける時間を男女で比べてみましょう。女性が家事育児にかける時間は、1日につき224分。一方で、男性は41分。女性は男性のおよそ5.5倍も家事や育児を行っていることになります。欧米では多くても2倍程度なので、いかにひどい状況か、お分かりになるかと思います。こんな状況で、日本が子育てしやすい国になるわけがありません。
日本の男性が家事や育児コミットできない理由として、男性が長時間労働を強いられ、職場に閉じ込められていることが挙げられます。その象徴的なものとして、「男性が産休・育休を取りにくい環境」があると考え、今回の「男性版産休」法案成立に動いたというわけです。
■子育てする家庭はさらにマイノリティになる
「子育てのしにくさ」問題は、家庭の中だけにはとどまりません。子どもやその親に対する不寛容さは、社会全体に広がっています。子育て層以外の世代で、子どもの存在に不快感を覚える人が年々増えてきています。「子どもの声がうるさい」という苦情を訴える人や、保育園の建設に反対する人も少なくありません。
なぜ「子どもはうるさい」と感じてしまうのでしょうか。これには少子化も大きく関わっていると感じます。子どもの声を聞く機会が減ってしまったため、聞き慣れない音や声=うるさいと感じてしまうのです。これは非常に難しい問題といえます。なぜなら、今後は子どもも子育てする人も、さらにマイノリティになるからです。
子育てしやすい社会を作るためには、「子どもはその親の子というだけではなく、社会の子」という認識を広めることが重要です。そのためには一時保育、ショートステイ、ベビーシッターなどの支援のツールが欠かせません。しかし、ベビーシッターは高くて使えない、保育園は空きがないなど、ツールがあっても使い勝手が悪い状況。それも早く改善しなければなりません。
■ルールを変えなければ意識は変わらない
「子育てに寛容な社会にするために、みんなで意識を高めよう」――ずっとそう言われてきましたが、そんなのは無理です。ルールやインフラ、ツールが整って、それから認識が最後についてくるのです。認識だけで変えるのは無理があります。それは男性の育休を啓発から義務化に切り替えた経緯からもお分かりいただけるでしょう。
制度ができたから男性も育休を取ろうと思うわけで、制度が整う前から「子どもが生まれたら休もう」なんて考えに至る人は、ごく一部のイノベーターです。
また、子どもの声を聞くような行政、政治に変えていくことも大切です。議会には自分の子どもを連れてきてはいけないというルールがありますが、自分たちの未来を担う子どもに地域の意思決定を聞かせないなんてどういうことなの? と思います。
学校の校則は最たる悪例。なぜ子どもの意見を聞かずに校則を作るのでしょうか。勝手に押し付ける一方だから「ブラック校則」ができるのです。いまだに女子の下着の色は白と決め、それをチェックしている学校もあります。およそ信じがたいことです。子どもの権利に基づいて、子どもの声を聞いていたら、そんなルールはできないはずです。学校や社会のルールを作る際に当事者である子どもや子育て世代の声を聞き、子どもを意思決定に巻き込んでいく世の中に変えていきたいです。
■児童虐待という言葉を死語にするために必要なこと
子育てがしやすい社会を作るため、私たちはフローレンスを立ち上げて変化を起こしてきました。フローレンスができた17年前は、病気から回復途中の子どもを預かる「病児保育」は一般的ではありませんでした。当時は「病気の時に子どもを預けるなんて」という批判も受けました。
0〜2歳の子どもを少人数で預かる「小規模保育」も、待機児童解消のために私たちがマンションの一室で始めたのがきっかけ。今では国の認可事業として位置づけられ、全国に約6000施設もあります。また、預け先が少なかった、人工呼吸器などを使う「医療的ケア児」を預かる保育園なども開設しました。私たちが関連団体とともに約6年にわたって医療的ケア児家庭への支援を訴えかけてきた結果、「医療的ケア児支援法」が2021年6月11日に参議院本会議で可決されました。これによって、各省庁や地方自治体の「努力義務」とされてきた医療的ケア児への支援が、「責務」に変わりました。さらに、地方交付税としての予算も配分されることになります。こうして考えると、およそ20年間で子育てを取り巻く環境は相当進歩したといえるでしょう。
ですが、まだまだ十分ではありません。児童虐待の話もいつまでたってもなくなりません。私たちはこの「児童虐待」という言葉を死語にしたいと思っています。
今、「飢饉(ききん)」という言葉は死後になっていますよね。かつては日本でも、農作物の不作などによる飢饉が起きていましたが、戦後の75年間はそんなことは一度も起こっていません。同じように、児童虐待も「昔はそんなことがあったらしいけれど、今はもうない」という社会を作りたい。
これと同様に、男女間の格差も次の世代には決して渡したくありません。変えなくてはいけないところや、作らないといけない「当たり前」はたくさんあります。男性育休もその一つ。家族が亡くなったら忌引きを取るのが当たり前だったのに、家族が増えるときに休もうとは誰も考えてきませんでした。今後は「家族が生まれたら休む」というのが当たり前の世の中にしていかなければなりません。
行動しなければ何も変わりません。選挙もそう。選挙という制度ができても誰も投票しなかったら、民主主義は機能しないですよね。われわれが社会の代表を選んで、その人に統治されるということは、一人ひとりの投票行動がなければ成り立たない。子育てしやすい社会にするためには、「そうなったらいいね」ではなく、そうさせるために行動するしかないのです。
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フローレンス代表理事
1979年、東京都生まれ。99年慶應義塾大学総合政策学部入学。同大学卒業後、NPO法人「フローレンス」を起業し、代表理事に就任する。10年待機児童問題を解決するため、小規模保育サービス「おうち保育園」を開園。『「社会を変える」を仕事にする社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)など著書は多数ある。
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(フローレンス代表理事 駒崎 弘樹 構成=樋口可奈子)
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