「カレーを売るか、シャンパンを売るか」すべての商売の本質はこの問いに詰まっている
プレジデントオンライン / 2021年7月29日 9時15分
※本稿は、えらいてんちょう『しょぼい起業で生きていく 持続発展編』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■街なかでリアル店舗を開く多大なるメリット
しょぼい起業にはさまざまなバリエーションがありますが、共通しているのは「街なかでリアルな店舗を開く」という点です。
ネット通販やアフィリエイト、あるいは腕1本で稼ぐフリーランスなど、リアルな店を構えずにできる事業はたくさんあります。
そうした中で、しょぼい起業が実店舗にこだわるのは「どうせどこかに住むのだから、そこで商売もすれば手っ取り早い」という「生活の資本化」のコンセプトから出発したためです。
でも、実店舗のメリットはそれだけではありません。とりあえずしんどい環境から逃げてはじめた「短距離走」から卒業し、より長い目で豊かな生活を築いていく「長距離走」に入っても、実店舗はやっぱり強いのです。
例えば、あなたがフリマアプリで古着か何かを売りはじめたとしましょう。誰かの目に留まったと思いきや「お値下げ可能でしょうか?」とメッセージが来て価格交渉がスタート。
予算を尋ねたり100円単位でギリギリの提案をしたり、何度もメッセージを交わした末、けっきょく買われないまま連絡が途絶えるのが普通です。徒労ですね。お互い顔が見えませんから、まあやりたい放題です。
■「人情に甘えられるだけ甘え、むき出しの競争を避ける」
実店舗ならどうでしょうか。「店をはじめるんだ」と知らせれば、家族や親しい友人が来てお祝いをくれたり、いくつか買って帰ってくれたりするかもしれません。
初見の客でも、面と向かって値下げしろと言う人は少数派です(ゼロではありませんが)。ご近所に顔を覚えてもらい、「店主」として地元の信頼を集めれば、おのずと新たな商売のネタも転がり込んできます。
目の前にいる人に、あまり無理は言えない。見慣れた店がなくなると寂しいから、たまに行って応援する。それが人情です。
要は「人情に甘えられるだけ甘え、むき出しの競争を避けることであいまいにやっていける」のが、実店舗を営むしょぼい起業の強みだということです。
古くさいやり方と侮ってはいけません。自然な心情に働きかけて人を動かすテクニックは「ナッジ」と呼ばれ、行動経済学の最先端分野になっています。
あなたも実店舗を構えて、科学的にも検証された「古きよき義理人情」を味方にしましょう。
■世の商売は「カレーを売るか、シャンパンを売るか」
ところで、世の中に商売は2種類しかありません。カレーを売るか、シャンパンを売るか。このいずれかです。
「突然何を言い出すのか」と思われたことでしょう。こうした極論で人目を引くのはビジネス書の常套手段とはいえ、私も作家のはしくれ、決して根拠のないデタラメを書いているわけではありません。
詳しく説明しましょう。世の中の商売の基本形は、カレーならカレーという、ある決まった商品(サービスの場合もあります)をつくって供給するものです。
スーパーに行けば一定の値段で一定の商品が売っていますし、ちょっとがんこなラーメン屋も、売っているのは店主の心意気ではなくメニューに並んだ一定の商品です。これを便宜的に「カレー的」商売と呼びます。
いっぽう、ホストクラブが客にシャンパンを入れさせてグラスのタワーに注ぐのは、シャンパンそのものではなくホストの魅力にお金を払ってもらうための仕組みです。
大道芸人が集める投げ銭、あるいはYouTuberが再生回数を稼いで得る広告収入なども、基本的には同じです。これを便宜的に「シャンパン的」商売と呼びます。
つまり、商売とは大まかに「商品をつくり供給する」ものか「芸をする」ものに分かれているということです。
■芸ごとは目立つが、成功への道は狭く厳しい
カレー的商売とシャンパン的商売のあいだには、両者の中間的な商売があり、また同じ商売でもスタイルが違えば、どちら寄りに位置するかも変わると考えてください。
例えば「教師」であれば、学校法人や地方自治体に勤め、所定の課程を履修させることを使命とする人は比較的カレー的でしょうし、予備校で引く手あまたの人気講師は、カリスマ性を発揮して受講者を集めるという意味で、よりシャンパン的です。
私がここで何を申し上げたいのかというと、「多くの人々が興味を抱きがちなシャンパン的商売は経済のメインストリームではなく、成功への道は狭く厳しい」ということです。
確かに芸ごとは、刺激や潤い、慰めを求める人々の欲望に訴えますから、とにかく目立ちます。でも、芸で食べ物はつくれませんし、ビルを建てられるわけでもない。
経済の根幹を支えるのはいつの時代もカレー的商売であり、そこで生み出された余剰で回る、おまけのような存在がシャンパン的商売なのです。
■バー経営者は投げ銭の世界観
私自身の経験を振り返ると、まず中古品を売るリサイクルショップというカレー的商売からはじめ、そこで得られた資金をもとにバーというシャンパン的商売に転じたことで、ある程度の成功を収めることができました。
バー経営者という職業は、楽しいおしゃべりが聞ける場所をつくり、“シャンパンを入れてもらう”ことをなりわいとしています。
確かにバーも、形の上では一杯いくらでお酒なりソフトドリンクを出してはいます。ただそれらは通常、原価に比べて相当高い値段に設定されており、本質的には「そこに来た人が、店や店員さんにいくらお金を落としたいか」という投げ銭の世界観が適用されているのです。
ドリンクの利幅は大きく、しゃべりに至っては原価ゼロ円。ついでにYouTuberとしてもやっていけば、ラクに大儲けできそうと思うかもしれません。
しかしながら、投げ銭をもらえるのは腕のいい大道芸人だけでありまして、客もまばらな空間でしゃべり続けるのは大半の人にとっては苦痛なことです。
何より芸には「かわいげ」が必要ですが、いい歳したおじさんが現実空間で急にかわいくなれるのか、といった問題もあります。
無理やり手を出しても「フォロワー1万人で稼ぐコツを伝授! いまなら特別価格30万円」みたいな、怪しい情報商材に引っかかるのが関の山でしょう。
(やや細かい話ですが、私はいろんな人がバーに集まって居場所をつくってほしいという思いもあり、希望者に日替わりで店長を任せていました。「空間を切り分けて売る」という、いわば大家業に近い業態が「イベントバーエデン」の正体です。これはこれで「いい店長を呼べる人脈」という、しゃべりとは別の才能が必要になります)
■外出自粛でも生活密着型の業態は比較的浅い傷
はっきり言いましょう。純粋なシャンパン的商売に適性がある人は、ごく限られています。誰かをまねて成功するのは難しく、そもそも誰もが目指すものではありません。
加えて今回、全世界を襲ったコロナ禍によって、シャンパン的商売は脆弱な基盤の上に成り立つ「平和産業」であることも明らかになりました。
移動制限や自粛ムードで萎縮することなく、対面接触することに何のためらいもなかったからこそ、店に集まって心置きなく娯楽を享受できたわけですが、今後しばらくはそうした前提が成り立たない、ある種の「有事」が続くことでしょう。
非日常の体験をウリにする都心の繁華街が外出自粛で軒並み大打撃を受けたのに比べ、住宅地の近くで営む生活密着型の業態はご近所のニーズに救われて比較的浅い傷で済んだという事実は、今後のしょぼい起業で生存確率を上げるために何が大切かを示しているともいえます。
堅実に“カレー”を売って得られるマネーがあって初めて、いくばくかの投げ銭もできる。世の中がどんな事態に見舞われようと変わらない、そうした基本を確認した上で、なるべく成功しやすい業態を考えていくことです。
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起業家、経営コンサルタント
略称「えらてん」。本名・矢内東紀(やうちはるき)。1990年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。バーや塾の起業の経験から経営コンサルタント、YouTuber、著作家、投資家として活動中。2015年10月にリサイクルショップを開店し、その後、知人が廃業させる予定だった学習塾を受け継ぎ軌道に乗せる。17年には地元・池袋でイベントバー「エデン」を開店させ、事業を拡大。日本全国で一時最大10店、海外に1店(バンコク)のフランチャイズ支店を展開。
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(起業家、経営コンサルタント えらいてんちょう)
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