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日本語の「ほんと?」と英語の"Really?"の細かいようで決定的な違い

プレジデントオンライン / 2021年7月27日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

日本人はあいづちとして「ほんと?」と言い添えることが多い。しかし、同じように英語で“Really?”をあいづちに使うのは注意が必要だ。言語学者の井上逸兵さんは、「英米圏では、うなずき方ひとつをとっても誤解を招く可能性がある」という――。

※本稿は、井上逸兵『英語の思考法』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■無意識で打つあいづちにも実は文化的な差がある

あいづちは会話の相手との「つながり」上、とても重要だ。無意識に行っていることが多いために、言葉ほど文化の差がないと思いがちだ。ところがそうでもない。

まず、英語ではどのようなあいづちをするかというと、

I see.
(軽く「そうね」「なるほど」くらいのニュアンス)

などは知っている人も多いだろう。

Yes./Yeah.

も、もちろんあいづちになる。「アッハン♡」という色っぽい声を連想してか(ある世代では?)、ちょっと言うのに抵抗がある日本人がいるようだが、

Uh-huh.

というあいづちもよく使う。このあたりは慣れてしまえば、日本語の感覚に近いかもしれない。

Hmm.

などと言ったり(音を発したり?)もする。

ただ、これらばかりだとワンパターンでつまらない。同じあいづちの連発にならないことも「つながり」志向では大事なことだ。

■ワンパターンなあいづちは「話がつまらない」と受け止められる

これはつまり、ワンパターン=つまらない=興味がない=「つながり」の「タテマエ」に反する、という図式である。あいづちがつまらなそうであることから、「話もつまらないと思っている」と推測されるということだ。

Right./Sure./Exactly./Indeed./Absolutely.
(いずれも「その通り!」と、相手の言っていることを肯定するニュアンス)

のように一語で言うものもあれば、同じように肯定するような意味のものでも、

That’s true.
(その通り)
That’s a good point.
(それなんだよねー)

のように文で発する相づちも定番だ。

That’s great!/That’s amazing./That’s absolutely/amazing!(いずれも、「すばらしい!」という意味合い)/How interesting!(面白い!)

という感じで、称賛するタイプのあいづちもある(だいたい褒められると調子に乗ってさらに話したくなるものだ)。

I didn’t know that!
(へー、知らなかった!)

などは、相手の話がオリジナルであることで持ち上げる、「独立」的要素の加わったあいづちだ。いろんなパターンを用いる。バリエーションがあるということ自体が重要なのである。

■日本人のうなずき方は白人女性に近い

あいづちには、微妙だが、人によって違うところもある。しかも、誤解し合う可能性がある違いである。アメリカの白人(おおざっぱだが)の男女のあいづち(うなずき)を観察して、調査した研究がある。

それによると、アメリカの白人女性があいづちを打つのは「あなたの話を聞いてますよ」というシグナルで、白人男性があいづちを打つのは「同意します」というシグナルであることが多いらしい。

となると、アメリカの白人男女の会話だとどういうことが起こるか。女性にとって、相手がうなずけば聞いてくれていると思えるので安心して話せるが、男性は同意した時にしかうなずかないので、自分の話を聞いてくれていないかのように誤解する。

男性のほうからすると、相手の女性がうなずいてくれているので、同意してくれていると思うが、あとから同意していないことがわかったりすると「なんだコイツ!」的な印象をもってしまう。男女のそれぞれの特徴をわかっていないと、お互いに誤解し合う可能性があるとされる。

ミーティングで説明する女性
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

一般的にいって、日本人のうなずき方は、この研究の示す例でいうと白人女性のそれに近いだろう。実際は、もっとうなずく。テレビなどで、タレント、有名人のインタビュー、一般人の街頭インタビューを見ていると、自分が話している時にもうなずきながら話す人が多い。善し悪しはともかく、英米圏と比べると、日本人はうなずき過ぎる印象を与えるかもしれない。

■「Really?」を「ほんと?」感覚で使うと無駄な反応を生む

Really?というあいづちは、言い方によっては、「ウソついてるんじゃないの?」というニュアンスになることもある。それゆえか、日本人としては軽いあいづちのつもりで言ったReally?が、英米人相手だと思わぬ反応を受けることがある。日本語の「ほんと?」と英語のReally?の反応のしかたを観察しているとずいぶん違う。

いずれも抑揚などによって異なるが、日本語では、実際に確認しているような感じでなければ、だいたい相手は流す。「ふーん」「へー」に近い。ところが、英語でReally?と言うと、本当に本当か(笑)を確認しているように解釈され、Yes/Yeahなどと(日本人からすると)イチイチ(笑)反応してくる。

また言い方によっては、疑っていると思われる可能性がある。あいづちとしては語尾を下げてReally?というとよい。あるいは、Oh, reallyOhをつけると、疑っていると思われにくい。語尾を上げて連呼すると、嘘に聞こえると思われかねない。

■高度なあいづちは相手の発言をよく聞かないといけない

英語のあいづちが日本人にとって大変なのは、より「つながり」志向で、相手の言い方に呼応させなければならない表現群があることだ。

A : I saw the Goromaru Family by chance.
(五郎丸家のみなさんにたまたまお目にかかったんだ)
B : Did you?
(そうなの?)

このDid you?というあいづちは日本人にはなかなか高度だ。I sawと言っているからI とはつまりyouのことで(ここまでは大丈夫か)、sawは過去形なので、you saw them?ということだが、それだとあいづちにならないので、saw …… 以下をひっくるめてdidで代用させる。これが現在形ならDo you?だし、SheならDid she?だ。こんな芸当をこなすには練習がいる。さらに、

A : My daughter is also an engineer at your company.
(私の娘もお宅の会社のエンジニアなんですよ)
B : Oh, is she?
(あら、そうなんですか)

というあいづちのしかたも日本人にはちょっと難しい。

■「私も!」は「Me too!」と言っておけば良い、とは限らない

さらに、この形式のあいづちとして、日本人にとってさらに高度なのは、「~も」という表現だ。「私も!」と言う時に、

A : I love motsuyaki!
(もつ焼き大好き!)
B : So do I.
(私も!)

のように、相手がI loveという言い方をしているので、(So)do Iになる。「~も」というあいづちには、倒置が起こる(疑問文と同じようにDo Iなどになる)。

A : I’m so scared!
(こわー)
B : So am I!
(僕もー)

の場合は、相手がI amという言い方なので、(So)am Iと答える。これも倒置の形で、過去形I wasなら、

A : I was up all night last night.
(ゆうべ徹夜しちゃったよ)
B : So was I.
(私もなの)

となる。相手の言っていることと文法的にも「つながって」いなくてはいけないのだ。

ビジネスパーソンの会話
写真=iStock.com/emma
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/emma

Me too.というあいづちなら相手の言い方にかかわらず使うことができる。このほうが楽ちんだ。ただ、これもちょっと日本人にはやっかいで、相手が否定だと、

A : I don’t work on Saturdays.
(土曜日は休みなんだ)
B : Me neither.
(僕もだよ)

と答える。「つながり」志向もなかなかやっかいである。

■エラい人との会話は「適度に長く、適度に短い」が重要

「つながり」志向の会話にとっての基本は、できるだけ長く話すことだ。長く話すことの意味は、まず第一にそれだけ時間を共有するということである。親しくない人や偉い人に話をする時には手短に話すのが礼儀にかなっていると考えるのはその裏返しである。

メールなどでも、日本語では親しくない人や目上の人に長々と書いてしまうと、「長文で申し訳ありません」と謝ったりする。長く話せばそれだけ、その人の時間を奪い、その時間の分だけ、その人を拘束するからである。

逆に、長く話して情報も共有し、自分のことを話すことになれば、それだけ自己開示することにもなる。腹を割った話は基本的に「つながり」志向である。

これとは裏腹に、会話やメッセージが短すぎると、ぶっきらぼうになる、という危険性もある。エラい人に話す時も短ければいいというものでもない。適度に長く、適度に短い、このバランスが重要である。

ただ、英語が外国語である人は、英語が不自由なあまりついつい寡黙になりがちだ。そういう人たちにとっても、もう一言何か加えるというのは「つながり」の観点からも必要なことである。ちょっとだけおしゃべりになるつもりがけっこうちょうどよかったりする。

■「ちょい足し」でより礼を尽くした印象に

ちょっとした表現でも何か加わっていると、より「つながり」的になる。言い方を変えると、「つながり」志向の英米文化、英語にとってはそれが普通なので、これがないとそっけないと受けとめられやすい。

井上逸兵『英語の思考法』(ちくま新書)
井上逸兵『英語の思考法』(ちくま新書)

例えば、「心配しないで」と言いたい時に、軽く、

Don’t worry.

というような状況であればいいが、何かの説明をしている時などでは、

Don’t worry about that.

くらいまで言ったほうが、きちんとコミュニケーションしようとしていることが伝わるし、(心配しないでと言われて)安心度もより高くなる。

謝罪の表現I’m sorry.も、「なんか申し訳ないね」という感じの謝罪であるI feel bad.も、about thatなどを最後に足して、

I feel bad about that.
(なんか申し訳ないね)
I feel bad about being late again.
(また遅刻してしまいなんか申し訳ないね)

と言うと、誠実感が増し、「悪いことしちゃったなー、申し訳ない」という気持ちが伝わりやすい。

彼女に許しを請う男性
写真=iStock.com/domoyega
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/domoyega

短い表現、簡略な表現はそれだけ「言われなくてもわかる」度が高く、逆に言葉を多く足したほうが礼を尽くしている印象になりやすい。ただし、「言われなくてもわかる」度が高いということはよりカジュアルな言い方で、相手との関係が親密度が高いということでもあるのでバランスが大事だ。

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井上 逸兵(いのうえ・いっぺい)
言語学者
1961年生まれ。慶應義塾大学文学部教授。慶應義塾中学部部長(校長)。専門は社会言語学、英語学。博士(文学)。NHKEテレ「おもてなしの基礎英語」などでの解説が好評を博す。著書に『グローバルコミュニケーションのための英語学概論』(慶應義塾大学出版会)、『サバイバルイングリッシュ』(幻冬舎)など多数。

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(言語学者 井上 逸兵)

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