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アマゾン&グーグルの金融事業参入を、日本の金融界が放置するしかないワケ

プレジデントオンライン / 2021年7月25日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ingus Kruklitis

米大手IT企業による日本金融業への参入が相次いでいる。グーグルは国内の決済事業者を買収、アマゾンは銀行設立を目指して準備を進めている。経済ジャーナリストの森岡英樹さんは「日本は銀行業務への参入障壁が低い。このままでは日本の市場が外資に食い尽くされる」という――。

■グーグルが決済事業で日本を開拓

米グーグルが日本で金融事業に本格参入することが明らかになった。国内のスマートフォン決済会社「pring(プリン)」(東京都港区)を買収し、2022年をめどに自社グループで送金・決済サービスを開始する。

プリンに出資する複数の企業が7月13日、「グーグルからプリン株のすべてを取得するとの申し出があった」と発表した。買収総額は明らかにされていないが、プリンに約45%出資するフィンテック企業、メタップスは売却額を約49億円としている。

グーグルは米国内でスマホを使った決済サービス「グーグルペイ」を手掛けているほか、米金融大手のシティグループなどと協力して、スマホの利用者向けに銀行の預金口座サービスを提供する準備を進めている。

日本市場への参入は、米国でのスマホ決済サービスや預金口座サービス提供という戦略をグローバルに進める布石となるもので、先進国の中でキャッシュレス決済の普及が遅れている日本は開拓の余地が大きいと判断したと見られている。

■チャット感覚で送金できる手軽さが人気

グーグルが買収するプリンは、2017年に決済代行のメタップス、ミロク情報サービス、日本瓦斯(ニチガス)、伊藤忠商事、ファミマデジタルワン、SBIインベストメント、みずほ銀行、SMBCベンチャーキャピタルなどが共同出資して設立した資金移動業者で、銀行口座を紐づけて入出金し、QRコード決済ができるアプリを手掛ける。

みずほ銀関係者によれば「チャット感覚で送金できる手軽さが受け、若者層を中心に数十万人が登録している。特に残高を手数料なしで銀行口座に戻せる利点がある」という。

また、国内スマホ決済事業者としては珍しく法人サービスも展開している。「業務用プリン」と呼ばれるサービスで、契約する約400社が社員の経費精算や個人事業主への報酬支払いに利用している。

グーグルは、このプリン買収でどんな戦略を描いているのだろうか。

■ほしかったサービス機能を一挙に手にした

グーグルはまず、プリンをグーグルペイのウォレット(財布)として活用すると想定されている。あるメガバンク幹部は、「グーグルはシンプルなこのサービスを起点に、送金や決済など他の金融サービスを展開していく戦略だろう」と予測している。

米国で展開されているグーグルペイでは、送金などで受け取ったお金はいったんウォレットにプールされ、そのまま買い物や銀行口座から引き出せるほか、再び他者に送金もできる。

グーグルペイは40カ国でサービスが提供されている。だが、こうした送金サービスが提供されているのは米国とインドのみだ。多くの国では、グーグルペイにカードを登録してオン・オフラインの店舗での支払いに利用できるのみとなっている。

日本におけるグーグルペイも同様で、登録可能なカードや決済手段が限られており、「FeliCaチップを使った『おサイフケータイ』に依存する部分が大きい」(メガバンク幹部)とされる。

一方、プリンの場合はセブン銀行のATM経由でウォレットへのチャージや現金の引き出しが可能だ。提携する銀行はメガバンク3行を含め50行を超える。

グーグルはプリン買収を機に、これまでのサービス水準をブレークスルーし、より利用者ニーズに合致したサービス機能を一挙に手にすることができるという構図だ。

カフェでスマホ決済
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

■グーグルの次はアマゾンか

グーグルをはじめGAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーは、保有する膨大な顧客情報を生かし、金融事業に乗り出そうとしている。

金融は隠れた成長産業だ。例えば、ソニーを見るとそれが分かる。

「ソニーグループの収益を下支えしているのはソニー銀行などの金融事業です。金融は安定的に収益を上げられる有望市場になっている」(大手証券幹部)というわけだ。

今回のグーグルによる日本の金融事業参入に続き、金融界が警戒するのはいまやEC(電子商取引=eコマース)の巨人として、世界の流通を席巻しつつある米アマゾン・ドット・コムが日本で銀行を設立できるかどうかだ。2018年には米銀大手のJPモルガン・チェースと組んで、若者層や銀行口座を持たない顧客を対象に米国内で金融サービスを提供することを検討していると報じられたことがある。

顧客がアマゾンのサイトで買い物をする際に、アマゾンブランドの銀行口座から直接、商品の代金を支払えるようにするほか、顧客が小切手を切ることができたり、ATMを利用できたりすることなどが検討されているという。即時決済機能を中心とする金融サービスをグループ内に取り込むことで、コスト削減と顧客サービスの向上を同時に実現しようという構想だ。

■「アマゾン銀行」構想の伏線

実は、アマゾンのこの構想には伏線があった。アマゾンは昨年秋以降、こうしたECと金融サービスが融合する新たなビジネスモデルについて、米銀から広く提案を募ったのだ。

また、アマゾンの創業者であるジェフ・べゾス最高経営責任者(CEO、当時)の発案で、金融サービスのプロジェクトを社内で立ち上げるとともに、「Amazon Pay」を「Alexa(アレクサ)」の開発部門に組み入れる組織改正にも踏み込んでいる。

「Amazon Pay」は、アマゾンのeコマースサイトでクレジットカード決済を提供するサービスで、他社のeコマースにもサービスを提供して手数料を稼いでいる。一方、「Alexa」は、AI(人工知能)を活用した音声アシスタントサービスだ。

この組織改正から透けて見えるのは、両者を融合した新たなビジネスに、内製化した銀行口座で即時決済するサービスがセットされる姿が浮かぶ。

■「楽天は銀行を作れるが、銀行は楽天を作れない」

しかし、こうしたアマゾンの新規プロジェクトはすぐさま「アマゾン銀行」に発展するかは微妙だ。米国では1999年の法改正で銀行と証券の融合が解禁された際、連邦法では異業種による銀行免許の取得が認められなくなったためだ。

「米国では大手米銀が、潤沢な資金を投じて強力なロビー活動を展開しており、異業種が銀行に参入する壁は日本の比でないほど高い」(メガバンク幹部)とされる。

それとは対照的に、日本の金融界ではノンバンクによる銀行業務への参入障壁は低い。先のソニー銀行はじめ楽天銀行、セブン銀行など多様な業界から銀行進出が相次いでいる。

迎え撃つ既存金融機関からは、「楽天は楽天銀行を作れるが、銀行は楽天を作れない」(メガバンク)と法的規制に対する怨嗟の声が聞こえるほどだ。

そうした中、米国投資銀行の雄、ゴールドマン・サックスが日本で銀行業の免許を取得した。

■外資が続々と日本に参入してきている

ゴールドマン・サックス傘下の米銀行が7月7日、金融庁から日本で営業するための免許を取得した。欧米のグローバル企業の資金管理・決済業務に参入し、日本を含めた世界で事業基盤を整えた。

ゴールドマンは法人向けに資金管理や決済サービスを提供する「トランザクションバンキング」事業を2020年に立ち上げ、成長戦略の柱に据えている。すでに米国内250社の顧客を獲得しており、来年6月から英国でも営業を始める。

注目すべきは、資金管理業務のためにネット上でサービスを利用できるクラウド基盤システムを構築したことだ。120種類以上の通貨で国内外への支払いが可能で、即時に支払い状況を確認できる。具体的動きとしては、ゴールドマン・サックス・バンクUSAが東京支店を9月に営業を始める予定だ。

■世界の市場がアマゾンに食い尽くされかねない

当初は書籍販売を手掛ける小さなガレージ企業にすぎなかったアマゾンは、いまやネットショッピングで既存の小売業を脅かすだけでなく、2017年には米国の大手高級スーパー「ホールフーズマーケット」を約1兆5000億円で買収、ネットと実店舗の融合を推し進めている。また、スマートスピーカー市場には「Alexa」を投入、ビデオ・オン・デマンドサービスも展開するなど事業の多角化も急ピッチだ。

そんなアマゾンの日本への影響も強大だ。

ラスベガスにあるAmazonのフルフィルメントセンター
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

運送業界の働き方を変えただけではない。2017年には生鮮食品の宅配にも乗り出した。これには、大手スーパーの危機感が強まっている。世界の市場がアマゾンに食い尽くされかねない勢いだ。

だが、アマゾンの市場寡占化には反対の動きも出ている。欧州連合(EU)はルクセンブルクの優遇税制を利用した税圧縮が「国家補助規制」に抵触するとして、アマゾンに対し約330億円の追徴税を課した。これに対してアマゾンはEUの下級審に当たる一般裁判所に不服申し立て、今年5月に、「不当な税負担軽減があったと証明できない」として追徴は無効との判決が出されている。

しかし、EUは最高裁に当たる欧州司法裁判所に上訴する可能性が高く、EUによるアマゾンへの税圧力は続くとみられる。

■各国は「アマゾン包囲網」を敷くが…

世界で独り勝ちのアマゾンには、各国の規制当局もその肥大化を懸念し、市場の寡占が「独占禁止法」に抵触する可能性があるとして調査に乗り出している。米国では7月8日、ユタ州など37州・地域の司法長官が、グーグルのスマートフォンなどのアプリ配信サービスが反トラスト法(独占禁止法)に抵触しているとして提訴した。

これは「グーグルは消費者の選択肢を狭め、アプリ開発者から法外な手数料を徴求することにより、同社の基本ソフト、アンドロイド利用者の信頼を損ねてきた」と非難したものだ。

霞が関の金融関連の某官僚は「アマゾンが進出した後にぺんぺん草も生えないのは問題だ」と口にするが、それほどの事態だといっていい。

グーグル、アマゾンが日本の金融市場に本格参入するインパクトは計り知れない。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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