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GoToの平日優遇策が引き起こす悲劇…医師が「ここなら唯一行っていい」と勧める"ある場所"

プレジデントオンライン / 2021年10月28日 8時15分

日本記者クラブ主催の党首討論会で、メッセージを書いたボードを掲げる自民党の岸田文雄総裁=2021年10月18日、東京都千代田区[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルス新規感染者数が減少する中、GoToトラベル再開の是非が話題になっている。『病気は社会が引き起こす――インフルエンザ大流行のワケ』の著書がある医師の木村知さんは「GoToの『平日優遇策』は裕福なご隠居さんのような人にしか恩恵がない。週末の混雑が解消されないうえに『ワクチン・検査パッケージ等』が安全安心の免罪符となる危険性がある」という――。

■踏み込んだ持論を突然開陳

とりあえず第5波は去ったようだ。緊急事態宣言が解除されたのちも、一日あたりの新型コロナウイルス新規感染者数は全国的に減少、東京都においても2ケタ台の日が続いている。私の勤務する診療所でもこの約1カ月の間、陽性者はほとんど見かけないし、そもそも発熱を主訴に受診する人もめっきり減った。ワクチン接種を済ませた人もやっと7割を超えてきたことも相まって、少しずつ「かつての日常」を取り戻そうという動きも出始めている。

そうしたなかで、今月発足した岸田内閣も次の感染拡大時にむけた備えを万全にすると言いつつも、その一方で日常生活の回復に取り組むなどとして「ワクチン・検査パッケージ等を活用した行動制限の緩和」に軸足を移し始めた。

そのひとつが「GoToトラベル」の再開だ。岸田首相は10月16日、視察先の宮城県で記者の質問に答えた際に「観光業の皆さんから再開を期待する声は大きい」と述べるとともに、ワクチン接種証明と検査の陰性証明を活用して「GoToトラベル」を再開していく意向を示した。

そして同時に「昨年の経験を活かして改良すべきところは改良してやるべきではないか。やっぱり週末に集中してしまっていた。せっかく平日があるわけだから、平日も利用できる方には利用してもらう、そういった観点から平日はポイントを深掘りするとかいうようなことを考えたらどうか」と述べ「GoToトラベル平日優遇案」とも言える踏み込んだ持論まで突然開陳したのである。

■時間・金銭的余裕のある人が有利に

これには私も含めて少なからぬ人が違和感と戸惑いを覚えたのではなかろうか。「GoTo」政策とは、コロナ禍で傷ついた旅行業者や飲食業者を国民の消費喚起で救済しようとするものだが、当然ながらその事業には税金が投入される。旅行者・消費者は割引という恩恵を受けるが、その原資は税金だ。すなわちそのカネの「使われ方」は国民の納得が得られるものでなければならないことは言うまでもない。

そもそも観光を目的とした旅行は、それに費やす時間的余裕と金銭的余裕を持つ人によってのみ消費され得るものだ。生活をより豊かにしてくれるものであることは間違いないが、多忙であったり困窮したりしている人にしてみれば、まずは生活。真っ先に消費の対象から外される行為でもある。

すなわち利用者の消費喚起のための割引に税金を投入するという政策は、もともと観光旅行に時間と金銭を費やす余裕のある「恵まれた人」にさらに富を分配移転してしまうものなのだ。いくらコロナ禍で傷ついた業種の救済支援が目的であるとはいえ、はたしてこれは税金の使われ方として公平と言えるだろうか。

■「平日優遇策」の恩恵を受けるのは裕福なご隠居さん

さらに今回、岸田首相の突発的な思いつきにも見える「平日優遇策」は、よりいっそうその恩恵を受け取れる人をごく一部の人に絞り込む。岸田首相の発言は、昨年の経験から週末に旅行者が殺到しないよう、人出を平日に分散・平準化したいとの意図によるものかもしれない。確かにそれは理にかなっている。

しかし、そもそも多くの人出が土日祝日に集中するのは、平日に休みを自由に取れない人が、いまだに多いからではないのか。

確かにコロナ禍によってテレワークや時差通勤など、働き方の多様化は加速したようにも見えた。しかし第一回目の緊急事態宣言時にテレワークを実践した数々の企業も、宣言が繰り返されるなかでテレワークをやめ従来通りの「通勤」に再び回帰させていったことは、二回目以降の宣言下の平日朝の満員電車のありさまを見れば明らかだ。コロナが収束するより先に、とっくに働き方だけは「かつての日常」に戻ってしまっていたのである。

このような因習から脱却できない現状で岸田首相の意向通りに「GoTo平日優遇策」が運用された場合、その恩恵を受けることができるのは、どのような人たちだろうか。

サービス業や販売業など、土日がむしろ商売になる業種の人たちの休日は平日に設定されているだろう。しかし旅行するには連休がなければ無理だ。平日に連休が取れても学校に行っている子どもがいる家庭も無理だ。けっきょく平日に連続した休日が自由に取れてなおかつ金銭的余裕のある人となると、言ってみれば「裕福なご隠居さん」のような人、こういった人にしか恩恵はもたらされないのではなかろうか。

渓流を楽しむシニアカップル
写真=iStock.com/petesphotography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/petesphotography

■この策では週末の混雑は解消しない

「平日優遇」の恩恵にあずかれる人がこのように限定されてしまっている現実があるかぎり、岸田首相の意図する週末の混雑回避は実現されない。いくらボーナスポイントを付与しようが、平日休みを自由に取りにくい多くの勤労者にとっては無縁の話だからだ。

どうしても平日優遇策で週末の人流を抑制しつつ観光業界を支援したいというのであれば、まずは多くの勤労者がいつでも何度でも自由に気兼ねなく平日に休める社会システムを構築してから提案していただこうではないか。話はそれからだ。

■土日祝日の廃止、年中いつでも休める化を

昨年末に私は「医師が提言、『土日祝日の廃止』がコロナ対策と働き方改革につながる最強策である」と題した持論をプレジデントオンラインで述べさせていただいたことがある。

「年末年始に限らず、盆暮れ、ゴールデンウィークなど特定の時期に休みが集中する『なかば常態化した異常事態』は、改善されるべきだ」として「365日平日化、すなわち“年中いつでも休める化”」が常識化すれば、働き方改革はもちろん感染症対策になるではないか、との意見を述べたものだ。

賛否両論、多くの反響をいただいた。題名だけ見て反応してしまったのか、私の真意を読み取っていただけず「月月火水木金金かよ」とか「実現性は低いし実現したところで、サービス出勤の横行に拍車をかけるだけ。机上の空論もいいとこだ」といった少し残念なコメントも寄せられたが、私は決して空論とも暴論だとも思わない。

むしろ本気で働き方改革を断行するというのであれば、官公庁から銀行をはじめあらゆる企業、教育機関、医療機関等々を巻き込み、国民的議論を高めた上で、すべての人の意識改革を抜本的に行う必要がある。当然ながら簡単な話ではないが、最初から議論もせずに「机上の空論」などと冷笑しているだけでは、現状は変わらない。

■思いつきの政策では因習を変えることはできない

逆に「平日優遇策」が広まれば、平日休みがしやすい世の中に変えることができるのではないかと考える人もいるかもしれない。しかしこの「GoTo政策」は当然ながら恒久的なものではない。極めて短期間の時限的なものだ。このような思いつきの政策で、働き方や休み方に染みついた因習が変えられるはずはない。

緊急事態宣言が繰り返されるなかで、いつのまにかテレワークから従来通りの通勤に回帰していってしまったではないか。つまり土日祝日の旅行者集中は、やはり抜本的な意識変革なくして解決し得ないということなのだ。

■「ワクチン・検査パッケージ等」が免罪符となる危険性

この際だから「平日優遇策」以前の問題である「ワクチン・検査パッケージ等を活用した行動制限の緩和」にもひとこと言わせていただこう。

先日、テレビである報道番組を見ていたら、ワクチン接種証明書を持参した宿泊客を優遇するというホテルを取り上げていたのだが、そこでインタビューを受けていた宿泊客の「証明があれば安全安心。これで経済を回してほしい」との言葉を聞いてゾッとした。

もしや、この宿泊客はワクチン接種をしている人は「安全」だと思っているのではなかろうか。ワクチン接種していれば、人に感染させたり、感染させられたりしないと信じているのではなかろうか。

まさか、PCR検査で陰性ならば「安心」できるとも思っているのではなかろうか。感染している人であれば必ず陽性と出るはずだと信じているのではなかろうか。

今やほとんどの方は正しく理解されていると信じるが、これらの「安全安心」はすべて間違いだ。しかし政府が「ワクチン・検査パッケージ等」を「安全安心」の免罪符として行動緩和に使うと発信した時点で、これらが“間違い”だという正しい理解が吹き飛ばされてしまう。私がゾッとしたのは、この間違った認識を政府が主導的に広めてしまう危険を感じたためだ。

頭ではワクチンもPCRも安全安心を担保するものではないと理解している人でさえ、世の中の空気が変われば「安全安心」と思う気持ちに変わってしまうこともあるだろう。逆にワクチン未接種者やPCR検査をしていない人を、危険人物と排除してしまう気持ちにならないとも言い切れない。

体質や接種に対する不安などさまざまな事情で接種できない人もいる。検査したいと思っても旅行のための自費検査にまでお金をかけられないという人も決して少なくないはずだ。

■ワクチン接種で安心安全をうたう“危険すぎるホテル”

政府の意向になびいて「ワクチン接種・検査パッケージ等」によって客を呼び込もうとしているホテルは、ワクチン接種や検査陰性の客を優遇する片方で、これらの条件を満たせぬ人については差別し排除するとの意向を表明していることに他ならない。

それだけではない。「安全安心」どころか「接種したから安全だ」「陰性だから安心よ」という油断のやからが集まる“危険すぎるホテル”になり得るとも言えよう。私はワクチン接種しているが、こういった差別を是とする危険なホテルを利用したいとは思わない。

■ことごとく“順序が逆”内閣

発足間もない岸田内閣ではあるが、これまでのお手並みを拝見しての感想を述べさせてもらうと、打ち出す政策は、ことごとく順序が逆だ。

「成長なくして分配なし」と今すぐ分配が必要な人を放置したまま、成長による果実をすぐ手にすることができる人たちをまず優遇。PCR検査を誰もが無料で受けられる体制を整備しないままに、陰性証明持参者を優遇。そして今度は、平日休みを誰もが普通に取れない現状のままに、平日優遇。これらすべて、順序が逆だ。

冬目前、これからが本番だ。岸田首相は「第5波のピーク時に比べ2倍の感染力になっても対応できるよう、医療体制を強化する」と言ってはいるようだが、いまだに具体策が見えてこない。GoTo再開よりもまず医療体制が先ではないのか。まさに、これこそ順序が逆だ。

そもそも「GoToトラベル」に前のめりになる前に、菅政権下でのコロナ対応の総括はしたのか。そしてその反省を踏まえて、来たる第6波をにらんだ万全の対策を講じているのか。まさか、多くの感染者が自宅に放置され亡くなったというあるまじき第5波の失敗を、もう忘れたか。総括も反省もせず「感染者が減った減った! ワァーッ!」とばかりにGoTo再開か。違和感、いや憤りすら覚える。

持てる者、余裕のある者、力のある者、強い者という一部だけがまず優遇されて、それ以外の者は排除されるか取り残される。そんな政治を執り行う集団がこの数年、とくに幅を利かしてきている。ごく一部の者たちの利権が人権に優越してしまう腐敗した政治。もうたくさんだ。いいかげんにしてほしい。

■唯一GoToしてもいい場所

だがそんな政治にウンザリしている人に朗報がある。時間的余裕がなくとも金銭的余裕がなくとも、差別や排除されることなく使える「GoTo」がある。しかもそれは腐った政治、一部の人だけが優遇される政治、さらに社会さえも生きやすく変えることができる「GoTo」だ。

そう、私たちには「GoTo選挙」がある。今すぐ行こう。必ず行こう。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす――インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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(医師 木村 知)

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