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「わざと行き止まりを作っている」初めて来た人を確実に迷わせる大阪駅の異常なややこしさ

プレジデントオンライン / 2021年11月18日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

大阪駅は日本屈指の迷宮駅だ。しかも難解なのは駅構内だけではない。ライターの渡瀬基樹さんは「大阪駅と地下鉄や阪急、阪神の駅をつなぐ地下空間も広大で複雑。しかも新線開通にともなう再開発で駅の迷宮度はさらに増すことになる」という——。

※本稿は、渡瀬基樹『迷宮駅を探索する』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

■大阪駅がある「梅田」はもともと「埋田」と呼ばれていた

迷宮駅の中で「西の横綱」と呼ぶにふさわしいのが大阪駅だ。大阪の二大繁華街の一つ「キタ」の中心である梅田地区に立地しており、接続する私鉄線や地下鉄線にも「梅田」の名が付けられている。

陸運より海運が中心だった江戸時代、市街地の中心部は船場や堂島で、日本で二番目となる大阪~神戸間の鉄道建設が計画されたときも、大阪駅は堂島に置かれる予定だった。

場所が約500m北東の梅田に変更されたのは、用地の問題だった。大阪市街地の北限よりも外側にあった梅田は、もともと「埋田」という名前だったように、湿地帯を埋め立てた場所だった。田んぼと墓地が広がっているだけの荒涼とした土地で、堂島よりも用地買収のハードルが低かった。

■大阪駅構内に中途半端な階段が多いワケ

大阪駅は段差や階段・スロープが異様に多い。

特に中央コンコースや、南口から桜橋口へかけての自由通路には、3~7段程度の中途半端な階段が目立つ。これは高架化以降、悩まされ続けた地盤沈下の影響によるものだ。

軟弱な地盤と地下水の汲み上げによって、場所によっては最大で1m以上沈下したことで、ホームやコンコースだけでなく、路面にも大きな影響が出た。東海道本線の全線中、大阪駅構内の線路がもっとも急勾配になってしまい、レールに砂を撒かないと発車できない時期さえあった。

不等沈下を解消するため、アンダーピニング工法による大工事が、1962年(昭和37年)までの10年間にわたって施された。既設の基礎杭の間に人力で穴を掘ってコンクリート管を下ろし、約25m下の固い地盤に達したら管内にコンクリートをつめるというもので、日本で初めて採用された工法だった。さらに地下水の取水制限が行われたことで、ようやく地盤沈下は食い止められたが、段差はそのまま残ってしまった。

■どこに行くかわからない大阪環状線1番ホーム

続いての難敵は、ソフト面の問題だ。

大阪駅のホームは1・2番線が大阪環状線、それ以外は東海道本線(神戸線・京都線)が使用しており、3~6番線が神戸方面の下り、7~11番線が京都方面の上りだ。

難題は1番線ホームだ。大阪環状線は実に複雑な路線で、環状周回する列車以外にも、西九条駅で分岐する桜島線(ゆめ咲線)と、天王寺駅で分岐する関西本線(大和路線)・阪和線が乗り入れている。

2番線に発着する外回りは、全列車が周回運転か天王寺駅止まりなので問題ないのだが、内回りの1番線にはさまざまな行き先の列車が発着する。

東京地区でも、湘南新宿ラインと上野東京ラインという名称で相互直通運転が始まって以来、同一のホームに複数の方面へ向かう列車が発着するようになった。

池袋・渋谷・新宿では、北が埼京線、東北本線(宇都宮線)と高崎線、南がりんかい線、東海道線、横須賀線、相鉄直通線へと向かっている。上野・東京・品川では、北が埼京線、東北本線、高崎線と常磐線、南は東海道線へ向かう。

大阪駅では、一つのホームに四つの路線が発着している。しかも大和路快速・紀州路快速・関空快速・快速は途中の野田駅・芦原橋駅・今宮駅を通過する。大和路線は区間快速のみ、この3駅を通過しないから、なおさらややこしい。

初めて大阪駅へ行く人は、1番線は魔境だということを覚えておきたい。

■密集、混雑度で東京の比ではない梅田地下街

梅田が恐ろしいのは、駅の外にも地下迷宮が広がっているところだ。周辺には御堂筋や新御堂筋、扇町通や曽根崎通といった幅の広い幹線道路が通っているため、地上は基本的に車が優先の構造だ。JR線が高架なので、空中をデッキで接続するのも限界がある。必然的に、歩行者の主要ルートは地下となる。

梅田の地下道が迷宮である理由の第一は、とにかく範囲が広いことだ。東は新御堂筋の曽根崎東交差点、西は西梅田公園付近、南は渡辺橋付近、北は阪急大阪梅田駅の地下まで広がっている。

大阪駅周辺マップ(画像=『迷宮駅を探索する』)
アメーバ状に広がる大阪駅周辺マップ。青い部分は地下街が広がる。(画像=『迷宮駅を探索する』)

「ホワイティうめだ」と「ディアモール大阪」の二大地下街をはじめ、「ドージマ地下センター」や「ekimo梅田」など多様な地下街があり、阪急うめだ本店や阪神梅田本店、大丸梅田店のデパ地下や、阪急三番街やルクア大阪、グランフロント大阪などの商業施設や複合施設の地下部分ともつながっている。

実は、地下通路がつながっている範囲は、東京駅や新宿駅のほうが広い。梅田は東西方向、南北方向とも、端から端までの直線距離は1.3kmほどで、隣の駅までつながっているわけでもない。地下街のトータルの店舗面積も、東京や名古屋の地下街に比べれば広くない。

だが、これは大阪の地下街は店舗の奥行きがなく、小規模な店舗が密集していることが原因だ。地下通路の両側には間断なく店舗が並んでおり、混雑度は東京駅や新宿駅の比ではない。

■これぞ迷宮…駅がわざと行き止まりを作っている

分岐が直角ではないため、方向感覚が狂いやすいのも難点だ。建て替えが行われている阪神梅田本店の周辺は、動線がわかりにくいからなおさら迷いやすい。

行き止まりが多いのも梅田の特徴で、典型的なのがJR大阪駅の御堂筋口から、ヨドバシカメラ マルチメディア梅田までのルートだ。建物は道路を挟んだ目の前にあるのに、たどり着く道筋が見つからないということが一時話題となった。

大阪駅とヨドバシカメラの間には横断歩道がなく、歩道と車道の間は柵で仕切られている。迂回(うかい)しても横断歩道にはたどり着けず、地下へ向かう階段も見つけづらい。なんとか地下へ入っても、ヨドバシカメラの入口が地下街の店舗に隠れている。

現在は道路を横断する高架デッキが作られて解消したが、梅田の迷宮っぷりを象徴する場所として記憶している人は多いはずだ。

駅が行き止まりを作っている場所もある。御堂筋線梅田駅は改札が通路を完全に塞いでおり、脇を抜ける通路が存在しない。上を通る御堂筋を進むか、地下にこだわるなら東側のホワイティうめだを通って、大きく迂回する必要がある。阪神大阪梅田駅も行き止まりに見えるが、こちらには脇に通行できるルートがある。だが位置がわかりづらく、案内表示も不親切なのが難点だ。

■再開発で大迷宮はさらに複雑化する

2011年に五代目駅舎と橋上通路、大阪ステーションシティが供用開始したことで、JR大阪駅の改修工事は一段落した。しかし、これからさらに大規模な再開発が待ち構えている。つまり梅田の大迷宮は、今後ますます複雑化していくことが決定的となっている。

現在進行形なのは「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」だ。阪神梅田本店と新阪急ビルの建て替えによって生まれる高層ビルで、2022年春に開業予定となっている。

阪急うめだ本店が入居している梅田阪急ビル(「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」に改称予定)と並ぶ形となる。合わせて阪神大阪梅田駅も、5面4線から4面4線に変更され、ホーム長とホーム幅が拡大する。こちらは2022年度末に完成予定だ。

さらにJR大阪駅を西側へと拡張する工事が、既に始まっている。現在、地表レベルには東から御堂筋口、中央口、桜橋口があるが、最西端に新たな出入口が2024年夏に登場する予定だ。隣接する旧大阪中央郵便局の跡地を含めた場所に、オフィスや商業施設、バスターミナルなどを備えた地上23階の駅ビルが建設され、新たな改札口はその1階部分に設置されることになる。

大阪駅外観
写真=iStock.com/fotoVoyager
ドーム屋根が印象的な大阪駅 - 写真=iStock.com/fotoVoyager

そして最も注目されているのが、旧梅田貨物駅の跡地(梅田北ヤード)で行われる再開発だ。既に一期工事として2013年にグランフロント大阪が開業したが、これを上回る規模の二期工事が進行中となっている。オフィスやホテル、商業施設や住宅が集結した高層の複合棟が「うめきた二期地区」に建設される予定で、広大な都市公園や都市型スパも作られる。

■大阪駅地下にできる意外な新駅の名前

問題は地下に設置予定の駅だ。再開発と同時に、この区域の西側を走っている東海道本線の支線(梅田貨物線)が地下に移され、同時に新駅が設置される。

この梅田貨物線は特殊な路線で、もともと東海道本線と旧梅田貨物駅や桜島線の安治川口駅を結ぶために設けられていた。

しかし貨物輸送が減少したことで、京都駅・新大阪駅方面と、西九条駅から大阪環状線を経由して天王寺駅方面を結ぶバイパス線として使用されるようになった。

特急「はるか」が京都方面から関西空港へ向かう場合、大阪駅で東海道本線から大阪環状線へ転線すると、平面交差が必要となるため、運行ダイヤに支障を来す。新大阪駅と西九条駅を短絡する梅田貨物線を通れば、大阪駅というターミナル駅を通過することになってしまうものの、他の路線に迷惑を掛けることがない。

2012年9月2日、大阪駅周辺(大阪府大阪市)
写真=時事通信フォト
大阪駅北側にある貨物駅を中心としたエリアの再開発が行われている。2012年9月2日(大阪府大阪市) - 写真=時事通信フォト

こうして梅田貨物線は、「はるか」や南紀方面へ向かう特急「くろしお」など、主に特急列車が運行される路線となった。これを再開発と同時に地下へ移設し、通過している大阪駅に隣接する場所に地下新駅を作ろうというのが地下化の趣旨だ。

新設の地下駅は、名称が「大阪駅」となることが決定した。つまり新駅ではなく、既存の大阪駅の構内となる。東京駅の京葉線ホームのように、連絡通路は長くなるが、同一駅という扱いだ。西側に拡張される新たな改札口付近から、連絡通路が設けられる見込みだ。

■新大阪駅から直通で関西空港に向かう路線が10年後完成する

そして、この地下新駅から分岐し、福島駅付近からなにわ筋の下を通る地下線「なにわ筋線」も計画されている。途中でさらに分岐して、JR難波駅へと向かう路線と、南海新今宮駅へと向かう路線が2031年に完成する予定だ。大阪府や大阪市、JR西日本などが出資する第三セクターの関西高速鉄道が建設し、JRと南海が運行する形となる。

JRは京都・新大阪駅から地下新駅を経由し、JR難波駅・天王寺駅を経て関西空港方面へ向かう特急列車を走らせることができる。

西九条駅から大阪環状線の西側区間を経由して天王寺駅を回るルートより短絡化できるうえ、中之島や難波と新大阪駅が直結し、新幹線の接続利便性が大幅に向上するというメリットもある。「はるか」は京都・新大阪・梅田・難波・天王寺という、関西の主要なターミナル駅を網羅する空港特急となる。

これは、難波から関西空港へ特急「ラピート」を運行している南海にとっては脅威だ。そこで、南海もなにわ筋線への乗り入れを熱望した。できれば新大阪駅、最低でも梅田の地下新駅までは乗り入れたいが、競合するJRはさせたくない。

綱引きの結果、2017年に協議がまとまり、南海は地下新駅まで乗り入れる代わりに、JRに使用料を支払うこととなった。

■南海に続き阪急も乗り入れして…

現状で固まっている計画はここまでだが、さらに阪急もこの地下新駅への乗り入れを希望し始めた。南海とは逆に、北側から地下新駅へ乗り入れようという計画で、地下新駅と阪急十三駅を結ぶ新線を作り、さらに十三駅と新大阪駅を結ぶ新線を作ろうというものだ。

渡瀬基樹『迷宮駅を探索する』(星海社新書)
渡瀬基樹『迷宮駅を探索する』(星海社新書)

だが、こちらは先行きが不透明だ。JRと南海は線路の軌間が1067mmの狭軌で同一だが、阪急は1435mmの標準軌だ。つまり、既存の列車を乗り入れることはできない。地下新駅へ阪急が乗り入れるには、新大阪~十三~地下新駅を狭軌で新設せざるを得ない。

阪急にとって新線を建設するメリットは、南海と相互直通運転を行うことで、難波・関西空港・和歌山方面への乗換が、阪急神戸線・京都線・宝塚線が集結する十三駅で行えること、新大阪駅と関西空港が直結すれば(収入を得られるのは新大阪~地下新駅間という一部区間のみであるものの)、一定の需要が見込めそうなことだ。これは新大阪駅までの直通運転を行いたい南海にとっても大きなメリットとなる。

■より巨大なターミナル駅に進化する

こうなると地下新駅の行き先も、複雑なことになりそうだ。北行きは「はるか」が現状通りの運行となれば滋賀県の野洲駅まで。南行きは関西空港駅のほか、「くろしお」が和歌山県の新宮駅まで到達する。

JRは難波駅から天王寺駅を経由して、関西本線経由で奈良方面の列車を走らせることもできるし、南海も高野線や和歌山方面の列車を直通させる可能性もあるだろう。梅田という大ターミナルがさらに巨大化するのは、どうやら避けられそうにない。

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渡瀬 基樹(わたせ・もとき)
ライター
1976年生まれ、静岡県出身。明治大卒。ゴルフ雑誌、自動車雑誌などの編集を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして、高速道路、航空機、鉄道など交通関係の記事制作・編集に携わる。編著に『全国サービスエリアをとことん楽しむ!』(宝島社)など。

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(ライター 渡瀬 基樹)

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