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小学6年生の娘に一口ずつ「あ~ん」…政府も介入するほど異様な中国人家庭の"親バカ"ぶり

プレジデントオンライン / 2021年11月10日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■塾禁止、ゲーム禁止、ボーイズラブ禁止ときて…

10月23日、中国の国会に相当する全国人民代表大会の常務委員会で、子どものしつけなど家庭教育の充実を保護者に求める「家庭教育促進法」が成立した。2022年1月から施行する。これは、家庭教育への保護者の意識向上を目的としたものだが、子どもの“著しい不良行為”に関しては、政府が訓戒を行うことも定めており、子どもを持つ中国人の間で「具体的にどういうことが起こるのだろう……」と不安が広がっている。

思えば、今年7月以降、中国政府は子どもに関する政策を次々と発表してきた。1つ目は子どもの過度な学習負担を軽減する「双減」政策だ。小中学生の宿題を軽減し、学外教育(主に学習塾)も軽減するというもので、これにより小学1~2年生は宿題禁止、小学3~6年生の宿題量は目安として60分以内、中学生は同90分以内と定められ、学習塾チェーンは一夜にして閉鎖に追い込まれた。

2つ目は「ゲーム禁止令」だ。18歳未満の子どもがオンラインゲームをする場合、金曜~日曜と祝日の午後8時からの1時間のみとし、オンラインゲームの有料アイテムに使う課金の上限も定めた。それまでの「平日は90分以内、週末は3時間以内」とする規制をさらに強化。18歳未満はログインする際に実名とID番号の登録もしなければならなくなった。

■なぜ政府がここまで家のしつけに干渉するのか

3つ目は、なんと「ボーイズラブ禁止令」。政府はオンラインゲームを運営するテンセントや網易(ネットイース)などのゲーム運営会社に対して「未成年がゲーム中毒となることを防ぐように措置を講じること」を強く指示。その中には「誤った価値観や違法な内容を含むコンテンツ(わいせつで暴力的、血まみれの描写、女のような男性、ボーイズラブ)を排斥するように、という記述もあった。

日本人の目から見ると「なぜ、そこまで政府が子どもの教育や日常生活にまで干渉する?」と不思議に思うだろう。各家庭でそれぞれ処理すればよい問題で、国家がいちいち口出しをするような事柄には思えないからだ。

だが、そこには、中国の極端すぎる家庭教育や中国特有の事情が関係している。何事も「やりすぎ」の傾向がある中国人が少なくないため、それに眉をひそめていた人々の間では、これらの政策に対して「賛成」の声もあるといわれる。では、中国では、これまで、どのような家庭教育(しつけ)が行われてきたのか。以下、私がこれまで中国の友人や知人から聞いた実態の一部を紹介しよう。

■小学生の娘にご飯を一口ずつ「あ~ん」と…

北京に住む中国人の友人はある日、カフェでランチを食べている中国人親子の姿を見て「がくぜんとした」エピソードを聞かせてくれた。それは、小学5~6年生くらいの娘に母親がご飯を一口ずつ「あ~ん」と食べさせてあげている光景だった。

ビーガンカフェでアボカドバーガーのランチ
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

「ビックリしましたね。娘は『当然』といった感じで、ときどき母親から促されて口を開けて食べ続けていましたが、手元には分厚い参考書があり、そこに目を落として勉強している様子でした。いくら勉強が忙しいからといっても、その年齢で親にご飯を食べさせてもらうなんて信じられない。一体、この親はどんなしつけをしているの! と憤りました」

友人の驚きはもっともだが、私は以前も同じような話を聞いたことがあった。比較的富裕層で、子どもの教育に熱心なあまり、「とにかく勉強が大変。だから勉強以外のことはすべて親が代わってやってあげなくては……」と思っていて、中にはこんなことまでしてしまう親がいるのだ。食事を食べさせることは極端な事例だが、子どもの靴紐を結んであげる、通学の際、重い通学カバンを持ってあげる、ことは珍しくない(都市部では誘拐などの心配があるため、小学生の登下校は親や祖父母、家政婦などが同行することが一般的)。

■通学がかわいそうだからと高校の近くに引っ越し

さらに「勉強」自体にも親が深く関わっている。「双減」政策が出される前まで、親は深夜まで子どもの勉強に“伴走”することは当たり前だった。学校の宿題自体も多いが、学習塾の宿題もあるため、小学校低学年でも勉強は午後11時、12時までかかることもある。親はそれにずっとつき合わなければならない。そうなれば、1分でも早く宿題を終わらせるために、自宅でも勉強しながら、親が子どもの口に食事を運んであげることもあるのだ(宿題のチェックを終えると、それを保護者間のSNSグループに報告することもある)。

次は、しつけというわけではないが、こんな話もよく聞く。日本でも報道されたことがあるので知っている人も多いと思うが、中国の一部の都市では、大学受験が近づくと、親が子どもの高校のすぐ近くに別宅(マンション)を借りて、そこに住み始めるのだ。

自宅があるのに、なぜ高校の近くにもう1軒マンションを借りるかというと、「通学の行き帰りの時間が無駄。深夜まで勉強しているので、通学はしんどくてかわいそうだから」だ。

私の友人(母親)がまさにこれを実践したことがあり、マンションの窓から高校が見えるところに1年間ほど住んでいたが、友人はそれを特別なこととは考えていなかった。「だって、みんなやっているから」というのが理由であり、それをやってあげないと息子がかわいそうだ、と感じるのだ。子どもにとってはすごいプレッシャーなのでは? と思うが、中国の親はそういうふうには考えない。すべてはかわいいわが子のためなのだ。

■「先生が生徒に直接お小遣いをくれるんです」

このように、「みんなやっているから」「他の家庭には負けられないから」「いい大学に入学させたいから」という理由で、教育熱は年々過剰になっていった。隣の家の子が1時間2万円の英語の家庭教師を雇っていると聞けば、1時間3万円の家庭教師を頼まないと不安になってしまう。習い事も雪だるま式に増え、1週間のうち休日は日曜日だけ、というハードスケジュールの子どもも多かった。

これはしつけというより親のモラルやメンツの問題なのでは、とも思うが、このような親に育てられた子どもは、当然ながら「勉強さえできていれば、自分は何をしてもいいんだ、許されるんだ」と思い込んでしまい、親をお手伝いさん代わりにこき使ったり、身勝手なふるまいをしたりすることがある。

子どもをそうさせるのは、親だけでなく教師や学校側にも問題がある、と指摘する中国人もいる。コロナ禍前の話だが、小学生の子どもを持つ私の友人は「うちの子どもの小学校では、テストの成績がよいと先生が生徒に直接お小遣いをくれるんです。1回当たりはわずかな金額ですが、勉強は自分のためにすることなのに、学校の先生がお小遣いをあげるというのは、よくないですよね……」と首を傾(かし)げていたことがあった。

■「勉強以外、何もできない」子どもが増えている

この友人によれば、中国では日本のような給食や掃除当番がない。そのため、皆で協力して何かを行ったりする機会がないことも、勉強ができる人だけが偉い、という風潮に拍車をかけており、「勉強以外、何もできない子」「人間として成長する過程で問題がある子」が増えている原因ということだった。

いずれにしても、このように、中間層から富裕層の家庭では、とにかく勉強至上主義が横行しており、教育費に湯水のごとくお金をつぎ込んでしまう人もいる。その結果、しつけや道徳は二の次になってしまい、いつまでたっても靴紐を結べなかったり、食卓でも親に料理を取り分けてもらったりすることを「当たり前」と思ってしまう子どもが増えているのだ。

また、オンラインゲームなども「勉強のしすぎ」による反動で、週末は1日中ゲーム漬けとなってしまう子も多く、政府がゲームを「精神的アヘン」と呼ぶまでになった。今回の法律では、未成年の子どもに、「部屋の片づけを他人任せにさせないこと」が明記されたが、そのようなことまで記載せざるを得ないほど、道徳や常識に欠けた子どもが大量にいる、ということだろう。

ゲームのコントローラーとパソコンのキーボード
写真=iStock.com/gleitfrosch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gleitfrosch

■貧困家庭も別の問題でしつけが行き届かない

一方、貧困層の場合、また違った問題が生じている。現在では、もちろん貧困層の家庭でも、ほとんどの子どもたちは学校に通っているが、学習塾に通う経済的な余裕はないし、そもそも農村には学習塾も存在しない。そのため、富裕層の家庭との教育格差が生じてしまうが、それだけでなく、農村では両親が都会に出稼ぎに出ていることが多く、家には祖父母しかいない、という家庭環境がある。

このような子どもは「留守児童」と呼ばれ、全国に6000万人以上もいると推定されているが、祖父母も生活するだけで精一杯なため、子ども(孫)のしつけにまで手が回らない。両親は1年に2回くらいしか帰ってこないため、基本的なしつけや社会常識を教えることはできない。むしろ、たまにしか会わないから、子どもに甘く、生活にゆとりがなくても、無理して子どもに金品を買い与えてしまうという話も聞く。

また、貧困層の場合、両親自身もしっかりとした家庭教育を受けずに育っていることもあり、子どもに何が正しくて、何が間違っているのかを教えられない、という「貧困の連鎖」による問題も生じている。

これらのことに加えて、中国では都市部であれ、農村部であれ、30年以上も「一人っ子政策」を実施してきたことも、家庭教育に少なからず影響を与えてきた、という側面があり、これが、政府がしつけに乗り出す背景にある。一人っ子政策が始まった当初に生まれた子どもは現在40代に入っており、ちょうど今、子育ての真っ最中だ。数年前には「巨嬰症」(大きな赤ちゃん病)も社会問題となった。身体は大人でも、心は赤ちゃんという意味で、きちんとしたしつけがされないまま大人になり、自分の思いどおりにならないことがあると暴れたり、怒ったりする人のことをいう。

■「常識欠如の国民が増える」という根深い問題

よくあるのは運転手と乗客が口論となるケースで、つい最近も、黒竜江省で乗客が運転手をキャリーバッグで殴るという事件があった。理由は「運転が遅すぎるから」だったが、このような事件は枚挙にいとまがない。

私自身も、数年前に、北京の地下鉄の車内で、自分の鼻をかんだティッシュを座席の下にポイ捨てする人を見かけたことがある。私がその人の行動をじっと見ていると、まるで「何が悪い!」といいたげな表情で、逆にこちらをにらみ返してきた。その人はすでに50代くらいだったが、以前は都市部でも、このような行為はたまに見かけることがあった。

近年はSNSの影響で、このような行為はすぐにスマホで撮影・拡散されるため、顔を撮られることを恐れて減少しているが、根本的な部分で、道徳やしつけの問題が解決されているわけではない。政府が学習塾禁止令やゲーム禁止令、ボーイズラブ禁止令、しつけにまで介入するのは、すでに報道されているように、少子化対策や格差是正といった面がもちろん大きい。ただし、それだけでなく、ここで取り上げてきたような、全国レベルでの子どもたちの常識欠如という根の深い問題がある。これらを改善しなければ、国家は大変なことになる、という危機意識が隠されているのだ。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)がある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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